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第139話
昼休みになるが早いか駆けだすと、友人が矢木のリュックサックを指さした。
「今日は弁当じゃねぇの。売店のパン争奪戦に参戦するん?」
「ちがくて、大、大、大事な用事!」
教科準備室をふりだしに、職員室、学食、と三枝が現れそうな場所を覗いて回ったものの、捜し求める姿はどこにも見当たらない。
捜しているのが友人ならLINEで一発なのに。そう思うとなおさら焦り、おまけにタイムリミットが刻々と迫る。
穴場かもしれない、と屋上も見に行ったが空振りだ。そぼ降る雨に校舎群が霞むなか、肩を落として踵 を返し、そして閃いた。
現代文の教師イコール文学作品イコール図書室。駄目元で、別館の一階に位置する図書室へと急ぐ。
〝本日の貸し出しおよび返却の手続きは放課後限定〟と書かれた札がカウンターに載っていて、閲覧者もいない。息せき切って駆け込むと、高い天井に靴音が響いた。
今度こそと期待していたぶん、がっかりした。
仕方がない、放課後に改めて三枝を捜そう。すきっ腹を抱えて、すごすごと立ち去りかけたとき、入口からいっとう遠い壁で動きがあった。
半開きの扉の内側で、何かがぶつかったような物音がくぐもったのだ。
そこは書庫だ。たぶん司書が蔵書を整理している最中に脚立を倒すか、したのだろう。
手助けが必要かなぁ、と振り向いたせつな、
「ちょこまか逃げ回って手こずらせやがって」
ドスの利いた声が静寂を破った。
中学時代、イジメの首謀者がターゲットをいたぶるさいに、こんなふうに嘲笑を交えて凄んでいなかったか? ぞくっとするとともに確信する。声の主は武内だ。
頭の中でレッドアラームが点滅して書庫に忍び入る。書架が林立するさまは立体迷路のようで一瞬、まごつく。
抜き足差し足で接近すべし、との本能の声に従って静々と進む間にも、奥で不穏なやりとりがあった。
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