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第5話
「おぼろー、だれぇ? その人」
僕らに気付いた緋月は案の定、冷笑して目を細めた。
やけに間延びしたその声に、ゾクゾクと悪寒が走る。
本当に上手くいくのだろうかと怖気付き、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
誠司は怯むことなく緋月の目の前に立ち、長身を生かして思い切り見下ろしながら堂々と言った。
「朧の兄ちゃんさぁ、朧に変な事すんの、今後一切やめてくれる?」
「変な事って?」
「とぼけてんじゃねぇよ。こっちは全部知ってんだよ。それと言っとくけどな」
誠司は僕の肩を抱き寄せ、すぐに頬にキスをした後、もう一度緋月を見下した。
「俺、朧と付き合ってんだよ。これ以上こいつに何かしたら警察に突き出して、ネットにお前のやってきた事全部晒して普通の生活出来なくしてやるからな。朧は命に変えても俺が守る」
緋月は無表情のまま、誠司と視線を絡ませる。
バクバクと胸が鳴り、冷や汗が出た。
昨日の夜に緋月に口を塞がれたみたいに、うまく呼吸が出来なかった。
しばらく膠着状態が続いたが、緋月の「ふふっ」と鼻で笑う声によって静寂が切り裂かれた。
「なんだ、朧。恋人がいるんだったらちゃんと言ってよ。分かった、今までごめん。悪かったよ、この通り」
緋月はその場で土下座をした。
前日の雨でぬかるんだ土に躊躇なく手と膝を付き、おでこもグリグリと擦り付けていた。
誠司は冷ややかな目をして緋月の背中に向かって吐き捨てるように言った。
「んな事したからって簡単に許されると思ってんじゃねーぞ」
誠司に手を引かれて歩き出す。
何度か振り返ってみても、緋月はいつまでも土下座し続けていた。
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