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第10話

 数分後にチャイムが鳴らされ、少しだけ覗かせたドアの隙間から紐を手渡された。  誠司に渡して、それで僕を縛るように頼んだ。  後ろ手に組んで縛りやすいようにする。  手首に紐が巻き付いていく感触でようやくゾクゾクと肌が粟立ってペニスも反応した。 「痛くないか?」 「全然。もっとキツく縛っていいよ」  そう言ったのに誠司はしてほしい一歩手前でやめてしまう。  おぼつかない手の動き。縛るのに慣れていないようだ。少し手を捻れば簡単に抜け出せてしまえるくらいに結びが甘い。跡が残るくらいでもいいのに、緩すぎる。  歯痒く思いながらもこれ以上は言えずに仕方なくキスを受け止めた。  ペニスや乳首をやんわり弄られている。が。  全然違う。  気持ち良くない。  そう認識すると、少し昂っていた気持ちもどんどん萎んでいった。  やる気のないキスを見抜いた誠司はゆっくりと体を離し、僕の拘束を解いてベッドに腰掛け、俯いた。 「お前、兄ちゃんにされてた事、心の底ではずっと喜んでたんだよ」  あんなに大きいと思っていた誠司の背中が小さく見える。 「道具使ってイきてぇとか何なんだよ。俺はあいつの変わりじゃねぇよ」  誠司は制服をきちんと着て、財布から万札を一枚取り出してテーブルに置き、部屋を出ていった。  残された僕はベッドに寝転がり大の字になる。  あぁそうか。  僕が恐れていたのは緋月ではなく、緋月が必要不可欠な存在だと認めてしまう事だったのだ。  誠司に手首の傷を見られた日、チャンスだと思った。  緋月にはもっと僕を楽しませて欲しい。そんな思いで誠司に全てを打ち明けたのだ。  球技大会で優勝できた時にクラスメイトと涙を溜めながら抱き合ってしまうくらい情に厚い誠司が、僕が困っていると聞いて黙っている筈が無い。  僕は親友を利用した。  緋月の土下座を見た後震えが止まらなかったのは、恐怖ではなく興奮から来るものだったのだ。  僕の人生はきっと今以上にドラマチックな展開になるのだと陶酔し、ほくそ笑んでいた。  ――狂っていたのは、僕の方だったのか。  自宅に帰ると、緋月はリビングで勉強していた。  僕にいつもの爽やかな笑顔を向ける。 「おかえり。今日も玲湖さん用事で出掛けるから、適当に夕飯済ませてねって」 「緋月」  通学カバンをバサっと床に落とし、大粒の涙を流しながら緋月の前で膝を付き、その腰に抱きついた。 「抱いて。酷く抱いて。もう緋月しか見えない」  酷く痛くされる事に快感を覚えてしまった僕は、もう生涯この人じゃないと無理だ。  セックスしなくなってから、緋月に犯される妄想を毎日していた。  僕はもう、全部が緋月で出来ているのだ。  緋月は僕の涙を指の腹で拭って髪を梳いてくれる。そして「泣かないで」と鷹揚に微笑した。 「いいよ。今日は二人きりだし、思う存分セックスしようね」

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