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第2話
この世界には男女の性別の他に三種の性別がある。
社会的資質に優れ、リーダーやエリートが多く人口としては少ないアルファ、一般人で人口の大多数を占めるベータ、アルファよりも数が少なく希少、男女問わずに妊娠ができ、周期的に発情期を迎えるオメガ。
ベータの自分には関係なく、周りにもベータ以外いない。そんな「普通」の日常でそんなに簡単に変わることのないものだと思っていた。
思っていたんだ。
「三千世界の……」
「…………」
涼やかな声に呼応するかのように口から滑り落ちた言葉。
驚きを隠さずに声の主へと振り向けば甘く微笑む男がいた。どこかで出逢ったことのある甘い微笑み。甘く微笑むのに、その瞳は哀しく揺れてなにも言わずに雑踏のなかに消えていった。
その日以来夢の中の人物ににている気がしたからか、雑踏のなかで彼を探すようになった。
涼やかな声、甘い瞳。本能よりも魂がこの人だと叫んだのだ。
「……もう一度……」
もう一度逢えばわかるのだろうか。もう一度逢えば、あの夢を見ないですむようになるのだろうか。もう一度逢えば……。「たられば」だと判っている。わかっていても、あの哀しい瞳の意味と、この焦燥感に似た感情の意味がわかる気がした。
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