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第3話

 バイト先で「なにかいいことでもあったの?」と聞かれるまで自分の表情の変化に気付くことはなかった。 「特にはなにも」と答えれば、「そうなんだ。なんだか表情が柔らかかったから……」と嬉しそうに言われた。 優しい先輩だと思う。 いつでも優しく微笑んで、聞き上手で、穏やか。人に好かれるタイプだ。 「……僕の表情は、そんなに固いですか」 「うーん、固くはないよ。ただね、どこか世界を俯瞰しているみたい」 穏やかな言葉は核心を突いていた。 「だから、君にアタックしたくてもできない子が沢山いるんだよ」 本当だよ。と笑って先輩は先に帰っていった。 「帰るか……」 夕飯はなににしようか。あの日、すれ違ったあの人はどこで逢えるだろうか。もう一度逢いたい。こんなに焦がれる事があるのだろうかと思う。  また眠らなければ、また起きなければいけない。 また朝焼けに濡れる涙を見つめなければいけない。

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