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【5】
「――シルビオ様、いま戻りました」
逸る気持ちを抑えつつ、中からくぐもった応答を待ってゆっくりとドアを開けた。
そこには天蓋付きのベッドの上で、自身の乳首を弄ぶシルビオの姿があった。
胸元まで捲り上げられた寝間着、下肢は何も身に付けていない。
「随分と……遅かったな……ハァハァ……」
部屋に入るなり、シルビオが発するオスの匂いがより濃厚になり、ヘラルドはその心地よさに吐息した。
「随分と手間取りました……。お加減は如何ですか?」
そう言いながらヘラルドは、自身の上着とシャツを脱ぎ捨て、穿いていたズボンの前を早急に寛げて下着ごとその場に脱ぎ捨てた。そしてベッドに近づくと、片膝を掛けてシルビオに覆いかぶさった。
「――今日は随分と性急だな」
自身の手で数回達していたのだろうか。シルビオの白い腹にはすでに白濁が飛び散っていた。天井を仰ぐ様に起立したままの長大なペニスをやんわりと握ったヘラルドは嬉しそうに笑った。
「発情期を迎えるたびに貴方が苦しむ姿を見てきているんです。早く楽にしてあげたいと思うのは罪なことですか?――また硬くなっている。早く出したくて仕方がないでしょう?」
大きく張り出した括れを擦りあげるように上下に扱くとヌチャヌチャと粘度の高い音が聞こえてきた。先端から次々と溢れ出す蜜を指先で掬いながら、ヘラルドは快感の糸口を掴み始めたシルビオの唇を奪った。
「甘い……。貴方のすべてが甘い……。体から香る匂いに頭が変になりそう……ハァハァ……」
「ヘラルド……ど、したんだ? 今日のお前……変だぞ。――あぁ!」
「少し酔っているせいでしょうか……。いつもよりも強く香る貴方の匂いに……酔っています」
「――舐めて。ヘラルド……俺のを舐めて」
金色の髪を乱して気怠げに強請るシルビオの声に、ヘラルドは自身のモノを勃起させてすぐに従った。
尻を高く上げたまま、シルビオのペニスに丁寧に舌を這わす。大きく開いた口に収まり切らないそれを、唇を使って何度も吸い上げながら溢れ出る蜜を味わった。
伸びた牙で傷つけることは許されない。でも――次々に溢れる劣情を抑えきれない。
「あぁ……いいっ。ヘラルドの口、気持ち……いいっ」
こげ茶色の髪に指を絡ませ、自らの性器に押し当てるように力を入れたシルビオは、ヘラルドの震える喉奥に先端が当たるのを感じて、顎を上向けて歓喜の声を上げた。
綺麗に整えられた眉をキュッときつく寄せはするが、自身の喉奥をシルビオに犯されているような感覚を覚えたヘラルドもまた、ペニスの先端から蜜を溢れさせ糸を引きながらシーツを汚した。
カーテン越しに見える外は、まるで昼間と見紛うほど明るい。
暗い空を真っ赤に染めた炎が、民衆の叫びを呑み込むようにうねりを増す。
急を告げる使者は、誰もこの部屋を訪れることはない。
城内の使用人も警備兵もすべてヘラルドの手によって葬られたからだ。
白い岩石によって積み上げられた美しい城。その中でこれから繰り広げられる甘美な快楽の宴。
「ヘラルド……早く、欲しい……」
シルビオの掠れた声に、視線を上げたヘラルドはゆっくりと鍛えられた体を起こした。
不意に口から離されたペニスがブルンと跳ねた。
「ヘラルド……」
艶めかしく白く細い腰をくねらせて、わずかに脚を開いたシルビオを見下ろして、ヘラルドは薄い唇に綺麗な弧を描いた。
「もっと、もっと気持ちよくさせてあげますよ。今までよりもずっと……」
傍らに追いやられていた羽枕を引寄せたヘラルドは、それをシルビオの頭の下に挟み込むと、彼の腿を跨ぐ様にしてわずかに腰を浮かせた。そして、自身の長い指を二本揃えたまま口に含むと、たっぷりと唾液を纏わらせた。
「何を……する気だ?」
訝るシルビオに、ヘラルドは微笑み返しただけだった。浮かした腰を捩じる様にして濡れた指先を自らの後孔に押し当てた彼は、それをゆっくりと渇いた蕾に沈めていった。
「んふ――っ」
自らの後孔に指を入れることは決して初めてではなかったが、まだその場所は男を受け入れたことがない。
希少種の狼一族でありながらΩ種の処女と知られれば、発情したα種に衝動的に犯されるのは目に見えていた。それ故に薬で症状を抑制し、α種を装いシルビオの側近として権力を奮っていた。
誰にも言えない水面下の苦労は皆、シルビオを愛するがこそ……なのだ。
彼を思っての自慰行為で何度も解された後孔は、発情期ということもありすぐに柔らかくなる。濡れた指を奥まで入れ、掻き回す様に愛撫するとクチュクチュと濡れた音が聞こえてきた。
「あぁ……。気持いい……っ。今宵は私のココに……貴方を受け入れるのです」
「なに……。お前……正気か? いくらα種とはいえ、俺の子種を発情期に受け入ればどうなるか……お前も知っているだろう?」
ヘラルドは声を荒らげるシルビオの唇をキスで塞ぐと、舌を絡ませながら言った。
「――子が欲しいのでしょ?」
驚きに大きく目を見開いた彼を制するように、彼は自身のペニスをシルビオの起立したモノに押し付けた。
太い二本の雄茎がヌチャヌチャと粘着質な音を立てて擦れ合う様はどこまでも卑猥だった。充血し、赤黒く変色した肌の上に浮き上った血管の生々しさにシルビオは息を呑んだ。
「やめ……ろ! ヘラル……ド……それ以上、したら……イ、イク……ッ」
「貴方を迎える準備はもう出来ていますよ。ほら……いい具合に解れているでしょう?」
ヘラルドが腰を突き出すようにスライドし、先端から蜜を溢れさせているシルビオのペニスに後孔を押し当てた。淡いピンク色の蕾が嬉々として収縮を繰り返している。相手をすんなりと迎え入れるように濡れそぼった薄い粘膜がシルビオの大きく膨らんだ先端にキスをした。
「んあ……っ。やめ……ろ」
「入りたいって涎を垂らしていますよ……。すぐに貴方の願いを叶えてあげます。ほら……ゆっくり……呑み込んでいきますよ」
腰を浮かし、起立したシルビオのペニスの先端に標準を定めたヘラルドは、蕾に先端を押し当てたままゆっくりと逞しい腰を下ろしていった。
「――っふ、あぁぁ……っ」
クプッと音を立てて、ヘラルドの薄い粘膜が花開いていく。丸く膨らんだシルビオの先端を難なく咥えこんだ蕾は、粘膜を目一杯広げてカリの部分をじわじわと呑み込んでいく。
「あぁ……。シルビオ様に犯されている……。私の中に入ってくる……っ」
「やめ……っ。あぁ……っく! なんだ……これはっ。中に……吸い込まれて……あぁぁ……イク、イクッ!」
シルビオは両手でシーツを掴むと、腰を大きく跳ねさせた。内腿が小刻みに痙攣し、ヘラルドと繋がっている部分から白濁が一筋漏れて流れた。
「あぁ、熱い……。中で……シルビオ様の精液が……弾けて……。まだ……まだ挿れたばかりですよ。もっと奥で……ハァハァ……いっぱい出してっ」
ヘラルドの中を精液が潤したせいか、彼がグッと更に腰を沈めると一番太い部分がスルリと呑み込まれていく。
長大なシルビオのペニスを根元まで咥えこんだヘラルドは大きく息を吐き出すと、満足そうに両脚を大きく開いて彼の見せつけた。
「見てください……。貴方のペニスは全部、私の中に入ってしまいましたよ。大切な精液が漏れてしまいましたが、これからは一滴も零すことはしませんから……。先端が柔らかいクッションに包まれているでしょう? そこにいっぱい精子を出して下さいね……。私の子宮……ククッ……全部呑み込んで、孕ませて……」
野性味が溢れる赤みがかった瞳が恍惚の表情に細められる。乱れたこげ茶色の髪からは汗が滴り、結合部のすぐ上にはたっぷりとした睾丸と愉悦に震える長大なペニスがあった。
ヘラルドが身じろぐたびに食いちぎられそうになるほどの痛みと快感がシルビオを襲った。
中の隆起した無数の粘膜がシルビオのペニスを包みこみ、奥へ奥へと誘う。
先端にぶつかるのは彼が例えたクッションと同じくらい柔らかいものだが、グッと腰を突き上げるとそこはいとも簡単に道を開いた。
「あぁ……。シルビオ様、まだ動いてはいけません。処女を失ったばかりの相手を手荒く抱くのはマナー違反ですよ。あぁ……でもっ! 思い切り……激しく、突いて……欲しいっ。貴方になら……滅茶苦茶にして……もらいたいっ」
熱っぽい眼差しで見おろしたヘラルドに、シルビオは口元を手で覆って眉を顰めた。
彼が動くたびに広がるのは甘く花の匂いに似た香り。それはシルビオが嫌ったΩ種が発するフェロモンの匂いに酷似していた。
「この匂い……ハァハァ……ダメだ……。体が言う事を……きかないっ。熱い……体が熱い……んふっ!」
「いい匂いでしょう? 私の匂いは貴方を狂わせる……。だって『運命の番』なんですから」
「うんめ……いの、つがい……だと?」
ヘラルドは薄っすらと筋肉を纏たシルビオの腹に両手をつくと、ゆったりとした動きで腰を揺すり始めた。
「んあぁ……ハァハァ……ッ。ダメ……また、出る……! 出ちゃう……っ」
「出してイイですよ。それがα種の本能。そして――それを受け入れるのがΩ種の運命」
「Ω種……って。あぁ……ダメだ。理性が……擦り切れる……っ。これ以上は……もうっ」
「貴方の本当の姿を見せて……。美しい金狼の姿を……」
「あぁ……イク、イクッ。あぁぁぁ――っ!」
シルビオが背中を弓なりに反らしながら絶頂を迎えた。ヘラルドの中を灼熱の奔流が濡らし、それだけで彼もまた起立した先端から白濁を撒き散らした。
全身を震わせながら目を閉じて弛緩するシルビオは、羽枕に顔を埋めたまま胸を喘がせていた。
「熱い……。シルビオ様の精液が私の中を潤していく……」
肩を上下させて荒い呼吸を繰り返すヘラルドが意識を失ったシルビオに手を伸ばして頬に触れる。
自身が放った精液を彼の唇に塗り込むように広げると、また腰を大きくグラインドさせた。
「あぁ……っ。奥がきもち……いいっ。熱い……貴方の楔が私を貫いて……支配するっ」
羽枕に散らかった金色の髪が微かに揺れる。硬く突起した胸の飾りに唇を寄せようとヘラルドが身を屈めた時だった。
「――Ω種は嫌いだと言っただろう。だが……愛した男がΩ種というのならば、仕方がない……な」
ぐったりとしていたシルビオから発せられた声は今までに聞いたことがないくらい低く、艶を含んでいた。
長い睫毛を揺らし、ゆっくりと瞼を持ち上げた彼は、恨めしそうにヘラルドを睨みつけた。
シーツを掴み寄せる指先の爪は鋭く伸び、愛らしい薄い唇の端からは象牙色の牙が見え隠れしていた。
「シルビオ……様」
クッと喉の奥で笑いながら肩を揺らしたシルビオが、傾けていた身体をヘラルドと向かい合うように起こした。
「――俺の子を産むか? ヘラルド……」
澄んだ深海のような青い瞳に金色の光が瞬く。その美しさに見惚れていたヘラルドは、あっという間に背中からベッドに押し倒され、形勢は見事に逆転した。
羽枕の下に手を入れたシルビオが取り出したのは、短い鎖で繋がれた革製の手枷。それを慣れた手つきでヘラルドの手首に巻きつけると、ベッドのフレームに鎖を固定した。
「シルビオ様、何を……っ」
繋がったままの場所を指先で撫でられ、ヘラルドは小さく息を呑んだ。幼さを残す愛らしい相貌。だが、今はその面影さえも見当たらない悪魔のような畏怖を放つシルビオがいた。
「――血の匂いがプンプンする。いい香りだな……」
「え……」
「お前を見ているとゾクゾクする……。その男らしい喉笛を食いちぎって啼かせたい」
ヘラルドは鎖に繋がれた手を何とか解こうともがいたが、手枷は緩むことはなかった。
美しくも恐ろしいシルビオの顔が近づき、緊張で渇いた唇を奪われた。互いの牙がぶつかり合いガチリと音を立てる。まるで別の生き物と化したシルビオの舌がヘラルドの舌を絡め取り、口内でもその動きを封じられた。
このまま食われてしまうのではないかと思うほど激しいキス。唇の周りが唾液で濡れ、溢れ出したものが顎を伝った。
「――二人きり、だな」
「……」
「血に濡れた宴を楽しもうぞ……愛しいひと」
ゾクリ――。
ヘラルドの背筋に得体の知れないものが流れた。同時にシルビオの身体から今まで以上に濃厚なオスの匂いが発せられ、目の前がぐらりと大きく揺れた。
身の危険を知らせる警笛が頭の中で鳴り響く。しかし、愛しいと思う気持ちが勝り、抗うことも逃げ出す事も出来ない。
(これが伝説の金狼の……正体なのか)
そう思ったのは一瞬で、ヘラルドは次の瞬間天井を仰いだまま絶頂を迎えていた。
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