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(八)

 僕が今後のことを考えていると、兄が――いや、次兄の優がやってきた。 「お前のせいで祖母さんが荒れた。役立たずのベータがと何度も言われた」 「ごめんなさい」 「図星をさされて痛かったんだろう。俺もいい気味だとは思ったからな」  優は笑っているようだった。 「でも、この後本当にどうする? 祖母さんを敵に回したということは、親父たちも敵だぞ。それに対してお前は小学生だ」 「とりあえず、ここから秀を連れて出ます。もうお祖母様にとって秀は価値がない。止めないでしょう。その後は今までにプログラムを書いて稼いだ金で繋ぎます」 「そんなことしてたのか」  優の声に苦笑する。 「音声入力なので効率悪いんですけどね」 「いや、すげえよ、やっぱり」  ばたばたと廊下を走ってくる音が近づいてきた。 「お邪魔いたします」  正紀だった。 「こちらに秀は参りませんでしたか?」  僕は正紀の声に駆け寄る。肩がつかめた。 「秀がいないのか?!」 「は、はい、自室に下がったはずでしたのに、今のぞいてみたら走り書きが――」 「なんて書いてある?」  見えないことがもどかしい。 『大奥様へ 大変お世話になりましたのに、このようなことになり誠に申し訳ございません』 『良様 秀のことはどうかお忘れください。お願いいたします』 (秀が死ぬ!)  確信だった。 (どこで?)  一箇所しか思いつかなかった。 「正紀、僕の靴を。早く!」 「は、はい」  靴を履いて、思い切り息を吸い込む。  香りがする。沈丁花だ。僕は早足で歩き出した。 「良、どこへ行くんだ?!」  優が叫んだ。 「たぶん不知ヶ淵!」 「一緒に参ります」  正紀の言葉を切って捨てた。 「いらない。匂いがわからなくなる!」

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