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(十一)
やがて駆けつけた屋敷の者の手で二人とも病院へ運ばれた。
検査などで一日入院し、退院すると屋敷に連れ戻された。
そして、再び祖母の前に引き出されている。
「良、お前、コンピュータソフトウェアのプログラムを書いて小遣い稼ぎをしているそうだね」
「はい」
優から伝わったのだろうか。
「ならば事業を興せるか? お前のように目が不自由な者でも使えるコンピュータ、あるいは目が不自由でももっと楽にソフトを組めるようなソフトの開発など、お前でなければできない事業を」
「やります!」
「そこは『やります』ではない。できるかと訊いている」
「できます!」
「ならば資金提供しよう」
祖母はきっぱりと言った。
「企画書を出せ。それが私の目に敵ったなら、今回の騒ぎを不問に付し、秀をお前の番と認める」
「お祖母様」
「大奥様」
「がんばって稼いで、負債を返すがいい」
祖母が笑ったような気がした。
「ありがとうございます」
額を畳にすりつけた。
「さ、もうお下がり。私は忙しいんだ」
廊下へ出て、もう一度祖母に向かって頭を下げた。
部屋に戻りながら、僕は秀の手を取り甲にキスをした。
微笑みを浮かべて秀の顔の方を見上げると、頬に落ちる温かな滴とともに、唇にキスをされた。
そのキスはやはり沈丁花の香りがした。
――了――
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