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 愁は、部屋の中へと駆け出した。  まだ遅くない。貴遠に助けを求めれば。 「お邪魔しまーす」  加瀬は言って、ブーツを脱ぐことも無く、ドカドカと上がり込んだ。 「へえ、広い部屋ぁー。あ、スマホ見っけ」  ベッド脇にスマホを探していた愁の背後で、嬉々とした加瀬の声がした。 「メッセージ、来てるよー」  振り返ると、スマホの薄明かりに加瀬の綺麗な顔が浮かび上がっていた。 「なになに、愁へ、仕事が忙しくて帰るのは一週間後になりそうだ…って。キオンちゃんから。へえ、一週間も?」  愁は、血の気が下がるのを感じていた。  貴遠がいない。  一週間も。  それどころか、危機であるいまこの瞬間に、加瀬にスマホを取られていた。 「これでしばらく二人っきりだね?シュウちゃん?」  加瀬は、スマホ越しに愁を見た。 「え…なん…貴遠…」 「ゆっくりできるね?ねえ、聞いてる?シュウちゃーん」  加瀬は、背後にスマホを放り投げる。派手な音を立てて、スマホが弾ける音がした。  愁は、現実が受け入れなくなっていた。  貴遠に助けを求めることはもう、できない。 「ゆっくりできるね、って言ってるの、聞こえてる?」  呆然と、土足のまま近付く加瀬を見ていた。 「楽しみ?ああ、気が遠くなるほど楽しみなんだ?」  加瀬は、目の前にしゃがみ込み、膝に肘をついて愁を覗き込んだ。 「俺とのセックス♡」

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