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「な、なんで、ここにお前が…」  零れた声は、驚くほど怯えていた。愁を間近に見る加瀬の瞳が、すぅ、と細められた。 「おまえ、じゃない。加瀬様、だろ?」  加瀬の声が、突然トーンダウンした。愁は、体の奥で何かが砕けていくような、震えに似た何かを感じた。  突然、加瀬の手が愁の前髪を掴み上げる。 「い…ぁッ」 「躾がなってないな。キオンのやつ、お前に何を教えたんだ?尻を振ることだけか?」  目の前に、鋭く美しい加瀬の瞳が舐めるように愁を見た。成す術もなく、されるまま愁はその瞳を見返した。  潤み、熱を孕んだ黒い瞳を覗いて、加瀬は唇を舐めた。 「へぇ、そんなヤラシイ目ぇするんだ?」  加瀬は、低く声を漏らして笑うと、愁の目を舐めた。 「…!」  咄嗟に目を瞑ると、背後のベッドに突き飛ばされ、激しくスプリングが鳴り響く。  続けざまに、カチャカチャと金属音が響いた。  見上げれば、加瀬がベルトのバックルを外し、黒色のレザーパンツからぺニスを引き出していた。 「な…、なにを…す…」 「あ?まだわかってねえツラしてんな?」  加瀬は愁の目の前に、すでに怒張したペニスを晒した。亀頭に、派手にピアスされた金属が光っている。  愁は、息と、何かを飲み込んだ。  加瀬は、それを目を細めて見た。 「オラ、咥えろ」 「な…ッ、なんで、お前のを?」  愁の反応を待っていたように、加瀬は、その声を聞きざま甲で愁の頬を打った。 「…!」  打たれた頬を庇ってその顔を睨み返すと、加瀬は低く声を漏らして笑った。 「目が濡れてるぜ?アソコも、もうビショビショだろ?」  なあ?と、聞きながら再び前髪を掴み上げると強引に股間へと引き寄せた。  唇を避けるように、ペニスを愁の頬に擦りつけると、加瀬は思い出したようにジャケットから何かを取り出した。 「これ、誰だっけ?」  そこには、全裸で背後から愛撫される自分と、首筋に唇を寄せた貴遠が写っていた。 「!」  目を剥いて、思わず愁は声を失った。 「ど、どこで、これを…」  喉を鳴らして、加瀬は笑った。 「なんだよ、これ!」 「よく見て。これ、どこだと思う?」  そう言って、加瀬の瞳が泳ぐように窓辺を見る。 「こ、こ…?この部屋…?」 「他にもあるよ?」  マンションの一室の隠し撮りにしては、露骨だった。  まるで披露するかのように、二人のセックスが写し出されていた。 「こんな格好が好きなの?シュウ、こんなイヤらしい顔して。なんて言ってるのかな?」  加瀬の言う通り、自分は、淫らな顔をしていた。  鏡で見る行為は好きだったが、それとは比べ物にならない。 「どうしよう?これが、会社のポストに入ってたら、キオン、困るよね?ね?シュウちゃんー?」  写真で鼻を軽く叩かれ、愁は、我に返った。  貴遠の会社に。  自分と、自分との痴態を晒される。 「…そ…」 「ん?」 「…それで俺に、何をしろって…」 「やっとわかったの?…じゃあ、とりあえず、この写真と同じこと、全部したら、この写真は捨ててあげるよ」  さらに、加瀬は束になった写真を取り出した。乱雑に、叩きつけるように愁の胸元に投げる。  貴遠と、その腰に足を絡ませた自分が見えた。  愁は、目の前のペニスを、ゆっくりと、丁寧に、舐め上げた。  見上げたそこには、目を細めた加瀬が、唇を舐めて静かに見下ろしていた。

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