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「…!」
加瀬の長い黒髪が、愁の頬を撫でる。見上げれば、加瀬の形の良い唇と黒い瞳が見下ろしていた。
まるで愁の声が合図のように、一瞬の出来事だった。
バニラムスクの香りが愁の鼻を掠める。それはなぜか官能を思わせ、加瀬から放たれていることに気付き、愁は眉をひそめた。
「まだ、分からないって、顔してんな」
加瀬は、低く囁いた。
その声が緊張した色を含んでいることに気付き、愁はその顔を見た。
痛みを堪える様な加瀬の瞳が、愁の瞳と交わるなり、突如加瀬の手が、愁の顎を掴んだ。
「ここへ何しに来た?」
愁の瞳を覗く加瀬の瞳が、細められる。
「俺に、またレイプされに来たわけじゃねェだろ?」
「…っ」
愁は、言葉を失って、加瀬を見た。加瀬は、唇を歪めて微笑を浮かべると、愁の首筋に顔を埋めた。
「…!ア…!」
加瀬の指が、乱雑にベルトを取り去ると、投げ捨てる。加瀬はそのまま、愁の肌を強く吸い上げた。
チクリ、と肌は痛んだ。加瀬は、紅く残っているベルトの跡を丁寧に舐めるように、愁の首筋を辿っていく。
愁は、拒むこともできずに、徐々に熱くなっていく肌を感じていた。
「…ッ、…ぁ…」
不意に加瀬の指が、そっと愁の首を締め上げる。
愁は、体を強張らせ、僅かに開いた唇から、呻きを漏らした。
「…ん、ぁ、ぅ…」
反射のように、身体の奥底で甘い何かが目覚めようとするのを静かに感じていた。
すでに、抗えない何かが、体を支配していた。
見上げた愁の瞳を、真っすぐに見返して、加瀬は小さく笑うと、その指に力を加えた。
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