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「…ッ」  白く染まっていく視界の中で、愁は、加瀬の瞳を見ていた。黒い双眸は細められ、愁を見る。  まるで内側を覗かれているような感覚に愁は陥った。 「ハ…ほっせェ首だな」  嘲笑うように加瀬は言い捨てると、締め上げていた首を手放した。気管に入り込む酸素に、愁は激しく咳込むと加瀬を見上げた。   加瀬は冷たく愁を見下ろし、首を傾げる。 「こんなんじゃ、刺激が足りないって…?」  言って、ライダースジャケットのポケットから、何かを取り出し、愁の目前に晒す。 「コレだろ?探してんの?」  愁の鼻先に突き出したのは、昨晩の写真だった。 「あッ!」 「おっと」  かじりつく様に写真を奪おうとする愁から、加瀬は身を翻し躱す。 「返せよ!」 「オマエんじゃねェだろ」 「俺が写ってるから俺の写真だろ!」 「………」  加瀬は、愁を見つめ黙り込む。写真を奪おうと何度も飛び跳ねる愁は、その視線に気づき、睨み返した。  静かに愁を見下ろしていた加瀬は、小さく笑うと唇を舐めた。 「…っ」  形の良い唇から現れる深紅の舌の感触。それを知っているような感覚があった。  愁は、不意に視線を逸らし、足元を見る。  空調が静かに鳴っている。  突然、加瀬の指が愁のタンクトップを掴み上げ、愁を強引に引き寄せた。 「あ…!」  ぶつかる、と思ったときには、唇を唇で塞がれていた。  驚いた愁が何事かを喚こうと口を開くと、加瀬の舌が強引に咥内に侵入した。 「…ん!ぁ…ん」  加瀬の舌ピアスが、咥内を愛撫する。  愁は、抱き寄せられたまま、その胸を叩いたが、意外なことにびくともしなかった。  熱く、ひんやりとした感触が、咥内をくすぐる。愁は驚きながら受け入れていた。  どこかで、こんなことがあったような。  いや、そんなはずはない。  大人しくなった愁の唇を、加瀬はそっと離すと、糸を引いた唾液を舐めた。 「か…加瀬…」  下向いた愁は、加瀬の胸を叩き続けた。恐らく、耳まで赤くなっているに違いない。  なぜ赤らまなくてはならないのか、愁は自分が信じられなかった。  「シュウ」  加瀬が、耳元で囁いた。その声音に驚いて、愁は顔を上げる。  間近に美しい黒の双眸を見て、愁は目を瞠った。 「…セックス、させろ」

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