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「…はい」  まだ水の滴るまま、愁は玄関のドアを開くと、腕を組んで、玄関脇に凭れるようにして加瀬は待っていた。  加瀬を見るなり、愁は下を向かざる負えなかった。  その目を、直に見れなかった。 「…入れよ」  加瀬は、愁の言葉を待っていたように、閉まっていく玄関を潜り抜けた。  ブーツを脱ぐ加瀬の姿に、愁は二度見した。 「え…」 「あ?この部屋土禁だろ?」 「そうだけど…昨日脱がなかったから」 「あー…そうだっけ」  加瀬は部屋の様子を伺うように見渡し、ベッドに腰かけた。 「なんの疑いもせずに入ってきたけど…怖くないのかよ」  愁は、ミネラルウォーターを飲みながら加瀬を見た。 「何が?」 「俺一人じゃなかったら、どうすんだよ」 「…ああ、キオンのやつね。どうせ、仕事だろ」 「そうだけど…」 「俺、一度に二人相手できるけど?」 「…そうじゃない!」  愁は、思わずペットボトルを握った。音を立てて元に戻ろうとするペットボトルを見ると、加瀬が立ち上がるのがその向こうに見えた。 「…っ…!」  愁は、思わず身構えた。  昨日の続きが待っているような、予感が胸を掠めた。  ペットボトルが床に落ち、漏れた水が床を濡らしていく。 「……?…ぁ…」  加瀬は、愁の手首を掴み抱き寄せていた。その胸の中で、愁は全身が熱を溜め込んでいくのを感じていた。  次に何をされるのか、鼓動が跳ね上がる。床を濡らしていく水を、ただ見つめた。

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