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枕に顔を埋めていると、何かが降ってきた。
「…?」
顔を上げると、大量の写真だった。
「…あ!」
「ホラ、ご所望の写真」
「………」
一枚を手に取り、愁は俯いた。
「じゃあ、風呂、借りるわ」
「うん」
セックスはあっさりと、一回で終わった。一晩中凌辱されると思っていた愁は、どこか拍子抜けしていた。
愁は、ペニスを見た。
赤く残っていた跡は、うっすらと、消えかかっていた。
これで、終わる。
はずだった。
だが、モヤついた何かが、心に残っていた。
加瀬が風呂から上がる気配がした。
愁はタオルとドライヤーを差し出したが、その時もモヤついたまま、黙っていた。
身支度を済ませた加瀬が愁の元へと戻ってくると、愁は、ライダースジャケットを差し出した。
無言で受け取った加瀬は、そのまま羽織る。
玄関に向かっていく加瀬の背中を見つめて、思わず後を追う。
「…な、あ、加瀬…」
愁は、俯いたまま口を開いた。
「なに?」
加瀬は、ブーツを履きながら愁の問いかけに応じる。
「これで、…終わり、だよな?」
一瞬、加瀬の動きが止まった様だった。
「…そうだろ」
その返答には、間があった。
だが、分かり切った問いかけに、当たり前の返答が帰ってきただけだった。
「もう、ここには来ないよな?」
「だろうな」
加瀬は立ち上がり、つま先を鳴らした。
「じゃあな」
そう言って、加瀬が玄関のドアを開く。
愁は、駆け出していた。
ドアの向こうに、加瀬の背中が消えていく。
「…か…」
ドアが閉まってしまう、と伸ばしたその手を、僅かに開いたその隙間から伸びた手が掴む。
「!」
愁の手を掴んだアーマーリングの指が、愁の頬を撫でる。
気付けば、加瀬の唇が、愁の唇を塞いでいた。
触れるだけのキスをすると、加瀬は愁の胸を後ろへ押し戻し、再び踵を返す。
「…加瀬…」
ドアは再び加瀬を隠し、音を立てて閉まった。
エアコンのモーター音が、静かに鳴っていた。
これで、終わり。
これでよかったはずなのに、どうして。
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