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「でも、不思議だよね。兄弟で一人の男を取り合うなんて、ロマンチックといえばロマンチックだけど、まあ、加瀬も何も君に言わずにアレはないよな」  柳田は、一人頷いてしゃべり続けた。 「…兄弟?」 「あ、知らなかったか…。加瀬と妾腹はそのまんま、腹違いの兄弟だよ」 「…え…」  愁は、言葉を失って、柳田と、貴遠を見た。 「…本当…に?」 「うん」  柳田は困ったように笑って頷いた。  愁は、貴遠を見た。恋人であるはずの男は、気まずげに眉をしかめ、話を聞いているようだった。 玄関で、足音が響いた。  スーツ姿の男たちが、土足で駆け込んでくるところだった。貴遠を立ち上がらせて、柳田は男たちに手渡す。 「おつかれ。じゃあ、あとはよろしく。…行くよ、シュウ」  柳田はツナギの埃を叩いて、愁を見た。 「え?行くって、どこに?」  愁は、目を丸くした。 「ラブレターは受け取っただろ。失恋したと勝手に思ってる、哀れな王様のところだよ。…嫌かな?」  愁の手元を指さして、柳田は片目を瞑る。 「失恋…?」 「そ。あいつ、負けず嫌いで、失恋は初めての経験のはずだから、いまごろどうなってるか」  愁は、握りしめていた写真を開く。  血文字で描かれた告白。  全身の血が、どこかへ流れ落ちて消えていくような気がして愁は再び写真を握りしめた。 「加瀬は…どこに?」  愁の言葉に、柳田は目を瞠った。 「…助けてくれるの?あいつを?君に、あんな真似したやつを?」  愁は、目を閉じた。 「俺、正直わかんない。よくわかんないままレイプされて、いいように抱かれて、キスだって…」 「キス?」 「あんな、突き放すようなキス。なんで…」 「ちょっと待って、キスってなに。いつしたの!」  突然、柳田は鼻息荒く愁の肩を掴んだ。  気圧されて、愁は何かまずいことを言ったかと口を噤んだ。 「いつ、どこで!」 「…最後に、あいつが帰るとき…別れ際に…」 「別れ、際?玄関?」 「そう…それがなにか…」  柳田は額を押さえると、シャッターチャンスが、被写体が、等々、呟いた。 「柳田さん?」  愁がその顔を覗くと、柳田は愁の瞳を覗き込んだ。 「シュウ、加瀬を助けたい?」 「えっ、…うん」 「じゃあ、加瀬とのセックスを俺に撮らせて!」  柳田は、愁の肩を握りしめた。 「…え?」  何か、妙なことになっている。そう思いながら、愁は柳田の運転するBMWの助手席に座っていた。   夜景が、煌びやかな明かりが時折目を刺し、愁は目を細めた。

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