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「か…」  愁は、その名を呼ぼうとした。 加瀬は、音もなく、愁に歩み寄ると、見上げた愁の前髪を掴み上げた。 「あッ…!」  愁は、引き上げられるように立ち上がると、壁に押し付けられその顔を見た。 間近に、加瀬の細めた双眸が愁を覗き込む。 「か、加瀬…!」  唇の端に血を付けているものの、その顔は美しかった。加瀬は無表情のまま、愁の顔を見ていた。愁は、息を飲んでその顔をみた。 「なぜ、ここにいる?」  加瀬は、顔色一つ変えず、静かに口を開いた。  その瞳は、熱を孕んだように濡れ、時折小さく揺れた。 見たことのない表情を見せる加瀬の瞳。その視線が混じり合い、愁は縋る様にその瞳を覗き込んだ。 僅かに、加瀬の眉が動く。 無言で見つめ合うと、加瀬は、唇をきつく結び、僅かに下向いた。 「か…せ…?どこか、痛む…」  その胸元を見下ろすと、白いTシャツに赤の斑点が見えた。 「血が…加瀬、どこか怪我を…」 血の付いたTシャツに触れようとしたその手を、掴まれ、背後の壁に強く押し付けられた。 「…ぁっ、か、加瀬?」  加瀬は俯いたまま、愁の手首を強く握り、締め上げた。 「あッ…痛…っ…ッ!」  突然の加瀬の行動に、愁は目を瞠った。  目の前で、ゆっくりと加瀬が顔を上げると、その唇は弧に歪められていた。 「!」  驚く愁の首筋に、加瀬は歯を立てた。 「!…ぁ、な、なん…!」  驚いて声を上げた愁の喉仏に、加瀬は鋭く歯を立てた。びくりと、愁は全身を震わせる。 「うるせぇよ」  否定を口にする加瀬の吐息は熱く、愁は目を閉じた。 「痛いくらいがいいんだろ?」  低く囁く加瀬の声と、吐息の熱は、瞬く間に愁に感染した。  愁の足から力が抜け、加瀬の歯が愁の肌に食い込む度、手首で釣り上げられていく。 両足の間に割って入った加瀬の太腿が、ジーンズ越しに愁の股間を撫でた。 「ん…ぁ、あ…っ」 「否定しないんだな、このマゾ」  加瀬の指の腹が、喉元を探るように肌を締め上げていく。堪らなくなった愁は仰け反り、喘ぐ。 加瀬は、太腿を押し付けた愁の股間を更に壁に押し付け、その顔を見下ろすと、舐めるように口を塞いだ。  滑り込む加瀬の舌に絡みつく微かな血の匂い。愁は、迷わずにその舌を吸い、唾液を飲み込むと、溢れそうな雫を啜り上げた。加瀬は愁の咥内を執拗に蹂躙すると、零れた唾液を舐め上げ愁の顎を掴んだ。 「俺を助けるつもりでもいたのか?」

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