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 愁を抱いた加瀬が廃ビルから出た時、正面に横付けされた白のBMWには柳田が手を振り、凭れ立っていた。 「ハイ、王様。迎えに来たよ」  加瀬は、眉を顰め、苦々しく柳田を見た。 「なに、そのツラは」 「あ?」 「今にも泣きそうな顔しちゃって」  柳田の言葉を無視して、加瀬はその前を行き過ぎる。柳田はBMWの後部座席を開けると、加瀬が愁を抱いたまま乗り込むのを見届けた。 「で?いい写真は撮れたかよ」 「…まさか」  柳田は、運転席に乗るとバックミラー越しに加瀬を見る。苦笑を浮かべ、エンジンを点けた。 「あんな痛々しいの、俺のシュミじゃないんで」 「は?お前が?…流血ぐらいなんでもねぇくせに」  加瀬は、バックミラーに映る柳田を見て嗤う。 「肉体の話じゃない。…お前の心だよ」 「ハッ。思春期のガキじゃねぇだろ」 「まぁ、収穫はあってよかったじゃないか。失恋は、免れたな」  柳田の言葉に、加瀬は沈黙した。 「喘がせてもいいから、もう、泣かせるなよ」 「………」 「加瀬?」  バックミラーを見ると、加瀬は俯き、動かなかった。  柳田は微笑を浮かべると、助手席のリュックからカメラを取り出す。  覗くファインダーの中に、二、三枚シャッターを切ると、カメラを放り出し、アクセルを踏んだ。 「お前、寝顔かわいいのに撮ると怒るんだよなー」  車内には、二人分の寝息が静かに響いている。  柳田は数フレーズ鼻歌を歌い、上機嫌でハンドルを切った。

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