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「…う、ん…」  腕が軋むように痛かった。窓を見れば、ブラインドから朝日らしい光が差し込んでいる。ぼんやりとした意識は徐々に明瞭になり、愁は、自分が全く知らない場所で目を覚ましたことに気付いた。 「てて…、ここ、ど…」  何処だろう、そう言って重い体を起こそうとした。  首に、腕が回されていた。 「!」  愁は、その腕を退かそうと触れた。そして気付いた。貴遠の腕ではない。 貴遠の肌よりももっと白く、筋肉の付き方もよりしなやかに見えた。 鼻に触れる甘い匂い。 「…加瀬…?」  腕の中で、くるりと身を返すと、長い睫毛を震わせて、無防備なまま、加瀬が眠っていた。 「!…え、加瀬…?え、俺、なんで…?」  狼狽えて、愁はその腕を退かすこともできないまま、その寝顔を見つめた。  睫毛、長い。  貴遠も長かったが、加瀬の場合はもっと黒く鋭く長い。高い鼻梁と、形の良い唇。それらが油断して、愁の前に差し出されていた。 「…あ、えと…」 「…ん…」 「!」  眉を寄せて、加瀬が目覚めようとしていた。愁は、事態が把握できぬまま、その顔を見つめた。  薄っすらと、黒目が愁を見つめた。 「あ…加瀬」  加瀬は、愁の声が聞こえたか否か、愁を引き寄せた。 「!…ちょ、…ん…」  愁の唇を塞いだ加瀬は、そのまま再び眠りに落ちた。 「可愛い寝顔だろ?そいつ朝苦手だから、先起きれば?」 「!」  背後で、男の声がした。確か、この声は。 「柳田さん?」  愁は、思い切って加瀬の腕を退けると、起きて声の主を探した。 「そ、おはようシュウ」  少し離れた場所で、柳田は椅子に腰かけコーヒーを飲んでいた。その手が、愁を手招く。 「こっちきて、まあコーヒー飲みなよ」 「ここ、柳田さんの部屋ですか。加瀬の…部屋?」  きょろきょろと愁は辺りを見渡して、ベッドを立ち上がった。 「あ、ごめん。シュウ、君、いまフルチンだから」 「え…っ。あ、すみませ…」  柳田は奥へと何かを呟きながら消えていく。愁は、もう一度辺りを見渡した。  部屋は、灰色でまとめられ、一見して地味に思えた。が、妙に存在感のあるパネルが数枚飾られ、その写真のためにこの部屋があるのだと愁は気付いた。  長い黒髪の、美しい後姿。  女性だと思ったその写真は、何か違和感があった。 「…綺麗だろ?」  背後で、柳田がにやにやと笑っていた。 「それ、加瀬だぜ」 「…え」  愁は、ベッドでいまだ眠る加瀬を見て、柳田を見た。 「俺の自信作。…さ、こっちに来な」 愁は、柳田からスウェットを受け取り、履くと、席に着いた。

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