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 加瀬は、優しく触れるように愁の唇を吸った。加瀬の唇が柔らかいことを、愁は初めて感じた。 「ん…、んふ…ん…っ」  舌が、歯列を分け入り、その先端が歯茎を柔らかく愛撫する。舌ピアスが、冷えた熱を呼び覚ましていく。  加瀬は自分をベッドに運ぶつもりだと気付いたが、キスの優しさに溺れ、抵抗ができなかった。  ついに、加瀬は愁をベッドにそっと押し付け、その首筋に顔を埋めた。 「…ぁ、か、せ…っ、柳田さ、んが、見て…!」 「かまわねぇよ。…それより、人目を気にするほど、余裕があるのか、シュウ?」  加瀬は、今までよりもより低く、耳元に囁いた。  ぞくり、と愁は肌が震えた。 「加瀬…っ、おま、寝ぼけて、ない…!」 「さぁ?どうだったっけ?」 「俺には構わず、ごゆっくり~」  柳田は、カメラ片手に手を振った。 「あ…ッ、加瀬…!待て、…待てよ!」  愁は、脇腹を撫で上げる加瀬の手を止め、叫んだ。 「なんだよ」 「俺、あんたの…あんたの、何だよ…!奴隷か?オモチャか?…に、肉便器かよ…!」  愁は顔を赤らめて、加瀬を睨み上げた。濡れた瞳が、揺れている。 黙った加瀬は、目を細めると、唇を舐めた。 「!」  分かっていた。この表情をするとき、この男が情欲を沸かせていることを。  加瀬は、愁の二の腕を掴み、強く引き寄せた。 「あッ」  目前に、加瀬の唇が迫った。嫌な予感を感じて、巣は身を固くした。  加瀬は、額に唇を寄せると、ちゅ、と音を立てて吸った。 「な…」 「お前が俺を選んでいいかどうとか、そんなこと、必要ねェんだよ」 「…っ、それは…」  愁は、加瀬の言葉に、俯く。 「お前は、俺に抱かれて、好き勝手にイって、俺をイかせればそれでいいんだよ」 「…は?」 「は?じゃねぇよ。聞いてんのか、人のハナシ」 「それって、セフレってこと?」  愁の言葉に、柳田が吹き出して笑いだした。 「外野は黙ってろ!」  柳田は生返事をして、退屈そうに頬杖をついて手を振った。

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