7 / 60

第7話 始動

引っ越し当日 康太がキッチンへ行くと、家族全員が… 食卓についていた 康太は家族に笑顔を向け席についた 康太の前に、慎一が慣れた手付きで朝食を並べて行く 「父ちゃん…引っ越しだな 荷造りは終わってるのよ?」 家族全員が荷造りをしている頃… 清隆と瑛太は仕事に追われていた 最悪…全員で手伝って乗り切るしかないと…想っていただけに…気がかりを口にした 清隆は…優しげな瞳を康太に向け 「ええ。仕事が詰まってましたからね… 徹夜で荷物を纏めました…」 仕事から帰って来て…玲香に荷造りしろ…と急かされ…朝までかかった…と、清隆は愚痴をこぼした 玲香は、しれっとした顔をして 「切羽詰まらぬと片付けぬ…そちが悪い」と即答した 康太は苦笑して…話題を瑛太にふった 瑛太も…父親と同様…寝不足な顔をしている 「瑛兄…寝不足か?」 瑛太は…寝不足な顔を康太に向けて 「ええ。私も朝までかかって荷造りしましたからね…」 と、肩を竦めた 仕事は出来るが…不器用な男は… 部屋を掻き回し…荷造りとは程遠かった 見兼ねた一生と慎一が徹夜に付き合い… 夜明けと共に…一段落着いた所だった 「もう、運び出せるのかよ?」 「……一生と慎一が手伝ってくれましたから…何時でも大丈夫です」 「皆は?」 康太が問いかけると、家族は頷いた 準備万端 家族が離れ離れにならずに済むなら… 一晩や二晩寝なくても…堪えられる そんな想いで一杯だった 「飛鳥井の引っ越しの後は、会社だな」 康太は…果てを見つめて…嗤う 「ええ。会社も引っ越しの準備の最中です 仕事と平行しての荷造りですからね… 大変な中、社員は率先して荷造りをしていましたよ」 瑛太が嬉しそうに社員の意向を口にする 康太は…何も答えず、沢庵をポリポリ食べ始めた 黙々と食事をし食べ終えると、箸を置いた それを見計らい慎一が、玉露を康太の前に差し出した 康太は湯呑みを持つと…味わうように玉露を飲み始めた 何時もの光景 見慣れた光景だけど… この場所でその光景を見る日は… 永遠にないと想うと…感慨深くなる 飛鳥井の家… 家族と過ごした家… 想いがない筈などない 清隆や玲香、瑛太は…その光景を瞳に焼き付けるかの様に… 何時までも…康太を見ていた 飛鳥井の家の引っ越しは、大型トラック10台になる大規模な引っ越しとなった トラックが横付けされ、戦闘体制に入った業者が車から降り家の中へ駆け込んで行く 作業員は手際よく荷物が運び出し荷台に積めて行く まずは応接室の家具が運び出され 源右衛門の部屋の荷物を運び出され 清隆、玲香の部屋の荷物を運び出し 悠太の部屋の荷物の後 一生、聡一郎、隼人、慎一の部屋の荷物が運び出され 最後に康太と榊原の部屋の荷物が運び出された 慌ただしく荷物を積め込む さすがプロの仕事だけあって…その動作に無駄はない その光景を、康太は駐車場から見ていた 荷台が満杯になると…ドアを閉め運転席と助手席に乗り込む すると、トラックは走りだし…新居へ向かう 康太は、最後の荷物が運び出されるまで… 黙ってその光景を見ていた 「康太、新居に行かないんですか?」 瑛太が声をかけると 「瑛兄、皆を連れて先に行っててくれ!」 「君は?」 「家に入り結界を切る じゃねぇと解体が出来ねぇかんな」 家を守る結界は侵入者を容赦しない このままにしておいて…解体をすれば… 結界は家を守る為に発動されてしまう 「……では、後は君に任せて…私は新居に向かいます」 「おう!途中で清四郎さん達を、拾って新居に行くかんな!」 瑛太は榊原の肩を叩き…その場を後にした 家族や一生達は、新居に向かった 康太と榊原は…荷物が統べてなくなった家の中へと入って行った 荷物が運び出され…家具のなくなった部屋は閑散としていた 康太は家の中央に立つと炎帝の剣を出した 飛鳥井の家の結界は、紫雲龍騎が張った だから、康太は天を仰ぎ…大声を張り上げた 「龍騎 結界を切る!此処へ来い! 」 結界は切られた時に、張った人へと跳ね返される、それが定め だから、勝手に結界を断ち切る訳にはいかなかった 康太が叫ぶと…康太の髪が風に靡いた 一陣の風が吹き…康太に纏わりついた 『結界を切る前に…抱き締めさせて…康太』 紫雲龍騎の腕が…康太に絡みつく 「来るなり…それかよ…」 康太は苦笑して…紫雲の背中に手を回した 『少し位良かろう…減るものでもないしな』 紫雲が言うと、天空から 『減るわい!離れろ!』と悪態をついた声が響き渡った 『五月蝿い弥勒!お前に言う権利はない!』 紫雲はしれっと弥勒を牽制して… 康太を抱き締める手を緩めなかった 「オレは新居に行きてぇんだ! 早くしねぇと…結界をぶった切るぜ!」 康太の言葉に…紫雲は渋々手を離した 『ざまーみろ!』 弥勒の嬉しそうな声に…紫雲は眉を顰めた 頭上で…ギャーギャーと繰り広げられる喧嘩に…とうとう康太は切れた 「弥勒、うるせぇぞ!」 康太に釘を刺され…弥勒は押し黙った でも…でも… 伝えねばならぬ想いもある! 『最近…逢いに来てはくれぬではないか!』 と、思いの丈をぶつけた 『地鎮祭も、俺ではなく…龍騎が出るんだろ? 俺の出番は?何故…俺を呼んでくれねぇんだよ!』 弥勒の叫びは悲痛だった 「地鎮祭は龍騎が本職だからな」 他意はないと…弥勒に言う 『ならば、俺も手伝う!狡い…龍騎だけ…』 弥勒は…グチグチと康太に突っかかった 康太は…拗ねた弥勒にお手上げ状態になり… 「なら、来れば良いじゃんかよぉ! 来るな…とは、言ってねぇかんな!」 譲歩するしかなかった 『ならば、行く!当日が楽しみだ』 弥勒は楽しそうに笑って… 消えた 「あにしに来たんだよぉ!」 お騒がせな弥勒に…少し疲れて…迫力をなくした康太が吐き捨てた 紫雲は…美味しい所だけ持って行った弥勒に…対抗するかの様に… 『康太、私とも約束して下さい 近いうちに…山に来てくれると約束して下さい』 「お前もか…解ったよ! 近いうちに山に行くよ! 丁度用もあるしな…約束する」 紫雲は嬉しそうに笑い 『さて、始めましょうか?』 紫雲は両手を広げ…呪文を唱えた すると、今まで見えなかった結界が… 目に見える赤い線となって現れた 『康太、衝覇で切りなさい! 我には返らぬ様に違うものにした』 切るのは結界ではなく…違うものだと… 紫雲は言った 康太はその言葉を受け… 天空を切り裂いた 「衝覇ぁ!」 康太の刃が…赤い線を断ち切る ブチブチと音を立て… 切れて行く様を、紫雲は黙って見ていた 切れた赤い線は…切れた瞬間…空間に飲み込まれる様に…消えて行った 『全て切れましたね これで、解体を始めても良いでしょう この先、無事故で建設が進められる様に… 祈願をしましょう!』 そう言うと紫雲は…何かを唱えて舞い始めた 優しい唄が…部屋を包む 紫雲が舞うたび、紫雲の指先から、光輝いた蜘蛛の糸の様なもが出て来て…キラキラと光輝いた 一頻り舞うと…紫雲は康太の前に立った 『康太、地鎮祭の時にな!』 「おう!頼むな龍騎」 紫雲は優しい微笑みを康太に向け 消えた 康太は炎帝の剣を消し去り…榊原に向き直った 「終わったぜ伊織 新居に行こうぜ!」 「ええ。行きましょう!」 榊原は康太の掌を取ると…指を絡めた 「康太 」 「ん?」 「新居は最上階。カーテンを開けっ放しでも大丈夫ですね 夜景を見ながら…なんてのも出来ますね」 康太は榊原を見上げた 「冗談…」 「マンションは高台にあるので、横浜の街が一望ですね 夜景に溶け込む君は、どんな色に染まるんでしょうね」 窓枠に…手を着き…犯されそうな勢いに… 康太は首をふった 榊原はクスッと笑い康太の手を強く握り締めた 「その前に父さん達を迎えに行きましょう」 「んとに伊織は意地が悪い…」 「好きでしょ?」 どんなに意地が悪くても…好きでしょ? って問いかけられたら… 「好きだよ!愛してんよ!」と返すしかない 「僕も愛してますよ。」 榊原は、笑って康太の手を握り締めたまま 駐車場へ向かった 駐車場へ行き、榊原はロックを解除すると運転席に乗り込んだ 康太は助手席に乗り込み…前を見ていた 榊原は車を走らせ…父である榊 清四郎 の家まで向かった 清四郎の家の前まで行くと、玄関の前には笙が立っていた 瑛太から、そろそろ榊原達が行くだろうから…と、連絡が入ったから笙は玄関まで出迎えに来ていたのだ 「伊織!待ってたぞ!」 笙は笑顔で弟に話しかけた 「兄さん、父さん達は?」 榊原が問い掛けると…笙は気まずい顔をした 「父さんと母さんは…先程、清隆さんが拾って行きました 源右衛門が来ると言うので…呼びに来て下さり、勇んで新居に行きました 僕は…悲しき連絡係として居残りです」 笙の説明に…榊原は苦笑をした 「兄さんはお留守番でしたか…」 「そう。伊織と康太が来るまで待ってなさい!…ってね釘を刺されました」 「……お待たせしました では、行きましょうか?」 「了解!」 笙は待ち兼ねた様に、後部座席のドアを開けた 歩いて行っても然程 距離のないマンションに向けて、車は走る 笙は康太に 「忙しそうですね」と声をかけた 「白馬に行くまでは…少し忙しい でも、白馬に行けば…少しは休養が取れるかんな! 笙も行くんだろ?」 「ええ。お供しましす」 「そうか…。ならば…この夏は笙にとって代えのねぇ夏になるな…」 「え?何ですか?」 笙が聞き返しても…康太は何も言わなかった 「康太?」 「笙、新居は夜景が綺麗なんだぜ!」 「最上階…でしたね。」 「泊まっていけよ!それか住み着くか?」 康太は笑って笙に問い掛ける 「康太…住み着いたら…困るでしょ?」 「困らねぇぜ!誰も何も言わねぇしよぉ!」 もぉ…この子には敵わない… 「時間が取れれば…逢いに行きます」 「時間は自分で作らねぇと…出来ねぇぜ」 手痛い返しに…笙は頭を下げ 「時間を作って逢いに行きます!」 と、言い直した 康太は声を立てて笑った 榊原は、飛鳥井の新居の入るマンションの駐車場入り口のスロープに車を滑り込ませ、自分の駐車スペースに車を停めた 車を停めサイドブレーキを引くと、キーを抜いた 康太は助手席から降りると…笙を待った 笙は、ゆったりとした足取りで車を降りると、康太の横へと向かった 榊原は車から降りるとキーでロックをして、エレベーターのボタンを押した エレベーターが開くと文字盤の下にキーを差し込み、直通のボタンを押した 直通で12階まで向かう ノンストップで12階まで行くとドアが開いた 開いたドアの向こうには… 毛並みの良い絨毯が敷き詰められたラウンジが見えた ラウンジの向こうには、個室が誂えられていた 重厚なドアが並ぶ そのフロア全てが、飛鳥井の家だった 「此処が飛鳥井の新居だ! 笙の部屋もあるぜ!後で慎一に鍵をもらうと良い!」 康太が悠然と歩き出すと、康太の存在に気が付いた一生が駆けてきた 聡一郎も隼人も引き寄せられる様に側に行き 四悪童の絶対の絆を伺わせていた そして静かに緑川慎一が…康太の側にやって来る 主に仕える男がいた 「慎一、笙に鍵を渡してやってくれ」 「はい。解りました。 源右衛門が…御待ちですよ」 慎一の言葉に、康太は笑った 源右衛門の用件が解っているかのように肩を竦め、康太は応接間として使われているフロアーへ歩いていった コンコンッ 軽くノックをして康太は応接間のドアを開けた 「久し振りだな、じぃちゃん 鎌倉の方が居心地が良くて帰るのが嫌になってるかと想ってたぜ!」 口の端を意地悪く吊り上げ…康太はソファーに座る源右衛門を見た 「問題ばかり押し付けおって…文句の一つも言わんと、やっておられんわ!」 嫌みの応酬を軽くかわして源右衛門は豪快に笑った 「でも一段落したんだろ? 酒を酌み交わせば魂も契る…鎌倉にいる酒豪は仲良く余生を送っているんだろ? じゃねぇと…此処にはいねぇもんな」 「………そっちは心配は要らぬ」 「ならば、あにしに来たんだよ?」 源右衛門は真摯な瞳で康太を射抜いた 「夏生が…出るそうじゃな」 「おう!時は満ちた! オレの駒が手中に収まる 時が来たんだよ!じぃちゃん!」 源右衛門は苦しげに瞳を顰めた 「回りだしたのか…」 飛鳥井の総てを懸けて… 運命の歯車が…音を立てて回りだして行く 稀代の真贋 飛鳥井康太の手中に… 飛鳥井の運命が握られている…と言っても過言ではなかった 「ならば!この老体も還るとするか!」 康太はその言葉を受けて嗤った 「じぃちゃん‥‥乱世だぜ飛鳥井は、それでも還るのかよ?」 「それでも、わしは還る! 飛鳥井の明日を見届ける義務がある 黄泉に渡った時に清香に後百年安泰の飛鳥井の話をしてやらねばならぬからな!」 源右衛門はそう言い豪快に笑った 「じぃちゃん…すまねぇな 乱世に躍り出る以上…火の粉はかかる…」 「気にするな…覚悟などとうにで来ておるわい! それより…子供は…? 翔は…?流生、太陽、大空、和音… 和希に和真…北斗は?」 「綺麗の研究所に流生、太陽、大空、音弥は預けてある 翔、和希、和真、北斗は龍騎の所で修行に入っている オレが教えれれら良いんだけどな…今は無理だかんな…龍騎に頼んだ」 「そうか…ならば安全じゃな」 「京香は村瀬の病院で…子供を産んだ 帰るのは危ねぇかんな…当分は帰す気はねぇ」 「それが一番じゃ…帰れば…あやつは飛鳥井の為に…総てを優先するじゃろうからな…」 「弱味は隠しとかないとな…漬け込まれたら不本意な終焉しか来ねぇ! 飛鳥井は今、形振り構わねぇ奴等の標的だ」 「…康太…逝くが良い 乱世の世に繰り出して…闘って来るが良い 家はわしが守ろう…この命に変えても! 護ってやる!」 「ありがとう、じぃちゃん!」 康太は源右衛門との話を終えると、ソファーから立ち上がった 「闘いはこれからだぜ!」 康太が問いかけると清隆が 「解っております」と身を引き締めて返答をした 康太の瞳は…果てを見つめ…微動だにしない 「総ては…明日の飛鳥井の為! 容赦はしねぇ…ぜってぇにな!」 「…行意!総ては飛鳥井の為! 何が起ころうとも…総て見届ける所存です」 親子であって… 親子ではなかった 飛鳥井家真贋 絶対的な存在として… 飛鳥井の家に君臨する存在だった 清隆は立ち上がると、康太に向かって深々と頭を下げた 総ては…貴方の想いのままに… 飛鳥井康太の動きを一ミリだって狂わせたりはしない! そんな決意の瞳を…康太へ向けた 「降りかかる火の粉は祓う!」 康太は言い切った 「飛鳥井に仇成す輩は…許しちゃおかねぇ」 100年先に飛鳥井を遺す! その使命を背負って…転生し魂 稀代の真贋…飛鳥井康太は その使命の為だけに…生きていると言っても過言ではない 康太は胸を張って… 「この世に生まれし使命を果たさねぇとな!」 と、ニカッと嗤った 使命…… その使命は…余りにも重い 過酷で…道なき道を行く 清四郎は…苦し気に瞳を閉じた 笙は…胸に手を当て…握り締めた 飛鳥井の家族は…受けとるかの様に… 康太を見詰めていた 「母ちゃん、引っ越し祝いをやるかんな!」 康太はまるで、さっきまでの事がなかったかの様に… 明るく玲香にふった 「ならば、料理を頼むとしようぞ! 酒も…今夜は…飲み明かすとするか…」 玲香は受けて立って…明るく返した 「清四郎さん、会社の引っ越しがカタがついて、トナミ海運の地鎮祭が終われば… 白馬で休暇に突入です! あと少し…我慢してください そしたら…皆で白馬に行きましょう」 清四郎は「ええ。楽しみですね」と楽しげに返した 「笙、忘れられない…夏にしような!」 笙は…えっ?と言う顔をして 「ええ。楽しい夏休みにしましようね」と返した 康太は空を仰ぎ 「忘れられない夏になる 2度と来ない…夏にな…」と呟いた 誰に告げている言葉なのか… 解らず…笙は押し黙った 一生は康太の首に腕を回し 「同じ夏なんか…来るもんか!」と茶化した 康太は笑った 「花火をするかんな!」 「去年より沢山買い込むぜ!」 花火で、康太は……思い出したように…一生の腕を放り投げ 「蛇は勘弁だかんな!」と宣言した 去年、花火の時に康太の手に蛇を乗せた時の事を言われて… 一生は苦笑した そして、両手を上げ降参のポーズを取り 「絶対に蛇は乗せません!」と誓った 康太は意地悪く笑って 「今度蛇を乗せやがったら…蝦蟇蛙、乗せてやるかんな!」と吐き捨てた 蝦蟇蛙……ヒキガエル…は…ちょっと… 「ご冗談は…」と顔をひきつらせた 一生は……蝦蟇蛙が苦手だった あのベタつく肌や…容姿が… 一生は思い出して、身震いをした 康太からしてみれば 「蛇も蝦蟇蛙も変わらんやろうが!」だった 一生にしてみれば、蛇は掴めるが… 蝦蟇蛙は…勘弁してよ… と、生理的に受け付けなかった 情けない顔した一生の肩に腕を回し引き寄せた 「んな顔すんな」 「……意地悪すんな…」 「悪戯っ子には釘を刺しとかねぇとな」 康太が笑う振動が体躯を通じて伝わる 「……俺は悪戯っ子かよ?」 一生が唇を尖らせイジケる 微笑ましい光景があった 平和な…光景があった 大切な時間… 康太が笑っていられる時間 康太は一生の頭を撫でた 「拗ねるな…可愛すぎる」 「拗ねてねぇよ…可愛くねぇし…」 一生が答えると聡一郎が一生の頭をクシャっと掻き上げた 「君は可愛い子猫ですよ」 聡一郎は笑った 「一生はギャップが可愛いのだ」 隼人が一生の首に腕を回し笑った 「俺を揶揄して面白れぇのかよ!」 完全に拗ねた一生の肩を、ソファーの後ろから慎一は抱き締めた 「拗ねるな。たまには構われなさい」 慎一が一生の頬にキスを落とすと…一生は落ち着きを取り戻した 瑛太が笑って一生に 「もうじき料理が来ます! ご機嫌を直して手伝ってくれますか?」と問い掛けた 一生は「はい。」と言い立ち上がり瑛太と共に準備に向かった 暫くすると、料理が運び込まれ 美味しい料理と家族や仲間が揃い 楽しい時間を過ごす その夜は…時間の続く限り 飲み明かし…会話に花を咲かせた 刹那の時を送る…家族は…暫し羽根を休める 康太は…榊原の肩に凭れかかり… その様子をじっと見ていた 榊原が「眠いんですか?」と問い掛けても 康太は首をふり… 何も言わず…笑って話をする家族を見ていた そして何時しか… 榊原に凭れ…眠りに落ちる その瞬間まで… その瞳に家族と仲間の姿を焼き付けるかの様に…見詰めていた ……願わくば… 愛する家族に…火の粉が降りかかりませんように… また…家族で過ごせます様に… 願いを込めて… 優しい空間に包まれて… 康太は眠りに落ちた 眠りに落ちた康太を、榊原は優しく包み込むように腕に抱き…立ち上がった 瑛太が「康太は…眠ってますね…。 無邪気に…幸せそうに…どんな夢を見ているんでしょうね…」と言い 立ち上がる榊原の腕の中にいる康太に瞳を落とした 榊原は何も言わず…優しく笑った 瑛太は、ドアを開け… 「おやすみ。君も良い夢を。」と言い 榊原を送り出した 榊原は、軽く頭を下げると 「義兄さん。お休みなさい。」と言い 部屋を後にした その後に慎一が静かに立ち上がり、着いて行った 榊原と康太の寝室の前に立つと ドアを開け 頭を下げた 榊原は慎一に優しい瞳を送り 「おやすみ。」と言い部屋の中へと入って行った 慎一は静かにドアを閉めた 主を送り出す執事の様に… 閉まったドアに…深々と礼をして踵を返した 部屋に入った榊原は、康太をベッドに優しく下ろした 掛け布団を捲り上げ…康太の服を脱がす 一糸纏わぬ姿にすると、ベッドの中に入れ 榊原も服を脱いだ 服を脱ぐと鍛え上げられた肉体が露になった ブロンズ像の如く均整の取れた肉体を惜しみもなく晒し…服を脱ぐと 榊原は布団の中へ入り込んだ 愛しい康太を腕に抱き 温もりを確かめると 旋毛に顔を埋めた 愛する康太の臭いがする 愛しい… こんなに愛しい存在は…二度と出逢えれはしない 無くしたなら…死んでしまう 生きていられない 命よりも大切な…存在 「愛してます…奥さん」 榊原は眠り落ちてる康太の唇に接吻した 確かな温もりに…思いが込み上げる 榊原は時間が許す限り 康太を抱き締め 愛する男の臭いを肺一杯に嗅ぎ…酔いしれた 愛してる 君しか愛せません 隙間もなく抱き締める康太の温もりに侵食され…榊原は眠りに落ちた 目が醒めた時 辺りはまだ真っ暗だった 康太は力強い腕で抱かれ…隙間もなく密着するその肌の熱さに安堵した 求める様に、榊原の胸に顔を埋め 愛する男の匂いを嗅ぎ取る この世で1つしかない匂い フレグランスに榊原の体臭が交ざった この世で唯一無二の香り 康太は背中に回した腕を… 下へと這わせた 撫でるように…弄る様に… 康太の指が…榊原の背中を撫で… 下へ降りて行く 固く引き締まったお尻を撫で…太股に差し掛かろうとした時 榊原に腕を掴まれた 「……本当に君は悪戯っ子ですね」 「嫌いか?」 榊原の胸から顔を上げ、心配そうな顔が伺う 榊原は康太の唇に接吻して 「愛してますよ」と答えた 嬉しそうに笑う康太の唇に… 榊原の舌が潜り込む 口腔で舌が縺れ合い…絡まり…求め合う 咀嚼出来ない唾液が…溢れだし…流れて行く 「……んっ…ぁ…」 喘ぎが零れ… 互いの体温を上げる 激しい接吻はそのままで 榊原の指が… 康太を求めて這う 尖った乳首を執拗に…弄り…引っ掻くと 康太の体躯は…ビクッと跳ねた 愛の証の嵌まった…ピアスと共に乳首を捏ね回す 「…やっ…乳首ばっかし…」 乳首だけで…痛い程に勃起して… 愛液で濡れていた 「乳首…好きでしょ?」 榊原は康太の耳に舌を差し込み…囁いた ねっとりと舐め上げる、その舌に… 体躯はビクビク麻痺する 「…イクッ…んなにすると…ダメ…」 康太は榊原の腹に…欲望を擦り付け…訴えた 「まだイカないで下さい」 「…ぃや……ぁぁっ…」 抗う康太の体躯を…押し付け…愛撫を施す イキそうになる性器の根本を締め付け 足を開かせ…戦慄く穴に触れた その瞬間…康太の体躯は大きく跳ねた 意識だけ…射精を迎えて… 体躯は堰止められていた 丹念に…襞を伸ばし…解すと 美味しそうに、榊原の指を咀嚼する 奥へ…奥へと飲み込もうと蠢く襞に… 榊原の欲望も限界を迎えた 「…康太…上に乗って…」 康太の体躯を起こし…促すと 康太は起き上がり…榊原の上へ乗った 榊原は康太の穴に肉棒を押し当てると… 「…そのまま…来て…」と誘導した 榊原の指が…康太のお尻を左右に開き… 肉棒は…早く挿れてくれ…と震えていた 穴の入り口に…愛しい男の熱を感じ 康太は腰を静かに落とした 煽動する襞が… 榊原の肉棒を食べて行く 「…伊織…イクッ…ぁぁっ…」 康太は榊原に縋り着いた 挿入の衝撃で…イッてしまうと… 榊原に訴えた 榊原は握り締めていた…康太の性器から指を外した すると…押し寄せる射精感に…康太は震え 榊原を総て飲み込み… 「…ぁぁっ…イクッ…んっ…」 射精した 引き締まる…康太の穴の刺激に… 榊原も康太の中に…精液を吹き上げた 「…ぁ…康太…締めすぎです…」 キツく…榊原に纏い着く… 榊原のカタチに纏わり…締め上げて行く腸壁の刺激に… 榊原は翻弄される 抱いているのに… 抱かれて犯されている気分なる 脳髄まで犯され…狂わされる 「…康太ぁ…康太…」 終われない欲望に駆られ… 求め合い… 揺れる 「伊織ぃ…愛してる…」 「僕も愛してます…」 康太を押し倒し…足を抱え… もっと奥まで…挿入する 限界まで…押し込み…繋がる 1つに… 交わり… 溶けてしまいたい… 激しく腰を使われ… 康太は榊原の背中に縋り着いた 離したくない 髪の毛一本だって…やりたくねぇ オレのだ… 総て…オレのもんだ… 「伊織…伊織…」 「康太…僕の康太」 康太の上で激しく腰をグラインドする榊原の汗が…康太に落ちて流れて行く 隙間もなく抱き合い… 欲望の限りで…愛し合い… 求め合う 足が吊りそうな程…開かされ 愛する男を咥え込み… 腰に足を巻き付け…その激しい動きに耐える 汗で…縋り着く腕が滑る… すると榊原は康太の指に… 自分の指を搦め…力強く…握り締めた 「一緒に……康太…」 限界が近づいていた… 康太の中の…榊原の欲望は…限界まで開き… ドクドクと脈を打ち その時を待っていた 「……一緒にイこ…伊織…一緒に…んっ!」 康太は榊原の腹に…熱い飛沫を飛び散らせた 榊原は最後の一滴まで… 総ての康太の中へ…流し込んだ 「…はぁ…はぁ…康太…まだ終われません」 榊原の激しい欲求に… 康太は気絶しそうだった… 激しい息づかいが部屋に響く 息も整わないうちに… 次の欲求に火が着き…始まる 榊原は抜く事なく、康太の中へ、欲望の総てを吐き出し 康太は…その熱を受け止めた 最後の方は…意識も飛び回り… 快感に翻弄された 喘ぎ過ぎて…声も枯れ… 精液も…出なくなり… それでも…イカされた 射精のない…絶頂 敏感になり過ぎて…毛穴から汗が吹き出す 終われない快感に…康太は意識を手放した ポタン…と、暖かな滴が頬に落ちてきて 康太は目を醒ました 「…気が付きましたか?」 康太が目を醒ますと…榊原は声をかけた 見渡すと…そこは浴槽の中だった 暖かなお湯の中で、康太は榊原の上に抱き締められて…浸かっていた 「…伊織…」 名前を呼ぶ声は掠れていた 「無理をさせましたね」 康太は首をふる 「欲しかったから…」 オレも同罪だと…榊原に抱き着いた すると優しいキスをされ… うっとりと康太は榊原に酔いしれた 「今日は会社の引っ越しですね」 「おう!楽しみだな」 「無茶しないで下さいね 君には僕達がいる……」 忘れないでね… と、康太の頬にキスを落とす そのキスを受け、康太は頷いた 「逆上せますからね、出ましょうか」 榊原は康太を促して浴槽から出ると バスタオルを出し、康太を包み込んだ 康太の滴を拭き取り…ドライヤーで乾かし 自分の体躯を拭く 康太が珍しくドライヤーを持つと、榊原の髪を乾かした 「乾かしてくれるのですか?」 「上手くはねぇけどな」 康太は笑って榊原の髪を乾かす 「奥さん、愛してます」 一生懸命に乾かしてくれる姿に… 愛しさが募る 康太は照れ臭そうに笑って… 「オレも愛してる」と答えた 一頻り…甘い時間を過ごし 支度をする 支度をしてしまえば… 甘い事など言ってられない現実があった 榊原は康太にスーツを着せて行く 何処へ出しても恥ずかしくない様に… 身支度を整る 康太の身支度を整えると、リビングのソファーまで、康太を抱き上げ連れて行く 何時もと変わらぬ…朝だった 榊原は自分の身支度を整えると、掃除に洗濯と、気のすむまで磨き上げるのに余念がない 「新居だし…」 綺麗にしなきゃ…と、言いかけて… 「夜景を見ながら…」 康太を抱くつもりだったのに…と口惜しく呟いた 夜景に溶け込む…康太はどんな顔を見せてくれるのか… 「楽しみでしたのに…」 でも、今朝方の康太も…激しく榊原を求め 「……素敵でしたよ。奥さん…」 満足気に呟き…微笑むと、何時もの掃除に専念した 新居のリビングのソファー座らせられ… 凭れかかっていると、一生が顔を出した 「お疲れじゃんか」 一生は楽しげに呟くと、康太の横に座った 「…まぁな。愛され疲れだ…」 しれっと応酬し、一生の方を向いた その顔は…もう甘い康太の顔ではなかった 「一生、やっと此処まで漕ぎ着けた」 放った駒を手中に還す…所まで漕ぎ着けた 一時は軌道から逸れて…危うい時もあった でも、やっと…此処まで来れた… 康太の口から…発せられた言葉に… 一生もしみじみと…軌跡を振り返る 「……あぁ…やっとな。 でも、まだ先は長い道程だぜ!」 その言葉を受け康太は嗤った 「礎…基礎が確りしてねぇとな…後が続けねぇかんな!」 屋台骨の基礎が確りしてない 何を建てても…その強度は…保てない 「何時でも良いぜ! 俺は準備万端!ネズミ一匹逃すかよ!」 一生はヤル気満々だった 「康太…」 掃除と洗濯が終わった榊原が声をかけてくると、康太は腕を伸ばした 榊原は康太を抱き上げると、一生に向き直った 「一生、行きますよ」 「おう!旦那、康太を疲れさせ過ぎやろ?」 「すみません…止まれなくて」 「捕り物の朝に…疲労困憊かよ…」 「大丈夫でしょ? 康太には僕がいる 君たちがいる 家族がいる……」 だから、心配するな…と言われれば… 口は挟めなかった 「旦那…切り返すの上手くなりすぎ…」 一生の小言に…榊原は笑った 「君達に鍛え上げられた結果でしょ?」 「う~ん…何か違うような気がする…」 「違いませんってば…さぁ行きますよ」 半ば強引に一生を引っ張って榊原は行く 一生は諦めて…榊原や康太と共に朝食を取りに行った

ともだちにシェアしよう!