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第9話 長い1日 ②

「宜しく御願い致します!」と 道明寺は康太に深々と頭を下げた 「なら、行くか!」 康太は立ち上がると、晃穂に並んだ 無言で歩き出す…戦士の姿が在った 道明寺は、その瞳に二人の姿を刻んだ 家を出て、駐車場へ出ると 道明寺は車の後部座席を開けた 晃穂は車に乗る前に、康太に 「その男、我が連れて行こう!」 と、言葉を投げ掛けた 一生は…水無瀬の背中を押した 水無瀬は晃穂の方へ歩いて行き、道明寺の車の後部座席に晃穂と共に乗り込んだ 「康太様、着いて来て下さい」 道明寺は車に乗り込む前に、康太へ言葉を掛けた 着いて来ると解っていて…声を掛けた 康太はその言葉を受け頷いた 康太が頷くのを確認すると、道明寺は車に乗り込んだ そして康太達が車に乗り込むのを待って 静かに車を…走らせた 道明寺は、地下駐車場ではなく、正面の来客用のスペースに車を停めた 晃穂と康太を想えば…正面切って停めるしかない 車を停め、ドアを開けて外に出ると、後部座席の晃穂のドアを開けた 榊原の車も、道明寺の横に滑り込み停車した 晃穂が水無瀬を連れて…車から降りると、康太を待った 康太が車から降りると、役者は揃った…とばかりに、晃穂は…その時を待っていた 康太は何も言わず、晃穂の横に立つと、社内へと歩き出した 受付を通さず、晃穂はズンズンと社内を歩いて行く 受け付け嬢は止めるのも忘れ…唖然とした 晃穂の顔は…知らない者はいない だけど…晃穂が連れている人間は… 明らかに…社内の人間ではない だが…問い質す前に…晃穂は何も言わせぬ強引さで…社内へと消え入った …………止めれる…者などいない程の覚悟が…誰一人、動かせずにいた エレベーターに乗り込み、最上階の社長室へと出向く エレベーターから降りると、晃穂は社長室の前へ行き…ドアを開けた 突然の…来訪者に… 社長室にいた…道明寺 豪は…何が起こったのか事態が飲み込めなかった 「親父…」 豪は父親を呼んだ 晃穂は社長室の中へ康太達を招き入れ、ソファーに座らせた そして自らも水無瀬と共にソファーに座った 「豪、陸人は大変な事を仕出かした!」 晃穂の一括に… 豪は、ソファーに座る人間に目をやった 「親父…此方の方々は…?」 顔だけなら…見知っている お知り合いには…絶対になりたくはない… 飛鳥井家の真贋の顔は…知っていた 康太は豪を射抜いた その鋭い視線を受け…豪は息を飲んだ 「飛鳥井…康太…」 その名を呼び上げる 何故…父親が…飛鳥井の人間と? 事態が読めない… 康太は名を呼ばれ、ふんっと鼻を鳴らした 「知ってんじゃねぇかよ!」 皮肉に嗤い、足を組んだ 晃穂は豪に「陸人を呼べ!」と命令した 豪は…言われるまま内線で陸人に社長室へ来るように命令した 秘書が茶托を来客の前に置いて行く お茶を出すと秘書は、その部屋から出ていった 暫くして…陸人が社長室へとやって来た ドアを開け…部屋の中へ入ろうとして… 晃穂の横の水無瀬に目が止まり… 正面に座る…飛鳥井康太に…目が止まった 総ては…終わりとなった…瞬間だった 陸人は…蒼白になり…立ち尽くした 「豪!陸人を此方へ」 晃穂の声が非情に響く 豪は陸人の腕を掴むと…晃穂の前へ差し出した 「陸人、何故…わしがおるか解るか?」 陸人は答えない 「何故、飛鳥井家真贋が居られるか解るか?」 逃げ道など…用意も出来ぬ…現実を突き付けられ 陸人は項垂れた 友と…言える水無瀬に… スパイを頼んだ 目の上のたんこぶ…飛鳥井建設を潰したかった 不景気な影を払拭出来ない建設業界で… 不景気を尻目に…業績を伸ばす…飛鳥井建設 潰せる…ネタが欲しかった そんな時…力を合わせて、飛鳥井建設を潰しませんか? と、言う夢のような話が舞い込んできた 宮瀬建設の社長が…声をかけて来た 佐々木建設の社長が…我等には外資の後押しもある と、魅力的な餌を散ら付かせた 外資も…飛鳥井は目障りだと言っている 協力し合うが得策 個人では出来ぬ事でも…協力し合えば知恵も膨らむ 組織で潰すには、容易い 容易い… そう唆され…一枚噛んだ 外資の強靭なバックアップがあれば… 出来ない事はない 社員を拉致して…成り済まし 社内の機密情報を盗み 潰して行く 造作もない事だと…宮瀬建設の社長は笑った 飛鳥井など、我等の手に寄れば…赤子の手を捻る様なものだ! と、高笑いした だから! 学生時代から…絶対の信頼のある水無瀬に… 頼んだ 水無瀬にしか…頼めなかった 水無瀬ならば…やってくれる…と信じていた その水無瀬が…晃穂の横にいる それの指す現実に… 敗北を知った 「陸人…」 晃穂に名を呼ばれ…陸人は覚悟を決めた 友を…売るような行為をした もう…友と…想ってくれはしないだろうが… もう…裏切りたくはない 「はい。」 「わしが来た意味を解っておるな!」 「解っております!」 「ならば!どう身を処す?」 「…!」 言われれば…重い 豪は…意味が解らず…道明寺に訳を尋ねた 道明寺は…事の経緯を簡潔に説明した 飛鳥井にスパイを送ったのは…紛れもない事実だから… 豪は…想わず…顔を覆った 飛鳥井… よりによって…飛鳥井…か 豪も同業者として…飛鳥井の家の事は知っていた 飛鳥井家真贋…の事も熟知していた 康太は退屈したかの様に欠伸をすると 「茶番劇なら…他所でやってくれ!」と言い捨てた 「眠くなる様な、言い訳は聞きたくねぇんだよ! 結果は1つ! 飛鳥井に仇成す輩を許しておく気はねぇんだよ!」 結果は1つ 事実も1つ どんな言い訳をしようとも 変わらぬ事実が突き付けられていた 「花菱建設は潰す!」 康太の言葉に… 晃穂は冷静に受け止め 豪は…何故…何故外部の者に…決められねばならぬ? 憤りを感じて…震えていた 陸人は…自分の仕出かした罪を…噛み締めた 「異存はねぇよな?」 康太が問い掛けると、晃穂は 「無論。」と返した 豪は「花菱の人間じゃない、貴方にそんな権限があるのですか!」 と、食って掛かった 「あるぜ!この会社の筆頭株主は、オレだからな!」 「え…?」 意味が解らぬ… 康太の意味が…豪には理解出来なかった 「筆頭株主?」 豪は、父親を見た 花菱建設の筆頭株主は…道明寺晃穂 決して筆頭の席を譲らなかったのではないのか? 父親の全権は…何時か…自分が受け継ぐのだと… 信じて疑わなかった だから…何故? と、混乱する 晃穂は豪に説明した 「わしが持っておる総ての株は、飛鳥井康太 彼へと譲渡する! お前等には…渡す気は一切ない。」 信じられない言葉か… 豪の上を…通り過ぎて行く 驚愕の瞳で…豪は父を見た 「親父殿は…総て飛鳥井康太に譲渡する気なのですか…?」 「そうじゃ!」 「この会社が…潰れても?」 「そうじゃ!」 信じられない… 潰す…と、宣言する人間に… 総てを委ねたと言うのか? 康太は「笑止!」と嗤った 「潰れるのは時間の問題じゃねぇかよ? 業績の悪化をデパートの融資で繋ぎ止めてる会社が、何言ってんだよ?」 現実を突き付けて解らせてやる… 「……この会社が潰れたら…路頭に迷う社員が出る!」 だから…潰せない! 豪は…康太を睨み…そう言った 「今の経営状態を続けたら…年内持てば良い方だ! だから、道明寺陸人は暴挙に出たんじゃねぇのかよ?」 康太は晃穂を射抜き 「頭に据えるべき器がねぇのに据えた… 道明寺晃穂、おめぇの責任だ!」と吐き捨てた 晃穂は「解っておる。」と返した 「倅は…経営者としての手腕はない 陸人も…人の上に立つ…器ではない」 それを一番解っていて…情に負けた 血を選んだ… 「晃穂…お前は良かれと想って倅を据えた だがな、そこは倅の天性の場所じゃねぇ 場所を違えば、本領は発揮出来ねぇ! 適材適所、配置するがオレの定め!」 豪も…陸人も、康太の言葉を静かに聞いていた 「最初から…間違っておったのか…」 晃穂は…己を悔やんだ 「花菱建設は潰す!異存はねぇな?」 康太はもう一度問い質した 豪は静かに頷いた 力量のなさは…誰よりも…知っている 陸人も頷いた もう…疲れていた 友人を…危ない目に合わせてまで、やる事ではなかった 後悔しかなかった…水無瀬にさせた… 友人まで…陥れた… 取り返しのつかない…現実 「花菱建設は事業停止して、廃業の道を辿って貰う」 康太の言葉に…豪は 「事業停止して建設は廃業…ですか?」と聞き返した 「倒産したかった?」 康太は笑って問い返した 豪は慌てて…滅相もない…と首をふった 「事業停止して、一度清算する」 晃穂は黙って聞いていた 陸人は…自分がしでかした事だけど… 何故…会社が事業停止に追い込まれなければならないのか…? 理解が出来なかった 「何故!今回の主犯者は私だ! 処分されるは私のみで、構わない筈…」 「悪りぃな!もう決めた事だ! もう他の道はねぇんだよ!」 決定事項の様に言われ…陸人は言葉をなくした 「この会社を処分して債務に回しても…厳しいな…」 康太は…潰した後を算段する 既に先を行く康太に…もう何も言えなかった 「わしの土地家屋、それらを入れて足りなければ…譲渡した株も当てて下され!」 晃穂は…最初からそのつもりだった 「株はデパートへ回してぇかんな使うつもりはねぇんだよ!」 一蹴され、晃穂は押し黙った 「一生」 「おう!」 「聡一郎へ晃穂の家のデーターを送って幾らで売れそうか調べさせろ! 後、花菱建設で売れそうな物件もな!」 「了解。」 一生は鞄からPCを取り出すとキーボードを叩き始めた 「慎一」 「はい。」 「東青を呼べ」 「解りました。」 慎一は席を外し、天宮に連絡を入れに行った 「伊織 」 「何ですか?」 「若旦那に康太くんが困ってるの!…と連絡を入れてくれ」 「………解りました。」 榊原はトナミ海運へ連絡を入れ、戸浪海里に電話を変わって貰うと 「若旦那、榊原伊織です」 『どうなさいました?』 「康太からの伝言を預かっております!」 『お聞き致します』 「康太くんが困ってるの!」 …………と、そのまま…伝えた 戸浪は『…はぁ?』と返答に窮した 「…康太が申したまま…伝えたのですが…」 『康太が、そう言ったのですか?』 「そうです。」 『かなり楽しい事をなさってるみたいですね 私はどちらへ出向けば、その楽しい康太を見れますか?』 「花菱建設…で、御目にかかれます」 『そんな直ぐ側で、そんな楽しい事をなさってたのですか? では、直ぐに参ります。』 戸浪は電話を切った 「……直ぐ参られるそうです。」 榊原は…良くもまぁ…あれで伝わったもんだ…と、呆れ、康太へ繋いだ 「そうか。」 クスクス笑って…榊原を見ていた 「僕に…あの台詞を言わせたかったのですか?」 「一度、康太くんって言われて見たかった」 冗談めかして康太が笑う そんな顔されたら… 榊原は何も言えなくなってしまう 暫くして、戸浪海里が駆け付けた 天宮を出迎える為に、外に出ていた慎一が戸浪を見付けて、深々と頭を下げた 「若旦那、康太に?」 慎一の問い掛けに戸浪は、楽しげに 「そう。康太くんに。」と返した 慎一は戸浪を康太のいる部屋へと案内して、天宮を待つため外へと出て行った 「康太くん♪」 戸浪は楽しそうに康太に近付き、ソファーに座った 「私を呼んだのは、昼食のお誘いではないみたいだね」 「今日は長げぇ1日になるかんな、昼食は今度にしてくれ」 足を組み、戦闘体勢になっている康太を見れば… 容易な事ではないのが解る 「ならば、何故、私を?」 「康太くんが困ってるの…って言わなかったか?」 「お聞きしましたとも♪」 「困ってんだよ!オレは!」 「何…を、ですか?」 戸浪は皆目見当がつかない 「この会社の家屋、道明寺晃穂の自宅 道明寺の自宅も抵当に入れても…債務の返済が出来るか…定かじゃねぇ」 「だから、足らない分を私に払え?と?」 「違げぇよ!足らねぇなら瑛兄にでも泣きつけば…出すかんな」 「なら、何故?」 「海運のおめぇじゃねぇと、ダメだから呼んだんじゃねぇかよ!」 話が…見えて来ない 「出資をしてもらいてぇんだ!」 「出資…ですか?」 「おう!」 「私が出資するのは容易い… トナミ海運が出資するにはそれ相応の…材料が要る どちらに…出資の依頼をされてるのですか?」 答えは解っていて…戸浪は問い質した 「海運のおめぇに決まってんじゃんか!」 「ならば、私を呼んだ材料を提示してください!」 「まぁ待て。色々と説明しねぇとならねぇかんな!」 「ならば貴方を抱き締めさせて下さい」 「それは何時だって構わねぇぜ!」 戸浪は康太を抱き上げると、膝の上に乗せた また…軽くなった この人は…どれだけ自分を酷使して… 生きているのだろう… 「康太、君の為ならば…私はどんな無理だってお聞きしますよ」 「そうか?」 戸浪海里としては… どんな無理だって聞き入れたい 康太が、望むなら… トナミ海運としては…そうはいかない その苦悩に…戸浪は康太を抱き締めた トナミ海運社長 戸浪海里を意図も簡単に呼び出し… 戸浪はやって来た 道明寺は先の現実を想って…戦いていた 晃穂は康太の人脈は角界へ繋がり、わしより広い… と、孫を語る源右衛門の言葉を思い出していた 豪は…歯車は既に回ってしまっている もう引き返せはしないのだ… と、肌で感じていた 陸人も…目の前で繰り広げられている現実に 引き返せない現実を知り…水無瀬を見た すまない… 学生時代から…常に水無瀬は自分をサポートし続けてくれた 当たり前に側にいたから…その大切さや… 無償の友情を当たり前に感じていた 辛い仕事をさせた… 陸人は…友を見ていた そんな気持ちを汲んでか… 水無瀬は静かに微笑んでいた 暫くして天宮が到着して 康太は戸浪の膝から降りた 「康太、御待たせ致しました!」 天宮は康太に深々と頭を下げた 「何時も突然で悪りぃな!」 「いいえ。私は貴方の為に在る存在 呼ばれれば地球の裏でも馳せ参じます」 康太はその言葉に笑い 「東青 」と名を呼んだ 天宮は自分の来た意味を康太に告げる 「さぁ、貴方の想いのままに…仕事を完遂しようではありませんか!」 それを受けて康太はソファーに座った 「康太、用件は?」 「花菱建設は事業停止して…廃業の道を辿る 債務を精算して、リセットしたら花菱デパートの傘下の会社を立ち上げる!」 「事業停止や廃業の手続きを、私がして構わないのですか?」 企業には顧問弁護士が必ずいる その弁護士を差し置いて… 自分がその手続きをしても良いのかと… 天宮は康太に問い質した 「構わねぇ!東青がやってくれ! この会社の顧問弁護士に任せたら…生き残る策ばかり思案しやがる! 無能な悪知恵ばかり入れ込んで…債務超過の後は宮瀬建設が買い取る算段だろうからな、任せられねぇだろ?」 天宮は…成る程!と納得した 「花菱建設の社員一人、路頭に迷わす事なくカタを着けねぇとな!」 でねぇと、哀れな人間が増えるだけだ 康太の言葉に…豪は、己の無能さを知った 「晃穂!」 康太が呼ぶと晃穂は立ち上がり、深々と頭を下げた 「貴殿に…総て任せて本当に申し訳ない」 「晃穂、おめぇは、あの家を出ろ!」 「解っておる!覚悟はとうに出来ておる」 「一生、源右衛門を連れて来てくれ!」 「あいよ!」 一生が立ち上がると、榊原は懐から財布を出し一万円を取り出し一生へ渡した 一生は受け取ると、社長室を出て行った 「晃穂、おめぇの話は源右衛門が来てからな!」 何故…源右衛門を? 晃穂には解らなかった 「豪、陸人!」 二人は…康太に呼ばれ、立ち上がった 「豪、おめぇは花菱建設を潰すんだ! 肝に命じておけ!」 父親の作りし会社を潰す 肝に命じて…重さを知れ 康太の言葉を真っ正面から受け止め、豪は姿勢を正した 「はい!肝に命じて…忘れは致しません」 「陸人!」 「はい!」 「愚かで浅はかだな、おめぇは!」 痛烈な言葉を陸人に投げ掛ける 「おめぇは友すら道具にしか想ってねぇ… 愚か者だ!」 その言葉は…重い 陸人は苦し気に…目を顰めた 「陸人 」 「はい。」 「この世で一番の宝は何か知ってるか?」 この世で一番の宝? 何故…今 そんな質問を? 陸人は答えられなかった 「んな事も解らねぇ程、腐っちまってるとはな…」 康太は呆れて…呟いた 「この世で一番の宝はな、友と呼べる存在だろうか!」 陸人は康太を見た 「共に生きて来た…人間を裏切るな!」 陸人の視界が歪む 頬を熱い滴が流れて落ちた 「人は縁を結わえて生きてんだよ! 結わえた縁は、先へと繋がる 人はそうして生きて行く 己の為に身を捨ててくれる奴は、裏切っちゃいけねぇ だから、おめぇは先へは行けねぇんだよ! 解るか?陸人?」 「……っ…ぅっ…」 嗚咽が…漏れて喋れない 自分のしでかした…罪を知る 自分はなんと言う…愚かな生き物だったんだ 自ら宝を手離した 悔やんでも…足らない後悔が押し寄せてくる 「陸人」 「は…い」 「まだやり直せるなら、そこから始めれば良い」 「はっ…始め…れますでしようか?」 「始めれるだろ?おめぇは気付いたんだからよぉ」 康太は立ち上がり、自分よりデカいなりした陸人の背中を撫でてやった 「んな、でけぇ成りして泣くな!」 陸人は、すみません…とズズっと鼻をすすった 康太は陸人の背中をポンポンと叩くと、皆に向き直った 「さてと、明確なビジョンを示すとするか!」 康太はそう言いソファーに座った 「道明寺、待たせたな!」 道明寺は…傲慢な兄の泣く姿に…唖然と成りつつ… 「いえ…」と答えるので精一杯だった 足を組み、何時もの慇懃無礼な態度で待ち構える 「東青、頃合いだな! 進めるか?」 「はい。」 「花菱建設は廃業は確実!」 康太は言い捨てた 天宮は「今 請け負っている仕事は如何致しますか?」と廃業を視野に入れた算段の障害を述べる 「今の仕事は宮瀬か佐々木の下請けみてぇなもんだろ? 廃業を伝えて手を引けば親元がやるが必然 なんも困りはしねぇだろ?」 「解りました。 総ての手筈が整いましたら、向こうにそう伝達致します」 天宮はPCから目を離す事なく康太に問いかけ 処理をして行く 「廃業した後は、どう致しますか?」 「花菱デパートの系列のイベント会社を立ち上げる!」 「そこの代表取締役は?」 「オレしかねぇだろ?」 「解りました。」 「蓮に晃穂の株を総て任せて、花菱デパートの筆頭株主になる! 誰にも何も言わせねぇ株主の出来上がりだ 道明寺の息子が社長になるまでは、オレは筆頭株主に名を連ねて、道明寺の息子に譲り渡す それがオレの定め! 花菱は確実に生き残る事となる!」 道明寺達也は…独身だった なのに…息子…と言われ 道明寺は躊躇した 康太は道明寺の顔を見て笑った 「道明寺、んな顔すんな!」 どんな顔かは…解らないが… 多分情けない顔で康太を見ているのは、想像が着いた 「康太様…」 「道明寺、おめぇは花菱の頂点に立て!」 「…っ!」 言葉を飲む その言葉の重さに…言葉が繋げられなかった 「花菱Lozengeとして自社ブランドを立ち上げる 花菱Lozengeは芸能事務所と提携して最先端のファッションブランドを発信して行く!」 既に出来上がっている康太の構想に… 頭も言葉もついて行かない 「ファッションショーはデパートの中でする デパートのメンテナンスや、テナントの工事、イベントの作成は花菱の傘下に加わる新しい会社でやる! これで、失業者は出ねぇし、一挙両得って事だ!」 晃穂は…そこまでのビジョンを出していたのか… と、康太の…力に驚愕を覚えた 「傘下の会社の名前は『花菱組』 それで、花菱は残る! そこから初めて行けば良い!」 康太の想いの深さに… 晃穂は涙を飲み込んだ… 晃穂が起業した会社だった 元々は呉服屋の親の会社を基盤にした 妻がデパートを、晃穂が建設会社を 立ち上げて…軌道に乗せた 総て…跡形もなく消えるのは…やむ得ないと想っていた だけど…未練は残る… 想いも残る… それらを汲んで…康太は采配してくれた この上ない…温情を踏まえて…採決を出してくれた 晃穂は…康太に…頭を下げた もう下がらない所まで… 頭を下げ…詫びた 「花菱デパートの代表取締役は道明寺達也 花菱Lozengeの代表取締役と花菱組の代表取締役は飛鳥井康太 それで、異議はねぇな!」 豪は…頷いた 陸人も「はい!」と賛同した 「オレの名代は道明寺陸人、てめぇがやれ!」 「えっ?」 陸人は…信じられない言葉を耳にして… 康太を見た 「…私で……宜しいのですか?」 「お前はあくまでも代理だ! 決定権も実験もねぇ、おめぇはやるしかねぇんだよ」 信じられない言葉だった… 「はい。解りました」 そして更に信じられない言葉を… 康太は続けた 「水無瀬 」 「はい。」 「おめぇは陸人の監視をしろ!」 「え…?」 水無瀬は…まさかの言葉に…康太を見た 「今度は違えるな! 行く道を違えれば、その道はもう二度と重ならねぇ! 共倒れじゃなく、矯正してこそ正しい道へと続く!」 「……はい。二度と違えはしません!」 肝に命じて、言葉を繋ぐ 「道明寺 豪!」 「はい。」 「おめぇは『花菱組』現場の責任者となれ! おめぇはデスクに胡座をかくタイプじゃねぇ おめぇは造るが天性! 現場に出れば、その才覚は発揮する! 誰よりも素晴らしい現場を作る責任者となり…名を残す!」 建物に興味があった 建造物に興味があった ………人の上に立つ器でない事は… 誰よりも己が解っていた 「って事で一件落着で良いか?」 晃穂を見て康太は言葉にする 「……潰されて息の根を止められても… 文句は言えぬ… 飛鳥井に刃を向けたのだからな…覚悟はしておった なのに…」 後は…言葉にはならなかった 厳格な道明寺晃穂が…顔を覆って… 涙していた そんな父の姿は…豪は目にした事など… 一度もなかった 陸人も…道明寺も… 晃穂は…厳格でその姿勢を崩す時が来るなど… 思っていなかった その姿は…哀れな老人に見えた 大きな背中は…誰よりも小さく見えた 厳格な…越えられぬ存在が… 小さく… 儚げに見えた 豪は…その父の姿に… 嗚咽を漏らし…涙した 苦しめた 父を苦しめた 無能な自分の所為で…父を追い詰めた 静まり返った部屋に、下駄のけたたましい音が鳴り響いた 飛鳥井源右衛門が社長室に当然の顔をして入ってきた 威風堂々とした面持ちで…変わらぬ姿をした 源右衛門が、そこにいた 一生は源右衛門の横に並んで立っていた 康太は一生を見ると笑った 「お役目ご苦労だったな一生」 「早く行こう言ってるのによぉ! 源右衛門の支度は長げぇのな! んとによぉ!」 御祓をして、正装に整える源右衛門に… 一生は手を焼き…早くしろ!と、せっついて連れてきた 源右衛門は、そんな一生を笑い飛ばした 「若いのはせっかちで落ち着きがなく困る!」 源右衛門に返されて…一生は唇を尖らせた 「康太が待ってるって言ってるのによぉ」 康太は一生の手を引っ張るとソファーに座らせた 「拗ねるな一生」 抱き締めて…労う 絶対の関係が…そこに在った 康太は源右衛門に顔を向け 「悪かったな、じぃちゃん!」 と、労った 「わしを呼んだ用件を聞くとするか!」 源右衛門は晃穂の横に腰を下ろすと 「久しいな友よ!」と友へと挨拶した 「源右衛門…」 涙で濡れた瞳を源右衛門に向け… 「ご無沙汰しておった…」 晃穂も友へと挨拶をした 「じぃちゃん、道明寺晃穂を鎌倉に連れてってくれ!」 源右衛門は苦笑した 「そんな事だろうと想ったわい!」 「悪りぃな、じぃちゃん 土地家屋は処分する…すると住む場所がねぇかんな… じぃちゃんの旧友に、そんな扱いは出来ねぇだろ?」 「ならば!厳正に預けて来るとするか。」 源右衛門は笑った 「我は飛鳥井から離れる気はない! なれば…厳正に預けるしかあるまい」 「海坊主に…恨まれそうだな… なぁ…弥勒…」 康太は天を仰ぎ…呟いた 『親父殿の事など…気にするでない』 弥勒は意図も簡単に…切り捨てた 「恨まれても…事態は変わらねぇしな… 厳正に…道明寺晃穂が行くと伝えておいてくれ」 『承知した。』 天から響く声に…晃穂は…底知れぬ力を感じ取っていた 「なれば、じぃちゃん! 後は頼んだ!」 「では、行くとしようぞ! 車はどうする?この年寄りに歩かせる気か?」 「豪がじぃちゃん達を送るかんな! 事後処理はこっちでやる! お前は鎌倉まで晃穂と源右衛門を乗せて行け!」 康太の言葉に…豪は立ち上がり 「宜しくお願い申し上げます!」と頭下げた 豪は、父親の晃穂と源右衛門を連れだって、社長室を後にした 康太は陸人に向き直ると、挑発的な瞳を向けた 「メインPCは何処にあんだよ?」 「メインPC? 会社のですか?」 「会社のデーターを束ねてるPCしかねぇだろ?」 陸人はメインPCの場所を知らなかった 水無瀬が立ち上がると 「メインPCは経理部に置いて御座います」と告げた 「経理部?…それって、んとにメインPCなんかよ?」 普通は…経理部には置かない そんな無防備なことをすれば…乗っ取られてしまう 「はい。宮瀬建設の方がお越しになって設置して行きました」 康太は…そう来たか… と、吐き捨てた 「連れて行け!」 水無瀬に命令すると、水無瀬は「此方へ」と康太を案内した 経理部に出向き、康太は…メインPCを解体始めた 「総てのPCを、シフトダウンさせろ! シフトダウンしたらコンセントを抜け!」 康太の命令を受け 陸人は各部署へと伝令を飛ばした 康太は…自分のPCを取り出すとインカムを着け 剣持陽人に連絡を入れた 「陽人、事情は総て送られて来てるか?」 『はい。追撃可能です。』 「ならば追ってくれ! そして、総て破壊して来てくれ!」 『造作もない。完了したら転送致します』 剣持は用件だけ告げると連絡を断った 「夏生、出れるか?」 『はい。僕は何時でも君の影として動けます。』 「ならば!行け!」 康太は指示を出すと、インカムを外した 「花菱建設の内情は…宮瀬と佐々木の傀儡だな…こりゃ」 水無瀬は…まさか…と声にはならない呟きを漏らした 「食い散らかされて…飛鳥井を潰す矢面に立たされ… 火の粉がかからぬ様に…捨て駒にされた」 陸人は…自分の仕出かした事の重大さに…言葉を失った 天宮が総ての書類を作成すると、立ち上がった 「康太、事業停止と廃業は本日手続きに掛かります」 「頼むな東青」 「はい。抜かりなく!」 天宮はそう言うと、退席して帰っていった 康太はメインPCを破壊してバラバラにすると 陸人に「社員を一旦帰らせろ!」と、指示を出した 「はい。解りました。」 そう告げて出て行こうとする陸人に 「此れより、この会社は無人と科す!」 伝令しろと告げた メインPCを壊され仕事が出来ない社員を置いておいても仕方がない 陸人は、庶務室に向かい、康太の言葉を寸分違わず告げて伝令を出した 社員を帰宅させ、会社に誰も残ってないか… 警備員に確認に行かせた 康太や一生の手によって、各部署を確認すると施錠した 総ての作業を行うと、康太は社長室に戻った 「さてと、道明寺、近いうちに時間を作れ!」 道明寺は慌ててふられて… 「はい!」と返答した 「力哉が相賀や須賀とスケジュールを、合わせてる筈だ ブランドの立ち上げは近日中 傘下の会社も近日中に立ち上げる この会社は売却する 新しい会社は此方で手配する それまでは動いてもらう宿題もある 動けるな?」 「はい。花菱デパートが生き残れるのでしたら…私は何でも致します!」 「まぁ待て。そんなに無理難題言わねぇよ」 康太は笑った 「陸人と水無瀬を使って内部調査をしろ! 宮瀬と佐々木の息の掛かっている奴は…切れ! メインPCを遮断した以上は向こうは何らかのアポイントを取ろうと躍起になる それら総て無視しろ!良いな!」 「はい。解っております。」 「そこで、若旦那の登場だ!」 康太は、やっと、戸浪を呼んだ真相を明かした 「トナミ開運に専属契約してもらって海外の輸入や輸出は総てトナミから発信して行く」 戸浪は…えっ?と驚愕の瞳を康太に向けた 「海外も視野に入れて戦略を組む! 物流は若旦那の専門分野だろ? 立ち上げた暁には改めて、契約の席に着かせてくれ!」 康太が頭を下げる 戸浪は慌てて…それを遮った 「止して下さい!」 「お前個人じゃねぇ、会社に向けての依頼だかんな」 「正式に通してくだされば、契約の席をご用意致します!」 「なら安心だ!」 康太は笑った 「で、此処からが本来の呼んだ用件だ!」 「何ですか?飲める話なら飲みます」 飲めぬ用件なら断ると、暗に匂わせる 「不景気だかんな、大量生産してコストを下げて尚且つ、品質やブランドの質の良さを確立する! それには…大量の荷物を捌ける物流が必要なんだよ!」 やっと、康太が自分を呼んだ…意味が見えてきた 「それには大量の荷物を保管出来る物流倉庫がなければ…無理ですね! 倉庫に大量のブランドを確保して世界に発信出来る。 その様な会社は…数少ないでしょうね…」 「だろ?だから康太くんが困ってんだよ」 「解りました。会社に持ち帰り…在庫調整をかけます。」 「若旦那、悪かったな!」 「いいえ。貴方と過ごせる時間は有意義なものだ! 何よりも私は…優先致しますよ」 「今度、食事しような!」 「はい。お待ちしております」 「ならば、用件は終わりだ オレは次へ行く!」 康太はそう言うと立ち上がった 戸浪は「宮瀬と佐々木にお出でになられるのですか?」と問い掛けた 「おう!長げぇ1日は、まだ終わらねぇよ」 「困った事がありましたら… 私も何かの役に立ちます故、お呼びください」 「仕事にならねぇじゃねぇかよ」 「それでも!私は貴方の役に立ちたい!」 「なら、何かあったらな…呼ぶかんな!」 「ええ。絶対にですよ?」 「あぁ。絶対に、呼ぶ」 康太は立ち上がると…出口に向かった 道明寺は…康太にどう言葉をかけて良いか… 解らなかった… それ程の…康太の想いに… 道明寺は深々と頭を下げた 康太は立ち尽くす、道明寺の肩をポンッと叩くと 社長室を出て行った 駐車場へと出て車に乗り込むと… 康太のお腹の虫が…グゥ~と鳴った 榊原が「お昼を取ってからにしますか?」と訪ねると、康太は頷いた 榊原は車を走らせ…近くのファミレスを、見つけると駐車場へと入り車を停めた 車から降り…ウキウキとした足取りでファミレスの店内へと入って行く 席に案内されメニューを渡されると、康太はメニューに釘付けになった う~ん う~ん 唸りながら…何にしようか…思案する 「迷ってますか?」 「おう!食いてぇもんが沢山有って…決まらねぇ」 「時間がないのでお昼のランチセットにしませんか?」 榊原が指差す ランチセット 全員一緒だと…早くテーブルに運ばれる 解っているが… 康太は…それで良い…と、言いながら 恨みがましい瞳を榊原に向けた 榊原は…その瞳に…ウッ!となった 上目遣いで見詰める康太は…狂暴な程に可愛い 一生が聞いたら『それは旦那だけだ!!』と言いそうな台詞だが… 榊原はその瞳を見れば…押し倒したい程だった 一生はウェイターを呼び出しランチのオーダーを入れる 榊原は「総て終われば…君の好きなのを食べさせてあげます。」と甘い約束をした 「なら、早く片付けねぇとな♪」 康太は楽しそうにそう言い、笑顔を向けた 一筋縄で行く筈などないのは…解っていた 長い1日は… まだまだ終わらないのを…痛感していた ランチのセットがテーブルに運ばれセッティングされると、康太は黙々と食べ始めた 腹拵えをしておかねば…次は何時食べれるか解らない 榊原も一生も慎一も…黙々と食事をしていた 今…話せる楽しい話なんか…ないから 食事を終えると、食後の珈琲を頼み 暫し休息を取ると 「さてと、行くとするか!」と康太が立ち上がった 榊原は伝票を持つと支払いに向かい 康太は一生と慎一と店の外へと、出た 車の前で榊原を待つ 支払いを済ませて車に戻ってくるのを確かめて 康太は助手席に乗り込んだ 一生も慎一も車に乗り込み 榊原は車を走らせた 「何処へ行けば良いのですか?」 駐車場を出る前に榊原は康太に問い掛けた 「宮瀬建設」 康太がそう告げると… 榊原は左へと…ハンドルを切った

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