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第12話 地鎮祭 ①

地鎮祭の朝 康太は御祓をする為に、弥勒の道場へと向かった 飛鳥井の家は解体してる最中で、道場も使える状態ではなかった その為、弥勒の道場を借り御祓をする事となった 慎一が弥勒の道場まで、康太を乗せ車を走らせる 御祓の前の康太は何も話さない 目を瞑り…精神統一に余念がない 慎一は一言も言葉を発する事なく、康太を送る 車の中には静かな音楽を流し 康太の気を散らせない様に心掛けた 弥勒の家の駐車場まで行くと、弥勒が出迎えいた 「康太、準備万端、御祓をしてくるが良い!」 康太は弥勒の言葉を聞き、頷いた 慎一は、地鎮祭の時の狩衣の衣装を康太に渡した 何も言わずそれを受け取ると、道場へと向かった その背中は凛として、一片の迷いも見られなかった 弥勒は慎一を道場へと招き入れ 「適当に座っててくれ」と言った 慎一は道場の隅に適当に座り正座をした 主が来るまで、静かに待つ そんな慎一にお茶を淹れて手渡した 「戴きます。」 慎一はお茶を受け取り、口を付けた 「最近の康太はどうよ?」 弥勒が慎一に問い掛ける 「俺に聞かれるよりも、貴方の方がご存知なのではないですか?」 慎一は康太と覇道を繋いでいる弥勒に、そう返した 「側で見てる訳じゃねぇし…そんなに四六時中見てねぇぜ!」 失礼な…と苦笑して弥勒は返した 「康太は…何かを秘めてます…」 最近の康太は…無口で…あまり喋らない 何かを秘めて…苦悩しているのが解る 「やっぱりか…」 「それも、今日 カタが着くと想いますよ」 「何故…そう想う?」 「康太が総ては地鎮祭の後…と、言葉を残してます 地鎮祭の後に…伊織が部屋を取ってました それで…何かあるのかと…」 慎一は鋭い洞察力を康太の異変を嗅ぎ取る 弥勒は…何も言わず… 考え込み… 「流石…康太に仕えし者だ…」 と慎一に言葉を贈った 暫くして、御祓を終えた康太が、狩衣の衣装で道場へ戻ってきた 「それでは、行きますか?」 康太が頷くと、慎一は立ち上がった 「弥勒さん、後少ししたら一生が来ると想うので、お待ちください」 慎一はそう言い弥勒に深々と頭を下げた 弥勒は「なら待とう!」と言い立ち上がろうともしなかったな 「ではな、康太 地鎮祭の会場でな!」 弥勒が言葉を投げ掛ける 康太は唇の端を吊り上げ嗤って、片手を上げた そして、スタスタと歩き出す 慎一は康太より早く道場を出て、駐車場まで行くと車の後部座席のドアを開けて待った 康太が車に乗り込むと、ドアを閉め 運転席に乗り込み、慎一は地鎮祭の会場へと向かった 弥勒はそれを道場に座ったまま感じていた 「康太…お主…総てを告げる覚悟か…」 そう呟いて… 目を瞑った 願わくば… もう炎帝から…なにも奪う事がありません様に… 弥勒は…神に祈った 康太… 蒼い龍を失っては生きては行けぬではないか… なのに…総てを話すと言うのか… 総てを話した時… お主は… 弥勒は…道場から跡形もなく…消えた 一生が弥勒の道場へと行くと… 弥勒の姿は… 何処にもなかった 「あれ?弥勒?」 何処を探しても… 弥勒の姿は見付けられなかった 康太は地鎮祭の会場へとやって来た そこには既に榊原や戸浪海里、兵藤貴史の姿も見えた 三木も安曇も蔵持善之助もいた 飛鳥井蓮 樋口陵介 釼持陽人 の姿も在った 人知れず…固まる集団 飛鳥井康太の円卓の騎士… それらが集結していた 当たり前と言えば…当たり前なのだろうが… 会場に緊張感が増していたのは…この存在も手伝っていたのは間違いない 康太に所縁の在る人物は総て、トナミ海運の地鎮祭に集結していた 神野晟雅が一条隼人を連れて来ていた 隼人の横には秋月巽の姿もあった 榊原の両親も…兄の笙も来ていた 地鎮祭の会場に… 気配を消す様に座っていた… 飛鳥井蓮 樋口陵介 釼持陽人 の横に 銀髪の長い髪をした長身で、目鼻立ちの整った、一見 外人に見える人物がいた その人物が…康太を見かけるなり 立ち上がり…康太の側へとやって来た 「康太…!」 名を呼ぶ 懐かしそうに… 康太の名を呼ぶ まるで…白鳥の様に… 天使のように軽やかに… その人物は…康太へ近寄る 康太はその人物を見て笑った 親しい人にしか見せない…あの笑顔で… 康太は笑っていた 榊原が康太の側へと行く 康太は榊原を見詰め 「 夏生 」 と呼んだ 榊原は…夏生…と呼ばれた人物を凝視した 夏生… 室生夏生… 少し前に聞いた…名前だった 夏生と呼ばれた人物は、康太の横に立つと 榊原に頭を下げた 「室生夏生と申します」 礼儀正しく、榊原に自己紹介をする その声も… まるで…白鳥の様に… 天使のように… 綺麗な音色を奏でていた 失礼かと想ったが… 榊原は夏生を…まじまじと見た そして…気が付いた 「あっ!炎帝の…」 白鳥…とは言えなかった 康太は笑って…人気のない場所へと移った 誰も来ない場所へと席を移す 誰も来れない様に… 慎一が… それを守る 康太は、榊原を見て 「解ったか?」 と、問い質した 「ええ。その姿カタチは人ですけどね その魂は…紛れもなく… 炎帝の横にいた…白鳥…ですよね?」 榊原が言いづらそうに言うのを 康太は笑って聞いていた 「永らくの転生に…堪えきれず人の世に堕ちた…」 「…炎帝がお連れしていた時から想っておりましたが… 白鳥の中に… 何を入れておいでなのですか…?」 銀色の…妖炎を撒き散らす…白鳥なんて見たことなんかない… 今も…夏生の体躯からは…銀色の神聖なる妖炎が立ち上がっていた 「去年のX'masに天魔戦争の話をしたよな?」 去年のX'masに…康太の前に舞い降りた7枚羽の天使 その時に…天使と康太の会話を思い出した 昔…人の世も出来る前 天国と魔界は1つだった 互いに侵略し合い…潰し合い… 10000年続く戦争で…天界と魔界は…引き剥がされ…天使は天空に 魔界の神々は地へと落とされた 10000年続く戦争で、天使の殆どが死に絶え壊滅的なダメージを受けた 魔界に住む神々も…古来の神々と融合するしか…存続が危うく どちらも潰し合いで…多くの神と天使が…消滅した 神は…愚かな闘いを…恥じろ!と激怒して 大地を引き裂いた 天界と魔界の間に…人を造り…人間界が出来た 人間界が出来た事によって… 天界と魔界は行き来が出来なくなった たった一人の… 堕天使が仕掛けた… 戦争だった 堕天使ルシファー 魔界の地に降り立つ堕天使が… 天界と魔界を闘わせ… 10000年続く闘いを勃発させた たった一人の…堕天使が… 仕掛けた闘いだった 「はい。覚えております。」   「  夏生の中には…  10000年続く闘いを仕向けた  堕天使の欠片が入ってんだよ!」                 え? 榊原は…耳を疑った 堕天使…ルシファー? 青龍が…物心つく頃には… 天魔戦争の事など… 忌まわしい事だと… 忘れ去られようとしていて 知らなかった 青龍は…遥か昔に行われた… 闘いなど… 知らずに育っていた 榊原は…唖然としていた それでも構う事なく 康太は言葉を続けた 「炎帝である俺が産まれた時も… 天魔戦争なんて、聞いちゃいねぇけどな…」 うちは古い臭いカビが生えた様な古来の神だからな… 康太が口癖の様に言う 炎帝の父は建御雷神 雷を神格化した神だった 母は天照大神 雷帝は父の、炎帝は母の力を継いで生まれし存在だった 「崑崙山に、父 建御雷神と一緒に出向いた時に…光輝く一条の光を貰い受けた」 康太は意図も簡単に…言ってのけた 「崑崙山の八仙が…宝の持ち腐れにするではないぞ…って言うからな スワンの中に閉じ込めた オレには必要ねぇ力だ こいつにも必要ねぇ…存在だ ならばオレが持ち…出る事なく封印した それが…人の世に堕ちた… 室生夏生だ…」 康太の影 康太の頭脳 炎帝の時から側にいた存在だ 康太の思いのままに動くのは容易いだろう 榊原は夏生の前へ行くと 「榊原伊織です。」 と言い右手を差し出した 夏生はその手を取り 「1000年ぶりで御座いますね」 と、榊原を懐かしんだ 人に堕ち、転生を繰り返した もう…1000年も経つのか… しみじみ感慨深く思い出す 白鳥は何時も炎帝の側にいた 炎帝の側にいて 炎帝と青龍がまぐわう所を見ていた… そして何時も炎帝に冷たくすると… 白鳥は嘴で…青龍を突っついたのだ 白鳥の嘴の威力はかなり強くて…痛かった 白鳥は全身で炎帝を守ろうとしていた 「そう言えば…君は見てましたよね?」 榊原は意地悪く嗤って、夏生に問い掛けた 「ええ。見てましたよ 青龍の傍若無人な扱いを…」 「君からの嘴攻撃はかなり痛かったですよ?」 「突き刺してやろうかと想ってました 炎帝が泣くので…やりませんけど」 炎帝は傷付いて…今にも死にそうな程弱って、青龍の家の前の湖にいた白鳥を拾い上げ…介抱した 家に持ち帰り、傷の手当てをして… 崑崙山から持ち帰った欠片を白鳥の体内に挿れた 死にかけていた白鳥は… 崑崙山から持ち帰った欠片を吸い込み 回復した 崑崙山の八仙は言った 『この欠片はこの世に在ってはならぬ だが哀しき魂の欠片を…消滅させるのは忍びない…10000年変わらぬ輝きを魅せている この輝きは変わらぬ…お主に託そうぞ! お主なら…どう使うか…我等に見せてくれ お前の魂の真髄を…見させてもうよ』 康太は ふんっと鼻で嗤い 「宝の持ち腐れにするなってか?」 『お主なら…本来の所へ導ける』 「オレはその為に…この世に在るからな!」 八仙は何も言わず…深々と頭を下げた そんな経緯を経て手にした一条の光を 炎帝は意図も簡単に…白鳥の中に閉じ込めた それ以来、白鳥は炎帝の側を離れる事なく生きてきた 炎帝が…人の世に堕ちるまでは… 人の世に堕ちた主を1000年待った だけど…もう限界だった 逢いたいよぉ…炎帝 その想いが募り… 元気をなくし…今にも死にそうだった 世話をしていた雷帝が… 困り果て… 『 行くがよい。お前の主の所へ行かせてやろう。』 雷帝はそう言い、康太と同じ時代に白鳥を堕とした 人の世に転生し、人に産まれた だが…夏生はもって産まれた天性の力が強すぎて… 人の縁を…破壊していた 康太が転生した白鳥の居所を探り当てた時 白鳥は…施設に入れられていた 全身折檻の痕で傷付き… 人間不信になっていた 子供の康太が…夏生を引き取る訳には行かず 兄の瑛太に頼んだ 「あの子を引き取りてぇんだ! 瑛兄…引き取ってくれねぇか? でも飛鳥井の家には連れて行けねぇ 身が立つ様にして、オレの側に置いておきてぇ」 瑛太は夏生を引き取り後見人になり、生活出来る様に手配した 鎌倉の…源右衛門の所有する家に夏生を住まわせ 康太と行き来が出来る様な環境を作った それが夏生を引き取った経緯だ 夏生は…一目で…炎帝だと解ると号泣した 施設の人間は…この子にそんな感情はあったの…と驚愕する程 夏生は何も言わず…誰も見ず過ごしていた 感情もない…人形のよう それが室生夏生の心象だった 夏生は…清らかな天使の様な微笑みを浮かべ 悪魔の様な…笑みで打ち消す 天使と悪魔 まさに…その両方を兼ね備えていた 銀色の髪が…風に靡く 康太は…その髪を一房持つと… その髪に…キスを落とした 「この髪は…夏生の… 堕天使の力が強すぎて…染まれねぇんだ 解るだろ…夏生の力を。」 「はい。」 莫大な力を秘めているのは一目瞭然だった 銀色の瞳が…やけに冷徹に…磨きをかけていた 天使と言う存在は…こんなにも冷徹なのだろうか… 地に堕ちた…天使だからだろうか… 天使の顔と…悪魔の顔を持つ どっちが本当の姿なのか? どちらも本当の姿のだろうか? 榊原は何も言わず… 夏生を受け止めていた 静まり返った空間を引き裂くように 一生が慌てて走って来る 「康太!弥勒がいない!」 何処探してもいねぇんだよ! どうするよ! 使命を完遂出来ず…一生は苛立つ 「一生、ご苦労だったな 弥勒は…そのうち来るだろ?捨てておけば良い」 「………」 不本意な…仕事の終わりに、一生は何も言わなかった そして康太の横にいる人物に目をやった 何処かで見た事がある じーっと凝視する姿は… 流石 兄弟だ…良く似ているな… と、夏生は苦笑した 「室生夏生です。」 夏生が一生に声を掛ける すると、一生は 「あ~あ!スワン!」と叫んだ 「1000年ぶりですね赤龍」 夏生は一生に挨拶した 「四龍の兄弟にお逢い出来て光栄です」 夏生は軽やかに傅き 執事さながらの挨拶をする 優雅に曲線を描き胸の前まで手を翳すと 軽く会釈をした 地鎮祭の開始を告げる為、慎一が康太を呼びに来た 「時間です。」 慎一は康太を待つ 康太は地鎮祭の会場へとスタスタ歩き進む その後に慎一は守るように着き、歩く 榊原も、一生も夏生もその後に続き 地鎮祭の会場へと向かった 一生は…辺りを見渡した 此処が… 緑川牧場だなんて… 思えなかった 総て取り壊されて更地にされていた 親父… あんたの築いた牧場は…此処で終わる あんたの夢は…俺が引き継ぐ だけど…あんたが夢見た楽園は… 終わりだ! 一生は…吹っ切るように… 早足で…康太の側へと向かった 地鎮祭の会場はテントがはられ、椅子とテーブルが出されていた 広い敷地にはロープがはられ 真ん中を取り囲む様に円が引かれていた 康太は真っ直ぐと、確りとした足取りで、円陣の中へと入って行く 康太が円陣の真ん中に立つと…回りを取り囲む様に… 焔が…燃え上がった 狩衣の衣装を着た康太の手には鈴のついた棒、神楽鈴を持っていた 鈴の音が…辺りに響き渡る その鈴の音に合わせて、康太は舞い始めた 緩やかに…軽やかに… 舞い踊る そのたび焔がゆらゆらと揺れた シャラン シャラン 鈴の音が響き渡る 心まで浄化される鈴の音に…会場の皆は酔しれた 舞い踊る康太は神楽棒を振り上げ 大地に、神楽鈴を突き刺した すると、突き刺されった場所からメリメリ大地が裂け始めた まるで大地の悪いものを出すかの様に 裂けた大地から赤黒いマグマが噴き出した 赤黒いマグマが噴き出る 浄化する様に…舞う康太の躍りに合わせて噴き出る やがて赤黒いマグマは…真っ赤な混じりっ毛のない深紅の赤へと変わり 大地が浄化されて行く 真っ赤な深紅のマグマが壁になって噴き上がる 真っ白な衣装を揺らし…康太が舞う その姿に誰もを魅了された 目の前で…奇跡の瞬間が… 行われていた 皆は固唾を飲み 一部始終、食い入る様に見ていた 康太が神楽鈴を引き抜くと…大地は…何もなかったかのように…合わさる 康太は空に向け、両手を広げると 雨が降りだした 土砂降り…と言っても良い程の雨が降る なのに、康太は濡れもせず舞う 大地が潤されて生気を取り戻す 漲る生命感を…大地に感じる 大地が昇華され生まれ変わって行く その様を…会場の皆は魅せつけられる そして瞳に焼き付ける様に… その舞を…堪能する 滅多と見られぬ…神楽踊りだった 奉納の舞いは… 滅多と披露はせぬ それが決まりだった そんな貴重な舞を…目の前で見られると言うのだから… 誰もが瞬きすらするのを忘れて…魅入った 雨が止むと 天空から…太陽が顔を出し 眩しい程に照り付けた 見事な奉納の舞い…だった 天気まで操り 大地も引き裂く その土地の…悪いもの総て祓い 大地の恵みを齎す 見事な踊りに拍手が鳴り響いた 戸浪海里は… 康太へ深々と頭を下げた 康太が神楽鈴を手に収めると、焔は消えてなくなった 奉納の舞の終わりを告げていた 奉納の舞が終わるのを待って、紫雲龍騎が康太の側へ近付いた 神職の衣装、袍(ほう)を着ていた 紫雲は康太に深々と頭を下げると、来客や依頼主の戸浪海里に頭を下げた そして厳正な礼儀に則り、祓いを始めた 幣(ぬき)で大地を祓い 祝詞を詠む 忌竹に神縄引き回 し神籬 刺し立て、・・・ 紫雲の祝詞が響き渡る 厳粛なるお払いの儀式は執り行われた お祓いが終わると、総ての地鎮祭の行程は終わりを告げた 最後に戸浪海里が、来賓、社員に対して挨拶をして、地鎮祭は終わった 戸浪は康太の側に来ると 「今日は本当にありがとうございました」 と、深々と頭を下げた 「この後、祝賀パーティーが開かれます ぜひ参加してください。 美味しい料理も沢山用意してあります」 地鎮祭が終わると、場所をホテルに移し 祝賀パーティーあると康太に告げる 「本当に康太には返しきれない…恩があります…」 「約束したかんな!」 康太は絶対に約束を違えない 出来ない約束なら…はなからしない 「若旦那、この地は浄化された トナミはこれからも栄華の時を築く」 康太はそう言い戸浪の胸を軽く叩いた 「ではパーティー会場でお待ちしております」 戸浪の言葉に康太は頷いた 戸浪との挨拶が終わると… 康太の側には、沢山の人が集まり始めた 皆康太と話そうと、駆け寄り話をする 慎一が頃合いを見て、主を隠すまで それは延々と続けられた 慎一が康太の前に立ち、主を促すと、康太は慎一と共に…会場を後にした

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