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第15話 魔界へ
部屋を出てロビーへ行くと、ロビーには一生達を始め、飛鳥井の家族、榊原の家族
加えて…戸浪海里も混じっていた
「若旦那!」
康太が呼ぶと、戸浪は康太の方へと歩み寄った
「体調を崩されたとか…大丈夫なのですか?」
戸浪に言われ慎一の方を見ると、慎一は
「昨夜は部屋に戻るなり倒れてしまわれたのですよ。」
と、言葉にした
「覚えてねぇ…目が醒めたら朝だったからよぉ…
若旦那…祝賀会に出る予定が…悪かった」
康太が頭を下げると…
戸浪は慌てて止めた
「止めて下さい康太!!
無理をさせたのは私の方だ…康太…」
悪かった…と、戸浪が言い掛けて
遮るように
「腹減った…若旦那、飯にしようぜ!」
と、誘った
「はい。ご一緒させて戴きます。」
戸浪は康太と共にレストランの方へと向かった
ホテル側の配慮で貸し切り状態でテーブルを並べて食事を取る事となった
戸浪は康太と共に過ごせ饒舌だった
だが康太は朝食を終えると、立ち上がった
「若旦那、オレはこれより数日間…連絡も取れぬ場所へ行かねばならなくなったのです
生きて帰れる様なれば…また食事をしましよう!」
「康太…」
何処へ行かれるのですか?
尋ねても…答えは返らぬと解って
戸浪は立ち上がった
「ご帰還なさったら連絡下さい
何を差し置いても駆け付けます!」
「悪いな…若旦那…」
「いいえ!またお逢い出来る日を!」
戸浪は深々と頭を下げた
康太は何も言わず…
戸浪に背を向け…
歩き出した
その後に榊原が連なり…一生、聡一郎、隼人、慎一が共に歩き出した
飛鳥井の家族も、榊原の家族も立ち上がり、康太達を見送った
駐車場に向かい榊原の車に乗ると
康太は「一生!乗れ!」と声を掛けた
一生は榊原の後部座背に乗り込みドアを閉めた
聡一郎や隼人は慎一が乗せて帰る算段は出来ていたから…康太は一生だけを呼び寄せた
一生は「何かあったのかよ?」と康太へ声を掛けた
「待て、もう一人呼び寄せてから話した方が手間がねぇかんな!」
康太は胸ポケットから携帯を取り出すと
「オレ!今 暇かよ?」
と、電話を掛けた
『 暇じゃなかったら…切るのかよ? 』
電話の向こうで笑いを堪えた声が聞こえる
「おう!切るぜ!
そのかわし…もう二度と電話しねぇけどな!」
『ひでぇな…何だよ?用は?』
「15分後家の外に出てろ!
迎えに行くからよぉ!」
『出てなかったら?』
「永久の別れだ…朱雀!」
…………!!!
何かを感じ取り…兵藤は息を詰めた
『今から出て待ってる!』
ブチッ…と兵藤は電話を切った
康太は電源を落とし…胸ポケットに携帯をしまった
「伊織、貴史の家まで…」
康太はそう言うと…瞳を閉じた
一生は何も聞かず…座っていた
兵藤が来なきゃ…喋る気はない…
ならば…今は…何も聞くべきではない
判断し、唯…黙って後部座席で座っていた
榊原は兵藤の家へ向けて…走った
四神の一人…朱雀を欠いては話せぬ話
康太は撃って出るつもりなのだろう…
榊原の車は高速を降り…
飛鳥井の家へ続く見慣れた道を走り抜け走った
兵藤の家の近くまで走って行くと、兵藤は家の門塀に凭れ掛かって立っていた
兵藤は榊原の車を見つけると、走って車に寄ってきた
榊原は車を停めると、一生はドアを開けた
開けられたドアに滑り込み兵藤は後部座席に座った
康太は榊原に
「飛鳥井の菩提寺へ行ってくれ」
と、頼んだ
榊原は何も言わず…車を出した
兵藤は「話を聞かせろ!」と康太にせっついた
「朱雀!お前の前に玄武は現れたのかよ?」
「いや…玄武が来る予定なのかよ?」
兵藤は…話が見えて来ない苛立ちに…
「解る様に話せ!」と怒鳴った
「待て!総ては飛鳥井の菩提寺へ行ったら話す!」
康太はそう言い…天を仰いだ
「弥勒…玄武は…来てねぇぜ!」
『………事態は…もっと深刻なのかも知れぬな…』
「玄武は…人の世に…来たのは確かなのか?」
『今…お主の尊父 建御雷神が探りを入れておる…
暫し待たれよ…!』
「親父殿では埒があかぬわ!」
康太はそう言うと…
「兄者!!弟の声を聞き入れよ!」
と、叫んだ
「伊織!路側帯に車を停めろ!」
康太は叫んだ!
その時…時空を切り裂き…靄が立ち込め
激しい雷雨が降り注ぎ…閃光を轟かせた
パカッパカッ…
蹄の音が響き渡る
真っ暗な時空の裂け目から
真っ赤な燕尾服に金糸がふんだんにあしらった…豪華な服を身に着けた…
炎帝が兄、雷帝…現閻魔大魔王が現れた
『 呼んだか?我が弟 炎帝よ!』
康太は兄の姿を確かめると、唇の端を吊り上げ不敵に嗤った
「おう!呼んだぜ!兄者!」
『用件を申せ!』
「玄武は人の世に来たのかよ?」
『我が父 建御雷神が調べておるのではないか?』
「兄者は閻魔だろ?
父者よりも掴める情報の量は違うんじゃねぇのかよ?」
『我が弟よ!お前を抱き締めさせて貰ってないのに…もう用件へ行くのか?』
馬から降り、閻魔が両手を開く
康太は助手席から降りると…
その手の中へと飛び込んだ
一頻り、閻魔は弟を抱き締め、分かち合うと離した
『玄武は人の世に降りる前に…闇討ちに合い…我が匿っている
崑崙山の八仙を呼び寄せて…治癒に当たらせている』
え…?
康太の表情が険しくなる
「玄武は…闇討ちに合ったのかよ?」
『そうだと本人が申しておる 』
「そうか…なら掃除に行かねぇとな!
青龍が行くまでに傷を治しておいてくれ!
四神が揃わねぇとな話にならねぇ!」
『だから崑崙山の八仙を呼び寄せて治癒に当たらせていると、言わなんだか?』
「兄者!」
『炎帝…御主が魔界に来るのなら…準備万端…整えてしんぜよう…
それしか兄には出来ぬからな!』
「兄者は手を下さぬとも良い!」
『炎帝…』
「兄者…九曜海路を呼び寄せておいてくれ!
炎帝が呼んでいると…告げてな!」
『九曜…何をする気だ…炎帝!』
「兄者!時間が惜しい!またな!」
………!!
閻魔は何を言っても聞かぬ瞳に…引き際を知る
『我が弟!魔界で逢おうぞ!』
閻魔はそう言い風馬に乗ると、時空の裂け目へと消えて行った
閻魔が消えて…
もう何も喋らなかった
榊原は飛鳥井の菩提寺へと車を走らせた
榊原は飛鳥井の菩提寺の駐車場に車を停めた
車から降りると…待ち構えているかの様に
紫雲龍騎が康太を出迎えた
「弥勒が待っております!此方へ!」
小走りで歩く紫雲の後ろを悠然とした足取りで康太が歩く
康太は榊原に手を差し出すと…
榊原は康太の手に、携帯を差し出した
携帯を貰い、康太は電話を掛けた
「慎一か?」
『はい。慎一です。何か有りましたか?』
「当分…魔界へと渡る!人の世に存在するのは不可能だ
留守を頼むな慎一!聡一郎と隼人を頼む
後…飛鳥井と榊原の家族を…頼むな!」
『……魔界へ…
ご無事で…帰って来てください!
でないと追いかけます!
俺は…貴方を主と決めたのです!
主のいない世界では生きられません!』
悲痛な声が受話器から聞こえた
「慎一!」
『…はい。』
その声は震えていた
「必ず還る!オレは明日の飛鳥井を作る途中だ!
こんな中途半端で…消えれるかよ!!
留守を頼む慎一!」
『はい!必ずや…貴方の留守を守ってみせます!
行ってらっしゃい!!
貴方を送り出すのは…俺の努め!
貴方の不在を守るのは…俺の努めです!
どうか思う存分…御活躍をご期待申し上げます!』
慎一は背筋を正すと…
誰もいぬ空間に向かって深々と頭を下げた
「慎一!行ってくるぜ!」
康太はそう言い通話を切ると榊原に携帯を返した
紫雲は康太を待ち…来るのが解ると歩き出した
菩提寺の本殿奥深くへと向かう
本殿、儀式の間の前に弥勒高徳が待ち構えていた
康太を見ると、弥勒は深々と頭を下げた
弥勒は明らかに…オーラが違っていた
封印を解いて…神で在った時と変わらぬ力を放っていた
転輪聖王と呼ばれし神
威風堂々とした面持ちに…朱雀は息を飲んだ
「さぁ良いぞ!役者は揃った!
話してやれよ転輪聖王!」
弥勒は朱雀と赤龍…青龍達に詳しく魔界の異変を話した
榊原は康太から聞いた通りの内容だった
「魔界は今 変革期にある
この前 四神が魔界に行ってバランスを取って来たが…歪みは…
かなり前に出てしまっていた
魔界の常識を覆そうと動いてる一派が誕生し
古い魔界の常識を嫌い
自分達で新しい風を吹き込もうとしている
古い神は…ターゲットにされている
先月…金龍が襲われました…
そして…先日…玄武が…
絶え間なく…太古の血を汲む神々は襲われています
まだ崩御された方は出てはいませんが…
それだけは避けたい…それが総ての話です」
弥勒は静かに話を終えると…
襖に手を掛け左右に開いた
パターンッッッ!!
試練の間の襖を全開にした
「炎帝…貴方の姿は…どうしますか?」
一歩踏み込めば…そこは魔界
弥勒は魔界と直接空間を繋いでいた
「オレか?オレはこのままで良いぜ!
力が変わるならいざ知らず!」
康太は笑い飛ばした
炎帝は青龍にひけを取らずのパレスをしていた
今は…明らかに…小さい
そのままで…魔界へ行くのですか?
と、弥勒は問い掛けた
「ですが…炎帝でなくては…意味は有りませんよ!」
弥勒に言われ康太は榊原を見上げた
「青龍…」
「はい。」
「お前の愛で…オレを戻して…」
榊原は何も言わず康太に接吻した
蒼白い妖炎に包まれ…気を送り込まれると
炎帝の姿は…元の姿に…成長した
青龍とひけを取らない、その身長に見つめ合う目線は同じになった
「これで文句はねぇだろ?」
康太は嗤うと弥勒は無言で呪文を唱えた
康太は炎帝の焔を暗闇の空間へと投げ付けた
すると暗闇を切り裂き…光が差し込んだ
「行くぜ!用意は良いのかよ?」
康太は榊原や兵藤、一生を見た
全員頷くと、紫雲は深々と頭を下げた
「無事帰還される事を…菩提寺を上げて祈祷致しております!
必ずや…必ずやご無事で…」
「案ずるな龍騎!
オレは飛鳥井の改革を半ばに…逝く気はねぇんだよ!
必ずや還るに決まってる!待ってろよ龍騎!」
はい…はい…と紫雲は…泣きながら頷き
姿勢を正した
「行ってらっしゃいませ!」
お辞儀する紫雲に片手を上げ
康太は背を向けた
そして…魔界へと続く空間に足を踏み出した
押し潰されそうな…空間を歩く
気を緩めれば…間違いなく潰され…魔界の藻屑になる
その空間を切り裂き歩いて行く
「弥勒、この空間を出たら何処へ繋げてある?」
「閻魔の屋敷に出るであろう…」
その答えで…兄が1枚噛んでる事態を知る
「兄者にはさっき逢ったがな…」
『手筈を整えてしんぜよう!』
と、言ったな
康太は先程の閻魔の台詞を復唱した
闇が切れると…見慣れた庭園に出た
警備の者は…突然現れた炎帝の姿に…
恐れ戦き…逃げて行った
「失礼な!オレは化けもんじゃねぇもんよー」
ぷんぷん怒る康太を見て榊原は笑った
庭の奥から、先程見た…閻魔が姿を現した
「炎帝!良く来てくれた!」
「兄者…来るの解ってたんじゃねぇかよ!」
少しだけ文句を言うと閻魔は笑った
「炎帝…魔界は思ったより早く…壊滅へと向かわされている…」
閻魔の口から……
「我が父…建御雷神が襲われた…」
と告げられた
炎帝の体躯から…紅い焔が燃え上がる
「へぇ~愉しい事してくれるじゃん!」
腕を組み…皮肉に嗤う
その言葉とは裏腹に…怒りが…
焔となって燃え上がる
「で…父者は?」
「……玄武共とに…八仙の治癒を受けておる」
「…雷坊主が…死ぬ訳ねぇか!」
てるてる坊主…並みの扱いに…
閻魔は苦笑した
「炎帝…」
言葉が過ぎる…と言おうとして…
その焔を目にすれば…たしなめる事すら出来ない
「黒龍~!!!!」
炎帝は叫んだ!
天に向かって、炎帝は声の限りを叫んだ
雷鳴を轟かせ暗黒の空を引き裂き…漆黒の龍が、舞い上がった
戸愚呂を巻いて龍が哭く
すると空から大粒の雨が降りだした
漆黒の龍は炎帝の横に首を伸ばした
すると炎帝はその頭に飛び乗った
龍の角に掴まり、風を起こす
「黒龍、良いぜ!」
炎帝が言うと、黒龍は空へと舞った
閻魔は一瞬の事で…
気付いた時には…炎帝はいなかった
青龍は龍に姿を変え黒龍の後を追う
赤龍も龍に姿を変えその後を追う
朱雀は鳥に姿を変えて…自分の霊峰の山頂へ向かった
朱雀は「白虎!霊峰に来るがよい!」と叫んだ
空を駆け抜け白虎が、朱雀へ挨拶をする
「久しいな朱雀!
玄武には逢えたのか?」
「玄武は…人の世へ来る前に返り討ちに合ったわ!」
朱雀が吼えた!
「え!玄武が?」
「四神の名が廃るぜ!白虎!」
白虎は歯を剥き出し…
怒りを露にした
青龍も自分の霊峰の頂きに立っていた
朱雀がマグマが吹き出る霊峰なれば
青龍はブリザードが吹き荒れる霊峰だった
ピキッ…
ピキッ…
空気が凍る
炎帝は黒龍の頭の上から…
愛する男を見ていた
愛する
愛する
青龍を。
「青龍殿、玄武はもうじき白龍が連れて参る」
弥勒が何もない空間に…浮いていた
「玄武の霊峰は緑豊かや霊峰!
白虎の霊峰は崖の上
朱雀は…マグマが吹き出る霊峰
青龍殿はブリザード吹き荒れる霊峰でござるか」
と、話し掛けてくる
息まで凍てつく…霊峰で…
薄着で…いられる筈などない
なのに…転輪聖王 の力を…物語っていた
「転輪聖王、玄武が参ったら仕掛けて行きます!
総結界を張り…虫けら一匹…この魔界から出られなくします!」
「そうしたら、捕物…と運びますか!」
転輪聖王は慈悲の笑みを浮かべ
「逆らえば…死あるのみ!」
と、残酷な台詞で切り捨てた
神か…
悪か…
解らない
菩薩の顔して
冷徹な…裁きを下す
青龍も冷酷な笑みを浮かべ
「魔界の秩序、規律、法律は我が司る!」
と、番人としての職務を全うする所存だと告げた
暫くして白龍が玄武を連れて、玄武の霊峰へとやって来た
玄武は自分の霊峰へ降り立つと
「待たせたのぉ!!」
と、ダミ声を響き渡らせた
「玄武、怪我は良いのかよ?」
炎帝が声をかけると
「おおお!炎帝!甲羅が割れなかったが幸いしたわい!」
と、強固な甲羅を見せた
「そりゃ良かった!
八仙の所には我が父 はいたのかよ?」
「あの方は…ぴんぴん…酒を飲んでおみえですよ…」
玄武が呆れて言うと、炎帝はチエッ!くそ親父!と毒づいた
青龍はそれを笑って見ていた
「赤龍!来い!」
炎帝が赤龍を呼ぶ
すると四神の円陣の外に四龍の円陣が出来ていた
青龍を軸に、黒龍、地龍、赤龍が円陣を組む
「転輪聖王 、青龍が衝覇を放った瞬間
一斉に我等も四方八方から放つ!」
「ならば、我も放つとしようぞ!」
転輪聖王は悠然とその時を待った
青龍が「用意は良いか?」と訪ねた
朱雀は「何時でも良いぜ!」と返した
白虎は「俺様も何時でも構わねぇぜ!」と四本足で吼える準備をした
玄武は「私も何時でも良いですよ!」と、白い髭を振り回し…衝覇を出す準備をする
炎帝は赤龍に「四龍はどうなんだよ?」と、返した
赤龍は「何時でも来い!」と、余裕をかまし
地龍は「ええ。渾身の一撃!食らわしますとも!」と構えた
黒龍は「炎帝!掴まってろよ!」と友に言葉を送り
炎帝は「行くぜぇ!」と掛け声を上げた
その声を合図に…
一斉に四方八方から衝覇を放った
「「「「 衝覇!!!!」」」」
四神の声が響き渡る
それに合わせて四龍と炎帝も
「「「「 衝覇!!!!」」」」
と、覇道を空へと放った
転輪聖王が光の筋に目掛け…念を送る
その念を受け…衝覇は光輝いて駆け抜けていった
右往左往
四方八方
駆け抜けて行く閃光を目で追い
炎帝はピィ~ィと口笛を吹いた
すると何処からとなくペガサスが空を駆け抜けて来た
炎帝の天馬が炎帝の前で止まった
「久しいな天馬!」
『ええ。1000年ぶりでしょうか?』
天馬はそう言い、炎帝を鼻で突っついた
『早く乗れよ!』
「急ぐな…変わらねぇなおめぇはよぉ!」
『主に似るんですよ…我等馬は…』
しれっと答え、炎帝が乗るのを待つ
………だが一向に…炎帝はその背中に乗ってはくれなかった
『炎帝…』
ヒヒヒヒヒィィ~ンと天馬が鳴く
「可愛くねぇ馬は…要らねぇかもな」
炎帝の言葉に…ガァァァァンとなる
めそめそ…鼻水をたらす天馬を心配して
風馬が駆け付けて来た
風馬は、炎帝にガブッと噛みつこうとして…その顎を蹴り飛ばされた
『痛い…かも…』
風馬が…蹴られた顎を…天馬に見せ付け
慰めてもらおうと言う…せこい算段に…炎帝 は笑った
「てめぇ風馬!我が夫青龍の尻尾に良くも噛み付いてくれたな!
主に逆らえば…オレが昇華してやるけどな?」
風馬はぶるんぶるん首をふり…青龍に助けを求めた
人の姿に戻った青龍は、腕を組み意地悪く笑った
「今後一切、僕の尻尾に噛み付きませんか?」
うん!うん!と風馬は頷いた
「今度やったら…その命…ないと想いなさい!」
ビシッと言われ青龍が甘くないのを思い出す
法の秩序、法の番人
青龍と言う男は非情で冷徹で…感情すらなかった
忘れていた訳ではない
『解っております青龍。』
「ならば良い!ここに来なさい!」
青龍の側まで飛んで行き、その背に青龍を乗せた
風馬は身を引き締め、妻を見た
天馬は…めそめそ泣いていた
「天馬!オレを乗せるに相応しい馬でねぇといけねぇんだぜ?」
腑抜けになってねぇのかよ?
と、天馬に問う
『オレは何時も炎帝に相応しい馬である!』
鼻水をたらしながら言い張ると、炎帝はやっとこさ、その背中に乗ってくれた
「泣くな…天馬」
『泣いてなどおりません!
これは花粉症なんです!』
草木も生えぬ…極寒の地に…花粉症になるモノなど存在はせぬ
解っていて炎帝は天馬の頭を撫でてやった
破壊神と呼ばれし炎帝
天馬は誰よりよ炎帝が脆く…儚いのを知っていた
そして誰よりも、優しいのを知っていた
『炎帝…もう待つのは嫌です』
1000年待った
還らぬ主を…1000年待った
「あと少し待て、そしたら還って来るからよぉ!」
人の世を終えたら還って来ると…
閻魔は教えてくれた
今 こうして炎帝から聞けば…
嬉しさも込み上げてくる
『炎帝!どちらまで?』
「取り敢えず、この山から降りようぜ!
こうも寒くちゃ堪らねぇかんな!」
天馬は笑ってヒヒヒヒヒィィンと気合いを入れた
天馬は地上まで舞い降りると、皆を待つ様に止まっていた
炎帝は天を仰ぐと
「スワン、オレへと還れ!」
と、両手を広げた
すると…天空の果てからバサッバサッと大きな羽根音を立てて
白鳥が飛んできた
白鳥は炎帝の横に擦り寄ると羽根をすぼめた
銀色の聖なる妖炎を立ち上らせ炎帝の横に来た白鳥に、皆の瞳は釘付けになった
魔界で見ると…更にパワーアップして見える
白鳥は「クワッ」と鳴くと炎帝が白鳥を撫でた
「ご苦労だったなスワン!」
「いいえ。貴方が呼ぶ所が僕の居場所となる
貴方の行く所…僕は何処へでも着いて行く」
「人の姿になって良いぜ!」
炎帝が言うと、白鳥は…
その姿を…桐生夏生へと姿を変えた
銀色の髪が風に靡く
その髪の毛の先から…聖なる妖炎が零れて…散って行く
「後ろに乗れ夏生!」
炎帝が言うと夏生は天馬に跨がった
青龍が風馬に乗って駆け降り炎帝の側へ行く
赤龍、黒龍、地龍は地に降り立ち人の姿になって炎帝の側へ向かった
朱雀も玄武も白虎も、炎帝の側とやって来て
人の姿に変えた
朱雀が「炎帝、後はどうすんだよ?」と尋ねる
「朱雀、捕り物は情報戦になるかんな!
迂闊には動けねぇんだよ!
閻魔の邸宅に向かい馬と武器と人を集める
まぁ、その前に腹拵えだな!」
炎帝はそう言い笑った
朱雀は「なら閻魔の所に行くとするか!」
と言い鳥になり飛んで行った
各々、閻魔の邸宅に向かう
青龍は赤龍を風馬の後ろに乗せ
黒龍と地龍は龍になり閻魔の邸宅に向かった
「ほれ!天馬、兄者の所へ行くもんよー」
『飛ぶの疲れたから走るな』
「おう!走って行け!」
炎帝は笑った
天馬はパカッパカッと爽快に駆け抜けて行く
その後を追って青龍も着いて行く
閻魔の邸宅に着くと炎帝は夏生と共に天馬から降りた
「天馬、飯でも食って来い!
その後、酷使すんからよぉ!」
『ええ。何時でも飛べる様に待ってます』
天馬は炎帝にそう答えると頭を撫でて貰った
風馬も追い付き、青龍と赤龍は風馬から降りた
「風馬、腹拵えしてらっしゃい!」
青龍が言うと
『はい。何時でも飛べる様に待ってます!』
と、流石つがい…台詞も同じだった
天馬は少しだけ…ばつの悪い顔をした
青龍が炎帝の肩を抱く
「う~ん…康太じゃないのが…少し悲しいです」
腕にすっぽり入るサイズの康太が懐かしい
炎帝は青龍と変わらぬ体躯だから…
「まぁ炎帝はこのサイズだからな…」
炎帝は苦笑した
「どの君も愛してますよ!」
「オレも愛してる…青龍」
夏生が…困った顔になり
後ろから人に姿を変えた赤龍が
「もたもたすんじゃねぇよ!」と唸った
「此処でも愛の語らいかよ…おめぇらはよぉ
んとに見境がねぇんだからよぉ!」
赤龍がボヤくと黒龍が
「君…僻みですか?」
赤龍らしからぬ台詞に…黒龍は苦笑する
赤龍なら…愛し合うカップルには寛容だ
なんたって愛を司る神なのだからな
「ひ…僻みぃ~誰がだ!!」
赤龍が吠える
「炎帝、青龍、行きますよ!
赤龍はカルシウムが足らないのか?」
黒龍は二人を促す
炎帝と青龍は笑った
手を繋ぎ
臆する事なく、炎帝と青龍は閻魔の邸宅に入って行った
「俺を置いて行くんじゃねぇ~!」
赤龍の声が虚しく響く
朱雀がそのケツを蹴り上げ
「サクサク行くぜ!赤いの!」
と、昔の呼び方をしてきた
「おう!小鳥!サクサク行くぜ!」
「鳥じゃねぇ!!
しかも小鳥…なんかじゃねえし!」
朱雀が吠える
そのケツを白虎が蹴り上げた
「ボケボケすんじゃねぇよ!」
「悪かったな猫!」
「ねっ…猫じゃねぇし!!」
白虎が吼える
「小僧ども!うるさいぞ!」
玄武が白虎のケツを蹴り上げ
「ほら、さっさと行かぬか!」
と、急かした
夏生は、やれやれ…とため息をつき
炎帝を追って走った
わいわい…うるさい集団が閻魔の邸宅に入って行くと…
もう既に食事を始めている炎帝がいた
ガツガツ、一心不乱に食べまくる炎帝の横で
優雅に食事をしている青龍がいた
「お口…凄い事になってますよ」
青龍は自分の食事を中断して、炎帝の口を拭いた
「まるで、僕のを飲んだ後の様に…濡れて…」
肉を食べた後の口は…照り照りに光り
淫靡な…光を放っていた
赤龍は飲んでいたスープを吹き出し…
「んとに!おめぇはよぉ!」
と、朱雀の顰蹙を買ったのは言うまでもない
玄武が「赤龍は愛を司る神であったな」と今更ながらに…確認した
朱雀が「今は…18の小童故…許してやると良い」と揶揄した
赤龍は「18の小童はおめぇもだろうが!」と吠えた
白虎が大声で笑った
「人の世に堕ちると若返るのか?
誠…皆様変わられた…
一番の変わり様が…炎帝…そなたですな!」
「オレ?オレは青龍の愛で人へと変わった
共に堕ちた日々に…少しは使える傀儡になれたと思う
なぁ兄者…オレは使える傀儡になれたよな?」
閻魔は「笑止!お前はお人形で留まるには器が足らぬ!」と笑い飛ばした
「騒々しいですね雷帝!」
部屋の奥から…神々しい光を纏い現れたのは
炎帝が母 天照大神 だった
天照大神は炎帝の前へ来ると深々と頭を下げた
「我が息子炎帝よ!
永らくの旅から帰られましたか?」
母の手が…
炎帝に向けられ抱き締められた
炎帝はその手を押し退け
「母上…お久しぶりで御座います!」と立ち上がり挨拶をした
天照大神は炎帝を抱き締めると、その背中をビシビシ叩いた
「痛てぇよ母ちゃん!」
「音沙汰もなしで、この子は!!
婿を得たなら、まずは母に紹介をしなさい!
嫁に出す準備もなしに行くのは許しませんよ!」
この息子に…この母あり…だった
「母ちゃん…嫁に行く気はねぇもんよー」
「青龍の父君から正式な申し出がありました!!
我が夫、建御雷神からも、青龍本人から正式に申し出があったと申しておった!」
炎帝は「オレは男だぜ!青龍も男だ」と今更ながらの事を口にした
「性別など些細な事じゃ!
お主の幸せが一番であろう!」
天照大神は息子を抱き締め…優しく背中を撫でた
「青龍殿、我等は二人を引き裂く気は毛頭ない!
邪魔立てする輩は排除してしんぜよう!
心置き無く我が息子!炎帝と添い遂げてたもれ!」
青龍は立ち上がると天照大神の手を取った
「お義母様!炎帝と添い遂げた暁には
晴れて夫婦と名乗り、共に暮らす所存です!
炎帝、幸せな家庭を築きましょうね!」
戦の前の…余興にしては…度を超す
閻魔は苦笑して
「母上…その話は…還ってからで!」と釘を刺した
天照大神は「つまらぬ男よの…」と嘆き…部屋の奥へと還って行った
雷帝は「何をしに参ったのじゃ…母上よ…」と母親の姿を見送った
「炎帝、僕達は晴れて夫婦となれる日も近いですね!
幸せにしませよ奥さん!」と頬にキスを落とした
転輪聖王は、黒龍に
「庭にスクリーンを出せ」と指示を出した
炎帝と青龍は顔を引き締めた
「スワン!浄化を唱えろ!」
炎帝に指示され夏生は黒龍と共に庭へと向かった
地龍に水脈を探させ、水源を見付けると水を吹き出させた
その水を操り巨大スクリーンを作る
夏生はそのスクリーンに向かい
浄化の呪文を唱えた
すると巨大スクリーンは輝く壁へと変貌を遂げた
「弥勒、目星はつけてるのかよ?」
「ある程度はな。」
「ふ~ん」
唇の端を吊り上げ皮肉に嗤う
転輪聖王は庭へと出てスクリーンの前に立った
スクリーンに向けて呪文を唱える
すると…うっすらと…何かが映って行く
閻魔や他の者は目を凝らし…スクリーンに釘付けになった
スクリーンに映る…者に…
息を飲む
転輪聖王…も息を飲んだ
「え…?」
想い描くモノと違うモノが映り…弥勒は驚く
「何故…?」
スクリーンには共に闘い…
共に生きた男が映っていた
スクリーンに映る男の姿に…
転輪聖王は息を飲んだ
そして炎帝を見た
こんな姿を映す筈ではなかったから…
スクリーンには…太古の神の血を引く
素戔男 尊 が映し出されていた
炎帝が母…天照大神の兄弟
素戔男 尊
イザナギ・イザナミの子神で、太古の血を汲む
天照大神
月読 (ツキヨミ)
素戔男 尊(スサノオ タケル)
三兄弟は太古の神の代表として魔界では由緒正しい血筋の一族として一目置かされている存在だった
「久しいな叔父貴!」
炎帝は臆する事なく素戔男 尊に声を掛けた
「おぉ!炎帝よ!久しいの!」
転輪聖王は共に闘った友を見ていた
まさか…お主が…
そんな想いで…一杯になった
「叔父貴、最近、宇迦御魂を見たのかよ?」
「宇迦御?」
訝る顔を炎帝に向けた
「おう!魔界に新しい風を吹き込もうとしている首謀者 宇迦御魂を探してんだよ!」
そのスクリーンには…当事者が映るのに…
何故…この様な…手の込んだ事をする?
転輪聖王は炎帝に近寄ろうとした
すると…夏生が転輪聖王の腕を掴んだ
「寄るな!」
聖なる妖炎で転輪聖王の本体を掴む
転輪聖王は眉を顰め…舌打ちした
厄介な奴を呼び寄せた
ある程度の者になら…掴ませたりはしない
触れる以前の話だ
「スワン…嫌…ルシファー」
「カビの生えた様な名前など、とうに忘れた」
そう言い夏生は一笑した
「僕は炎帝のスワン!
それ以外になる気はない!」
炎帝以外のモノになど…意味などない
炎帝なればこそ…
楽に息をさせてくれる
本来の自分の素質を見抜き…それに近いものにさせてくれる
「崑崙山の八仙が僕の欠片を拾って…予見した
お主はある方のお役に立つ為に生かされておるのだ…と。
僕を使いこなすは炎帝ただ一人
転輪聖王…黙ってそこで見ておいでなさい!
邪魔するなら…僕は力を解き放ちます!」
宣戦布告されて…転輪聖王は押し黙った
ルシファーの力を寸分違わず内に秘めている
それを解き放てば…勝敗など目に見えていた
「叔父貴、息子の消息も知らぬと言うのか?」
炎帝が揶揄して問い掛ける
「我が母、天照大神は…人の世に堕とされた我が子を…映し見で見ていたそうだ!
叔父貴は?我が子の姿を…見ているのかよ?」
親なればこその質問をして行く
「…………炎帝よ」
「あんだよ?命乞いなら聞く気はねぇぜ!」
「命乞いなどせぬ!
我が子は…我が討つ…!
連れて行けと申しておる!」
「連れて行って欲しいなら来いよ!
此処が何処か知ってんだろ?」
炎帝はそう言うと、炎帝の刃を手に出し
袈裟懸けにスクリーンを斬った
すると…ズルッ…と崩れ堕ち…
地面へと…粉々に散り張り…消えていった
「弥勒、おめぇは誰を映す気だったんだよ?」
この人に…誤魔化しなんて通用しないと解っていた
「宇迦御魂…本人を映すつもりでした
解っておみえですよね?」
「解ってんぜ!
本人を写して、本人を射ちに行かせる算段なのもな!
だがな転輪聖王!
あやつのケツを拭くのはオレじゃねぇ!
宇迦御魂の父親!素戔男 尊 の使命だろ?
違うのかよ?
我が子を…他の奴に討たせて…納得行くならな、黙っててやるさ!」
懐が深い言葉に…転輪聖王は深々と頭を下げた
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