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第16話 魔界編 変革①

炎帝が閻魔の邸宅の応接室に戻ると そこには閻魔が約束した人物がソファーに座っていた 「九曜 海路!!」 炎帝は嬉しそうに声を掛けた 九曜 海路と呼ばれた人物が静かにソファーから立ち上がった 「炎帝、お久し振りに御座います!」 「悪かったな呼び寄せて!」 「いいえ。貴方には返しきれぬ恩があります ……晟雅と隼人は…変わりなく元気でいますか?」 「晟雅も隼人も変わらず元気だぜ! 晟雅には近いうちに神野の後継ぎをやろうと想っている 隼人は秋月と言う飛鳥井の血を汲む人間に護衛に当たらせた そして神楽も…また後継ぎを得て繁栄を続ける てめぇの尻拭いはしてやったぜ! 四季もてめぇの子じゃねぇのかよ?」 九曜海路は…深々と瞳を閉じると… 「四季の時間は…動き始めたのですか…?」 と、時間を止めたまま大人へと成長した…見届けることが出来なかった息子を想った 「四季の時間を動かしたのは…オレだ 四季は…隼人の子をもらい受け…神楽を続ける 四季は…その子を育てて親となる… 神楽…音弥! 九曜の血を濃く受け継ぎし子が次代の神楽を 継いで行く 神楽は廃らせねぇ! 神野もな…継ぎの飛鳥井に必要なポジションとなる!」 九曜海路が総て壊し…捨て去った者達を… 広い集め…適材適所配置されていた 九曜海路は深々と炎帝に頭を下げた 「想いなど…遺さない位…晴れやかな想いで御座います!」 捨て去ったけれど… 人としての心までは捨て去れなかった 炎帝は…掌を開き…キラキラと光る球体を九曜海路に放った 海路はそれを受けとり…掌を開いて見た 「隼人の力の1つだ アイツは…お前を凌ぐ 今後はお前が管理してやれ!」 「え?炎帝…」 「何時か…隼人にお前を逢わせたい 晟雅にも四季にもお前と逢わせてやる 蟠りがなくなる時…人は先に進める その日はそうそう遠くはねぇぜ!」 人は許して先に行くんだ 隼人や晟雅、四季に送った言葉だ 3人は明らかに…許して先に進んでいる 「海路、人は成長して行く もうお前が別れた頃のガキじゃねぇよ」 そうやって護って…側にいてやったのは海路ではなく…飛鳥井康太 海路は…涙ぐみ…上を向いた 罪ばかり作って…九曜も神楽も消そうとした 力に飽きて… 総てを捨てた だが…我が子に… その力が受け継がれてしまっているのを知って… 人である自分を捨て去った 寿命を縮めていると解って… 力を使いまくった 自殺行為と変わらぬ日々を送り… 人の世を全うした 我が子、神野譲二は力を使い寿命を縮め…罪を作った それが神野晟雅と一条隼人だった そしてもう一人の我が子は…時を止めて、その中で生きていた 九曜は我が子を動かす事なくこの世を去った 罪を…知っていて黄泉を渡ったのだ 「海路!今回のお前の働きで、お前を人の世に1日連れ出せる約束をしたんだよ! なぁ閻魔、九曜海路の働きの褒美くれるんだよな?」 炎帝の言葉を受け、事のなり行きを見ていた閻魔が口を開いた 「ええ。炎帝と約束しました 今回の活躍の褒美として、人の世に1日送り出す…と。」 海路は茫然とする 「海路、罪を背負うばかっじゃ疲れちまうぜ! そろそろ、その肩の荷物を下ろせよ!」 「え…下ろしても…許されるのですか?」 「許されねぇ…神じゃ…様にならねぇじゃねぇかよ!」 九曜神…今は神として生きる男に 炎帝は現実を突きつけた 「オレが配置した人材は天下一品! オレの描いた軌道に乗った人間は… 何があっても歪まねぇ!その時が来たんだよ!」 自信を持って言い捨てる 海路は…その言葉を受け止め腹を括る 「では今回、何がなんでも!! 頑張って褒美を得ねばなりません! 私の描く絵図に乗って下さらねばなりません!失敗したら消しますよ!」 海路は…覚悟の瞳を炎帝へ向けた 人の世で言ったら、樋口陵介や釼持陽人 のポジションを担う人間として九曜海路を選んだのだった 「海路、おめぇのビジョンを見せてみろよ! その前に……この部屋に結界を張る! 結界を切らねばこの部屋から出れねぇぜ!」 炎帝はそう言うと立ち上がった 「青龍、オレの後を追って強化しろ!」 炎帝に言われ青龍も立ち上がると、掌に…正義の槍を出した 「何時でも良いですよ!」 炎帝はニャッと嗤うと部屋に結界を張った 印を結び、呪文を唱える その印を夏生に渡し、夏生が受けとり 強化して結界を張った その後を青龍が追って結界を張って行く 絶対の結界 それを、この部屋に張り巡らした その様を炎帝は見詰め、嗤っていた 「これで虫けら一匹覗き込めねぇな!」 解っていて、更に用心に磨きを掛ける それ程用心に用心を重ね、仕上げをせねばならぬ事態を突き付けられた 聖なる力で…張り巡らされた部屋を… 魔界の者が…垣間見るのは難しい ましてや正義の槍で張り巡らされた結界に、近付ける者など皆無に等しい 解っていて炎帝は、その部屋に結界を張り巡らしたのだ まるで間者がいるのを用心にするかのように… 炎帝はソファーに座った足を組んだ 「さぁ、海路、俺にお前のビジョンを見せろ!」 炎帝に言われ九曜海路は、胸ポケットから水晶盤を取り出した 「これを貴方へ!」 炎帝に水晶盤を渡し九曜海路は嗤った 「貴方の命を受けて、描きました絵図で御座います!」 炎帝は水晶盤を覗き込み 九曜海路が描いた筋立てを頭に叩き込む 「ほほう…オレに、これをやれ…と?」 「ええ。貴方様なら最適かと!」 「青龍ではなく?」 「ええ。面は割れておりません。 閻魔に頼んで用意もして御座います!」 九曜海路に言われ… 炎帝は…嫌な顔をした 青龍が、炎帝の手の中の水晶盤を覗き込み 笑った 炎帝がギロッと睨むのもなんのその 青龍は炎帝の顎を持ち上げ 「僕が着飾らせてあげます。 愛する君を他の誰かに触らせたりしません!」 と、愛の囁きを炎帝に送る 怖いもの知らずの…強者 その部屋にいた全員が… 一番の強者は青龍だと…知った 破壊神…炎帝に畏れも抱かぬ男 そこ男の存在は絶対 代役はいない この男を欠いたら… 恐ろしすぎて…考えなど着かぬ… 炎帝は部屋の結界を切ると青龍が動き出した 「閻魔、支度をします!道具を此処へ!」 青龍が言うと、閻魔は執事に持って来る様に指示を出した 執事が閻魔に言われたモノを持って来る それを受け取り、青龍は手慣れた手付きで炎帝のメイクに取りかかった 青龍の手で、可愛い女の子に変身して行く メイクが終わると、青龍は炎帝の服を脱がしに取り掛かる その様が…やけに淫靡で…部屋の全員は居たたまれない気分になった 服を脱がし、ペチコートを着せ コルセットで締める 「苦しい…ってば伊織…」 「締めすぎましたか?」 裸に…コルセット姿… 何だか卑猥…淫靡過ぎ… ぷくっ…と立ち上がった乳首がやけに美味しそう 青龍はその乳首をペロンと舐めた 「……ひゃ…ん…ゃ…」 妖しげな声が漏れて… 皆の背中に…冷や汗が…垂れて行く まさか…始めないよね? 涙目で青龍を睨む炎帝の可愛さに、青龍は笑って 「ごめんね」 と、謝った ドレスを着せてウィッグを被せ 女の子の出来上がり 青龍を見上げる女の子は… 何処の女の子より可愛く可憐で…美しかった 「何処の誰よりも美しいですよ奥さん!」 青龍が炎帝に口付ける その唇を手で押さえて 「グロスがはげる…」と遮られた 「ケチ…」 青龍が愚痴る 「後でな…そしたら好きにして良いぞ」 甘い睦言を言う炎帝の姿に… 本気の思いを知る 愛し合う二人の想いは何時も本気だ 青龍は優しく…壊れ物でも抱く様にその腕に抱く 「愛してます!」 誰に聞かれようとも、構わぬ と青龍が炎帝へ愛の告白をする 「オレも愛してるぜ!」 炎帝も青龍へ嘘偽りのない言葉を送る 「良いぜ!海路!オレはお前の絵図と寸分違わぬか?」 問い掛けられ九曜海路は深々と頭を下げた 「はい。寸分違いません!」 その言葉を受け、炎帝は唇の端を吊り上げ皮肉に嗤う 「なら、兄者!デートに行くとするか!」 炎帝が兄 雷帝に手を差し出す 閻魔はその手を取り 「エスコートしますよ!お嬢さん」 微笑んだ 上目遣いで笑う姿は…母 天照大神に酷似していた 閻魔の邸宅から、二人は出て散歩…いや デートへ向かう 手を繋ぎ、仲良く歩き出す 警護の者も着けずに、歩き出し 本当のデートだった それを… 塀の向こう側で見ていた輩は… 「え?あの者は…妻か?」と混乱する 閻魔の妻 現妻は、一般人で…最近世継ぎを産んだ あまり出回ってはおらぬから… 「あんなに若いのに…手を出したのかよ?」 と、やっかみが入ったりする 閻魔なれば、血筋を重んじなければならぬ なのに閻魔が妻に据えたのは… 身分のない一般人だった 女神と別れ浮き名を流した閻魔が選んだ伴侶が一般人だったから… 魔界の者は… 反対しようと動こうとした だがそれを選出したのが… 炎帝だと知ると…反対の動きは一斉に沈着した 炎帝 未だに絶対の力を持つ神 人の世に落とされた…今も…絶大の人気も知名度もある 閻魔と女は人影の少ない方へとデートする 後を追う者達は、それが楽しくて仕方がない 鴨が葱背負ってやって来た様なもんだから… 「後少し人気のない方へ行ったら襲うぞ!」 一緒にいる女の子に…恨みはない ないが…魔界の改革には…無益な殺生は必要なのだ 総ては魔界の改革の為! 古いしきたりは拭い去り 新しい風を吹き込む カビの生えた様な古くさい… 雁字搦めの身分など… 打ち砕いてしまえば良い 世代交代など皆無の魔界の年功序列など 意味のないモノだと知るが良い! その為に…我等は立ち上がったのだ! 後を追う者達は…自分を奮い立たせていた 下手をしたら…挫けそうになる自分を奮い立たせて 改革と言う旗を立てた もう後へは引けない! もう引き返す道などないのだ このまま突き進むしか…道はないのだ! 湖の前の…芝生に座ったら… 仕掛けると仲間は瞳で合図を出した 閻魔は女の子と手を繋ぎ、湖の前へ来た 「此処で座りませんか?」 女の子が頷く すると閻魔は女の子と一緒に芝生に腰を下ろした 「兄者、座ったら来るからな!」 「解っておる。我は自分の身は自分で守れる」 「なら良いけどよぉ!」 皮肉に嗤われ…閻魔は苦笑する そんな可愛い顔なのに… やはり炎帝なのだから…。 繋いだ手を芝生の上に置き、二人は湖を見ていた 後を着いて来た輩が 「今だ!」と合図する すると二人を男達が取り囲んだ 「キャァー」 女の子が悲鳴をあげた 閻魔は立ち上がると、女の子を背中に隠した 男は…閻魔へと近づく 「閻魔大魔王!デートで御座いますか?」 「そう見えませんか?」 閻魔は悠然と答えた 「そんな安危をなさってる暇がおありとは… ご尊父は…生きておられたと…言う事ですか?」 「 建御雷神…父を襲ったのは…貴方逹ですか?」 「………カビの生えた魔界を変える為だ!」 男がそう言うと 閻魔の後ろに隠れてた…女の子が爆笑した 「…え?」 「あー腹が痛てぇぜ!」 ウィッグを取り、ドレスを脱ぎ捨てる 唇のグロスを手の甲で拭い取り 本来の姿を現す 髪が風で靡く 間違いなくその姿は…炎帝 その人だった! 魔界を追われ人の世に堕ちた だが…その姿は…魔界にいた時の… 嫌…更に力を着けて… 底知れぬ力に…男逹は…敗北を知った 炎帝は手に炎帝の刃を出して燃え上がっていた メラメラと紅蓮の焔を撒き散らし立っていた 「我が名は炎帝!」 今更…名乗らずとも…良いと思う だが名乗らぬまま真名を呼ばれれば…呪縛に合う それは避ける為に炎帝は敢えて名乗った 長いパレスの刃の先が…男逹に向けられる 男逹の後ろには… 何時来たのか…銀色の男が… 立っていた その横には… 魔界の秩序を守る青龍が… 正義の槍が…男逹の背後を狙っていた 「魔界に新しい風を…?」 バカにした様に炎帝が一笑する 「魔界に新しい風を吹き込むのは… お前逹では役者不足だ!」 破壊神…炎帝に相応しい残虐な笑みを浮かべ 「昔 天魔戦争で疲れ果てた神々が…力を持ちより作った傀儡、それがオレだ! このオレを倒さねば改革など夢のまた夢に終わるぜ! 宇迦御魂に伝えろよ! 魔界が手に欲しいなら、炎帝を倒しに来い!とよぉ!」 「宇迦御魂様の手に掛かったら…お前など…!」 「ほほう!楽しみにしてんぜ! 宇迦御魂に伝えに行けよ! 逃がしてやるからよぉ! ほら早く行けよ!」 炎帝は逃げて行く男逹を追う事なく眺めていた 青龍が炎帝の側へ行くと、その体を優しく抱き締めた 「素敵でしたよ!奥さん。」 優しい愛で炎帝を包む 優しい愛で腕で…全身で! 青龍が炎帝を抱き締めて…この世に繋ぎ止める この愛があれば… オレは生きて行ける この愛を失ったら… 考えるだけで怖い 炎帝は身震いして…青龍に縋り着いた 「さぁ、閻魔の屋敷に戻りますよ!」 「おう!アイツ等は宇迦御魂の所へ駆け付けて、炎帝の存在を知るだろ! それで良い!向こうが出るなら、こっちは迎え撃つだけだ!」 「ええ。それは君だけの仕事ではないですよ!」 青龍は炎帝の肩を抱き歩き出す 「炎帝、役者が参りましたよ!」 青龍が素戔男 尊が閻魔の家へ向かって来るのを確かめて炎帝へ告げる 「おう!役者が全部揃ったな」 炎帝は素戔男 尊に瞳を向け 九曜海路が描き上げた絵図を思い浮かべた 欠かせない…役者 それが全員揃った 九曜海路の描いた絵図に乗った事となる 「叔父貴!」 炎帝が声を掛けると素戔男 尊が気付き、嗤った 「炎帝よ!久しいの!」 素戔男 尊が炎帝の側へ寄り…炎帝を抱き締めた 「我が姉には…もう逢われたのか?」 素戔男 尊が炎帝に問い掛ける 「おう!母ちゃんにはさっき逢ったぜ!」 「炎帝!お前嫁に行くそうだな! 姉が炎帝が伴侶を得たわい!と嬉しそうに報告してくれた おめでとう!おおお!青龍殿! お逢いできて光栄です! 炎帝の伴侶になられたとか。 末長く…我が甥っ子を幸せにしてやっくれ!」 素戔男 尊は青龍に深々と頭を下げた 青龍は慌てて素戔男 尊を止めた 「お止め下され!炎帝の叔父は僕の叔父でもある! その様な方に頭を下げられては困ります! 末長く我が妻 炎帝を幸せに致します お約束致します!」 青龍は素戔男 に約束した 素戔男 は青龍の嘘偽りのない瞳を受け 清々しく笑った 「さてと、我が息子の粛正に当たるとするか! 我は子と共に逝く所存である!」 「叔父貴、逝くのはまだ早ぇぜ!」 素戔男 の胸をポンッと叩き 「帰るぜ!話はそれからだ!」 と言い、歩き出した 炎帝は素戔男 尊を共にない閻魔の屋敷に戻ってきた 応接間に向かい、ソファーに腰を下ろすと 「海路、素戔男 尊、叔父だ!」 と九曜海路に紹介した 紹介を受け、九曜海路は素戔男 尊へと向き直った 「九曜が一柱に御座います!」 素戔男 尊は…噂でしか知らぬ九曜神を目にして 「素戔男 尊です」と頭を下げた 「九曜神、初のお目通りが、この様な場所で済まぬな!」 「いいえ…閻魔の邸宅を…この様な場所だとは思わないので…構いません!」 九曜海路は苦笑した 一仕事終えた炎帝はテーブルに並べられた料理を黙々と食べ 青龍は優雅にお茶をしていた このカップルには…緊張感と言うものは存在しないのか… 赤龍や黒龍、地龍、転輪聖王や朱雀、玄武、白虎も炎帝にならえで… 寛いでいた 閻魔は苦笑した 素戔男 は転輪聖王を見ると側へと座った 「久しいの聖王!」 「あぁ…素戔男 久しぶりだな」 「人の世に堕ちて…人となったとか…」 「恋しや御方のお側に…仕えたくてな」 転輪聖王は優しい慈愛の眼差しで炎帝を見た 「お主は…我が息子の噂は耳にしていたのか?」 「この前…魔界に戻った時には…聞こえていたな」 「そうか…噂とは…当事者や…家族の回りで…されるのだな… 我が知ったのは…最近の事だ… その頃には…もう我が子の消息すら掴めはせん 情けない…話だ…」 素戔男 は心の内を…旧友に話して聞かせた ガツガツ料理を食べて満腹になると、青龍に口を拭いて貰い 紅茶を口にした 「叔父貴、オレが生まれた日を覚えるかよ?」 突拍子もない事を言われ… 素戔男 は息を詰めた しーんと静まり返った部屋に… バタバタと足音が響いた 建御雷神が怪我を治癒して、戻って来たのだった そして息子を見付けると駆け寄った 「炎帝!!来ておったのか!!」 炎帝に駆け寄り抱き締める 炎帝は迷惑そうな顔をして… 父に抱き締められていた 一頻り息子を抱き締めた後に、やっとその横の青龍に気付き 「青龍殿!我が息子!よくぞ来てくださった! 炎帝を妻に貰い受けて戴けると言うからの、挙式の準備やらに追われておったのじゃ!」 やる気満々の建御雷神 は、青龍の肩をバシバシ叩き、興奮冷めやらぬ喜びを露にした 「父ちゃん、今はそれどころの騒ぎじゃねぇもんよ!」 「知っておる!」 「知ってるなら黙れ!」 炎帝は威嚇して父を睨み付けた 建御雷神はへでもない顔をして 「素戔男 に息子を討たせるな!」 と、釘を刺した 「ならオレが…跡形もなく昇華してやっても良いぞ!」 「炎帝!」 「父ちゃん!息子を人に討たせる方が酷だと…オレは想うぜ!」 「炎帝…」 建御雷神は言葉を失った どちらも正論だ… どちらも…親なれば…思う気持ちは一緒だ 素戔男 は建御雷神 に向き直り 「息子は我が討つ! 誰の手もなく…我が…ケツを拭く それが親としての情けだと…目を瞑って下され!」と頭を下げた 建御雷神は…義理の弟であり 旧友を抱き締めた 転輪聖王も二人を抱き締めた この三人は…共に闘い…共に生きた盟友なのだ 今は天照大神の 夫となった建御雷神 天照大神の弟の素戔男 尊 今は人の世に堕ちた転輪聖王 この三人は天魔戦争で共に闘い…共に生き残った盟友なのだ 3人は固く分かち合う様に抱き締めあっていた 「友よ!ならば我も逝くとしようか!」 建御雷神は笑って素戔男 の背中を叩いた 「俺も入れろよ!我が友よ!」 転輪聖王が二人の背中を叩く 素戔男 が建御雷神と転輪聖王を肩を抱き締めた 「共に在ろう…友よ!」 時は移ろえど…変わらぬ友がいる 変わらぬ友情が在る 友情を分かち合う そんな様子を尻目に… 炎帝は青龍の膝の上で… 寝ていた 転輪聖王は…「誠…憎らしい人よ…」と呟いた 転輪聖王が一途に愛を捧げる…その人は 炎帝だった 炎帝とどうにかなりたい… そんなんではない 何時までも見守っていたいのだ 素戔男 は転輪聖王の胸をポンッと叩いた 建御雷神も…転輪聖王の肩を叩いた 転輪聖王は「起きなさい炎帝!」と意地悪く声かけた 「腹が膨れたら…眠くなる!」 ふぁ~ と、青龍の膝から降りて伸びをする その様まで…猫のように靭やかだ 「果報は寝て待て…そうだろ海路?」 「ええ。そろそろ頃合いかと…」 九曜海路は背筋がゾッとする程の笑みを浮かべ 果てを見ていた 「叔父貴、そろそろ来るってよ!」 誰か… とは言わない 宇迦御魂…素戔男 尊の息子 古い血筋を誰よりも嫌い 魔界に新しい風を吹き込もうと… 立ち上がった、反乱軍の首謀者だ 「1000人来ようが10000人来ようが オレには叶わねぇ… 魔界の集大成、魔界の力、それが炎帝!オレだ!」 天魔戦争で…闘いに疲れ脅えた神々が… 天使の襲来を恐れ…作り出したのが… 炎帝 その人なのだ 血肉を与え その器に…神々の力を与えた 神々の最大の力を分け与えた そして造られた…傀儡 その力 想像に及ばぬ 神の…意思に反した…禁断の魔物 叶う輩など皆無に等しい 一度暴走を始めたら…誰にも止められぬ 魔界を救う為に産み出した傀儡に 魔界が追い詰められた 制御…しようなど…愚かな考えに… 神々は…己の…愚かさを知った だが、今は 青龍と言うストッパーを得て 炎帝は生まれ変わった 神々は…許されはしない罪は…背負って 炎帝を見ていた 建御雷神は誰よりも我が子を愛した 天照大神も誰よりも我が子を愛した 自分達が…この世に送り出したのだから… 誰よりも愛すべき存在だと… 受け止め…見守って来たのだ 「何か…早々たる顔触ればかりじゃねぇかよ!」 不意に声がかかり振り向くと そこには雅龍が立っていた 炎帝は笑顔になり雅龍に振り向いた 「雅龍!元気かよ?」 雅龍と呼ばれた金色の髪をライオンの鬣の様に揺らした男は、炎帝に深々と頭を下げた 「炎帝、久し振りに御座います!」 「夏海は元気かよ?」 「ええ。我が子を授かりました… こっちがハラハラする位元気に飛び回っております!」 「そうか。ならば今度神楽の家に伝えに言ってやろう!」 炎帝の言葉に…九曜海路は 「神楽…?」と疑問を唱えた 「祓い魔 神楽の一族は消えちゃいねぇぜ! 脈々と受け継がれて来たのを配置してやったんだよ!」 成る程…と九曜海路は納得した あの力が…受け継がれて行くのなら…消える事はないか… 「で、雅龍、用は何だよ?」 話は終わったとばかりに雅龍へと話をふる 雅龍は「青龍が父、金龍に頼まれて来たんだよ!」と告げた 青龍は「我が父は…大丈夫なのですか?」と心配そうに問いかけた 「金龍は……」 「我が父は?」 「ピンピンしておいでですよ!」 「………!」 心配して損した…と青龍は心のうちで…ケッと毒づいた 殺して死なぬ…強者なのを…忘れていた 「で、用件は?」 「滞在中に妻を連れて遊びに来い…との事です…」 「我が妻を見せるのは勿体ない!」 青龍は、ケッと炎帝を抱き締めた 「雅龍、必ずや伺うと、金龍に伝えてくれ!」 と、炎帝が雅龍に声を掛けた 「解りました!必ずや伝えます!」 雅龍は深々と頭を下げて外に出ようとした が、炎帝に「雅龍…」と名を呼ばれた 「はい。」 「おめぇ…外には出れねぇわ」 「え?……何故?」 「何故ならな…この場は…戦となるからだ! 今 出れば…ひとたまりもねぇぜ!」 炎帝は立ち上がると首をコキコキ動かした 「雅龍、闘え!」 「え~」 「龍ならば尻尾を巻いて逃げるでない!」 青龍が雅龍に渇を入れる! 蒼い妖炎を立ち込めて…青龍が吠える 雅龍は諦めて…戦闘体勢に入った 「薮蛇…だわ…」 その台詞を聞いて 「元々…蛇やんけ!」 と、炎帝は笑い飛ばした 「「「「「我等は由緒正しき龍です!」」」」」 四龍の兄弟と雅龍のハーモニーが響き渡った 炎帝は笑って、妖炎を立ち上がらせた 素戔男 を見て 「叔父貴、斬るな!」と釘を刺した 「え?…」 「ケツは拭け!だが斬るな!」 「斬ってはなりませぬか?」 「昇華はオレの仕事だぜ! 適材適所配置するがオレの役目 違えれば…叔父貴でも斬るぜ!」 「解りました…でもケツは拭きます!」 素戔男 尊は銛に近い槍を出した 「我は魔界の集大成! 我に叶うモノなど存在せぬわ!」 炎帝は破壊神の如く嗤い吐き捨てた 「あ~雑いお前が触ると壊れるもんな」と赤龍が揶揄して台詞を吐いた 何があっても 何者であっても 変わりはしない 赤龍の想いだった 何となく…炎帝の台詞を聞いて行けば… 炎帝の存在は…神々が創りし存在なのだと伺える 転輪聖王は 「貴方は青龍を得た…青龍を越えて…行けますか?」と尋ねた 「弥勒、愚問だ! オレは青龍を越えて逝く気がねぇんだよ 逝くなら共に逝く! 1秒足りとて離れたくないのだからな!」 「それで、宜しい それでこそ我等の願いだ…」 炎帝が炎帝でいられる存在理由 炎帝がストッパーを得た その意味の重さを誰よりも喜び 誰よりも…哀しんだのは… 転輪聖王…彼の他にいない 愛すべき…炎帝の幸せこそが… 生きる支えなのだ 転輪聖王は慈愛の笑みを浮かべ 「我も逝く…炎帝、我の最後は約束通り見届けて下され!」 「弥勒!てめぇは早ぇよ! んとによぉ、ジジィって奴は先に急ぎたがる」と笑った 子供の様な顔に…弥勒の胸が痛み出す 「さてと、行くするか!」 まるで遊びに行くかの様に声をかけられる 「炎帝!総ては我の絵図の通りに!」 九曜海路が炎帝へ言葉を贈る 「おう!おめぇの絵図の上を描いてやんよ!」 そう言い、ふと考えて…ニヤッと嗤う 「でもな…多少の脱線はあるかもな」 炎帝が言うと黒龍が 「そうそう。炎帝だからな」と肩を抱いた 赤龍も「炎帝はどっちに転ぶか…解らねぇからな」と笑い横に並んだ 青龍が「どっちに転んでも起き上がれば同じ…と納得の人ですからね」と言い炎帝に手を差し出した 炎帝はその手のを取り手の甲に口付けた 「独身が…虚しくなりますね」と地龍が溢す 「地龍、憧れのマドンナはどうしたよ?」 言われ肩を竦めた 「愛しのあの子は…蒼い堅物がお好きのようで…失恋でした…」 憎っくき恋敵が…兄では…叶いはしない 「悪りぃな!蒼いのはオレのもんだからよぉ!」 「解ってますよ。僕の失恋などお気になさらずに…」 地龍は寂しそうに…呟いた 「宇迦御魂は何処で道を逸れたんだ?」 高名な父を持ち…サラブレッドの血筋を持つ 魔界でも一目置かれる家柄に生まれ 何処で道を誤ったのか… 炎帝は…考えを飛ばした それを引き受けて話をしたのは…閻魔 雷帝その人だった 「宇迦御魂は…貧しき者に耳を傾け 庶民に近い生き方をなさる人でしたよ」 「ほほう。情け深いのに…神々には半殺しの目に遭わすのか…複雑だな」 皮肉って言う 素戔男 は炎帝に 「倅は…貴族制度に異議を唱えていた」 「貴族制度?あんだよ…それは?」 炎帝がいた頃は…そんな制度なんぞ聞いた事もない 「そもそも…貴族って何なんだよ?」 炎帝の質問に父、建御雷神 か答えた 「貴族制度と言うモノは正式なモノではない だが、近来…庶民との差を計る…者が多く出て…貴族制度なるものを作り出した 血統と…身分を…嵩に着ている者が… 増えたのは確かだ…」 「へえ~ならオレ以上の血統の持ち主は魔界広しと言えど…いねぇよな? 海路、広めておいたくれたのかよ?」 「ええ。貴方の噂は…この魔界で知らないモノはいないでしょうね」 魔界へ還れば…嫌でも解る…と康太は言った そう言う事か…と榊原は納得した 「禁断の魔方陣を描いて創りし化け物の噂は知らぬものはおらぬ所となったか! それで良い!オレに叶うモノなど存在してはならぬのだからな!」 炎帝は悠然とした足取りで歩き出した その後に青龍が続き、赤龍、黒龍、地龍が続いた 朱雀も玄武も白虎も後を続き 外へと向かう 建御雷神は雅龍の肩を抱き、外へと向かう 素戔男 と転輪聖王も共に外へと向かって 歩いて行った

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