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第21話 魔界編 魔界の行く末

青龍の支度が終わると炎帝は立ち上がった 「閻魔の所へ行くとするか!」 と、炎帝に言われ出向こうとした その時、玄関がノックされた 青龍は玄関に行くとドアを開けた 夏生が来たのかと想っていたら、そこには… 閻魔と金龍…建御雷神が立っていた 青龍の顔を見ると、父の金龍が 「青龍、お主の所は食べ物が何もない と、想いお連れしに参った!」 と、声をかけて来た 閻魔も青龍に 「今後も此処で過ごされるのか?」と尋ねた 「………皆さん、入られますか?」 と、青龍が困って言うと… 炎帝が横から顔を出した 「親父殿、兄者…あにしに来たんだよ?」 「炎帝、これからは詰めて行かねばならぬ事も出て来る 住居を変えられては…と想って…来ました 此処では食事もご用意出来ませよ?」 閻魔が炎帝に言う 「何処で住めって言うんだよ?」 「お前の家は今も健在…戻って参れ」 閻魔に言われ…炎帝は青龍を見上げた 「では移り住みますか! その前に我が妻に朝食を食べさせて下さいね 昨夜から何も食べさせず…かなりハードな営みをしましたから。」 青龍は住む所など気にするにも値しない…とばかりに、さらっと際どい事を言ってのけた 「支度は出来てます。 もう出られます。」 と、青龍は炎帝を促して玄関を出た 外に出ると青龍は 「僕達の着替えとか…お願いします 久方ぶりの魔界ですので、僕達は着替えすらありません」 青龍が言うと金龍は 「おお!後で用意する! お前の着替えは、炎帝の部屋に運ばせよう」 と、約束した 建御雷神も 「炎帝の服はそのまま残っておる 好きなのを着ると良い また兄が用意してくれるだろ」 と、約束した 炎帝は「なら行くかんな!」と空腹を隠せず、青龍を見上げた 気怠げに…艶を帯び、青龍に甘える炎帝は… 目にした事のない生き物になっていた 何だか…綺麗になっている そして何より…艶っぽい 青龍を見上げる瞳は… キラキラと艶を帯び… 何だか…危険 金龍…はいたたまれない気分になった 建御雷神も…何だか…居心地が悪い 閻魔はしれっとして 「では、行きますよ!」と、さっさと背を向け閻魔本来の馬に乗って…帰って行った 青龍は炎帝を腕に抱き 「閻魔の邸宅に向かいます」と述べた 金龍と建御雷神は 「おお!待っておるぞ!」と馬に乗り一足先に帰って行った 青龍は炎帝を見た 「馬に乗れますか…」 気不味そうに…炎帝に問い掛ける 昨夜は…歯止めがきかなかった… 酷使した体躯で、乗馬は…キツいかも 炎帝は笑って 「大丈夫だかんな! キレてねぇからな、乗れるだろ?」とさらっと言い、天馬の背に乗った 青龍も風馬の背に乗ると、夏生がやって来た 「炎帝、僕は閻魔の邸宅に飛んで行きます」と言い白鳥に姿を変え飛んで行った 炎帝と青龍は、閻魔の邸宅へ向かって走った 青龍の家から、閻魔の邸宅は少し距離があった 龍は湖の近くに住居を構え 古来の神々は中心部に住居を構えた 此処から毎日通う事は出来なくはないが… 何かあった時には駆け付けるのは少し時間が掛かる だから移れと…閻魔達は来たのだ 閻魔の邸宅に到着すると、黒龍が二人を待ち構えていた 「青龍、お前の服は取り敢えず用意出来たモノは炎帝の部屋に入れておいたぜ!」 青龍は兄に「ありがとうございます」と頭を下げた 「先に着替えに行けよ! 青龍の役務服も持って来た それに着替えて、職務に就くと良い」 「解りました。 炎帝、先に君の家に行きましょう」 と、先に着替えに行く事を告げた 炎帝の家は、閻魔の邸宅の横に在る 閻魔の邸宅の右側には建御雷神の家が 閻魔の邸宅の左側には炎帝の家が建っていた 青龍はその家に… 1度だけ入った あの…人の世に堕ちる前の晩 炎帝の部屋のベッドで…愛し合った 最後に青龍に抱かれ…炎帝は人の世に堕ちて行った あの日に…入った部屋だった 炎帝は青龍の手を取った 「僕を君の家に連れて行って下さい」 青龍にそう言われ炎帝は歩き出す もう二度と…あの部屋には… 帰る事はないと想っていた なのに…青龍と二人で還れるなんて… 閻魔の邸宅から少し歩くと、炎帝の家が見えた 炎帝はドアを開け、家に入った 炎帝の家は綺麗に掃除され調度品で溢れていた あの日、青龍が招かれて入った時のままの部屋だった 「もう一度、この部屋に入れるなんて想いもしませんでした…」 想わず…青龍が本音を溢す 炎帝は何も言わず… ずんずんと歩いて行く 寝室のドアを開けると、そこには青龍の服が運び込まれ クローゼットに掛けられていた 黒龍の仕事ならクローゼットに掛けてシワ1つなく片付けるだろう事を炎帝は知っていた 「青龍、着替えろよ」 そう言いクローゼットを開ける炎帝を抱き締めた 「着替える前に、君を抱き締めさせて…」 炎帝は青龍を見上げ…その胸に飛び込んだ 「青龍…この部屋で…1度だけ… それがオレの願いだった」 「これからは何時も僕が側にいます」 炎帝は青龍の背に縋り着き…何度も頷いた 「このまま…君を押し倒してしまいそうです…」 炎帝を手にすれば…性欲は尽きぬ 「それをしたら…黒龍が怒り出すかんな」 炎帝は笑った 青龍は炎帝を離し、服を脱がせた 服を脱がせ、炎帝の職務服を手に取り、着替えさせて行く 炎帝の支度が終わると、青龍は服を脱ぎ、惜しみもなく全裸を炎帝に見せ、職務服に着替えた 青龍の引き締まった体躯に、ストイックな魔界の規律を着て行く 炎帝は…青龍をじっと見つめていた 着替えが終わると青龍は笑って炎帝に手を差し出した 「食事を取りに行きますか!」 「おう!腹ペコだ…」 青龍の手を取り炎帝は嗤う 二人は仲良く手を繋ぎ、炎帝の家を後にした 閻魔の邸宅に向かい、食堂へ向かう 食堂には黒龍や赤龍、地龍…そして金龍も朝食を食べていた 炎帝はその前の席に座ると、青龍が食事を取りに行った 「よぉ!黒龍!悪かったな」 「良いって事よ!」 旧知の友は笑ってさらっと答えた 青龍が炎帝の食事を運ぶと炎帝は青龍を見上げた 「食べて良いですよ」 言われ食事に飛び付く ガツガツ食べ始める炎帝を他所に、青龍は静かに食事を始めた 時々、炎帝の口を拭ってやり、青龍は食事する 魔界にいた頃の青龍とは全く違っていた ガツガツ一心不乱に食事をして、腹が膨れると、炎帝はやっと満足で、紅茶を啜った 青龍がせっせと後片付けをする 濡れたタオルを手にして戻ると、炎帝の顔を拭いた 綺麗に炎帝の顔を拭き、良いですよとチュッとキスを落とす 熱々のカップルだった 金龍はせっせと炎帝の世話を焼く… 我が息子を見ていた 建御雷神は炎帝が食べ散らかした後片付けをする青龍に 「青龍殿…そのままで構わぬ…」と恐縮した 働き者の青龍は、綺麗に炎帝も回りも拭きあげて行く 青龍にやらせてしまって…建御雷神はいたたまれない気分だった 人の世に堕ちても…その乱雑な食事は変わらぬか… 建御雷神は苦笑した 黒龍は青龍に気を使う建御雷神に 「気にしなくて良いですよ建御雷神 我が弟は…青龍がいなきゃ生きれない程ズブズブに甘やかしているだけですから!」 と、言い放った 流石…兄 的確な所を突いて来る…と、青龍は苦笑した そう言われると……言葉もない 炎帝は食事を終えると、もう既に戦闘体勢に入っていた 唇の端を吊り上げ皮肉に嗤うと閻魔に 「根回しはしたのかよ?」と尋ねた 「はい。魔界大集会が行われる事は伝令で各地区に伝えておいた 理由なく参加せぬ者は魔界追放 と警告文を着けて、代表者に伝令しておきなさいと伝えました」 「そうか。なら知らぬ者はいない筈だよな?」 「多分…ですが、詳細の詰めは、お前がいねば詰められはせん」 「ならば、飯を食ったら主要な要職の奴を呼べよ そこで打ち合わせをしようぜ!」 炎帝はそう言い嗤った 頭を揃えて、魔界大集会を絶対のモノにすべく動く 逆らう者は魔界には不要 絶対の統制 絶対の絆 絶対の秩序 絶対の存在 絶対の恐怖 人を束ねるのはそれらの要素の1つが欠けても…機能しなくなる 「では要職にある神々を閻魔の庁の大法廷に呼び出しておこう そこで詳細を詰めて行くと良い」 「兄者…」 「何だ?」 「詳細詰める前に…波乱が起きるぜ?」 「仕方あるまい。 改革の前には…既成事実が必要だ」 炎帝は閻魔の言い方に爆笑した 「なら料理するしかねぇな!」 炎帝はそう言い閻魔を見た 閻魔は何も言わず…微笑んでいた 無風の食堂に、炎帝の髪がゆらゆら靡く 炎帝は天を仰いだ 「弥勒、オレの上に勝機を呼べ!」 莫大な勝機を呼べ 絶対に負けぬ 此処で揺らげば明日の魔界は築けない 『呼ばぬともお前は引き寄せているではないか』 天空から声がする 「それでもな足らねぇんだよ!」 『ならば!限界までお前に勝機を送り続けよう』 炎帝は「それ良いな」と不敵に嗤った 食事を終えると、炎帝は閻魔の邸宅から然程遠くない所に在る 閻魔の庁と言う、罪人を裁いたり 魔界の代表者が集まり会議を開く場所へ向かった 人の世で言うなら、裁判所と国会を合わせた様な機関だった 閻魔の庁の一番大きい大法廷室へ 魔界の代表者が集められ 裁判や会議を開く 魔界には古来の神々の血を引く神々や 大陸から渡って来た龍族を始めとする四龍や四神 魔族や眷族、下等魔族(餓鬼、畜生) 鬼族など色んな種族の集まりだった その神々や魔族、諸々の種族の頭に立つのは、閻魔大魔王、その人だった 閻魔は中央の玉座に座り、会議が始まるのを待っていた 閻魔の右には炎帝が座っていた 大法廷に入って来たものは… 炎帝の存在に気づき、息を飲んだ 皆…一様に… 何故??? 何故…炎帝が? と言う疑問が浮かんでいた 炎帝の…噂は魔界を駆け巡っていた 古来の神々が集まり、能力を分け与え創りし傀儡 神々の…能力を総て内に秘めた… 莫大な力を持つ…炎帝 大法廷に入って来た代表者は…息を飲み… 炎帝を見ていた 炎帝は…どこ吹く風と… とばかりに…唇の端を吊り上げて不敵に嗤っていた 青龍は朱雀や白虎、玄武達と四神の席に座り 赤龍は父金龍や黒龍、地龍達、龍族の席に座っていた 建御雷神、転輪聖王は閻魔と対峙する側の席に座り 素戔男 尊も座っていた 貴族と呼ばれし代表者は… 炎帝の存在が気に入らず 五智如来は阿弥陀が代表で出てきていた 「魔界大集会についての代表者会議を始める!」 閻魔はそう言い、カンカンと木槌で会議の開始の合図をした すると…貴族と謂われ勢力を伸ばして来ている古来の神々より古い血を持つ一族が不愉快な顔をしていた 天之御中主神 を初めとする国之常立神、 豊雲野神他の神々は…ざわざわと騒ぎ出した その時、「閻魔大魔王に問おう!」と声が響き渡った 閻魔は悠然と構え 「言ってみろ?」と嗤った 聞きたい事など百も承知 閻魔は残忍な笑みを浮かべ、声の主 天神を見た 「何故…人の世に落とされた炎帝がいるので御座いますか?」 「我が弟がいてはならぬか?」 「人の世に落とした意味がない! そうやってうやむやにして炎帝を戻すつもりだったので御座いますか?」 「そう…だと言ったら?」 「だから抹消…しなかった?」 「天神、そもそも炎帝を抹消など出来ぬであろうて!」 閻魔はそう言い高笑いした 「神々の力を持ち寄り創られし存在 その力…世界を破壊する力なり…と謳われる力を持つ炎帝を消す事など…誰も出来ぬ!」 「ならば!何故…人の世に落とされたのですか?」 「魔界には置けぬと言ったから、人の世に落とした」 「その炎帝が… 何故…魔界にいるので御座いますか?」 天神は…息を飲んだ 炎帝が天神を見ていたから…だ。 「オレがいてはまずいか?天神?」 炎帝が天神に問い掛ける 「炎帝様…貴方の真意は?」 何処にある? 「天神、オレは魔界の掃除に来たんだよ 魔界を一掃する!その為だけに来たんだよ!」 強大な力が…言わずとも知れる こんなに力を…秘めていたか? 天神は…炎帝を見て その莫大な力の前に…何も言えなくなった 「炎帝様、貴方の眼に、この魔界はどう映っておいでですか?」 天神は問い掛けた 掃除に来たと言うのなら… これ程に適材はいない 今の炎帝ならば…絶対の存在に君臨するであろう ……敵に回すより…同調するが…策だと踏んだ 「天神、オレがいねぇ間に貴族制度なるものが出来たんだってな?」 「ええ。貴方の血を汲む伊邪那岐神、伊邪那美神の血より古くある神々の力を汲む神々が自分達の存在を確実にしようと…出来た制度で御座います」 「この魔界に貴族制度など不要! 魔界大集会で宣告する! 今後一切、貴族など名乗る者は処刑する 貧民格差?笑わせるな! 貴族と名乗る奴に同じ魔界の者を見下す権利などないわ!」 炎帝は言い捨てた 天之御中主神は立ち上がった 「我等は尊重される存在! お前等…古来の神々の存在よりも古い我等が何故…軽んじられる?」 「誰も軽んじてなどおらぬ!」 炎帝は言い放った 「天之御中主神、貴方は貴族制度に胡座をかき…端下の者を蹂躙し、ゴミの様に捨てる輩はご存知ないのか? そう言う貴族制度の歪んだ先にいる輩が…魔族を貶めているのをご存知か?」 言われ…天之御中主神は息を飲んだ 「オレが人の世に堕ちてる間に…魔界は変わったな 貴族制度?笑っちまったぜ! 貴族制度など、この魔界には不要 名乗りたいなら魔界を半分やるからよぉ 出て行けば良い! その代わり出て行ったら2度と再びこの地は踏めぬと思え! オレが結界を張る!その上に転輪聖王が張り…オレのスワンが張る やってみるかよ?」 炎帝の後ろに控える…スワンに目が行く 聖なる妖炎を撒き散らし…控える存在 半端な力などではないのは、その妖炎を見れば一目瞭然 天之御中主神は 「何故!我等が出て行かねばならぬ!」と激怒した 理不尽だ そんな理不尽な要求など 一切聞く気などない! 「この魔界を仕切るは閻魔の務め! この魔界で絶対的な存在は、お前等じゃねぇよ 炎帝!このオレだからな!」 メラメラ紅い妖炎を撒き散らし…炎帝が嗤う お前等は黙ってろ! と、言われたも同然の台詞だった 「我等に消えろと申すか…」 わなわなと震え天之御中主神が怒る 「ハッキリ言って邪魔だ! 力もねぇ癖して、血や系図に縋り着き… 哀れな奴等だと、オレは想ってる!」 火に油を注ぎ…爆発を待つ 「己…傀儡の癖して…偉そうに!!」 わなわなと怒りに震え 炎帝を、睨み付けた 許せん… 許せん… 許して堪るか!! 天之御中主神は炎帝目掛けて 衝覇を飛ばした 炎帝は悠然と構えていた だが衝覇が来る前に…抱き締められた それを受け止めたのは… 青龍だった 天之御中主神が炎帝目掛けて…投げ付けるのを見越して 青龍は動いた 炎帝を庇い、青龍は蒼い妖炎を立ち上げ 衝覇を撃破した 炎帝に手を出すなんて…許さない! 青龍は怒りに任せて 「我が妻 炎帝に手出しは無用にお願い致します」 と言い放った 天之御中主神の覇道を意図も簡単に消し去り 青龍が吠えた 寡黙で四神の1人に名を連ねる青龍 その青龍が怒りを露にして吠えていた 天之御中主神が「……妻…?」と呟いた 青龍は声高らかに 「我が妻は未来永劫 炎帝唯1人!」と宣言した 閻魔が「我が弟は青龍と言う夫を得た!」と惚けて言った 「我が妻に刃を向けるなら…一族総勢、黙ってはおらぬ!」 青龍が言い放つと 朱雀も「我等四神も祝福した!水を指すなら…黙ってはおらぬ!」と嗤った 転輪聖王は天之御中主神の前に出ると 「お前は魔界の者総てを敵に回して生きていられるのか?」と揶揄した 「炎帝の力を…軽んじるな 炎帝の人気を軽んじるな! 軽んじれば、自分に降りかかる火の粉となる」 と、釘を刺した わなわなと天之御中主神はうち震えた 何故…この様な目に我らが合うのだ… 魔界の為に生きてきた 魔界の再生に心血を注ぎ…造り上げて来た なのに何故? 我等一族は…崇め奉られない?? 「もう大丈夫だ」 炎帝は青龍の手を離した 青龍は炎帝を離し、自分の席に戻った 炎帝は、青龍が席に着くのを目で追った後に 「貴族制度は廃止する この魔界に貴族制度など不要! 異存はねぇな?」 と、何もなかったかの様に言い放った 誰も異存など唱える者など… いなかった 天之御中主神は床に…崩れ落ちた 「天之御中主神、お前等の血筋は重んじてやる だけど、その血筋の上に胡座をかくな! この魔界の為に動け! 魔界に国境も身分もねぇんだよ! 魔界に生きる者総て、役割分担が在るんだよ お前等はお前等の得意分野を担って魔界を支えろ!」 炎帝の言葉は正論だ… だが…我等の血筋の方が古いのに…何故… 閻魔の血筋がのさばる? それが許せなかった 胡座をかいていた…と言えば…胡座をかいていた 身分をひけらかして…いなかった…とは言えない 天之御中主神は立ち上がると…炎帝に深々と頭を下げた 「総て飲ませて戴きますので…一族の者はお救い下さい」 炎帝に刃を向けた…自分は仕方ない だけど…一族の者は…無害にお願いします と、天之御中主神は謝罪を述べた 「天之御中主神、席につけ! おめぇには働いて貰わねぇと困んだよ! 処分なんて勿体ねぇ事するかよ! 貴族制度は泣いてくれ! 魔界には不要だ! それで良いな!」 「はい。それで構いません」 「なら席に着せ! 阿弥陀、どうだったよ?」 炎帝はもう終わったと、話を阿弥陀にふった 「炎帝、本眼で覗き込んだが…見えては来なかった 我は…それが逆に怖く想います 我が覗いて…見えぬ事などない! それが本意が…全く見えては来ません」 阿弥陀は憔悴していた 何度も何度も、本眼で探ろうとも… 何も見えては来ない 阿弥陀は宝生の所まで行くと、総てを話した 総て話して…事の顛末をどう思う? と、問い質した 宝生如来は唖然として… 「ごめん…話が全く見えない…」と謝った 自分の性智…が悪用されていた? サブリミナル? 嘘…冗談なら止めてよ 平等の性知は…悪用される為に唱えている訳ではないのだ… 阿弥陀は「宝生も何も知らぬ状態で…我が…混乱しております」と正直に述べた 炎帝は天之御中主神を見た 「天之、どう思うよ?おめぇはよぉ?」 「正義の元に…と言う大義名分 その旗の下に集まりし、共に戦う同志 意識は高まり、闘争本能に火をつけ扇いでやれば…暴動と化す そこに更に誰かが意図的な…油を注いでやれば、暴動は絶対の正義とすり替え走り出す サブリミナル…と言うか、意図的な要素を添えてやれば、活動力となり、それを信じて…進んでしまいます 多分それが真実に御座います」 「誰が…それを添えたと思う?」 「中にいる者でしょう? 中にいれば、コントロールもしやすい」 「だな。やはりお前は策士の才がある」 え?と天之御中主神は炎帝の顔を見た 「九曜神が、絵図を描いた その中に、お前がどっちに転ぶか…それで 決まるとな!」 炎帝はそう言い笑った 総て…見えていて絵図に組み込まれていたと言うのか? しかも…姿すら…見たものなどない九曜神… それを使ったと言うのか? 改めて…炎帝の怖さを知った 「素戔男 、宇迦御魂を呼べよ!」 炎帝が言うと素戔男 は 「倅1人ですか?」と問い質した 「仲間達も込みだ!」 「解りました!」 と言い素戔男 は出て行った 炎帝は素戔男 が出て行くと、天之御中主神に 「お前の使命だ!見抜いて取り締まれ!」 と、使命を与えた 「…………え?……」 天之御中主神が炎帝を見る 「お前は本来見極めるが天性 策士も脱帽のその眼で見抜いて行け! それがお前のポジションだ!」 天之御中主神は、はっ!と炎帝に言うと身を引き締めた 閻魔は嗤っていた この短時間に、炎帝の先制攻撃に呑まれ大法廷にいる者は… 言葉を失っていた 炎帝の得意とするマジック 戦意喪失させ、適材適所配置する それこそが炎帝の本来の得意とする分野だった もう大法廷にいる誰も…異議など唱える者はいなかった より鮮烈な先制攻撃を! そして飲み込み、懐柔する 後はもう炎帝の独壇場になる 炎帝は大法廷の会場を見回した 毒気を抜かれた顔をした魔族が…唖然と座っていた 「兄者、宇迦御魂達が来たら、事の真相を明らかにして、処分を下すべき魔族が炙り出される…と言う訳だ 兄者はそれを処分して、魔界大集会へ繋げば良い」 「炎帝、見事な掃除ぶりだ!」 閻魔が言うと閻魔は笑った 「兄者、掃除は我が夫青龍が得意! オレは散らかす方だかんな怒られてばかりだ」 「……炎帝…」 閻魔も…すっかり毒気を抜かれた 「黒龍!連れて来い!」 炎帝は友に声をかけた 黒龍は「あいよ!」と立ち上がり、大法廷を後にした 炎帝は閻魔の横に座ったまま 呪文を唱えた 無風の大法廷に風が吹き… 炎帝の髪を靡かせた 時空が… グニャッと歪み… 裂けて行く 転輪聖王が驚いた顔で…炎帝を見た 炎帝はそんな転輪聖王を一瞥し嗤った 転輪聖王には炎帝が何をするか… 解っていた 激しい風が吹きすさび、大法廷の中を吹き抜けて行く テーブルの上に置いた…書類が吹き飛び 騒然となった それでも炎帝は怯む事なく 唱え続けた すると時空の割れ目から… 誰も見た事のない…神々が…神々しい光を撒き散らし… 降りてきた 時空の裂け目から…姿を現したのは 黄泉国の八雷神だった 今はもう… 魔界でも伝説になりし…神 その生息は…掴めず 伊耶那岐が冥土を渡った時に消滅したと言われる…八雷神 大雷 (オオイカヅチ)伊耶那岐の頭 火の雷 (ホノイカヅチ)伊耶那岐の胸 黒雷 (クロイカヅチ)伊耶那岐の腹 析雷 (サクイカヅチ)伊耶那岐の陰部 若雷 (ワカイカヅチ)伊耶那岐の左手 土雷 (ツチイカヅチ)伊耶那岐の右手 鳴雷 (ナルイカヅチ)伊耶那岐の右足 伏雷 (フスイカヅチ)伊耶那岐の左足 死する伊耶那岐の体躯に生息し…共に冥土に渡ったとされる八雷神 それが何故… 炎帝の手によって…今 この魔界に再び… 堕ちて来ようとは… 誰も思いはしなかった 大法廷にいる皆は…固唾を飲み込んで 事態を見ていた 魔界の地に呼び出された八雷神は 大雷 (オオイカヅチ)炎帝の頭 火の雷 (ホノイカヅチ)炎帝の胸 黒雷 (クロイカヅチ)炎帝の腹 析雷 (サクイカヅチ)炎帝の陰部 若雷 (ワカイカヅチ)炎帝の左手 土雷 (ツチイカヅチ)炎帝の右手 鳴雷 (ナルイカヅチ)炎帝の右足 伏雷 (フスイカヅチ)炎帝の左足 に収まり搦まった まるでそこに…伊耶那岐が在るが如く纏わり着く八雷神が在った 「この神は伊耶那岐と共に冥土に渡り消えた神だ」 炎帝は八雷神を身に纏い嗤った そんな事は大法廷にいる神々は…嫌と言う程解っている 「オレの骨格は伊耶那岐の骨で出来てるからな、八雷神が仕えるのはあたりめぇだよな毘沙門天」 誰もが…その場に毘沙門天がいるとは想いもしなかった え??? まさか… そんな想いで…炎帝を見た 炎帝の横には毘沙門天が立っていた 滅多と姿を現さぬ神 十二天が一柱、毘沙門天の姿を拝めるのは稀 それ程…毘沙門天の存在は絶対であり…神ですら姿を掴めぬ存在だった 毘沙門天は炎帝の横に立ち 「ええ。炎帝。貴方の骨格は伊耶那岐の骨を拾い上げ創った その骨格に建御雷神と天照大神の血肉を受け継ぎ、神々の力を分け与え、この世に産み出した…存在! 八雷神が炎帝に仕えるのは当然の事かと!」 毘沙門天は炎帝に深々と頭を下げた 「八雷神はオレの変わりに大法廷の番人にならせる! オレが還るまで、総ての不正を許す気はねぇんだよ!」 炎帝は言い捨てると、毘沙門天は高笑いした 「許さずともよい! 炎帝、お前が還るまでは、十二天も介入し見張っててやろう!」 「良いのかよ?」 「今更だ!お前の体躯の中には… 俺の心臓の一部が動いてるであろう」 炎帝は毘沙門天を見た 「そう。オレの心臓はおめぇの分け与えし一部だったな」 毘沙門天は艶然と嗤うと大法廷の出席者を見た 「我ら十二天は炎帝を支持してこれからも逝く! 我らは誰にも仕える気はない! 我らは共に在る者の為にだけに在る!」 毘沙門天は宣誓した 十二天の支持を得たも同然の台詞だった 十二天 日天 月天 帝釈天 火天 閻魔天 羅 刹天 水天 風天 毘沙 門天 伊舎那天 梵天 地 天 これ等の神は常に古来の神と共に在った存在だった 天魔戦争で共に闘い魔界を護り、魔界の絶対的地位を手に入れ絶対的存在となった だが近来、古来の神々と距離を取り 魔界から姿を消し去り その姿を目にするモノは…誰もいなくなった 何時しか…十二天の存在は公の場から姿を消し 消え去った…神の仲間に入れられていた 「俺等も、本領発揮せねばな、過去の異物にしかなりはせぬ!」 「だな…毘沙門天、おめぇは…人の世を見守るのに忙しくてよぉ~ 魔界に目を向けてなかったもんな」 炎帝は笑った 「我等十二天は魔界を離れ過ぎていた 何時しか…存在さえ掴めぬ神になってしまっていたとはな!」 毘沙門天は笑い飛ばした 「おう!そのままじゃ、伝記しか残らねぇぞ!」 炎帝の声に奮起する 伝記になんかなってたまるか! 毘沙門天は豪快に笑い飛ばし 「我等は過去の異物ではない!」 と、豪語した 「我等十二天は今も健在!」 今まで…存在すら掴めず 姿すら見た事もなく… 健在と言う 炎帝は話を添えてやる 「十二天は混沌とした乱世の日本に根付き 平安の世を導こうと人の世に在ろうとしている」 大法廷からざわめきが聞こえた 「我等十二天は魔界の絶対的存在で在った筈だ! 今後も魔界で絶対的存在で在ろうと姿を現した!」 毘沙門天が声高らかに宣誓する 「十二天は今後も変わらぬ魔界の功労者 でもな存在せぬのなら消えて行く神の一員なってしまうんだぜ?」 「今後は炎帝の変わりに魔界に目を光らせておく事にする! 日替わりで我等十二天は魔界に身を置く事にした!」 「それが良い! そう言えば十二天って消えた神だよな? なんて言われねぇ様にしねぇとな!」 炎帝は嗤った 毘沙門天は炎帝の肩に手を置き 「炎帝…それはちとキツい一撃過ぎるわ」 と、嘆いた 「おめぇらが姿を現さねぇのがいけねぇんじゃねぇかよ?」 「そうだが…魔界がこんなに荒れようとは…想いもしなかったからな…」 毘沙門天は苦笑した 「人の世が荒れ狂えば…魔界もその影響を受けている 天界も影響を受けて、混沌とした影を落として行く 総ては繋がりし理なり!」 毘沙門天は炎帝の首に縋り着き、抱き締めた 「共に逝く我の一部よ! もうちと穏便な言葉をくれ…」 「なら、宇迦御魂をお前に預ける それで、穏便に済ませてやんよ!」 「……………それって…思いっきり仕事していけと言ってる?」 「言ってる」 「あ~!お前はそう言う奴だよな!」 毘沙門天は一頻り炎帝になつき、顔を上げた 「なら、宇迦御魂は俺が引き取り、聴取するとするか!」 毘沙門天は肩をコキコキと動かした 「共に在れ!十二天!」 炎帝は毘沙門天に声をかけた 毘沙門天はそれを受け取り、皮肉に唇の端を吊り上げた 「当たり前の事を言うな! 俺の心臓の一部がおめぇにあると言う事は おめぇが死す時、我等も逝くと言う事なんだぜ!」 炎帝は笑った 「解ってたら良い さくさく働け!毘沙門天!」 十二天も古来の神々に賛同して… 禁断の魔方陣を引いて…絶対のモノを生み出す事に賛同した 壊れ逝く炎帝を見ていた 暴走する炎帝を…見ていた 我々…神は…罪を犯したのか… 取り返しのつかぬ現実が目の前に在った 十二天は… その現実から…目をそらし 距離を置き… 魔界から離れた まさか…日本の地で… 炎帝に出逢おうとは想ってもいなかった 中身の何も詰まっていない傀儡 それが炎帝だった 神々が力や体躯の一部を持ちより創りし傀儡 危うい均衡の上に炎帝はいた それを見届ける事から避けて… 人の世の神に収まった その人の世で…炎帝を目にした 魔界にいた頃と… 全く違う炎帝がいた 青龍と言う伴侶を得て、中身を詰めて 愛を知り…菩薩の如く慈愛に満ち 阿修羅の如く強靭になっていた まさか…人の世で炎帝を見ようとは思っていなかった十二天は…驚愕の出来事だった 十二天の鼻っ柱をべし折り 在るべきカタチに変えたのは炎帝だった 以来、十二天は炎帝と共に在った これからも十二天は炎帝と共に在る それが誇らしく、絶対の絆となっていた 「では、さくさく行くとするか! 魔界大集会の成功を誰よりも十二天はお祈りしております!」 「おう!絶対に失敗は許されねぇかんな!」 大法廷に宇迦御魂達が連れて来られる姿を見ると、毘沙門天は炎帝から離れた 「では、一仕事して参る! んとに人使いが荒い奴だ!」 毘沙門天は愚痴りながら…宇迦御魂達の側へ行った 途中、転輪聖王の姿を見ると 「こき使われに行ってくるぜ!」と挨拶した 「仕方在るまい…炎帝だからな…」 転輪聖王は苦笑した 「またな聖王!人の世で逢おうぜ!」 「おう!人の世でな! その前にさくさく動かねぇと蹴り飛ばされるぜ!」 転輪聖王の言葉に 「容赦ねぇ奴だからな! 蹴り飛ばされる前に行くとするか!」 愚痴を溢し、転輪聖王に手をあげ 出口から消えて行った 「天之御中主神!」 炎帝が名を呼ぶと「はい!」と立ち上がった 「おめぇも毘沙門天と共に行き、宇迦御魂達の本質を見抜いて来いよ! おめぇと毘沙門天が合わされば、見えねぇ事は何もねぇだろ?」 天之御中主神は「はい。」と返事をして毘沙門天の側へと行った 共に闘った…友だった 近来…疎遠になり…話もしなかった 懐かしく…血が騒ぐ 天之御中主神は毘沙門天と共に大法廷を後にした その姿を見送り、炎帝は閻魔に 「話し合いは終わりだ!」と告げた 閻魔はそれを受け 「これにて大法廷での会議は終わります!」 と、木槌で終了の合図を出した 3時間ちょっとの長きの会議が終了した 閻魔は炎帝に 「この後、どうなさる気ですか?」 と、問い掛けた 「ん?疲れたからな寝てくる! 毘沙門天は兄者の家に来るだろうからな それまでは休んで来るかんな!」 と、言い立ち上がった 炎帝が立ち上がると青龍が側に来て、腰を抱いた 「行きますか?」 青龍が優しく炎帝に問い掛ける その声は甘く優しく…艶を含んでいた 「おう!オレの家まで行くとするかんな!」 「ええ。お供しますよ」 炎帝と青龍はそう言い大法廷を後にした 黒龍は閻魔の側に行き 「絶対に休めねぇぜ!」と爆笑した 「黒龍…言うんじゃありません…」 閻魔が苦笑する 「大人しくしてる弟じゃねぇからな…」 黒龍が愚痴る 「あの二人の恋仲を邪魔すると天馬と風馬に蹴られますよ!」 「邪魔なんてするかよ! あの!青龍が本気で貫く恋路を邪魔するかよ!」 「君…また別れたんですか?」 「閻魔…おめぇとの付き合い終わらせてぇか?」 「君とは終わる仲じゃないでしょ?」 閻魔は笑った 「ちくしょう!兄弟して俺を虐めやがって!」 黒龍は閻魔の首を軽く絞めた 閻魔は笑ってその手を握り締めた

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