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第22話 魔界編 休息 ①
炎帝と青龍は閻魔の庁の大法廷を後にして
炎帝の家へと向かった
炎帝が家の玄関を開けようとすると、青龍に阻まれた
「え?…」
炎帝が青龍を見上げると、青龍はドアを開けた
炎帝を部屋に促す
部屋に入りドアを閉めると青龍は炎帝を抱き上げた
「奥さん、寝室までお連れしますよ!」
優しく微笑まれ、炎帝はポッと赤くなった
何だか…恥ずかしい
スマートな仕種にドキドキする
慣れているのに…こんな時の青龍の仕種に…ドキドキが止まらなかった
「本当に君は可愛いですね」
頬を染める炎帝の姿に、青龍の胸は熱くなる
愛しい
こんなにも愛しい存在は
この先絶対に見付からないだろう
愛して止まない炎帝と共に逝くと決めた
亡くしたら生きては逝けない
青龍は炎帝の寝室まで行くと
「ドアを開けて下さい、奥さん」
と、ドアを開けてと頼んだ
炎帝は寝室のドアを開けた
青龍は炎帝を抱き上げたまま寝室に入ると
ベッドの上に炎帝を、そっと置いた
炎帝の目の前で青龍が服を脱ぐ
「青龍…」
犯るの?
とは…聞けなかった
「炎帝、時間が惜しいので君も脱いで…」
自分で脱げと…青龍は言う
炎帝は自分の服に手をかけ…脱ぎ始めた
このベッドで…
一度きり青龍と繋がった
最後に一度
その願いを青龍は聞いてくれ
寝てくれたのだ
柔らかいベッドの上で
初めて青龍に抱かれた
当時を思い出し…
炎帝は知らないうちに…涙していた
ボタンを外す炎帝の手に
ポタンっと滴が零れる
青龍は炎帝の顎をあげた
その瞳は濡れて…綺麗な滴を流していた
「炎帝、愛してます」
「青龍…」
青龍の逞しい裸体を見上げる
青龍は炎帝の服に手を掛けると脱がし始めた
青龍の手で…脱がされ一糸纏わぬ姿になる
青龍は炎帝をベッドに寝かせると体躯を重ねた
「青龍の想いは伝えましたよね?」
炎帝は頷いた
「ならば、炎帝、君の想いを聞かせて」
聞かせて…と言いつつ青龍は貪る接吻をする
ぷくっと立ち上がった乳首を摘ままれ…弄られると…快感に翻弄される
「オレも…青龍を想って…一人でしてた…」
青龍の指を思い出し…
体躯をなぞった
青龍が触ってくれた場所は特別に想えて…
触るだけで…イケた
「僕を、想って?」
炎帝は頷いた
「青龍だけを想って…した」
「どんな風に?」
言われ、炎帝は乳首を摘まんだ
捏ね回し…喘いだ
そして手は…叢を掻き分け勃ち上がった性器に触れた
「ねぇ…後ろには触らないの?」
耳の穴に舌を挿し込み舐めながら囁く
「挿れてねぇ…」
「なんで?」
「…………青龍だけの場所だから…」
その感覚を自分の手で…掻き回したくなかった
青龍だけがくれる快感の場所
そこに触れ…指を挿し込み掻き回したら…
青龍が欲しくなる
欲しいからと言って求められる相手じゃない
気が向いた時しか…抱いてもらえない
何時も抱いてもらえる訳じゃない
だから…そこには触れない
そこは青龍だけの場所
青龍にだけ捧げた…場所たから…
「僕だけの場所なの?」
「青龍だけの場所…
触れば欲しくなる…だけど気が向かなきゃ…抱いてもらえない…
だから…触らない…」
衝撃だった
炎帝の想いが痛すぎて…
青龍は胸を押さえた
「なら何時も…僕が触った場所を触り…扱いてイッたの?」
炎帝は頷いた
「青龍が触ってくれた…
そう思えばオレはイケた」
「欲しがったらダメだと…想ったの?」
「欲しがって手に入る相手じゃねぇからな…」
儚げに笑う炎帝に接吻した
「僕達は本当に不器用だったんですね…」
こんなにも君を傷着けていたなんて…
「青龍…」
欲情した瞳が青龍を貫く
青龍は炎帝を強く抱き締めた
炎帝も青龍の背を抱き締めた
互いの想いが…浸透して行く
こんなにも想い合っていたのに…
想いは重なっていたのに
擦れ違っていた
もう擦れ違ったりしない!
絶対に離さない!!
「炎帝、君だけを生涯愛します!」
真摯な瞳で貫かれ…愛を感じる
青龍の精一杯の愛を感じる
「オレも未来永劫青龍だけを愛す!」
後はもう止まらなかった
同じ過ちは2度と繰り返しはしない
愛する炎帝を
愛する青龍を
手離さない
そんな想いが…拍車をかける
貪り合う接吻に夢中になって求め合った
嚥下出来ない唾液が…溢れて炎帝の喉を濡らした
指は炎帝の乳首を捏ね回し…舐めた
執拗に乳首を吸う
指はもう先に進んで叢に聳え立つ肉棒を捉えていた
一度だけ体躯を繋げたベッドの上で…
搦まり縺れ合い、愛を確かめる
炎帝は青龍の手を掴むと、足を開き奥へと導いた
戦慄く穴に、青龍の指が触れると…炎帝は身震いした
そこはもう先走りが流れ、滴って濡れていた
「ねぇ…触って…」
「触って欲しいんですか?」
炎帝は頷いた
「君が望めば、僕は何だって聞いてあげてるでしょ?」
指を挿し込み、中を掻き回すと炎帝は身震いをした
「ぁはん…イイっ…ねぇ…ねぇ…」
腰を動かして奥へと誘う
だけど中々奥へと挿れてくれなくて腰がうねる
炎帝の指が青龍の股間に伸びるのを、やんわり阻止して青龍は炎帝の中を掻き回して鳴かせた
「青龍…青龍…ねがっ…ねぇ…」
炎帝の瞳が涙が溢れだし…
青龍は頬に口付けを落とした
「どうして欲しいんですか?」
「挿れて…青龍ので掻き回して…」
青龍は体躯を起こすと、炎帝の脚を抱えた
腰に巻き付かせ戦慄くお尻の穴に、性器の先端を押し付けた
「これが欲しいんですか?」
「そう…意地悪すんな…」
涙目で睨まれて…青龍は炎帝の中へと挿し込んだ
ゆっくり身を沈め…炎帝の腸壁を掻き分ける
「あぁ…あぁん…キツい…ぅん…」
何度挿入しても…この圧迫感はなくならない
苦しい
でも…
それだけじゃない
苦しい先に快感が生まれてくる
「青龍…あぁん…ぁはんっ…んっ…」
炎帝は汗で濡れた青龍の背中を掻き抱いた
汗で滑るその背を抱き締め
キスをねだった
青龍は炎帝の唇にキスを落とし抽挿を早めた
ギシッ ギシッ
ベッドが軋む
パンッ
パンッ
青龍が打ち付ける音が鳴り響く
「青龍…ぁぁ…青龍…愛してる…」
炎帝は魘された様に青龍を愛してると言い
縋り着いた
胸の中に擦り寄る愛しい炎帝を抱き締め
青龍は抽挿を早めた
「イキます…ぁ…くっ…炎帝…一緒に…」
噛みつく様な接吻を受け…
決定的な刺激を受けて…
炎帝 は青龍の腹に…射精した
青龍も炎帝の奥深くに滾る熱を飛ばした
炎帝は身震いしてその熱を受け止めた
フルマラソンで走った程の汗を滴らせ…
炎帝に青龍は重なった
「愛してます…炎帝」
ドックン…
ドックン…
脈打つ肉棒の熱さに腸壁が止まらない
炎帝は青龍の頭を抱え接吻した
「愛してる…青龍
お前だけを、愛してる」
炎帝はそう言い、青龍に背を抱き締めた
指が白くなるまで強く…強く
離したくないとばかりに炎帝が縋り着く
青龍の汗が炎帝の上に落ちて流れ行く
愛しい
これ以上愛せない…と思った先から愛が生まれる
果てしない愛が生まれる
「僕の命は君が握ってなさい!」
共に…
共に生きて
共に死ぬ
死した後も共に在ろう
炎帝…久遠の恋人よ
青龍…未来永劫離さない…
二人は何時までも抱き合い
求めあった
淫靡な喘ぎが何時までも部屋に響き渡っていた
炎帝は全裸のままベッドに突っ伏していた
寝そべり…気怠そうに青龍を見ていた
青龍はそんな炎帝を抱き寄せ
「立てますか?」
と、問い掛けた
「ん。大丈夫だと思う」
「君の記憶を塗り替えれるなら…
塗り替えて…幸せな記憶だけあげれれば良いのに…」
青龍はそう言い…哀しそうに笑った
「オレは今幸せだ
だからそれで良い
お前が側にいてくれれば
オレは誰よりも幸せだ」
「ずっと側にいます
君を離す気はありません
死しても君を離す気なんてない
共に在りましょう炎帝」
炎帝の瞳が揺らいで…
何度も何度も頷いた
「支度をしますか?」
そろそろ毘沙門天がやって来るかも知れない
「おう!支度をする」
離したくない気持ちは大きい
だが魔界での炎帝の存在は絶対でなくてはならない
絶対的な存在
そこに炎帝は君臨する
それを支えるのは青龍、自分で在る
青龍は立ち上がると炎帝を抱き上げた
「青龍…今のオレは大きい
無理しなくて良い…」
心配そうな瞳に、笑ってキスを落とす
「大丈夫ですよ!
君を抱き上げられないのなら…
僕は修行のし直しをせねばなりませんね!」
炎帝は青龍の首に腕を回した
「何処にも行くな…
オレを置いて行くな…」
「行きませんよ!
君を置いてなんか勿体ない」
青龍は笑いながら、炎帝に中庭に出れるドアを開けさせた
青龍は炎帝を抱き上げたまま、中庭にある入浴場へ向かった
今 暫くの戦士の休息
青龍は誰よりも炎帝を甘やかし
休ませてあげたかった
浴場で体内の精液を掻き出し、体躯を洗う
大人しく洗われる炎帝が、鼻に泡を着けていた
青龍は笑って炎帝の鼻の泡を取った
「ん?」
鼻の泡を取られ炎帝は青龍を見た
「泡が着いてたんですよ」
「ん…気持ち良い…」
青龍の手に擦り擦りと、擦り寄る
無意識に誘ってると言う自覚はない
だから厄介だと…青龍は苦笑した
「オレも洗ってやんよ」
炎帝も体躯を洗いたがり、青龍は身を任せた
せっせと青龍の体躯を洗う
「今日はサービスが良いですね」
「オレは何時もサービスしてるぜ!」
炎帝が子供の様な顔をして笑う
「もぉ良いですよ
二人でお湯に浸かりましょう」
「ん。」
泡を落とし、湯殿に入る
炎帝の家の浴場はヨーロピアン風の浴場で、人間界の様な浴室ではなかった
中庭に大理石の石が敷き詰められて造られた浴場が在った
女神の像から湯が沸き出して、湯殿を常に満たしていた
何処から見ても豪華な趣を醸し出していた
大人の男が二人入ってもまだまだ余裕がある浴場で湯に浸かった
トロッとした顔をして炎帝が青龍を見る
その顔…反則ですよ
内心で想い
「出ますか?」と、問い掛けた
赤く艶めいた炎帝は情事の後の気怠さを秘めて美味しそうで…
危険だった
湯殿から出ると拭くものが用意されていた
この屋敷には仕える者がいて…
姿は表さないが、主の為に用意して行くのだ
青龍は拭くものを手にすると炎帝を拭いた
キスマークが散らばる素肌を拭いて行く
炎帝を拭くと青龍も体躯を拭き
部屋に戻った
部屋に戻ると綺麗にリネンが整えられていた
そして、テーブルの上にはお茶が用意されていた
炎帝と青龍はソファーに腰掛け、用意されたお茶を飲んだ
「着替えますか?」
「おう!着替えるとするか!」
炎帝が立ち上がると、青龍も立ち上がりクローゼットのドアを開いた
どの服を着せようか…思案する
人の世で着ていた服ではなく、魔界で炎帝が着ていた服にする
服の中から1着の服に目を止めた
その服は…初めて炎帝をこのベッドで抱いた日の服だった
クローゼットの中から見付けると、青龍はその服を着せた
「この服…」
炎帝が呟く
「ええ。このベッドの上で初めて君を抱いた日の服ですね」
覚えていてくれるとは…思いもしなかった
青龍は炎帝を抱き締め、離すと着替えを始めた
黒龍が用意してくれた服を適当に選び、袖を通した
支度が整うと、青龍は炎帝を促し
閻魔の邸宅に向かった
閻魔の邸宅に向かうと、転輪聖王が門の前に立ち待っていた
転輪聖王は炎帝の姿を見ると
「毘沙門天が待っている」と告げた
「大分待たせてるのかよ?」
「嫌、少し前に来られた
そんなには待ってはおらぬ」
スタスタと歩きながら、邸宅の中に入って行く
応接間のドアを開き、中に入ると毘沙門天が炎帝を待っていた
「待たせたな毘沙門天!」
炎帝がそう言うと、毘沙門天は
「旦那殿の相手をなさってたとか…」と揶揄した
俺は大変な想いをして働いて来たのによぉ~
と言うのが毘沙門天の想いだった
「許せ、毘沙門天。
魔界では青龍とは恋人同士ではなかったからな…
色々と確かめ合う時間が必要だった」
「許してますよ!
でも少しだけ文句を言わせろよ!」
毘沙門天は豪快に笑った
人の世で初めて逢った炎帝は魔界で見た破壊神には程遠い存在になっていた
神で在る事の意味を…飛鳥井康太に叩き直された
神で在る事に疲れていた
この混沌とした世の中に…光を見いだせずにいた
そんな時に…人の世に堕ちた炎帝…
飛鳥井康太に逢った
飛鳥井康太は言った
「お前等は神で在る自分に傲っているから
真実が見えてねぇんだよ!」と。
神として人を見守りし存在の自分達に投げ掛けられた言葉に…
十二天は激怒した
魔界で消せなかったのなら…何処で消しても同じ
と、飛鳥井康太を消し去る算段をした
馬鹿にするのも大概にしろ!
十二天は飛鳥井康太を消し去るつもりだった
どうせ、人の世に落とされた存在
軽視していたのは否めない
だが、人の世に在っても、絶対の力を秘めている炎帝には、歯が立たなかった
魔界におられた頃より強靭になられた
その力…莫大な力を秘めコントロールされていた
消し去るだけの化け物ではなかった
それで知る炎帝の真実
破壊神として魔界に身を置いていた炎帝の空虚が推し量られた
創るだけ創って…中身を詰める者がいなかった
誰も教えなかった
暴走する炎帝に手を焼くだけで
誰も向き合わなかった
炎帝の果てしない孤独を…
埋めたのは青龍だった
空っぽの炎帝に中身を詰めて、愛で満たした
そして絶対の愛を受け、炎帝は絶対の存在になっていた
曲がらぬ軸を一本得て、揺らぎない存在になっていた
十二天はその鼻っ柱を折られ…目醒めた想いで一杯だった
その時から一緒に在ろう!と誓いを立てた
炎帝が呼ぶ時、我等十二天は何処へでも駆け付ける
約束を交わした
共に在ろう!
炎帝はそう言葉を投げ掛けた
共に在る存在だろうが!と飛鳥井康太は言った
蹴り飛ばされ、酷使され、それでも共に在る自分が誇らしかった
だから、大法廷に炎帝に呼ばれ駆け付けた
魔界での自分達の存在は皆無なのは知っていた
過去の異物に成り果てているのも知っていた
だが今更…魔界に顔を出したとて、相手にされる訳でもない
諦めの境地…だった
だが今回炎帝がチャンスをくれた
魔界と共に在る
炎帝と共に在る
と、宣誓出来た
魔界に還れるチャンスを得たも同然の権利だった
「で、どうなったんだよ?」
炎帝は足を組み毘沙門天に問い掛けた
「聖の神(ひじり)をご存知か?」
「宇迦御の従兄弟のか?」
「そうです。彼が総てを招いた」
「…報われぬ事ばかり聖の神はあったからな…」
やはり総てを見ていたか…と、毘沙門天は訝る瞳を炎帝に向けた
総て見ているなら、自分で動けば早いのに…
炎帝は人を介して動かせる
「俺は訳が解らねぇ!
全部話しやがれ!炎帝よぉ!」
毘沙門天は怒りを露に、炎帝を睨んだ
「聖の神は叔父貴の孫だ
叔父貴の家系はとにかく子供も孫も子沢山なだけあって多い
素戔男 尊の直径となるとな、熾烈な跡目争いとかも出て来ると言う訳よ」
「跡目争い?
素戔男 殿はまだ健在なのに?」
「素戔男 尊と言う絶対の存在がいればな
その後ろ楯が欲しいと想うのは当たり前だろ?」
魔界での絶対的存在 素戔男 尊
彼の威名も功績も魔界の者は知らぬ者などいない
そんな彼が後ろ楯になる
「あ…そう言う事か…
だが、素戔男 尊の直径孫子は宇迦御魂だろ?
宇迦御魂を操り何を企む?」
「宇迦御魂は曲がらねぇ
日々、共に在ろうと言う心構えなら親父の血を一番に受けている
唆すにはチョロい…経験値不足は否めない
失脚させて信頼も総て喪えば、取り入る事も容易くなる…そんな所だろ?」
「聖の神は…素戔男 尊の後ろ楯が欲しいのか?」
「違う…素戔男 尊…血族の終焉
誰よりも血を憎んでるのは…アイツだよ」
毘沙門天は息を飲んだ
血を…憎んでる???
自分の産まれし存在を憎んでいるのか?
「炎帝よ…俺の頭は考える事を拒否ってる
もっと詳しく、分かりやすく話してくれ」
毘沙門天が泣き言を言うと炎帝は笑った
「だから、素戔男 の直径同士で潰し合いをしてんだよ
聖の神は…優しすぎてな…潰され踏みにじられた
それだけならな…まだ堪えたさ…あの男は
愛する女を…奪われ子も奪われた…
絶望と失望が聖の神を動かしてる
もろとも…絶えてしまえと…願ってるのは…
聖の神だ」
「愛する女と子を奪われた…?
それは殺された…と言う事ですか?」
「違う。略奪愛だ…権力を嵩に奪われたんだよ」
「妻が了承したのですか?」
「了承せずとも…連れ去り自分のモノにすれば良い
既成事実を作って…繋ぎ止めれば良い」
「どうやって?」
「妻の身内を盾にすれば、妻は命乞いするしかねぇよな?」
「…………っ!!!」
あまりの汚さに…毘沙門天は唇を噛んだ
「そうやって潰して行くんだ
頭など出さぬ様にな打って行って
自分が絶対の存在になろうとしてる奴がいると言う事だ!」
「それが真実か?」
「あぁ…オレは素戔男 の家系には手は出す気はねぇ
叔父貴の家に手を出したら…母ちゃんを苦しめる事になる
それは避けてぇんだよ…でもな放ってもおけねぇ
だからな素戔男 尊本人が見れば良いんだよ
己の系図がどんだけ歪んでいるのか…知る機会だった
どの道、避けて通れる道じゃねぇ
中が腐れば表に出るしかねぇんだからよぉ」
炎帝は最初から自分は出る気はなかったのだ
だからこそ、最初から素戔男 尊を呼び出し、その目で親族の実態を知らしめる事を選ばせた
事は、宇迦御魂だけに非ず
………と、言う事だった
同席した閻魔と建御雷神は言葉を失った
まさか…素戔男 尊を出したのには、そんな深い事実が隠されていようとは…
思いもしなかったからだ…
「その席に叔父貴はいたのか?」
「はい。黙って総てを見届けておられました」
「酷な事をしたな…だが、素戔男 尊…
叔父貴が総てを知らねば…収束はしねぇだろ?
そのうち殺し合いとかし出す前に手を打たねぇとな」
炎帝は眉を顰め…呟いた
「殺し合い…?まさか??」
「まさか…で終われば良いけどな
神である存在に胡座をかけば、己を知らねぇ奴が出来てしまう
富みと権力を手に入れれば…この世界を手に入れたも同然と、見果てぬ栄光に目が眩む
そう言う輩は、邪魔物は消す事しか思い付かねぇよ」
まさか…信じられない話だった
煩悩など在ってはならぬ神の世の話ではなかった
「力を手に入れた一族の末路だ…仕方がねぇ
特別な存在、絶対的な存在
そう言う魔界での立場が自分のモノになると…
勘違いしてる輩が多すぎるんだよ
叔父貴が冥土に渡って…崩御した後
その総てを自分の手に入れば、魔界での絶対的立場、総てが手に入る
んな訳ねぇのによぉ…勘違いしてる奴等が多すぎると言う事だ!」
炎帝はフンっと鼻を鳴らし嗤った
「兄者、魔界は実力主義にしねぇとな
その権力欲しさに、蜜に集る愚か者ばかり増やす事となる!」
炎帝の言葉を受け閻魔は
「実力主義にするには基準とか決めないと曖昧になりますよ?
不正が蔓延る原因にもなります」
「それは兄者が頑張って改革して行くしかねぇじゃんかよぉ~」
炎帝はそう言い笑った
閻魔は溜め息を着き
「お前が還って来るまで待ってます!」
と、返した
魔界の絶対的存在がいればこそ成り立つ改革であって
炎帝なくして成り立つとは思えなかったから…だ。
「今回、でけぇ足跡を着けて行ってやるからよぉ!
少しの間は平穏な世が来るかも知れねぇけどよぉ
でも、それも改革なくしては始まらねぇと言う事だ!」
「解ってますよ。
下拵えは得意なのでしておきます
料理はお前が得意分野でしょ?
兄は準備万端整えておくのが得意
総てはお前が還って来てからで良い」
閻魔は1歩も引く気はない
炎帝は肩を竦めて
「兄者はそう言う奴だよな!」
と、笑った
「総てはお前の想うままに…」
微笑み弟に贈る言葉
炎帝と言う存在を欠いて、この先改革は不可能だと言う事実が物語る
「親父殿、素戔男 尊を呼んでくれねぇか?」
炎帝に声かけられ建御雷神は
「今直ぐにか?」と問い掛けた
「毘沙門天が魔界にいる間にな目処を立ててぇんだ!」
建御雷神は立ち上がると部屋から出て行った
「兄者、魔界大集会は予定通り、明後日開けるのかよ?」
「明日総ての準備に着手して万端になる」
「ならば、もう後には引けねぇよな?」
「元より引く気などない」
閻魔の台詞に、炎帝は笑った
「今宵は晩餐の席に着くがよい」
「今宵は黒龍が飲もうぜと、オレの家に襲撃をかけるからな無理だぜ!」
「兄より黒龍を取りますか?」
「兄者は妻と水入らずで仲良くしてろよ」
「我も宴に乱入して飲み明かすか!」
弟が魔界にいる間は側を離れる気は皆無だった
「魔界にいられるのも明日、明後日…迄だからな!
魔界大集会が終わると同時に還るかんな!」
「それでよい。今はお前は人の子
お前が還るまで兄は、魔界を守って見せるとする!」
「なら今宵は飲もうぜと兄者」
「お前達と共に過ごすと…危うい雰囲気が困るがな…」
閻魔は笑った
弟といられる時間は限りある
人の世に落とし、ずっと悔いを残していた
だが青龍の愛で弟は生まれ変わった
空っぽの器に青龍の愛を詰め
創り直された
遠くから…見守って来た
一時も忘れた事もない
まさか…こんな時間が持てるとは、閻魔自身思ってもいなかった
そう言えば…炎帝と飲んだ事など一度もなかった
記憶を呼び起こし…何故飲まなかったのだろうか…と後悔した
距離を取っていたつもりはない
だが、何処かで線を引いていたのかも知れない
閻魔は…弟を愛していた
何処の誰よりも愛さなければならぬ存在
として愛して来た
溺愛し、弟を見守るしか出来なかった
「毘沙門天、魔界大集会までいるのかよ?」
炎帝は毘沙門天に声を掛けた
「いいえ。今宵には人の世に降ります
魔界大集会は十二天総てが揃います
それでなくては意味がありませんから!」
「そうか。忙しいのに悪かったな」
「いいえ。我等は貴方にチャンスを貰った
そのチャンスを切っ掛けに、我等は魔界に還り在るべき存在になる
貴方がくれたチャンスですからね
無駄にする気は全くありません!」
「それなら良かった
十二天はこれからも我等と共に在る
そうだろ?毘沙門天?」
「そうです。これからも我等と共に!
我等は炎帝、貴方と共に在りたい
その思いは変わってはおりません!」
炎帝は何も言わず毘沙門天の胸を叩いた
これからも共に
こうして炎帝は自分に還し、取り込み大きくなって行く
適材適所配置し違える事はない
魔界の絶対的存在
もう代わりがいない程に炎帝の存在は確立されていた
「毘沙門天、飯だけ食ってけ!」
「はい。では食事だけ戴きましたら
人の世に降ります!」
「兄者の所の飯はめちゃくちゃ旨えぜ!」
「そう聞いたら、食べねば還れません」
毘沙門天はそう言い笑った
その時部屋とドアをノックされた
ドアの側に座っていた青龍がドアを開けると、そこには建御雷神と素戔男 尊が立っていた
素戔男 尊は建御雷神に促され部屋へと入って行った
そして、ソファーに座ると、建御雷神はその横に座った
「悪かったな叔父貴」
「………炎帝、お前は我に何をさせたいのだ?」
「叔父貴、オレが何かをさせると言うより
現実に目を向けろって事だ!
叔父貴がちゃんとしてねぇと素戔男 尊と言う名声欲しさに愚かな輩が名を汚しているぞ…と言う現実に目を向けろよ!と言いてぇんだよ」
素戔男 尊は言葉もなかった
「見てなかった訳ではない…」
「見てても何もしなかったら、見てねぇのと同じじゃねぇのかよ?」
言葉もなかった
「………では!何をすれば良いと言うのだ!
我だって何もしなかった訳ではない!」
素戔男 尊は言葉を荒らげ叫んだ
どうしょうもない事だってある
気付いた時には…
もう何も出来ない時だってある
まさに素戔男 尊はそれだった
不穏な空気を嗅ぎ取って…気付いた時には…総てが手遅れとなっていた
息子は…姿を消し…
素戔男 尊と言う名に群がる…醜聞ばかりしか耳に出来なかった
「名前と地位と名声はな、人から貰うんじゃねぇと知らねぇ奴が多すぎるんだよ
オレは手は出さねぇぜ
叔父貴の身内の事は、叔父貴が片付けねぇとな遺恨が残る…母者の為にも…オレは動いちゃならねぇだよ」
炎帝の重いが…痛かった
天照大神を想えば手は出さない
家庭の事は…家庭で片付けろ
………他は目を瞑る…と約束したも同然の言葉だった
「聖の神の件だけは動いてやる
と言うか動いてる
もうじき黒龍が聖の神の身内を含め妻も子供を解き放つ筈だ
そしたら聖の神は今回の首謀者として、処刑する」
「処刑……穏便に…ならぬのか?」
孫を想えば…憐れになる
「首謀者は撃ち盗る!それが定め!」
「………聖の神…何もしてやれなかった」
悔いだけが残る
見えてても動かなかったら…見てないのと同じだ
全くその通りだった
「聖の神の願いは1つ
家族で共にいられる事
聖の神と家族は人の世に落とす
1つの人生を終えたら、オレ等と共に還れば良い」
…………え…処刑したのでは?
人の世に落とし、家族で過ごす
それは処刑ではなく、聖の神の願いではありませんか…
素戔男 尊は自分の膝に顔を埋め…
泣いた
「聖の神の妻は、略奪されて奪われた
頭角を現してした頃に、その頭を打つ為に
妻の実家を盾に妻を自由にし子供も奪った
聖の神は、自分の命と引き換えに妻と子を解き放つつもりだった
誰よりも素戔男 尊の系図を誇りに思い生きてきた男が…
素戔男 尊の系図の終焉を望んだ
それだけ中身が腐って来てると言う事だ
後は叔父貴が軌道に乗せて粛正して行けば良い」
「炎帝…ありがとう」
震える声で素戔男 は礼を言った
「聖の神はもう姿を現さない
このまま人の世に落とす
それで良いな?」
「はい。本当にありがとうございました」
「で、この後どうするんだよ?」
「我はこの身が滅ぶ時、素戔男 尊の系図は魔界から消し去る
名声も富も返上して、冥土の旅に出る
我が死んだ後、素戔男 を名乗る事はさせぬ
素戔男 尊の名誉も名声も、我だけのもの
そう魔界大集会で宣誓を立てる
その言葉は二度と違えは出来ない
それで良い!名誉や名声は本人のもの
貰って嵩を着ても、中身がない愚か者を作るだけ!」
「叔父貴、辛い事ばかりさせて、すまねぇな」
「いや…お主のお陰で一掃出来て本望だ
近年…心を痛めていた
そして宇迦御の件だ
気付いた時には手遅れ…そればかり
もう手遅れは御免だ!布石を打つ!
もう見てるだけの愚か者にはならぬつもりだ!」
「それで良い!叔父貴が動けば軌道修正される
その後、素戔男 尊に続こうと軌跡に乗る事となる
その道歪む事なく続き続ける
宇迦御魂と聖の神が先を続ける
彼等は名声や名誉など、どうでも良い神々だ
この魔界の為に骨身を惜しまず動いてくれる筈だ」
そこまで読んで…
聖の神の姿を一旦消すのか
素戔男 は言葉もなかった
「叔父貴、聖なる輝きでまだ踏ん張ってくれ!」
「え?」
素戔男 が何事か?と炎帝を見ると
夏生が素戔男 に向けて呪文を唱えていた
銀糸で紡いだ呪文が綺麗に宙を舞う
宙を舞った銀糸が素戔男 に搦み着きキラキラと輝き
体内に吸収されて行った
「炎帝!」
明らかに体内で異変を感じる
素戔男 は炎帝を見た
「叔父貴なら、夏生の存在は誰か解るんじゃねぇのかよ?」
「解るが…在ってはならぬ存在
あの方が一番苦しむと…解るから…言わぬ」
「欠片を飛ばしたのは叔父貴だろ?」
「総てが消えてしまうのは、不本意でした
哀しみしか残らぬあの方を…総て抹消させたくはなかった
崑崙山なれば…八仙がなんとかしてくれると飛ばした
まさか…お前が持とうとはな…」
素戔男 は懐かしそうに夏生を見た
破滅しか望んでいなかった堕天使
彼は誰よりも美しく神に忠実で在った
神の使命ならその身を地に落としても貫く
その姿が綺麗で美しくて、素戔男 は共に在ろうと願った
だが神の逆鱗に触れ…抹消された
その瞬間、消え行く堕天使の欠片を飛ばした
このまま消えてしまうなんて…哀しすぎる
何時か…
何時か
貴方が本来の姿でいられる日が来ます様に
願って飛ばした
今 まさに…
素戔男 の目の前に
その願いがいた
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