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第27話 魔界編 魔界大集会②
魔界大集会が終わると炎帝はガブリエル等と共に会場を後にした
炎帝が連れて来たのは、炎帝の自宅だった
広い応接間のソファーに座って、炎帝は改めてガブリエルに頭を下げ
「本当にありがとうガブリエル」と礼を述べた
だがガブリエルはそんな事よりも真実を話せと謂う瞳をして
「さぁ聞かせて下さい」と炎帝に迫った
ガブリエルは、先の天魔戦争で滅んだ友が何故…?
その理由を聞かせて貰いたかった
「さっき壇上にいた素戔嗚尊を覚えているか?」
突拍子もなく炎帝が問う
「ええ。素戔嗚尊、覚えておりますよ」
「彼は先の天魔戦争の覇者だ」
「ええ存じてます」
ガブリエルはそう言い衣の裾を捲った
「あの剣の鋒は誰よりも知っております」
そう言い古い刀傷を見せた
刀傷はガブリエルの脇から腿に向けて一直線に斬れて傷を与えていた
「叔父貴はルシファーの直ぐ下で闘っていた
叔父貴は悲しき魂が消滅する直前に崑崙山の八仙の所に欠片を飛ばした
このまま消滅するにはあまりにも憐れで…ほんの少し…叶えられるなら…幸せだと言う想いを味合わせてやりたくて…
堕天使ルシファーが滅ぶ瞬間…欠片を飛ばしたのだ
その欠片は…10000年輝きを忘れずいた
哀しんで輝き続けた
憐れに想ってオレへ託してきた
オレはその欠片を青龍の湖で死にかけたスワンの中へ入れた
スワンは生き返り、哀しき欠片はスワンの中で生き続けている
今はオレの頭脳として人の世で生きている
オレが滅ぶ時、スワンも滅ぶ
スワンは誰にも仕えはしない
オレと共に在る!それが真実だ!」
ガブリエルは炎帝の横に座るスワンに目を向けた
スワンはガブリエルを見て懐かしいそうに、優しい微笑みを浮かべ笑っていた
こんな穏やかな顔を見れば…
今 幸せに満ち溢れているのだと解る
天界で何時も共にいた
何をやるにも一緒だった
その友が…天界を敵に回して謀反を起こした
信じられない想いと裏切られた想いに…
ガブリエルは傷付いた
だが…何故…
謀反を起こしたか理由が知りたかった
だから魔界へ降りた
素戔嗚尊の鋒に…疵付き…天界へ還った
何故…
何故?
何故!
そんな想いは常に抜けなかった
ガブリエルはスワンを見詰た
「ルシファー …」
「その名前の人物は死んでいない」
スワンはガブリエルに釘を刺した
「ボクは炎帝のスワン
それ以外になる気はない」
「君は…今 幸せですか?」
ガブリエルがそう聞くと
「ええ!ボクがボクでいられる
炎帝が作ってくれるボクの居場所は心地良いです
ボクは今が一番自然でいられる」
そう言いガブリエルに
「幸せです」と答えた
色艶良く、優しげな面立ちをして自然と笑う姿に
かっての友を思い浮かべた
「何故…地に落ちた?」
永年の疑問を…かっての友ルシファーにぶつけた
「ボクは神に取って変わるつもりなどなかった
総ては…神の御心のまま…
ボクは神の意志に1度足りとて反した事はない」
地に堕ちたのも…
堕天使に身をつい絶やしたのも?
神の意志だと…言ってるも同然の台詞だった
スワンは茶目っ気に嗤うと
「恨み言ならキリがない!」とウインクした
神の意志のままだと言うのか?
神は…
君に堕天使になれと言ったのか?
ガブリエルは瞠目する
「此処にガブリエル、君を送り込んだと言う事は
こう言う事になるのは、神は承知なんだね」
スワンは自虐的に嗤うと
「ボクはもう神の持ち物ではない
ボクは炎帝のスワン!
それ以外になる気は一切無い!」
と、ガブリエルに言い切った
「ルシファー…」
「ルシファーと言う人物は消滅した
ボクはルシファーではない」
聖なる銀の妖炎を垂れ流ししてスワンが言う
こんなに綺麗な銀の妖炎を立ちこめていたのは
天界では一人しかいない
大天使ルシファー
彼しかいない
彼のいない天界で、銀色の妖炎を立ち込める存在など皆無だ
神に愛された存在
どんな天使より神は愛した天使
「ガブリエル、天使は闇が在るから光り輝く存在だと言うのを忘れてはいけない
神は闇と光を相交える事なく切り離したかった
平和にボケる事なく精進して行け
天界を支えるのは…大天使ガブリエル……君だろ?」
神の意のまま動いた憐れな天使
だから素戔嗚尊が欠片を飛ばした事を目を瞑ったと言うのか?
その欠片が…
時を超えて炎帝が持つことになる事も承知だったのか?
スワンの瞳には精気の光が輝いていた
今は幸せだと言った
炎帝が冥土を渡る時、自分も消滅すると言った
炎帝と言う存在を得て…
ルシファーは違う存在になり
生まれ変わったと言うのか…
ガブリエルは…立ち上がるとスワンの傍まで行き
優しくスワンを抱き締めた
「君のいる魔界が未来永劫静寂に満ちます様に…」
友よ
君の人生が…
悔いなく終わります様に…
せめて祈らせて下さい
神よ
私に…彼の存在を教えて下さり
感謝します
彼がこんなに変わる事なく
存在していた
神は知っていて…
目を瞑られたのですね
哀しき魂の行く末を案じてらしたのですね
道は違えど…
想いは一つ
友よ!
何時か君と語れる日を夢見て…
私は生きて行こう
「ガブリエル!」
炎帝がガブリエルを呼んだ
ガブリエルはスワンを離して、炎帝に向き直った
「魔界に4人許可するなら行ってやっても良いけどよぉ!」
「4人…??」
「おう!オレと青龍とスワン、そして転輪聖王の4人だ」
「弥勒菩薩…か…」
「まぁ天界に菩薩など…無理だろうからな言ってみた」
天界の鉄則
【 他 】を阻む
天界に他を入れるのは前代未聞
前例がない
天界も天魔戦争の痛手で、立ち直る為に外部を拒絶して今に至る
「天界も変革期にある
神はこうなるのはお見通しで、私を魔界に寄越したのでしょう!
ならば、それは必然だと言う事だ!
近いうちに改めて伺います!」
と言いガブリエルは炎帝に深々と頭を下げた
「ならオレは見届けねぇとな!」
炎帝はそう言い笑った
子供のような顔で笑った
「天界を見届けるモノになる!
それがスワンの為になるならば!
オレは天界に行って見届けてやる!」
「天界を導いて下さい…炎帝」
「オレが動くと嵐が来んぜ!
それを承知で呼ぶんだろうな?」
「ええ。嵐を呼んで搔き回すけど、それは膿を出し浄化される事となる
貴方は浄化の神だ!
その手の刃で昇華させて下さい」
「オレの昇華は無になんぜ!」
「それは青龍を得る前の話
今の貴方は神の最期の駒だ」
「最期か知らねぇけどな
駒なのは確かだ!
オレの存在など消し去ろうとすれば一瞬で消し去ってしまえるさ」
「貴方は脅威ではないと神が仰有った
共に在れば、導く存在だと神は仰有った
なれば貴方しか出来ない事をして下さい」
「ガブリエル」
「はい!」
「天界よ永遠なれ!」
大天使ルシファーが、たった一人で地に堕ちる時に
放った言葉を拾い上げ、炎帝はガブリエルに贈った
使命を得て
たった一人で地に落ち、堕天使として生きるルシファーが最後に零した想いだった
ルシファーの想いごと炎帝はガブリエルに贈る
それを受けてガブリエルは
顔を覆って泣いた
ルシファー
ルシファー
君の想いが…
重すぎるよ
たった一人で地に堕ち
君は堕天使として生きてきた
君はどんな思いで天界を後にしたの?
君は…
ルシファーと話を終えると
「さてと、話は着いたしな!
オレ等は人の世に還るわ!」と告げた
閻魔が「もぉ還るのですか?」と、名残惜しそうに…呟いた
「オレは今人の子だ!」
飛鳥井康太として生きている
まだまだ明日の飛鳥井を築いて行かねばならない
改革の途中なのだ
明日の飛鳥井の礎になる
100年続く飛鳥井を築かねばならない
その使命で百年のみ時を超えて転生した
その使命はまだ完遂してはいない
「そうでしたね…君は今は人の子
君が還って来るまで私は魔界を護ります!」
「兄者…」
「魔界は私が護る
君は使命を果たして還ってくれば良い」
「兄者…」
「約束は果たします!
君が還って3日後、九曜海治を人の世に送り出した後に、黒龍を崑崙山へお連れする」
「頼むな…」
「ええ!君との約束を違えた事がありますか?
ないでしょ?兄は何時も君の約束は優先する
今後もそれは変わりが無い!」
閻魔として君臨するよりも
炎帝の兄として生きたかった
何よりも炎帝を優先して、炎帝の為に生きていると言っても過言ではない
雷神は…弟の背負うモノを知っていて閻魔になった
弟の荷物を減らす為だけに…
弟が産まれた日
雷神は誓った
何があっても弟を護って行くと
「兄者、大好きだ」
炎帝はそう言い閻魔に抱き着いた
「炎帝…兄はずっと待っている」
魔界を護って、炎帝が還って来るのを待っている
炎帝は何度も頷いた
それを断ち切るように…炎帝は閻魔から離れた
「ガブリエル、還るとするか!」
炎帝に言われガブリエルは立ち上がった
「そうですね。
では近いうちに連絡致します」
「おう!待ってんぜ!」
炎帝は唇の端を吊り上げ不敵に嗤った
炎帝の家の外に出ると朱雀と赤龍が待ち構えていた
「炎帝、ではまた!」
と言いガブリエルが天高く舞い上がった
炎帝はそれを見送り、赤龍に
「還るかよ?」
と、問い掛けた
赤龍は笑って
「転輪聖王は先に水神が淵には行かれた
湖には親父とお袋と黒龍と地龍が待ってる
雅龍と夏海も見送りたいと来てるぜ!」
と告げた
朱雀が炎帝の胸を叩いて
「玄武と白虎も見送りに湖に行ってる」
と告げた
「見送りなんか要らねぇのに?」
炎帝が零すと赤龍が炎帝の肩を抱いた
「そう言うな!
お前は青龍の嫁だろ?」
と揶揄した
「逝くぞ!赤いの!」
男だけど…嫁として扱ってくれる
その想いが嬉しかった
朱雀も炎帝の肩を抱き
「今回、一緒に飲むのを我慢したんだからな
次は付き合えと玄武がウルサかったぜ!
次は覚悟しとくと良いぜ!」
「……朱雀…」
「さぁ行きますよ炎帝!」
青龍が天馬と風馬を呼び準備をする
炎帝は手綱を渡され天馬を跨いだ
「じゃ!行くとするか!
兄者!見送りは良い!
向こうには沢山いるかんな!」
「あぁ!此処で見送るからよい
またな!炎帝!」
「おう!兄者!またな!」
炎帝はそう言い手綱を引いた
パカパカと駆けて行く炎帝の後を着いて青龍が走って行く
赤龍はその後を着いて走り
朱雀は飛んで行った
炎帝
我が弟よ
お前の逝く道は…
まだまだ険しい
敢えて苦境の道を逝く
我が弟よ
お前の逝く先に少しだけの平穏があります様に…
水神が淵に到着すると天馬から降りた
炎帝は天馬の頬にキスを落とし
「あと少し待ってろ!」
と告げた
天馬が『炎帝…』と涙ぐむ
「人の世は高々80に届かない
オレの寿命はそんなに長くねぇかんな
そんなに待たせねぇから良い子にして待ってろ!」
『炎帝…人の世を精一杯過ごされる事を祈っております』
悔いなく…炎帝
我が主人
貴方のいない魔界は…
淋しくて死にそうです
でも貴方が志半ばで…逝かれるのはもっと嫌です
あと少しだと言うなら待ちます
だから…
天馬はヒヒヒィーンと鳴いた
天馬から離れると、ゆったりとした歩調で転輪聖王の近くに寄った
「待たせたか弥勒?」
「全然!閻魔ともっと名残を惜しんで来ても良かったぜ!」
弥勒高徳が不敵に嗤った
「別れはこれから惜しむから少し待て!」
炎帝はそう言い金龍の傍へ行った
「金龍、ありがとう」
炎帝が言うと金龍は優しく炎帝を抱き締めた
「炎ちゃん達者で…」
「あと少しだ!待っててくれ!」
「ええ。悔いの日々を!
倅と仲良く過ごして下さい
融通の利かぬ所は…私譲りですが…
亡くせば生きては逝けません」
「本当にな殴り倒したい程の頑固だかんな!」
炎帝はそう言い笑った
「炎ちゃん、雅龍と夏海は貴方に変わって護ります」
「悪いな!面倒ばかり掛けて」
「いいえ!貴方が護る魔界の礎に私もなります
その為の布石を守るのは我の使命!」
炎帝は金龍から離れると夏海に声を掛けた
「夏海、オレは還る
お前の子供を見届け、何時か還してやる
それまでは見守ってやっくれ」
夏海は涙ぐんで炎帝を見た
「そんなに待たせる事なく逢わせてやる
お前と雅龍に凰星と煌星を逢わしてやる
待ってろ!」
「はい…真贋…」
後はもう言葉にならなかった
そんな夏海を雅龍は抱き締めた
「離すな!離せば息の根を止めるぜ!」
炎帝が雅龍に言う
「絶対に離しません!」
雅龍は力強く宣言した
二人の絆は…魔界で最初に逢った時より強くなっていた
「雅龍、夏海、達者でな!」
炎帝はそう言い雅龍と夏海の側から離れた
玄武と白虎に声を掛ける
「よぉ!玄武、白虎!」
白虎が「今回は飲めなくて残念だった」
と、本当に残念そうに言った
「あと少し待っててくれよ!
そしたら一緒に飲めるかんな!」
「では待つとする!」
白虎は炎帝を抱き締めて離した
玄武も「今回は10000年前の雪辱戦をしたのにな…」と零した
「玄武、おめぇはまだ10000年は生きるかんな!
少し居眠りしてる間にオレらは還って来る
そしたら飲み明かそうぜ!
でも幾ら飲んでもおめぇの負けだけどな!」
炎帝はそう言い楽しそうに笑った
「ザル…」
玄武は悔しそうに呟いた
何度飲み比べをしても…酒豪と有名な玄武だが炎帝にだけは負ける
それが悔しくて、何度も誘うのだ
だが何度飲んでも…玄武は負ける
「では待っておるからな!
次は負けたりはせぬ!」
「楽しみにしてんぜ!」
炎帝は玄武の胸をポンって叩いた
黒龍は静かに友を見ていた
炎帝は、その瞳に気付き側に行った
「友よ…」
炎帝が呼ぶ
「我が友よ炎帝!」
それを受けて黒龍は笑った
辛い思いをしている頃
支えて励ましたのは黒龍だった
何時も何時も、炎帝を励まし支えた
魔界の忌み嫌われ者として敬遠される中
黒龍だけは何時も変わらず側いてくれた
友情を交わして…変わらぬ愛をくれる友だった
炎帝は黒龍を抱き締めた
「辛い事をさせる…許してくれ…」
炎帝は友に謝った
炎帝達が去った3日後、黒龍は崑崙山へ行く
そこで螭の娘とまぐわい子を作る
それしか四龍の存続はないと言えど…
辛い事をさせる自覚は在った
黒龍は笑って炎帝を許していた
「良いって事よ!
それで四龍の存続が確実になるなら
俺はお前の言う通りにする
俺が違えた事なんてないだろ?
これからもそうだ!
炎帝!心の友よ!そうだろ?」
「黒龍…」
「んな顔すんな!
また何年も逢えねぇのに!
そんな顔で別れたくねぇ!」
炎帝は笑った
「んとに、お前には適わねぇな」
「またな炎帝!」
「あぁ…黒龍…またな!」
炎帝はそう言い黒龍の側を離れた
そして湖の前に立つと
「良いぞ水神!還してくれ!」
と叫んだ
水神は炎帝の側に来て、炎帝を抱き締めた
「サービスだ!
今還れば8月の終わりだ
我の寿命を少し削り8月の頭、お前が留守にしたは一週間で還してやる」
「え…水神、それは駄目だ」
「夏休みが終わってしまうぞ?」
「仕方ねぇよ!」
「白馬にお前が行かねば狂うぞ?
笙は子を成せぬぞ?それでもよいのか?」
それは困るが…
水神の寿命を削って…
「なぁに、お前が還って来て1000年生きられれば我は満足じゃ!」
「他の方法はねぇのかよ?」
「ない。そこの転輪聖王だって自分の寿命を削ってお前を還してる」
炎帝は弥勒を見た
弥勒は余分な事は言うなどばかりに、水神へ、しーっ!とやっていた
「弥勒、おめぇはよぉ自分の寿命を削って魔界に行った当日に還してくれていたのかよ?」
「気にするな!」
炎帝は気になるわ!と言い弥勒高徳の臑を蹴り上げた
弥勒は痛い!!と叫んで…
「許して……ねっ!」
と、炎帝に謝った
「今度やったら許さねぇかんな!」
「解った!もぉやらねぇ!」
「んな事して貰ってもオレは喜ばねぇぞ!」
「解ってる!それでもお前を愛してるからだ、許せ!」
「次は息の根止めんぜ!」
「本望だ!喜ばせてどうするよ?康太」
喜ぶのかよ…と康太は零した
「四の五の言うな!
皆、合図で湖の中へ飛び込め!」
水神はそう言うと呪文を唱えた
青龍は炎帝の肩を抱き引き寄せた
各々、湖に飛び込む体制を取る
【 飛び込みなさい! 】
水神が言うと、炎帝は青龍に抱き締められ湖の中へ飛び込んだ
現世へと続く水流に乗って黄泉の泉を渡る
青龍は先の転生の時、そうした様に炎帝を抱き締めていた
水圧に魂が潰され…
飛鳥井康太は…少しだけ小さくなった
永らくの転生で初めて抱き合い黄泉の泉を潜って行った
その時の様に炎帝を抱き締めて離さなかった
「ずっと…一緒に…炎帝」
「おう!離すな!オレを!」
炎帝は青龍の背に腕を回した
そして強く抱き締めた
意識が遠くなる程の水圧に耐えて
現世へと続く時を流れて行く
水圧が緩くなると
そこは現世の飛鳥井の菩提寺の試練の間だった
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