28 / 60

第28話 再会

見慣れた試練の間の襖を目にして 康太は榊原を見上げた 康太のパレスは…元のサイズに戻っていた 榊原は康太を見つめ 「やっと還れましたね」 と、抱き締めた 「所で今日は何月なんだよ?」 水神が言うなら、魔界に出向いて然程経ってない日に還って来てる筈だ 弥勒は襖を開けた すると控えていた菩提寺住職が紫雲龍騎を呼びに行った 紫雲は直ぐに駆け付けた 駆けつけて、康太を抱き締め…泣いた 「龍騎、オレが行って何日になる?」 「貴方たちが魔界に行かれて1週間…」 魔界と人の世では時間が経つのが違う 魔界の1ヶ月は人の世では1年近くか? それが1週間の時間差で還って来れたのだ どれだけの寿命を削ったというのか? 「水神が寿命を削って魔界に行った日に近く還してくれた。」 水神が… 「ご無事で…」 紫雲は泣きながら康太を抱き締めた 「龍騎、オレは家族と逢った後に、白馬に行かねぇとならねぇんだ! やっとこさ還って来たけどな、ゆっくりしてる時間がねぇんだよ!」 「解っています!」 紫雲は最後にギュッと康太を抱き締めると離した 「飛鳥井の家族の方が菩提寺から離れずにいます」 「誰?」 「慎一さんと聡一郎と隼人です そして瑛太さんがいます」 また厄介な人物ばかり集まって… 康太はため息をついた 康太は控えの間に行くと、慎一がいち早く気付き康太に飛び付いた 聡一郎も隼人も康太に飛び付き 康太は3人を抱き着かせたまま瑛太に声を掛けた 「瑛兄、仕事はどうしたよ?」 瑛太は康太に腕を伸ばし抱き寄せた 「仕事はしてます! 仕事が終わると、此処へ来てお前を待ってました!」 「瑛兄、ただいま!」 「お帰り…康太…」 康太を抱く手が震えていた 「瑛兄、腹減った…」 「食べさせてあげたいが、お前の帰りを榊原の家族も待っていた 直ぐに席を設けるから少しだけ待ってなさい!」 瑛太はそう言うと秘書の佐伯に電話を入れた 料亭を予約しておいてくれ と、頼み清四朗へと電話を入れた 「清四朗さん、康太が還って来ました 今夜、席を設けました! 宜しいですか?」 『え!本当に康太が還って来たのですか!』 清四朗は興奮して叫んだ 瑛太は携帯を康太に渡すした 「清四朗さん、待たせてごめん!」 『康太ですか?本当に康太ですか?』 「伊織に変わるか?」 『康太!良いです! 康太…待っていました…』 すんすんと鼻を啜る 寂しがらせていた自覚はある 清四朗は康太や飛鳥井の家族を大切にしていた その中でもやはり康太は特別だった 「清四朗さん、一緒に飯食おうぜ! そしたら白馬だ!」 『ええ。ええ…康太直ぐ行きます!』 清四朗は行き先も解らずに電話を切った 直ぐ後に妻の真矢が 、瑛太の携帯に電話を入れ待合先を聞いた それ程に清四朗は興奮していた 「聡一郎、隼人、そして慎一待たせたな! 3日後には白馬にだぜ!用意はしてあるのかよ?」 康太が言うと聡一郎は泣きながら 「お帰りなさい!」 と、叫んだ 隼人は康太に抱き着いたまま 「もう離れたくないのだ…」 と泣いた 「慎一、留守を守ってくれてありがとう」 康太の不在中 慎一が一手に担って聡一郎や隼人を支えて来た その苦労が垣間見れた 慎一は主に「貴方が還って来てくれればそれで良いです」と想いを告げた 一生が慎一の胸を軽く叩いた 「お帰り一生、兵藤…」 兵藤は嗤って康太に 「康太、てめぇは親族と分かち合ってろ! 俺は帰らねぇと美緒が怖いからな帰るわ」 と告げた 「悪かったな貴史」 「気にすんな!弥勒、帰るなら乗せてくけど、どうするよ?」 「なら乗せて行って貰おうか! 康太、またな!また逢いに来てくれ!」 弥勒が康太を抱く 「おう!そのうち行くから待ってろ!」 次の約束を取り交わして弥勒は兵藤のお迎えに来た車に乗って還って行った 康太は駐車場に停めておいた榊原の車に乗り込んだ 榊原の車に慎一と一生が乗り込み 瑛太の車に聡一郎と隼人が乗り込んだ 瑛太は榊原に 「後ろを走って来て下さい」 と、告げ車を走らせた 榊原が車を走らせると慎一が康太に 「若旦那に電話を入れて下さい」と告げた 「若旦那に?何かあった?」 「地鎮祭以来、毎日のように電話があります 心配なさってて…還って来たら連絡を入れますと約束しました」 慎一が預かっておいた携帯を康太に差し出した 康太は携帯を受け取り、戸浪へ連絡を入れた ワンコールで電話が取られた 『康太!』 焦れた戸浪の声が聞こえる 「若旦那、毎日電話をくれていたとか…」 『君が還らないから…』 気になって連絡を欠かさなかった 『康太、時間は取れませんか?』 「今夜は家族と食事に行くので、無理です 白馬に行く前に、少しなら取れると想います」 『君の顔が直ぐにでも見たいが… 今夜は私も会食が入ってます 必ず時間を作って下さいね!』 「力哉に逢わねばスケジュールも解りません 白馬に行く前なら少しは時間が出来ると想います」 戸浪は次の約束を取り交わして電話を切った 電話を切って直ぐ康太の携帯がけたたましく鳴った 康太が電話に出ると 『康太はまだ還って来ないのですか!』 と、神野晟雅からだった 「神野、オレが還って来なきゃいけねぇ用でもあるのかよ?」 康太が問うと神野は康太!!!と叫んだ 康太は携帯を離して耳を塞いだ 「電話切るぞ!」 康太が怒ると、神野は冷静を取り戻した 『逢えませんか?』 「今夜は無理!家族と逢うからな」 『なら明日は? 明日とか…何時でも良いです 呼べば駆け付けます』 「3日後白馬で、はどうだ?」 『夜中でも構わないので、も少し早く』 「神野、当分は無理だ! 3日後にオレは白馬に行く これは避けられねぇ事なんだ」 『お願いですから…』 1歩も引かない神野に… 康太はため息をついた 「神野、何時になるか解らねぇぞ!」 『良いです!』 約束を取り交わして神野は電話を切った 本当に殴りたい程の頑固者ばかり 人の話なんか聞ききゃあしねぇし 康太は電源を切ると慎一に渡した 慎一はそれを受け取り 「神野さんも毎日電話をしてきた人です…」 と伝えた こんな対応を毎日慎一はしてたのか 「悪かったな慎一」 「構いません! 俺は主の不在を護る務めがありますから!」 慎一はそう言い携帯を受け取り胸ポケットにしまった 水神が寿命を削って魔界ヘ旅立ってから1週間後に還してくれた 1週間でこれだから… 1ヶ月だったら…考える事を拒否しそうな現状になる 「今夜は電源入れるな」 康太は慎一に言った 慎一は「解りました」と言い後はもう何も言わなかった 瑛太の車は都内の料亭への駐車場に車を停めた 此処は初めて来る場所だった 康太は車から降りると瑛太に声を掛けた 「瑛兄、此処は初めて来るな」 瑛太は康太を抱き上げ 「ええ。私も初めてです」と答えた 「佐伯のチョイス?」 「違いますよ。君が安曇氏から預かり受けてる秘書のチョイスです 彼女はもうお返ししても良い程に身が立ってますよ?」 「そうか…」 康太は思案したかの様に答えた 「それより榊原のご家族は?」 康太が聞くと、瑛太は康太を下ろし料亭へと顔を出した 瑛太は「もうお見えになっておいでだ!康太」と榊原の家族を待たせている事を告げた 料亭の中へと行くと、なんと榊原の家族は飛鳥井の家族と共にいた 源右衛門を初め、清隆や玲香も一緒にいた 清隆は立ち上がると 「康太…お帰り…」 と言い、康太を抱き締めた 玲香はそれを離れて見ていた 涙ぐみ…清隆と康太を見ていた 「父ちゃん、ただいま!」 康太は清隆にただいま!と言うと玲香と源右衛門にも 「母ちゃん、ただいま! じいちゃん、ただいま!」 と帰宅を告げた そして榊原の家族にも 「清四朗さん、真矢さん、笙、ただいま!」 康太が笑って声を掛けると、清四朗は立ち上がって康太の側へと行った 清隆は康太を清四朗に渡した 清隆から渡された康太を抱き締めて清四朗は泣いた 逢いたかった… 逢いたくて… 逢いたくて… 淋しくて… やるせなくて… どうしようもなかった 「清四朗さん、白馬に一緒に行こうぜ!」 清四朗は、何度も頷いた 榊原は父の側に行くと康太を奪回して 「父さん、貴方の子は僕ですが…」 と苦笑した 「伊織…当然でしょ!」 と言い清四朗は榊原を康太ごと抱き締めた 「父さん、康太に何か食べさせて下さい」 榊原が言うと、やっと2人を離し 「部屋に行きますか?」と立て直した 瑛太がフロントに到着を告げると女将が出て来て部屋へと案内された 静かな日本庭園の眺めれる部屋へと案内された 瑛太は上座に康太を座らせ、その横に榊原を座らせた そして一生達を座らせると、飛鳥井の家族は適当に座った 榊原の家族も適当に座り 「康太、伊織、一生、お帰りなさい!」 と、真矢が音頭を取り乾杯した 上手い料理と久し振りに全員揃った会食に箸が進む だが、慎一はずっと席を外しっぱなしで席にいなかった 「一生 …」 と、康太が言うと一生は立ち上がり慎一を見に行った 慎一は廊下の隅に立って電話をしていた 電話が終わるのを待って一生は声を掛けた 「慎一、どうしたんだよ?」 「主の不在に焦れた御方が多くて…困ります」 と、慎一は零した 「今の電話は蔵持さんの執事の方でした 帰宅を告げると、逢えないかと訴えられました 俺はスケジュールまで管理してないので…と申したら力哉に連絡を入れると言ってた 力哉は今…大変だと想う」 え……そんなに…… 一生は康太の不在が、こんなに大事になるとは想ってもいなかった 家族の中に力哉がいない… それはそう言うと事なんだと…今更ながらに思った 「一生、俺は会社に行く 力哉とスケジュールを検討しないと駄目みたいだから…」 「康太が還って来たのに?」 一生には信じられない台詞だった 「康太が還って来たからですよ!一生」 康太が還って来たから、猶予がない と、慎一は言った そこへ康太がやって来て2人に声を掛けた 「会社には行かなくて良い 今日は動かなくて良い」 慎一は「そう言う訳にもいきません」と答えた 「貴方の帰還を待ち侘びる方達は多い それに道筋を立ててスケジュールを組まないと押し掛けて来ますよ? 俺はその為に貴方の側にいる 違いますか?」 「違わねぇけどな慎一 今日位は家族と一緒にいろよ!」 「無理です!座っていても携帯は鳴りっぱなしです おちおち食事などしてられません」 電源を切るという方法は策には入ってなかった 何故なら飛鳥井康太のスケジュールを管理する者が、連絡が取れないと言う事態は避けたかったから 「慎一、おめぇはよぉ本当に融通がきかねぇ頑固者だ」 「主に似るのですよ?」 「オレはんなに頑固じゃねぇ!」 康太がふて腐れる 慎一は康太を抱き締め 「貴方が動きやすい様にするのが俺の務めです!」 康太が還って来た今 動き出す歯車に油を注がねば…回らなくなるのは目に見えている 「一生、弁当を2つ持たせてくれ」 まだ箸も着けていない慎一と、会社に詰めてる力哉の為に… 一生は「あいよ!」と返事をして厨房へと走って行った 「無理はするな!良いな!」 「ええ。貴方が還って来た今、動けない執事など要らないじゃないですか! オレは何時も動ける臨戦態勢は出来てます! 「力哉にただいま!と伝えてくれ!」 「解りました!」 一生が仕出し弁当が入った袋を下げて還って来ると、慎一はそれを受け取り、会社へと向かった 康太は慎一を見送り、ため息をついた 「今日位…」 「主の帰還じゃ、そうはいかねぇのかもな!」 一生は笑って康太を部屋へと向かわせた 部屋の前には榊原が心配して出て来たのか、康太を待っていた 康太は何も言わず榊原の胸に飛び込むと抱き着いた 榊原は康太の背中を撫で部屋の中へと招き入れた 瑛太は慎一の姿がないのを目敏く見つけ 「慎一は会社ですか?」と尋ねた 康太は榊原に促され席へと座り頷いた 「君の帰還じゃ仕方ないですね」 瑛太も同じような事を言い笑った 「瑛兄、オレは3日後に必ず白馬に行く! 白馬に行かねぇとならねぇ用事があるかんな!」 「ええ。3日もあるのですからね 総て片付けて行けば良いですよ!」 瑛太は3日もあるのですからね…としれっと言った 康太は、う~と唸った 「ほらほら唸ってないで、食べなさい この料亭を選んだ訳が解りますから」 瑛太はそう言い膳を進めた 善の中には沢庵が入っていた 康太の瞳が輝く! 「オレの沢庵!」 康太は沢庵にかぶりついた ポリポリ懐かしい音がする 榊原は自分の沢庵を康太の膳に取り分けて入れた ついつい甘やかしてしまうのは…仕方ない 本当に嬉しそうに沢庵を食べるから 清四朗と清隆と源右衛門は酒を飲み交わし、かなりご機嫌で酔っていた 玲香と真矢もかなりご機嫌で話に花を咲かせていた だが瑛太は一滴も飲んでいなかった 「瑛兄も食事を終えたら会社かよ?」 「君の帰還ですからね」 忙しくなる前に片付けないといけない仕事が山程あった 「あんだよ?それは」 康太は愚痴った 「オレは眠い…時差ってあるのかよ?」 魔界と人の世の時間の流れは違う もう半分眠りに突入しそうな康太を榊原は膝の上に乗せた 「時差ですか…どうなんでしょう? 今度調べてみます」 榊原がまともに取って答えた 「何か怠いし…眠い…オレだけか?」 一緒に魔界に行ったのに…龍は2人とも元気だ 「僕も怠いですよ…重力が重いです」 榊原は苦笑して答えた 「俺も怠いぜ!もぉな寝てぇけど…此処で寝たら置いて行かれそうやん」 こんなにナリのデカい一生を介抱してくれそうな奴はいない あっさりと見切られ捨ててかれそうで…寝れなかった 実際は捨ててかれる事なんてない 誰かかれか面倒を見てくれるのは知っている だが、そうはしたくない一生だった 「この近くに部屋を取りますか?」 清四朗は榊原に問い掛けた 「では部屋を1つお願いします」 「1つ…??」 「白馬に行くまでは康太は寝る間もないので 寝れる時に寝かせたいんです 一生や聡一郎、隼人と雑魚寝で構いません ですから部屋は1つで構いません」 あぁ…そう言う訳か と清四朗は納得した 「では、この料亭の離れを貸し切り皆で雑魚寝といきますか!」 清四朗は楽しそうに言った 源右衛門も「それはよいのぉ~」とほろ酔い気分で答えた 離れに部屋を取り布団を敷き詰め雑魚寝した 翌朝…何人、寝相の悪い康太の犠牲者が出るのか… 一生はそっと拝んだ うっ! 痛い! ドスッ! ボカッ! と言う音が一晩中響いていた かなりの負傷者を出し朝を迎えた 清々しそうに康太は、伸びをして首をコキコキ動かした 康太の側には榊原と一生、聡一郎と隼人 少し離して笙と清隆と源右衛門が寝ていた かなり離して玲香と真矢が寝ていた 玲香と真矢の方には被害はなかったが 側で寝ていた聡一郎や隼人には被害大だった 隼人は蹴り上げられた腹をサスサスしていた 「久し振りの康太は威力が半端なかったのだ…」 嘆く隼人を榊原は撫でてやった 「んとに…僕の顔に…痣が有りませんか?」 と、聡一郎がぼやいた 頬の辺りが痛いのだ ピリピリ…何だか痛いのだ 一生は「…………蹴り上げられたか?」 と、聡一郎の頬を撫でてやった 「解りませんが…起きたらピリピリ痛いのです」 「後で湿布はってやる」 一生はそう言い、ポリポリ腹を搔いている康太を眺めた 聡一郎は「んとに寝相が悪い!」とぼやき 一生は「今に始まった事じゃない…」と服を捲って背中を見せた そこには…康太の足跡が着いていた 何をどうしたら…こんなにクッキリ着くの??? と、言いたい程の足跡だった 「伊織、腹減った!」 康太が可愛く榊原に強請った 腹減りの康太は可愛い うるうるの瞳で榊原を見つめ強請る 榊原は理性との闘いだった 気を抜くと股間に直撃を食らう 「皆さんを起こして食事にしますか?」 榊原が言うと康太は   「オレ、起こす!」 と言い笙の上にダイブした 「わぁ!何?何?……苦しい…」 笙が急にのし掛かる重さにパニックになる 榊原は康太を回収して 「兄さん、腹減りの康太の逆襲に逢いたくなくば起きて下さい」 と零した 「解った!起きるから!!」 切羽詰まって笙は起き上がった 清四朗は笑って榊原に手を伸ばした   榊原は父親に康太を渡した 「お腹が空いたのですか?」 清四朗が優しく問う 康太は頷き「何か食いたい!」と訴えた 何時もの康太で安心する 何処かへ…行きそうな康太じゃなくて安心する 「では起きて朝食を、皆さんと取りますか!」 「皆で食うとうめぇかんな!」 康太が嬉しそうに言う 皆、起き上がって、浴衣を脱いで支度をした 女性は更衣室へ向かい支度して部屋に戻った すると部屋は布団は片付けられ、朝食のお膳が運び込まれていた 康太は既にガツガツ、ポリポリと朝食に食らい付いていた 「一生、慎一の分の朝食も用意して!」 食ってる最中の康太が言うと、一生は厨房へと走って行った 「直ぐに運んでくれるそうだ!」 一生はそう言い食事の続きをした そこへ慎一が康太に今日のスケジュールを伝えにやって来た 離れに通された慎一に康太は 「まずは腹拵えすんもんよー!」 と告げた 慎一は行儀正しく正座をすると朝食のお膳に端を着けた 黙々と朝食を食べる 康太は食後の玉露を飲んで、やっとこさ一息着いていた 慎一は食事を終えると康太に 「戸浪さんがこの料亭にお見えです」 と告げた 「若旦那が?」 「ええ。そこで偶然お逢いしました 俺の姿を見て、康太がいるのですか?と問われたので、はい。と答えておきました」 「で、若旦那は?」 「ご家族との時間は邪魔しないので、帰りに少しでも逢って下さい、と、部屋を取られました」 「なら後で行くとするか」 康太はそう言い、清四朗の方を向いた 「清四朗さん、3日後白馬で逢いましょう! オレは8月中は白馬で過ごします」 「楽しみですね! 私も8月中は休み取りました  役者になって初めて1ヶ月近くの休暇を取りました」 と、嬉しそうに康太に話した 「なら白馬でゆっくりと過ごすと良い オレ等もいるかんな! じぃちゃんも夏場は白馬で過ごす」 「ええ。今から楽しみです でも楽しみの前に…仕事ですね」 清四朗は今ドラマの撮影が入っていた その撮影が終わると白馬で1ヶ月近く休むつもりなのだ 清四朗はマネージャーが迎えに来て仕事へと行った 真矢は玲香が源右衛門を送るついでに、自宅まで送って行き 笙は都内のスタジオへと向かった   清隆は仕事へ向かい 康太は戸浪の部屋を尋ねた 慎一は女将に戸浪の部屋へ案内してくれと頼むと 女将は事前に伺っております!と戸浪の部屋へと案内された 「お連れ様がお見えになられました」 部屋の襖を開くと、戸浪が笑顔で待ち構えていた 「若旦那 」 康太が呼ぶと戸浪は立ち上がり康太に抱き着いた 「すみません! 慎一の姿を見たらいても立ってもいられなくなりました…」 「構わねぇ!若旦那、待たせて悪かったな」 「いいえ!本当なら時間を作って戴いてお逢いすれば良かったのです… ですが慎一がいると言う事は、君がいるのだと想うと…我慢が出来ませんでした」 慎一が、料亭にいる 主を待つ慎一が、こんな場所に一人で来る筈がない 核心だった 案の定、康太がいるのですか?と尋ねたら 「はい。我が主は家族とご一緒です」 家族と一緒と不戦を張られた でも少しの時間でも…と、頼み込んだ 慎一は主に伝えます!と言ってくれた 必要の無い人間ならば慎一は康太に伝えない 戸浪は部屋を取ると告げた その部屋に慎一は康太を向かわせてくれたのだ 一頻り康太を抱き締める 逢えなかった時間を埋める様に戸浪は康太を抱き締めて離さなかった 田代は戸浪に 「社長、康太さんを離してお茶でもしないと時間は終わりますよ!」 と釘を刺した 戸浪は康太を離すと、席に着いた 康太はその横に座り 榊原達も康太の横に座った 「何かあったのかよ?」 こんなに精神的に追い詰められた姿を、する人ではない なのに康太に逢うなり抱き着き離さなかった 田代は「何もありません!」と言い置き 「社長は地鎮祭の時の元気のない康太さんの姿を目にして気にしておいででした 無理をさせたか…口を開けば…そればかり… ですから貴方の姿を見て箍が緩んだのでしょう!」 と説明した 地鎮祭の頃の康太は、榊原に告げねばならぬ…… そればかりを気にして… 傍から見れば元気がなく見えたかも知れない 余計な心配をさせた…と康太は後悔した 「若旦那、心配かけたな」 「いいえ!勝手にヤキモキしてただけですから…」 「若旦那、3日後には白馬に行きます 暇なら白馬まで足を伸ばして下さい そしたら少しはゆっくりと過ごせます」 「では白馬に伺わせて戴きます その前に馬車馬の様に働かねば…休みすら田代はくれない…」 戸浪は苦笑した 「はい!社長、サクサク仕事を片付けて下さい! そしたら2日位は休みを差し上げます! 休みが欲しくば、働いて貰わねばあげれませよ!」 田代は間髪入れずに釘を刺した 「康太、休みの為に働いて来ます 「君の姿を見れて良かった」 戸浪は嬉しそうに言った 「オレも若旦那に逢えて良かった」 康太も嬉しそうに笑った 「康太はこの後どうなさるのですか?」 「白馬に行くまではオレもやらねばならない事が山積してます」 思い出すだけで…ため息が出る 「では、休暇の為にお互い頑張りますか!」 「だな…」 「康太、戦場へ繰り出します!」 「おう!頑張ろうぜ!」 康太は笑って戸浪に手を差し出した 戸浪はその手を握り締め、断ち切る様に離すと立ち上がった 「康太、白馬を案内して下さいね」 「おう!新しく生まれ変わった白馬を案内するかんな!」 「楽しみです! では駐車場までご一緒させて下さい」 康太は立ち上がった 榊原や一生達も立ち上がり後に続いた 駐車場で若旦那と別れて 康太は思案する どうしたって…車に1名乗れないから… 「慎一、部屋を取れ! そしてそこへ神野を呼び出せ」 帰りは隼人を神野に預けて帰れば… と、セコく帰りの算段をする 慎一は料亭の近くのシェラトンホテルに部屋を取った そして神野へ電話を入れた ワンコールで電話に出た神野は 『慎一!』 と、叫んでいた 「都内にあるシェラトンホテル、解りますか?」 『解る!俺は偶然にもそこに泊まってる!』 何という偶然… 慎一は言葉をなくした 「シェラトンの2005号室に10分後来て下さい」 『おう!今から待ってる!』 コイツは本当に人の話を聞ききゃぁしねぇ! 慎一は額に怒りマークを着けて笑顔を引き攣らせていた 電話を切り康太に 「あの方、シェラトンホテルにいました 今から部屋の前で待ってらっしゃるつもりです」 とため息交じりに言うと、康太は爆笑した 「アイツは隼人に電話して何処で会食してるんだと聞いていたからな 近くなら呼び出されても直ぐに来れるから来たんだろ?」 と、あっさり言った 何ともまぁ人騒がせなお方だ… 慎一は 「俺は一足先にタクシーを拾ってホテルに行きます!」 と告げ、道路へと出た 丁度通りかかったタクシーを停め、慎一は乗り込んだ 榊原はそれを確かめて、車を出した シェラトンホテルへと車を走らせた シェラトンホテルの駐車場に車を停め ホテルのフロント逝くと慎一が待ち構えていた 既にチェックインを済ませて手には鍵を持っていた 慎一は康太の側にやって来ると 「お部屋の用意は出来ました」と言い 鍵を榊原に渡した 榊原は鍵を受け取り康太を促した 予約した部屋の前に行くと神野晟雅が立っていた 「よぉ!神野!」 康太が言うと神野は康太に飛び付いた 「神野、部屋に入るぞ!」 神野を引っ付けたまま部屋へと入る 神野は康太から離れる気配はなかった 「神野…オレは忙しい 要件を言え! じゃねぇと、オレは帰るぜ!」 久し振りの…再会を分かち合うには… 時間が足らないのだ 神野は気をとり直してソファーに座ると 「失礼!久し振りの君だから…」 「あぁ!我慢させた分は時間を作るさ! だから、今は少し待っててくれ」 「では貴方の還りを待ってた最大の要件に入ります! 康太…須賀の事務所が乗っ取られそうなんです…」 神野の言葉は意外すぎて…康太は 「え…?須賀の事務所が…??」 と、返答に窮した 榊原は「詳しく話なさい!」と神野に言葉が足らない…と注文を着けた 「須賀直人が弾かれたのです… 役員総会で…何があったのか… 須賀の退陣を…要求され…彼はそのまま事務所から弾かれたのです… 須賀の事務所とは提携してました それを総て打ち切ると…通達が来て… 俺は…初めて須賀直人の置かれている状況を知りました…」 「須賀直人は何処にいる?」 「解りません… 探しているのですが…見付かりません…」 神野は何処を探しても須賀がいないと焦れていた 康太は天を仰ぐと 「弥勒、須賀直人は何処にいるよ?」 と、問い掛けた 『探って参ろう… 魔界から還るなり…問題山積か… 先が思いやられるな…』 「言うな弥勒 この夏の白馬は欠かせない」 『解っておる! 解せぬ消え方に…悪意も感じる』 「死んでなきゃ…儲けもんだな…」 『ならば、丸儲けを願ってろ! 何か解ったら教えに参る!ではな!』 弥勒はそう言い…気配を消した 康太は榊原の胸ポケットから携帯を取り出すと 「オレだ!須賀直人を追ってくれ!」 と、電話を入れた 『須賀直人?……行き先?』 「生存確認、拉致監禁、その線も洗ってくれ」 『…了解!陵介に噂を拡散させて騒ぎをデカくする!』 「陽人、生きて還してくれ」 『お前の望みならば…!』 釼持陽人はそう言い電話を切った 「夏生、陽人のサポート しろ!」 康太は空に向かって…呟いた 夏生はその声を拾って動く 康太の影として、夏生は動く その動き寸分違わず、康太の意のまま動く事となる 「神野、動ける様に待機しろ!」 康太はそう言うと、立ち上がった 「隼人を頼むな!」 「解りました! 俺は事務所に向かい、何時でも動ける様に待ってます! 隼人は小鳥遊が仕事に送ります!」 「ならな!神野」 神野は「はい!」と言い康太を送り出した 康太はホテルを後にして 榊原の車に乗り込んでも… 何か考え事をしていた 飛鳥井の家に着いても…康太は何かを考え込んでいた こんな時の康太には声をかけない そっと思案の邪魔をせず置いておく 榊原は康太を抱き上げると、久し振りの飛鳥井の家に入って行き 自室へと向かった

ともだちにシェアしよう!