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第29話 邪心

自室のソファーに康太を座らせると、榊原は掃除と洗濯に着手した 引越て来てから… あまり過ごす事のなかった部屋だった この部屋よりも…飛鳥井の壊された家の方が愛着はあった だが康太がいれば… 榊原は何処でも良かった 康太がいる場所が榊原のいる場所だから… 「伊織、須賀直人から渡された須賀プロダクションの株券を出してくれ!」 康太が言う 榊原は金庫の鍵を開けると、須賀直人から渡された有価証券を渡した 康太は榊原から渡された封筒を開けると、中から書類を出した PCを引きずり出し、一心不乱にキーボードを叩く そして携帯を取り出すと電話を始めた 「須賀プロダクションの株式市場を探ってくれ! 筆頭株主は飛鳥井康太の筈だが… 筆頭株主を無視して社長を引きずり下ろせる訳などない! どうなってるか調べてくれ!」 『筆頭株主はお前なのだろ? 発言権もある筆頭株主を無視して社長の解任など有り得ない…』 「………だからだ! 蓮…徹底的に調べてくれ!」 『お前の言う事なら何だって聞いてやるさ だがな康太……久し振りのお前の声なのに味気なさ過ぎやしないか?』 「蓮、白馬に行く前に時間を作る それまで、我慢してくれ…」 『解っておる 解っておるが、少しだけ我が儘言ってみただけだ 徹底的に探って何か出たらお前のPCにデーター送る!』 「飛鳥井からアシストを出す」 『了解!ならな!』 飛鳥井蓮は電話を切った 康太は…… 須賀直人の身を案じていた 『君に筆頭株主になって貰って配当金を払えるように…頑張ります』 須賀直人は康太にそう言って株を渡した その時には順調に軌道に乗っている須賀直人が見えた 何処で狂った?? この短期間に何があった?? 康太は携帯を取り出すと電話を掛けた 「飛鳥井康太です」 『康太!!逢いたかった!』 「御無沙汰してます」 「今、話せるお時間ありますか?」 『ええ。今なら大丈夫です 要件を伺います! 何かあったのですか? 我を動かさねばならぬ‥‥何かですか?』 相変わらず鋭い男で…康太は苦笑した 「須賀直人の居場所をご存知ですか?」 『…………!須賀…!このタイミングに…須賀ですか?』 「何か知ってます?」 『ええ…私の方でも探してました…』 「相賀…力を貸してくれ…」 『無論。私で良ければ…』 …………相賀はそう言い……押し黙った 『今、どちらに?』 「飛鳥井の家だ!」 『では今から伺います』 「飛鳥井の家は今建築中だ 今は仮住まいのマンションにいる」 『清四郎に聞けば解りますよね?』 「ええ、解ります」 『では清四郎と共に向かいます』 相賀はそう言い電話を切った 電話を切ると榊原が康太に飲み物を渡した 康太はそれを受け取り口をつけた 「相賀……ですか?」 「おう!来るかんな! 話を聞こうと想ってる」 「そうですか…」 「伊織、人一人消えてるのにな…」 何故誰も騒がないのか… 何故…何も出て来ないのか…解せなかった 「……………人一人消すのは容易くない… そう思いたいです…」 榊原はそう言って康太を抱き寄せた 康太は力哉に言ってスケジュールを総て白紙に戻させた 緊急事態だから… 康太は天を仰いぎ呟いた 「白馬に行かねばならぬのに…」 呟きは…虚しく消えて行く 魔界に行っていた間に何があったのだ? そんな短期間に… 康太の果てを見る目が狂うとは… 想えなかった 須賀の事務所は軌道に乗っていた 康太の見立ての軌道に乗ってい走り出していた なのに?? 何故??? 康太のPCの画面が目まぐるしく変わってゆく 莫大な情報量が入り交じり書き換えてゆく 康太は瞳を閉じた その時、康太の携帯がけたたましく鳴った 「俺だ」 康太が言うと 『今送る画面を見ろ!』 と、通話が消えた 康太はPC画面に目を向けた 榊原は邪魔をしないように唯黙って康太を見ていた 康太は画面に釘付けになり… 物凄い速さでキーボードを打っていた 「伊織、相賀が来る。 呼びに行ってくれ」 康太が言うと榊原は静かに立ち上がり相賀を出迎える為にリビングを出て行った 暫くして榊原が姿を現し 「相賀が我が父清史郎と共に来ました どちらに通せば宜しいですか?」 と、康太に声を掛けた 「この部屋に通してくれ 慎一にお茶を入れさせてくれ」 「一生と聡一郎は?」 「通して良いぜ!」 康太はPC画面から目を離さず言った そして横を通り過ぎようとした榊原の手を掴んだ 「え……康太……?」 榊原はPCに釘付けになってると想った なのに康太は榊原を見ていた 手を伸ばす康太を抱き上げると、康太は嬉しそうな顔をした 榊原の胸に顔を埋め 「伊織の臭いだ…」 と嬉しそうに言った 榊原は康太を抱きしめた 「愛してます奥さん」 そう言い頬にキスを落とす 「このまま呼びに行くか?」 「良いですよ」 榊原は嬉しそうに康太を抱き上げたまま応接室に向かった 応接室に行くとソファーに相賀和成と清史郎が座っていた 「相賀、すまなかった…」 榊原の腕から降りると、康太は相賀に頭を下げた 相賀は慌てて 「頭を上げてください!」 と、康太を抱き締めた 「相賀…」 「はい。」 「オレは1週間程留守にしてた その間に何があったんだ? 解るなら…教えてくれ…」 相賀は康太を抱き上げるとソファーに座らせた 「康太、我も良くは解らないのです… 康太から託された仲島遥斗と、稜が売れて参りましたので 柘植も忙しく我も日々奔走しております故… 今回の提携を切ると言うのは神野と同じ寝耳に水でした…」 そう言い…少しだけ思案する 「須賀が消えて柘植が探りを入れました その時…須賀の家の事を聞きました…」 「どんな?」 「須賀の父、須賀仁人は良き父ではなかった 高齢になってから…若い…須賀より若い妻を得た その妻との間に…子を成してからは須賀の事務所に口を出す様になっていた そんな須賀が………独断で大量の株を…誰かに譲渡した… それも引き金になってるみたいです……」 康太は驚きもせず… まるでそんなのは知っている と、言う感じで興味もなく聞いていた 「相賀」 「はい。」 「その株な、オレが貰い受けてるわ」 「………!え…貴方がですか?」 「おう!発言権付きの筆頭株主の権利を須賀は寄越した」 「………………なれば…先の株主総会は…」 「無効だろ?筆頭株主を無視してやれる事じゃねぇ」 「貴方は何処まで知っておいでなのですか?」 「相賀、オレは昨日帰って来ばっかだ それまでは直ぐに還れぬ場所にいた オレは還ってきたばかりだ 還ったら…これだ! オレはサッパリ解らねぇよ! 須賀の事務所は栄華に導いて軌道に乗っていた なのに須賀が消える筈がねぇ… しかも消え方が解せねぇ… オレは今朝、神野に呼び出されて聞いたばかりだ 違うかよ?神野?」 皆は慌てて後ろを振り返った すると神野が入り口に立っていた 一斉に振り向かれて神野は慌てた 神野に背を向けて康太は座っていた 見える筈などないから… 「ええ。俺は今朝、康太に連絡を取り須賀が株主総会で弾かれた事を伝えました 康太はそれまで…還れない場所に行ってると慎一が言ってました」 「来い!神野」 康太が言うと神野は康太に飛び付いた 康太は須賀と清史郎を見つめ 「オレは今、どんな手を使っても構わないと 情報収集をさせてる 情報戦で炙り出される現実は…かなり厳しい だからこそ!力を貸して欲しい…」 相賀は康太に張り付いてる神野を剥がすと、康太を抱き締めた 「相賀和成のこの命! とうの昔に貴方に差し上げて御座います!」 「相賀…すまねぇ…」 「気にせずとも良い 我は貴方の為にいる! 我を使うのに罪悪感など抱かぬともよい」 相賀は康太を離すと凜として姿勢を正した 「貴方が逝く時、我も逝きます!」 事務所は柘植が代行になってやれる程になった 柘植を作ったのは飛鳥井康太 そして今、榊原真矢、仲島遥斗、稜、が頭になって事務所をもり立ててくれている 榊原真矢が入ってから、かなりのタレントを抱える事となった 稀代の女優のいる事務所 榊原真矢がいるなら大丈夫 そんな安心感で入る者も少なくない 日々忙しく奔走していた 最盛期の相賀事務所に戻った様に… 事務所は活気ついていた それをくれたのは総て飛鳥井康太 彼なれば… 彼の為にこの命を擲って礎になるのは当たり前だと相賀和成は心に決めていた 清四郎は静かにそれを見ていた 我が子、榊原伊織と共に… 康太は「一生、陵介が掴んだ。」と一生に声を掛けた 「席を移るか?」 一生は康太に声を掛けた 「伊織にリビングに連れて来て貰うつもりで… 抱きついまちった…」 「PC持ってくるか?」 「嫌、リビングに来て貰う」 康太が言うと一生は 「では、康太と伊織の部屋のリビングに来て下さい」 と、言い、慎一を呼んだ 「慎一、皆をリビングにお連れして 俺は此処を片付けてから行く」 「了解!では皆様、此方に」 慎一は応接室のドアを開けた 慎一に促され相賀が立ち上がる 清四郎が立ち上がると、榊原は康太を抱き上げ、父に渡した 「私に?」 清四郎は息子に問い掛けた 「ええ。持って行って下さい」 清四郎は嬉しそうに康太を腕に抱き 「康太、久しぶりの君は軽くなってませんか?」 「こんなもんだろ?」 康太は笑った 清四郎は相賀に康太を渡した 相賀は初めて康太を腕に抱き上げ驚いた 軽い… この人はこんなに軽く… 儚く…小さい 相賀は驚愕の瞳を清史郎に向けた 「康太は驚く程に軽いんですよ なのに誰よりも大きく…絶対のモノに見える どれだけ自分を奮い立たせて生きてるのか… 彼を腕に抱き上げれば…思い知らされますよ」 「清四郎…」 相賀は言葉もなく…友の名を呼んだ 「サクサク行きますよ! でないと我が息子は康太を奪回しに来ます」 清四郎はそう言い笑った 心から笑っている笑顔だった 一時期…我が友は心忘れて…役者の鬼になった その心の殻を破ったのは…飛鳥井康太だと 1年前の話し合いの後聞かされた 無償の愛だと… 清四郎は言った 彼は無償の愛をくれるのだと… 相賀は羨ましく想った そして康太は相賀にも無償の愛をくれた 潰して…息の根を止めた役者に、別の道を与え再生させた 柘植は役者になれなかった想いを育てる方に向け 今は相賀よりも手腕を発揮している 徹底した管理教育をトナミ海運で叩き込まれ 柘植は生まれ変わった 相賀には我が子はいない 自分の亡き後、柘植に事務所を譲り渡すつもりでいた 相賀はリビングに招かれると、開きっぱなしのPCの前に、康太を座らせた 「慎一、腹が減った」 康太が言うと清四郎は 「私がデリバリ頼みましょうか?」 と、榊原に問い掛けた 「頼めます?父さん」 「お腹を空かせたままじゃ可哀相だ」 清四郎はそう言い康太に 「何が食べたいですか?」と問い掛けた 「賞味期限の長げぇやつ」 清四郎は????と困り果てた そして榊原に助けを求めた 「慎一、賞味期限が長いのを父と一緒に注文して下さい」 榊原に言われ慎一は清四郎に 「ラーメンだと伸びるでしょ? ステーキだと冷めるとゴムでしょ? だからサンドイッチとかハンバーグとか 時間が来ても柔らかいのを所望してます」 と、説明した 直ぐには食べれない だから時間が経っても食べれるものを… と、言う事だった 相賀はなる程!と感心していた 清四郎は慎一と共に階下に下りて、デリバリの注文に行った 一生は「旦那…」と、苦言を呈した 康太は一心不乱にPCの画面を見てキーを叩いていた 榊原は「一生、父さんは康太の為に動きたいのです」 と、今回相賀に着いて来たが出番のない父の想いを代弁した 「ったく…旦那は…」 「一生、着替えてらっしゃい! 食べれば康太は動きますよ?」 「これだとダメかよ?」 一生はちょいワルなアロハを着ていた 「…………置いてて行きますかね…」 「解ったよ!ったくお前は性格が悪い!」 「そんなに可愛く拗ねないで下さい」 榊原は康太を離し立ち上がると一生を抱き締めた 「ちょいワルなアロハは…いただけないのは解りますよね?」 「解ってんよ!」 唇を尖らせて一生は言う 「なら着替えてらっしゃい! そしたらデリバリを取りに行きますよ」 一生は榊原の胸をポンっと叩くと、着替えに向かった 康太はPCから目を離す事なく 「相賀、早くしねぇと…須賀の命が尽きちまうかんな!」と呟いた 「………っ!」 相賀は息を噛み殺した 突き付けられれば重い真実 「相賀、こっちに来い!」 康太に呼ばれ相賀は康太の横に行った 「ここに座れ!」 康太は自分の座っている席を相賀に座らせた そして康太は相賀の膝の上に座った 「………康太…」 「気にすんな!それよりこれを見ろよ!」 康太は老眼の相賀の為に文字をデカくした 相賀はPC画面に釘付けになった 横浜の西区の無人の家に… 人の呻き声が聞こえる… その家は…須賀仁人の前の妻との間の家で… 今は朽ち果て…廃墟と化していた 「これなんて怪しくねぇか?」 「……康太…須賀は……」 相賀は言葉もなく泣きそうだった 康太は天を仰ぐと 「弥勒、まだ息絶えちゃいねぇよな?」 と問い掛けた 『まだ生きておる…だがその命…風前の灯火…』 と、答えた 「なっ!早くしねぇと丸儲けで返して貰えねぇ!」 死体では意味がないのだ 須賀直人の果てを… 狂わせる気もないのだ 清四郎がデリバリを頼み持って来ると、康太は相賀の膝の上だった 珍しい事もあるな と、清四郎は笑った 相賀は人嫌いだった 子供も嫌いで有名だった 清四郎は笑って 「そうしてるとお爺ちゃんと孫みたいですね」 と、声を掛けた 相賀は情けなく 「清四郎……」 と、名を呼んだ 「と言う事だ! 動くぜ相賀!」 「ええ。君と共に動きます!」 相賀がそう言うと康太は相賀の膝の上を降りた 相賀は席を立ち、清四郎の横に座った 慎一や榊原、一生がテーブルの料理を乗せて行く 「慎一、総一朗の分は?」 「持って行ける様に取り分けております」 「うし!食うぞ!」 康太はガツガツと食べ始めた 榊原はその横で静かに食事をしていた その時、康太の携帯がけたたましく鳴り響いた 「おう!オレだ!」 康太が言うと 『尻尾掴みました! 貴史が動いて助けてくれました』 と、聡一郎からの連絡が入った 電話を切ると康太は 「慎一、一つ追加」 と、声を掛けた 「誰かに増えましたか?」 「何故か貴史が動いてる」 「………あの男は本当に鼻が良い…」 康太はボヤいた そんな兵藤の分も確保しておかねばならぬ、謂う事だった 「頼むな」 「大丈夫です! こんな時の為に余分に頼みました 貴方のお腹を満たさなきゃならないでしょ? 減る分は少し我慢してくださいね」 「慎一……」 「そんな情けない顔しないの 足らなきゃ相賀さんが奢ってくれますよ!」 慎一はそう言い笑った 相賀は苦笑して 「好きなだけ奢らさせて戴きますとも!」 慎一は「良かったですね」と言い食事を始めた 康太はPCから目を離さず… 「何処から行くか… 狂うと全滅しかねぇしな…」 と、思案した そこへ電話が鳴った 『康太か?』 「おう!オレだ!」 『踏み込め!早く来い!』 「解った!10分で行く!」 康太はそう言い立ち上がった 慎一はデリバリを慣れた手つきで片付け立ち上がった 「行きますか?」 「おう!慎一、レンタカーチャーターしろ!」 康太に言われ慎一は動いた 「下で慎一を待つ!」 康太が言うと榊原は、康太のノートPCを鞄に入れた 決して康太に、持たせる事なく榊原はPCをしまいタブレットをしまった 支度をすると康太を促した 「小鳥遊はどうしたよ?」 下へ下りる途中に康太は神野に問い掛けた 「隼人の仕事に付き添ってます」 「神野、真野千秋と言う切れ者をお前にやろうか?」 「え?……」 「使える社員はいねぇもんなお前んとこ」 「はい…申し訳御座いません…」 「宮瀬建設の社長の腹心だった男だ 今オレが貰い受けて白馬に置いてある お前も白馬に来るんだろ? その時に合わせる」 「良いんですか?」 「詳しい話はこの件が片付いてからな!」 康太はそう言うと歩を進め 振り返ることなく出て行った 神野は後を追った 駐車場へ下りてゆくと慎一がワゴンタイプの小型バスを運転していた 「乗ってください!」 慎一が言うと康太は助手席に座った 榊原は一生や清四郎、相賀と神野と共に後ろに座った 運転席の慎一と、康太はなにやら話していた そして康太は榊原に手を伸ばすと 榊原は鞄の中からタブレットを渡した 康太はタブレットをナビに差し込んだ 後は何も言わず目を閉じていた 慎一は車を走らせ、走らせた 10分もしないうちに目的地に到着すると、康太はタブレットを持ち上げると榊原に渡した そして榊原の瞳を貫き 「行くぜ!」と、嗤った 車から静かに降りると康太は兵藤の側へと行った 「悪かったな貴史」 「聡一郎が忙しそうに飛鳥井の会社を出てくのを捕まえのは俺だ気にするな!」 慌てて顔色をなくして会社を出て行く聡一郎を見かけた この男がそんなに慌てるのは、唯一人の命令しかない 確信 だから兵藤は聡一郎を捕まえて話を聞いた 聡一郎は歩きながらで良いですか? と言い歩きながら…と言うか走りながら兵藤に話した 兵藤は須賀直人の事を聞き 「俺も入れろ!」 と、不敵に嗤った 聡一郎は観念するしかなかった 兵藤は1度言いだしたら聞かないから… そして兵藤と共に突き止め、今に至った 「あの男はあの屋敷の中だと想う! かなり暴行を受けてる 多分…放っておけば弱って死ぬ 奴等はそれを待ってると想う」 兵藤が康太に説明する 「中に見張りはいるのかよ?」 「見張りはいない 定期的に弱ってゆくのを見に来てるだけだ」 「なら、廃墟の探検に行くか!」 「車の中の年寄りは置いてけ!」 「解ってる!伊織、タオルケットは持って来てるか?」 「ええ。慎一がもしもの時の為に入れてました」 「なら行く!清四郎さんと相賀は待ってて貰ってくれ!」 「解りました!伝えて来ますから待ってて下さいね!」 兵藤と康太だから釘を刺しとく 「伊織、大丈夫だ! お前がいないのに踏み込まない」 康太が言うと榊原はバスの中の相賀と清四郎に 「捕り物が終わるまで、此処で待ってて下さい」 と告げた 清四郎は「解ってます」と告げた 相賀も「呼ばれなくば出る気はない」と言い 榊原は頷いてバスを降りた 榊原が康太の側に行くと、慎一も一生もいて悪ガキが何かの算段に余念がなかった 「これが有名な廃墟か!」 康太はわざとらしくデカい声で言った 一生が「今ネット上で騒がれてるらしいぜ!」と続けた 兵藤が「この夏一番の肝試しだ!チビるんじゃねぇぞ!」と発破を掛けた 聡一郎が「本当に撮れたら投稿します!」とワクワク告げて 盛り上がっていた 榊原も「僕もムービーの用意は出来てます!」と楽しそうに告げて 康太はニカッと笑った 「んじゃ!行くぞ!」 ワイワイガヤガヤ廃墟に入って行く 康太は榊原に手を出すと、榊原は康太の手に携帯を乗せた 「この家の間取りだ! どこら辺に居ると想う?」 康太が兵藤に携帯を渡す 兵藤は康太から携帯を渡され画面を見た 「外に声が漏れてる… 考えたくないけどな…この間取りは役に立たねぇかもな」 「地下?……地下なら声が漏れねぇだろ?」 「それがな、この建物は昭和の初期の建物でな 縁の下に天窓みてぇなもんがあるんだよ そこから灯りと空気は取ってると想う だから呻き声が漏れてるだろうが!」 康太は兵藤を見た 「お前建築にそんなに明るかったっけ?」 「明るくねぇけどな設計に城田ってのがいるだろ? アイツがな須賀の父親の家の設計を見てたら教えてくれた 『この家には地下があると想いますよ』ってな! それで解ったんだよ!」 「城田が…?」 「おう!アイツはお前のもちもんなんだってな 康太の為ならと調べまくって教えてくれた」 「何でお前に?」 「俺はお前の持ち物だからじゃねぇか?」 「後で礼を言っとく! なら何処から地下に降りれる?」 兵藤は康太の携帯の図面を指さし 「城田が予測してくれた 多分、この廊下に地下に通じる扉があるってな!」 「うし!行くべ!」 康太は天を仰いだ 須賀直人の覇道を探る 須賀の人懐っこい笑顔を思い浮かべ、須賀の星を導く 手繰り寄せ須賀の覇道を捉えると嗤った 「行くぜ!聡一郎、救急車呼んでおいてくれ!」 康太に言われ聡一郎は救急車の手筈をした 「僕は此処に残って救急車のサイレンを止めます 貴方は貴方の仕事の完遂を願っております!」 聡一郎はそう言い深々と頭を下げた 康太は何も言わず微笑むと背を向けた 荒れ果てた廃墟に足を踏み入れる 荒れに荒れた庭は人の侵入を拒むかのように荒れていた 伸びに伸びた雑草は所々折れ曲がり…侵入者を映し出していた 玄関のドアをカチャカチャ動かすと鍵が掛けて開けた 一生はポケットから長い細い棒の様なモノを取り出すと鍵穴に差し込んだ 暫くするとカチャとドアが開いた 兵藤は「…………お前の特技…めちゃくそ危ねぇやんか…」と零した 一生は笑って 「こんな昭和の初めの家…鍵なんてあってねぇようなもんやろ?」 と、しれっと言った 康太はズカズカと家の中に入ろうとした それを榊原が止めた 「康太、床が抜けてるかも知れません 確かめないで入らないで下さい!」 榊原はそう言うと懐中電灯を出した 榊原が懐中電灯で照らして確かめて歩く 康太はその後を着いて歩いた 榊原は康太が指さした図面の前に止まると立ち止まった 「此処ですか?」 「だと思う 貴史、扉を探してくれ!」 兵藤は榊原から懐中電灯を受け取ると壁や床を念入りに探した そして床の不自然な筋を見つけると一生に声を掛けた 「一生、手伝え!」 兵藤に言われ一生は兵藤の横に行った 兵藤は床を指さした 「この床が怪しい」 兵藤の言葉に一生は懐中電灯を受け取り床を念入りに照らした そして床の穴を見つけるとウエストポーチからペンチを取り出した 兵藤はそれを見て驚いていた そのウェストポーチにそんなものが入ってたのか… 器用にペンチを差し込み…試みるが… 失敗 一生は「くそったれ!」と叫んだ 慎一が一生を避けてウエストポーチからマンホールとかの蓋を開けるフックを出した マンホールの蓋でも開けられるフックを慎一はいとも簡単に出すと穴にフックを差し込んだ ギギギギギッと音を立てて床の扉を開ける 一生は持ち上げるのを手伝った 勢いを着けて持ち上げるとギギィギギギ…………バタンと床の扉が開いた 慎一はフックをウエストポーチにしまった 「お前等兄弟の底なしの力を見た感じ…」 兵藤が呟いた 康太はそんな言葉を無視して、下へと下りてゆく 榊原が懐中電灯を上から照らし康太を下ろす 榊原は一生と慎一にも下りなさい…と、目で合図した 一生と慎一はテキパキと下へ下りてゆき 榊原は兵藤にも先に下りろと無言で顎で合図した 兵藤は……仕方なく下へと下りた 榊原も注意して下へと下りてゆく 下の部屋は…かび臭く…湿気っていた 何年も使われてないのか…蜘蛛の巣が懐中電灯の光に当たりキラキラと輝いていた 榊原は床を照らした すると床に黒い物体が無造作に置かれていた 康太は黒い物体に近寄った 慎一は康太を押し止め、榊原に懐中電灯を渡して貰い 腕を取り脈を確認した 弱いながらも… 脈を確認出来ると、慎一は榊原に懐中電灯を渡した 「俺が背負って上までお連れします」 慎一が言うと、一生は 「なら、タオルケットを持って来る!」 と言い一生は地下を後にする 「一生!足元に気を付けるんですよ!」 榊原が叫ぶと、一生はウエストポーチからヘルメットとか装着する小型のライトを取り出した 「旦那、大丈夫だ!」 一生は榊原を安心させ上へと走って行った 慎一が黒い物体を背負うと、黒い物体は呻いた 慎一は、細心の注意払い黒い物体を背負い 階段を上がって行った 榊原は康太と兵藤を先に上がらせ、一番最後に上がった 兵藤は手を差し出し、榊原が上がるのを手伝った 「ありがとう貴史」 榊原が言うと兵藤は 「お前が落ちたら康太に恨まれる」と笑った 廃墟を出ると一生は黒い物体にタオルケットを被せた 聡一郎が慎一を呼びに来た 慎一は廃墟から少し離れて止まってる救急車へと走り 救急隊員に黒い物体を預けた 康太は救急隊員に近づき 「この近くの総合病院へ連れてってくれ!」 と、頼んだ 救急隊員は「アポを取らないと…」と答えた 「アポなら俺の仲間が取ってると想う お前等は連絡を入れれば、連れて来いと言われる さっさと連絡を入れやがれ! 死なせたら…許さねぇかんな!」 康太は怒った 康太の怒気に当てたれ…救急隊員は慌てて無線で連絡を入れた 無線で連絡を入れると事前に話は通っていて早く連れて来い!と電話口で久遠医師が怒鳴った 救急隊員は処置を手早く済ませると 「総合病院へ連れて行きます! 誰か一人付き添って下さい!」 と言った 慎一が救急車に乗り込み 救急車のドアは閉められた 榊原は康太を持ち上げると車へと向かった 運転席には一生が乗り込み康太を待っていた 「康太、行くぜ!」 一生はそう言うと総合病院へ向けて車を走らせた 康太は清四郎と相賀に… 「真っ黒の…塊だった」 と告げた 清四郎と相賀は息を飲んだ! 暴行を受け…人のカタチはしていなかった… と言う事なのだろう 置き去りにされ… 息が止まるのを待っていた 須賀直人の息が止まるのを待っていたのだ! 康太は「許さねぇ!」と吐き捨てた 相賀は「許さなくて良い!」と叫んだ! 神野は…あまりの衝撃に… 顔を覆った 清四郎は「須賀直人は君の持ち物だ!許す必要などない!」と吐き捨てた 榊原は康太を抱き締め 「須賀直人は君の果てに組み込まれし人間 許せる筈などない!許しておくか!」 と、黒い物体を目にして…怒っていた 兵藤は「あれだけの暴行…後遺症が怖いな…」と、先の心配をする 慎一の様に…主に仕える… その気持ちだけで踏ん張れる人間は少ない 稀だ 人の心は…諸刃の剣… 恐怖と死を隣り合わせにすれば… 狂う 自分を制御出来なくて 恐怖が勝る時… 人の心は… 崩壊の一途を辿るしかない

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