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第31話 根回し
朝、出勤前の蔵持善之助に、一生と慎一だけ連れて逢いに行った
「康太!」
懐きまくる男が熱烈歓迎で康太に飛びついた
「出勤前なのに悪かった…」
「いいえ!康太に逢えるなら多少の都合は着けます!」
「善之助、オレの持ち物が暴行されて、この世から消される所だった」
康太は善之助に逢いに来た要件を告げた
「誰かと伺っても宜しいですか?」
「須賀直人だ」
康太の記者会見以降、善之助は須賀直人とは親しくしていた
食事をしたりお酒を飲んだり、気が向けば須賀に電話を入れていた
須賀は何時も善之助の予定に合わせてくれ出向いてくれていた
須加が断る事は一度もなく、何時も笑顔で出て来てくれていた
善之助は苦しげに眉を顰めた
「須賀に連絡が着きませんでした
須賀が電話に出ない事は一度もなく…不安でした」
「後数時間遅ければ…
須賀はこの世から旅立っていた」
そんなに!!!……善之助は怒りに震えた
誰も寄せ付けず生きてきた
他は要らない
必要ない
と、総てを拒絶して生きてきた
そんな善之助の前に飛鳥井康太が現れた
善之助は康太にプライドも生きてきた根底総て覆らされた
建て直され、作り直され…少しずつ回りと触れ合う機会を得た
須賀直人はその中の一人だった
「康太!私も加えさせて下さい!」
「だから来てる
忙しいだろうけどオレに力を貸してくれ…」
「ええ!須賀直人は私の友でも在ります!
君がくれた仲間です!
私も戦いに加えて貰わねば溜飲が下がりません!」
善之助は怒り狂っていた
こんなに怒る事は生まれて初めてだった
「5日後、記者会見を開く
その時参加して欲しい」
「解りました!5日後ですね!
5日後は朝から予定は入れません!
君と食事でも取りたいです」
「ランチならな。
ディナーは食える時間がねぇ」
「ええ。ランチで充分です。」
「善之助、もう1つ頼みがある」
「何でも言って下さい」
「佐伯を借りたい」
康太の想いだった
善之助も佐伯の行く末は心配だった
主に仕え生涯を終える
バトラーに相応しい男だった
だが、佐伯は年内一杯で、執事を引退すると言い出した
老兵は去らねばなりません
年々動けぬ体に…佐伯は引き際を美しく飾る気だった
善之助も、それを了承した
だが、主に仕える男は…
家庭は顧みなかった
一つの家庭を崩壊させた
善之助は胸を痛めていた
「佐伯を?解りました、貴方の謂う場所に逝かせましょう!」
「白馬に越させてくれねぇか?」
「よいよ!君の言う通りにしょう」
「何時でも良い。白馬に寄越してくれ」
「…………君には本当に…」
後は言葉にならなかった
佐伯の余生を面倒見るのは容易かった
だが、佐伯は世話にはならぬ道を行くのは見えていた
佐伯を蔵持の家に…
嫌、善之助に総てを賭けさせてしまった思いはある
何もかも失い
それでも佐伯は善之助に仕えた
誠見事な執事人生を佐伯は送った
多くの犠牲の元に…
それを佐伯はした
勇退した後…佐伯が不憫でならなかった
「ならな!善之助
出勤前に悪かったな」
善之助は涙で濡れた瞳を康太に向け
「康太…私は君と出逢ってなくば、人の重さも解らぬ愚か者のままでした…」
「いい顔になったな善之助!
そうしてお前は人の重みを忘れずに生きてゆけ」
「はい……」
後は言葉にはならなかった
善之助の秘書が善之助を呼びに来て、善之助は会社へと出勤した
善之助を送り出し佐伯は康太に声を掛けた
「康太様、この後少しだけ宜しいですか?」
「おう!良いぞ」
佐伯はお茶を入れ替えさせ、マカロンを置いた
康太はマカロンを食べお茶を飲んだ
「あんだよ?佐伯」
「康太様、私の事はお気になさらないで下さい」
「それは無理だ。
善之助は自分に仕えさせたお前が気掛かりで仕方がねぇんだ
お前の人生を…総て捧げさせた
お前の身の立つ様に家を建て、毎月仕送る
そのうち、悩むんだ
悩んで悩んで…善之助は自分を責めるんだ
それはさせたくねぇんだ
そしてお前の娘、明日菜
アイツは妊娠するぜ!
でも相手にすら言わねぇ…一人で産んで育てるつもりだ
そんな娘におめぇがしたんだ
お前は娘の側に行け
そして築けなかった時間を送れ
罪ばっかり作って…堪えるな」
「康太様…」
佐伯は静かに泣いた
娘の事は1日たりとも忘れた事はない
だが主を一番に…生きてきた
妻が息を引き取る瞬間も…
佐伯は主を優先した
その罪は重く…
娘と父親の…
埋められない溝を作った
「娘は…私の事は許しません…」
「なら許されるまで側にいれば良いじゃん」
佐伯は驚愕の瞳を康太に向けた
「佐伯朗人…蔵持家の佐伯じゃねぇ
佐伯朗人になれ!
んで、余生は娘の側で…だから蔵持家を去る決意を、したんじゃねぇのかよ?」
娘にやれなかった最後の人生を…
隠れて娘を見て行こうと思った
許されないのは…覚悟で貫き通した人生だ
許されようなんて思ってはいない
だが許されるなら…
最期はやはり父親を捨てれなかった
最期位は…時間の許す限り…
娘の側へ…
願いだった
「人は越えねぇといけねぇ壁があんだよ!
その壁を超えて行けた瞬間
見えなかった世界が見えて来る
繋げねぇとな、お前の明日を繋げねぇとお前の主は罪悪感で壊れるぞ」
「康太様…それは嫌で御座います」
「なら白馬に来い!
明日を繋げねぇと、お前は何処にも行けねぇぜ」
佐伯は深々と頭を下げた
「総ては康太様の想いのままに…」
佐伯も願って病まない明日へ繋ぐ
越えなければ繋げない明日なら…
覚悟を決めるしかなかった
「ならな!オレは今日は忙しいんだ!」
「はい。あ!暫くお待ちを!」
佐伯は立ち上がると慌ただしく応接室を出て行った
そして戻って来た時には手に紙袋を幾つも持っていた
「主が遅れに遅れましたが、大学入学祝いを、と申しましたので御用意致しました。」
佐伯は深々と頭を下げ
「緑川一生様」
佐伯は一生の側に行き紙袋を手渡した
「緑川慎一様」
同じ様に慎一にも紙袋を手渡した
そして二つの紙袋を慎一に手渡した
「この二つの紙袋は四宮聡一郎様と一条隼人様に手渡して戴けますか?」
「はい!必ずや本人に渡します!」
姿勢を正し慎一が言うと佐伯は微笑んだ
「主に仕える貴方は誰よりも執事だと、我が主善之助かが申しておりました」
佐伯が言うと慎一は驚いた瞳を佐伯に向け
「ありがとう御座います」
と、深々と頭を下げた
「ならな、佐伯!
白馬で待ってるかんな!」
康太はそう言い立ち上がった
そして佐伯に見送られ蔵持邸を後にした
慎一が車を走らせると
「慎一、何か食いたい」
と、康太が言った
慎一は一生に
「隼人と聡一郎は?」と問い掛けた
一生は携帯に打ち込んだスケジュールを見て
「隼人は仕事やろ?
白馬の前は忙しい言ってたけど…」
と、思案して神野に電話を入れた
「俺、一生だけど、隼人は仕事か?」
『一生、どうしたよ?
隼人は都内のスタジオだけど?
用なら連れてくけど?』
「用じゃねぇ。飯食いに行くからよぉ
隼人がいるなら置いてくと可哀相だからな」
成る程と、神野は納得した
『奢ろうか?』
神野が言うと一生は康太に
「神野が奢ると言ってるけど、どうするよ?」
と、問い掛けた
「なら神野の奢りだ」
康太は嬉しそうに言った
「何処に行けば良いんだよ?」
一生が問い掛ける
『ならホテルニューグランドでどうよ?』
「ホテルニューグランドか、近い。直ぐに行く」
一生は電話を切った
そして慎一に行き先を告げた
康太は笑っていた
楽しそうに笑っていた
ホテルニューグランドの車寄せに車を停めると、ベルボーイにキーを預けた
そしてホテルの中に入って行くと、ロビーに神野が待ち構えていた
「よぉ!康太!」
神野が片手を上げて康太に挨拶する
その横には…モデルばりの、男前が立っていた
男は康太を見ると背を向けた
「神野、オレの顔を見るなり背を向ける奴と飯食おうと言うのかよ?」
康太は揶揄した
神野は「香月…」と名を呼んだ
「神野…悪いが…私はまだ康太を見るべきではないみたいです」
香月と呼ばれた男が…刹那げに呟いた
「神野…オレ等は帰るわ」
「待って!康太!
せっかくお呼びしたのに…帰せません」
神野は香月の腕を掴むとズンズンと歩き出した
仕方なく康太達は神野について行った
部屋の前に止まると神野はドアを開け、全員を部屋へと押し込んだ
部屋に入ると「ルームサービスお願いします」と電話を入れた
用意された席に神野は康太を座らせた
「あれ?今日は伊織は?」
神野に聞かれ一生が「仕事だ」と答えた
「康太を置いて仕事??」
神野には想像が付かなかった
「オレを里理に逢わせる為に呼び出しのかよ?」
康太は神野に問い掛けた
「違いますよ!里理の得意分野は後遺症カウンセリング
須賀の為にアメリカから呼び寄せました!」
「日本には来たくないと駄々こかなかったのかよ?」
康太は笑った
「来ねば友情を切ると脅しました
切ったら2度と飛鳥井康太に、逢う権利はなくなる
今回お前を呼ぶのは飛鳥井康太の為だ!と誘き出しました!」
神野は悪びれる事もなく言ってのけた
里理…と、康太が呼ぶと、香月は康太を見た
「また可愛くなられて…」
香月が愚痴る
「オレは愛されてるからな!」
伴侶の愛があればこそだ…と言ったも同然の台詞だった
「君を目にすれば…離れた日々が…
無駄に終わるのは分かっていた…」
「それは神野に文句を言っとけ」
康太はケラケラ笑った
料理が運び込まれ、昔話に花が咲く
香月里理は瑛太の学友だった
生徒会に身を置き、瑛太の家に何度も遊びに行った
飛鳥井瑛太の溺愛四男坊に一目惚れした
瑛太が里理は危険だ…と排除しようとも
その隙間をかいくぐり康太に逢いに行った
……そして撃沈
里理は高校卒業と共に海外に渡った
「伴侶を得られたとか…」
里理には信じられなかった
桜林OBによる情報ネットワークで、目にした
『飛鳥井康太、伴侶を得た』と言うニュース
日本に帰ろうかと思った
そして…友を思った
友はどんな想いで…
それを了承したのか?
考えれば胸が痛かった
「おう!めちゃくそ男前だぜ!」
康太が惚気る
里理は「そうですか!」とため息を着いた
そして「今日はご一緒ではないのですか?」と問い掛けた
「おう!伊織は会社だ」
康太が言うと神野が
「伊織は飛鳥井建設の副社長をしてるんだ」
と答えた
「飛鳥井……に?」
あの寡黙な男が守る会社にいるというのか…
「なんなら会社に顔を出すかよ?」
康太がそう言うと、神野は
「お邪魔でしょ?」と、遠慮した
「構わねぇよ!会社に行って瑛兄にも伊織にも逢って来ると良い」
そうと決まれば、康太の食欲は凄かった
ガツガツ一心不乱に食事をする
慎一が静かに康太の世話を焼いた
食事を終えると慎一は康太の口を拭いた
そして回りに飛び散る残骸を片付け、食後の紅茶を康太に渡した
康太はそれをすすり
「この男はオレに仕える執事だ」と、里理に教えた
「執事…」
凄い…里理は言葉もなかった
食事を終えると神野に
「会社に行くとするか!」
と、立ち上がった
皆で駐車場まで出向き車に乗り込んだ
そして、飛鳥井建設まで出向いた
飛鳥井建設の入るビルの地下駐車場に車を停めると
里理は「飛鳥井建設の場所が違ってませんか?」と問い掛けた
神野は「建て替え中だ!」と答え車から降りた
康太は神野達が来るのを待ってエレベーターに乗り込んだ
6階の社長室や、役員室の並ぶフロアへと行く
そして社長室のドアをノックすると榊原がドアを開けた
「康太!」
榊原は嬉しそうに康太を抱き上げると頬にキスを落とした
「義兄さん、康太です!」
榊原はドアを大きく開けると一生や慎一、神野達を部屋に招き入れた
里理は混乱していた
目の前のが…飛鳥井瑛太ではないのか???
部屋の奥に…年を重ねた飛鳥井瑛太が立っていた
「香月!どうして?」
瑛太は部屋の中に神野と共に入って来た人間に驚愕の瞳を向けた
「瑛太、久し振り…」
同窓会も出なかった男が目の前にいた
「香月…康太で誘き出されましたか?」
的確に言い当て瑛太は笑った
神野達をソファーに座らせ瑛太も座った
「伊織!あんで瑛兄の所にいんだよ!」
康太は榊原の膝の上に跨がり、スリスリしていた
「仕事の話をしてました」
「副社長室に行く手間が省けたもんよー」
康太は榊原の首に腕を回し胸に顔を埋めた
榊原の匂いがする
瑛太も、回りの者も二人には一切気にする様子はなかった
里理はなんだか居たたまれない気分だった
神野は瑛太に
「須賀の為に香月を呼び寄せた!
康太で吊ったけどな!」
と、ちゃっかり手の内も見せた
「須賀の為に…」
瑛太は香月が心理学療法のスペシャリストだと知っていた
その為だけに、香月里理を呼び寄せたと、神野は言った
康太は「瑛兄、オレ等は伊織の部屋に行く」と告げた
瑛太は笑って「ええ。行きなさい」と許した
「伊織、オレをお前の部屋にオレを連れて逝け!」
悪戯っ子みたいに言われ榊原は康太を抱き上げたまま立ち上がった
康太と榊原、慎一と一生が部屋を出て行くと
神野は息を吐き出した
瑛太は「康太とは?」と問い掛けた
「隼人は仕事か一生が電話して来たからな、食事に誘った」
と、包み隠さず瑛太に話す
瑛太はそれで納得した
里理は瑛太を見て…
「ドアを開け時…瑛太が若返ったのかと思った」
「似てますか?」
瑛太は静かに問い掛けた
「よく見れば違う…
遠くから一瞬だと…お前かと思った」
「祖父が同じなので似るのは仕方ない
康太に言うと吐きますよ?」
瑛太は楽しそうにそう言った
「康太が命を賭けて愛するのはこの世で唯一人
榊原伊織だけですからね」
「…………意外……お前は……」
誰よりも愛して育てていたのに…
「私は康太の兄です!
伊織と康太の幸せを誰よりも願ってます」
瑛太は凜として言った
その話はもう終わりだと…
話題を変えた
本来の呼び出された目的、須加直人の主治医の一人に収まるべき話をした
副社長室に行った康太は榊原の膝の上にいた
「康太、僕は神野とご一緒していた方は知らないのですが…」
紹介される前に…退席したから
「香月里理。こう言う字を書く」
康太は榊原の手に漢字を書いた
さとり…と、榊原は呟いた
そして、引っかかった何かを思い出す
「香月里理…あぁ…ハーバード大学で後遺症カウンセリングの第一人者ですね」
榊原は最近賞を取った学者の経歴を口にした
「らしいな。神野が呼び出した」
「餌は?」
「神野に聞け」
「まぁ良いです。
君は僕のモノですから!」
「伊織、まだ善之介しか終わってない…」
と、康太はガックシ…呟いた
「若旦那と四季さんでしたっけ?」
「そう…気分が萎えた…」
「若旦那には、アポは?」
「これから取る…」
「なら頑張って行かなきゃね!
白馬に行くまで耐えて下さい」
「………解ってる」
「今夜は甘やかしてあげます」
「なら頑張る!」
康太はそう言うと榊原の膝の上から降りた
一生はなんとキャッシュなんだよ…と呆れた
榊原は胸のポケットから携帯を取ると
「榊原伊織です。今日、少しだけお時間ありますか?」
と、電話を入れた
『ええ。ご用件は何でしょう?』
「これこら康太が伺いたいと申しております
宜しいかお伺いを立てたいのですが?」
『宜しいですよ!
お待ちしております!』
返事を聞き榊原は電話を切った
「康太、行ってらっしゃい!」
榊原が言うと康太は
「なら行ってくる!」
と、榊原に背を向け片手をあげた
副社長室から出て行くと一生と慎一も康太の後に続いた
榊原は断ち切るかのように仕事を始めた
本当なら離したくない
でも康太が守るこの飛鳥井を守らねばならないのだ
手など抜けない
榊原は鬼と化して仕事を片付けて行った
副社長室を出た康太達は地下駐車場へと向かい車に乗り込んだ
今度は一生が運転席に乗り込む
慎一は何も言わず康太の横に座っていた
主の為にいる男だった
蔵持の執事の様に、周防に仕えし秋月巽の様に
慎一は主に総てを捧げて生活していた
車はトナミ海運の駐車場へと滑り込んでゆく
来客用のスペースに車を停めると、康太は車から降りた
その後を一生と慎一が続く
トナミ海運に入り受付嬢に
「飛鳥井康太が来たとお伝え下さい」と伝えると
「伺っております。このまま上がって下さいとの事です」と伝えてくれた
康太は受付嬢に片手をあげて、最上階まで行くエレベーターに乗り込んだ
最上階まで行くと、戸浪の秘書の田代が康太を待ち構えていた
康太は田代を見かけると
「悪かったな」と声をかけた
田代は「社長がお待ちですよ」と伝え
社長室のドアを開けた
康太達は招き入れられ社長室に入った
戸浪はソファーに座る事を勧め、田代にお茶をお持ちしてと指示を出した
康太は戸浪に単刀直入に
「若旦那に頼みがある」
と、申し出た
「頼みですか?
聞ける話ならお聞きします」
と戸浪は返した
「若旦那は須賀直人はご存知か?」
「ええ。君の記者会見以降、親しくさせて戴いてます。
彼とは何度も食事したり、飲みに行ってます」
「須賀直人が瀕死の重体だ」
「……………え???」
戸浪は言葉もなかった
「誰が…須賀を?」
事態が飲み込めないは呟いた
康太は戸浪に説明を始めた
「オレは一週間程還るのが困難な場所にいた
若旦那に逢った日に言いましたよね?」
「はい、お聞きしています」
「若旦那と別れた後に神野から電話がありました
突然事務所協力を解除され、須賀に問い合わせようとしたが連絡が着かなかった‥‥と。
須賀は行方不明になってました
須賀の行方不明には不可解な点が有りすぎて、調べました
そしたら…オレに株をくれる前から不穏な空気はあった…
オレはそれは詠めなかった…
須賀は拉致られて暴力の限りを尽くされて‥‥死を待つかのように地下室に放置されていた
オレが発見した時には‥‥‥黒い塊と化してました
あと少し遅かったら…生きちゃいなかった
オレは須賀を…救い出して…入院させた
須賀直人と名前を名乗れば…危ねぇからな
飛鳥井の名前で入院させてある
佐伯はそこまで読んで医者に手筈を整えてくれた
オレは反撃に出る
で、本題は此処からだ!
若旦那、記者会見を開くから乗ってくれねぇか?
此処で潰して良い奴じゃねぇ
何年かかってもオレは須賀を再生する
それには還る場所がねぇとな
オレは須賀が還る場所を取り戻す!
力を貸して欲しいんだ若旦那!」
「康太!須賀は私の友達です!
君がくれた繋がりじゃありませんか!
彼との会食は楽しいですよ
最初は嫌いでした…須賀の事務所のタレントを使うのは嫌な位にね
でも今は違う!須賀は弁えてます
君のモノであろうと努力する須賀は人懐っこい優しい奴です!
私が出るのは当たり前!
友の仇を打たねば男が廃ります!」
戸浪は言い切った
飛鳥井康太が繋げた人脈だった
人は繋がり先に行く
だから繋がり明日を築け
そう言ったから繋がり明日を築く努力をする
須賀も同じ
2人とも不器用な男だったから…
「ありがとう…若旦那…」
「私は何をすれば良いのですか?」
「5日後に開く記者会見に出て欲しい」
「良いですよ!君の望みなれば、私はこの命擲っても構わない!」
「……ありがとう」
「気にしなくて良いですよ」
「話はそれだけだ!またな若旦那」
「お食事でも…と言いたいですが…
休暇の前で仕事が詰まっております…許してくださいね」
「若旦那、我が伴侶も休暇の前で馬車馬になってる
一緒だな」
康太は笑って立ち上がった
そして戸浪に深々と頭を下げると、ニカッと笑い社長室を出て行った
トナミ海運の会社を後にして、駐車場へと向かい車に乗り込む
今度は慎一が運転席に乗り込み
慎一は車を走らせた
康太は思案していた
考え込んで…携帯を取りだした
そして番号を打ち込んだ
「飛鳥井康太です!」
電話の相手が『康太さん』と息を飲んだ
「少し話がしたい
お時間ありますか?」
『ホテルを取りますか?
それともこちらに向かいますか?』
「貴方の会社の横にあるホテルに部屋を取ります
フロントに聞けば解るようにしておくので暫くしたらお越し下さい!」
『解りました!30分後伺います』
康太は電話を切ると
「一生、東都日報の横のホテルの部屋を取ってくれ
話が出来ればどんな部屋でも構わない!」
一生は「あいよ!」と返事をして東都日報の横のホテルに電話を入れた
そして部屋を押さえると
「完了!」と告げた
慎一は言われるまでもなく東都日報近くのホテルへ向かった
一生は車から降りるとフロントに走った
そして手続きを済ませると康太の横に走った
「5階の505号室だ!
エレベーターで行こうぜ」
一生はそう言うとエレベーターのボタンを押した
ドアが開くと全員乗り込んだ
そして505号室のドアの鍵を開けるとドアを開けた
部屋に入ると康太はソファーに座った
「フロントには東都日報の今枝浩二が来たら部屋に案内してくれと頼んどいた
そして今枝浩二が来たら部屋にお茶を運ぶように頼んどいた」
「ありがとう一生」
「寄せよ!礼なんて言うな!」
一生は照れて康太を止めた
暫くすると東都日報の今枝浩二がドアをノックした
慎一がドアを開けに行き今枝浩二を招き入れた
康太は立ち上がると今枝浩二に深々と頭を下げた
「頭をお上げください」
今枝は康太を止めた
「お話を伺います!」
今枝は自分を呼び出した要件を聞いた
「少し待てお茶が来る」
康太が言うとワゴンに乗せた給仕がお茶の用意をした
お茶の用意をすると給仕は部屋を出て行った
それを確かめて康太は口を開いた
「今枝は須賀直人をご存知か?」
今枝の眉がピクッと動いた
「このタイミングで…須賀ですか?
ならば…ネット上で飛び交う須賀の噂話は、貴方が攪乱させているのですか?」
「掴んでるのか?」
「我ら報道に携わるモノは、どんな情報でも把握しています
その中で何日経っても消えない噂
日を追うごとに化けてく噂話は要チェックしております
そして貴方が須賀直人を尋ねるのならば、それは意図を持った話だと察し致します」
今枝は核心に触れた話を康太にした
自分の道を見紛う事なく生きていられるのは、貴方のおかげだから…
記者魂が濁ったなどと言われない為に日々真実を追究して来た
自分の指針を埋め込まれた
その指針に沿って生きてゆく
今枝の覚悟だった
「須賀直人が殺されかかった
オレがいなくば…間違いなく…あの世に行っていた」
今枝は驚愕の瞳を康太に向けた
「オレは日本にいなかった、帰国してから須賀に連絡が付かない事を聞いて探した
そして死にかけた須賀を保護したってのが経緯だ」
「須賀には家族はいなかったのですか?
人‥‥一人消えているのですよ?
家族は何をやっていたのですか?」
「その家族が‥‥須賀を消そうとしてれば‥‥」
「……………須賀の消息を断つ事など造作もない‥‥と謂う事ですか‥‥」
そこまで言い今枝は眉を苦悩に顰めさせていた
社会的に地位のある人間が突然消える…
身内も親戚も知人いない…そんな人間なら…まだしも
須賀の様な社会的地位のある人間が…
消えて…殺されかかる…
なんて事は罷り通る訳がない
罷り通してはならぬ事だ‥‥‥
「私に取材させて貰えるのですか?」
「もう調べてるんだろ?
オレはお前が食い付く様に餌を撒いた
そろそろお前が食い付く頃かとやって来た」
「食い付いております!
何故…この様な噂が立ったか調べている所です」
「不可思議だろ?」
「ええ。噂は貴方が流してる節は否めなかった
でも何故…貴方が流すのか…気になっていました」
「何処まで調べ上げた?」
「ますは須賀直人の生い立ち」
「そして?」
「須賀直人の経歴、そして今の現状!」
「何か掴んだか?」
「須賀仁人は今年の3月に他界しました」
「……え?それは知らねぇ…」
芸能事務所の社長の親族が亡くなったら、報道が取り扱わない筈がないのに??
「密葬で規制を掛けたみたいです」
「……………」
「続けて良いですか?」
「悪い…続けてくれ」
「須賀芹那さんにはお子さんが見えます
須賀直人はその子は父の子ではないと遺産相続をさせなかった
それで今も遺産相続で裁判に発展しています
裁判では、子供のDNAが焦点になり次回裁判では子供のDNA鑑定の結果が読み上げられる所でした
そんな中先の株主総会がありました
須賀直人は不在のまま…
株主に須賀直人の退陣を迫り、了承させた
名実ともに須賀芹那は須賀芸能事務所のオーナーになった
それだけでもきな臭い話ですよね?
内密に嗅ぎ回ってたら、今回のネット上で飛び交う須賀の噂話
意図的なモノを感じずにはいられませんでした」
「須賀は息の根を止められる寸前だった
オレが還るのが後少し遅ければ…確実に、あいつは生きてはいなかった…それが真実だ」
康太は悔しそうに、そう言った
今枝はその呟きを拾って
「何処かへ行ってらしたのですか?」と問い掛けた
「人が踏み込めぬ場所に行っていた
還ったのは昨日だ‥‥もう少し早く還っていれば‥‥と謂う悔いは残っている‥」
「貴方は須賀の命を掴みこの地に留めた
だから悔やんだりしないで下さい‥‥
で、私に何をさせたいのですか?」
「お前は真実を書け!
曲がる事なく真実を書け!」
「はい!貴方の言葉は私の指針として生きております!
須賀直人は…何処にいますか?」
「総合病院のICUだ!
全身包帯だらけで、意識不明の重体だ」
「私一人で行きます!
カメラに収めて構いませんか?
記事を出すのは貴方の命を受けてからにします
記事だけ先走りしたら…貴方が困りますから」
「なら連れて行く
オレと来い」
康太は立ち上がった
それに続いて今枝も立ち上がった
料金を精算して駐車場へと向かう
慎一が運転席に乗り込むと一生は助手席の乗り込んだ
康太と今枝は後部座席に乗り込んだ
「今枝」
「はい!」
「何時見てもお前の記者魂は綺麗だな」
「ありがとうございます」
今枝は深々と頭を下げた
「1本通ったお前は曲がらない
その分敵も多い…
万策尽きたら呼ぶが良い
出来る事ならしてやろう」
「……本当に貴方は優しすぎる…」
今枝は零した
「何があってもお前は曲がらず伝えろ!」
「はい!」
康太はもう何も言わなかった
車は総合病院の駐車場へと走って行き
皆が車から降りると駐車場の係員にキーを預けた
慎一が警備室から久遠医師に許可を取り病院へと入って行く
一般病棟とはかけ離れている人気のない廊下を歩く
ICU、救命病棟と書かれた通路を入って行くと
久遠医師が待ち構えていた
「まだ、意識は戻らない…
ICUのガラス越しに見て帰ってくれ」
「写真は良いか?」
康太は久遠に問い掛けた
「フラッシュをたかねばな!
フラッシュは患者を刺激する!それは許せん」
康太は今枝を見た
「フラッシュはたきません!
それで撮らさせて戴けますか?」
「ならば共に病室に入れ!
お前は真実を映す役目を仰せつかったんだろ?
ならば、真実を撮らせてやろう!来い」
久遠は今枝を連れて処置室に入った
完全無菌殺菌して白衣に身を包み帽子とマスクをする
総ての行程を終えると久遠はICUのビニールの膜を捲った
そこには…
目の部分以外は包帯が巻かれた男が酸素や器具をつけられていた
見るからに腫れ上がった顔は原型を止めてはいなかった
少し見える目の部分は真っ黒で‥‥‥皮膚が…変色していた
全身に…負傷を負った男が‥‥‥
須賀直人だと思えない人間が…‥
機械に繋がれて…生かされていた
あまりの酷さに…
今枝は撮るのを忘れる程だった
だが、この状況を今枝の伝えた、康太の想いに添わねばならない事を忘れる訳にはいかなかった
フラッシュをたくことなく今枝は写真を撮った
数枚撮ると、今枝は久遠に頭を下げた
久遠は須賀のバイタルを確認して今枝をICUの外へと連れ出した
ICUの外に行き、白衣と帽子を脱ぐと廊下に出た
今枝が外に出るなり康太は
「今枝」と名を呼んだ
「はい。」
「5日後に記者会見を開く」
記事を流すのはそれに併せてだと暗に康太は教えた
「その記者会見、東都日報が根回し致しましょうか?」
「良いのかよ?」
「ええ。貴方の手助けを出来るのは至極光栄で御座います」
「なら東都日報が記者会見を開く手筈を整えてくれ
総てお前に任せる!」
「はい!では今から動きたいと思います!」
慌ただしく出て行こうとする今枝を
「慎一乗せて行ってやれ!」
と、命令して送っていった
今枝と慎一を見送り、康太は
「一生、タクシーで良いか?」と問い掛けた
「バスでも良いぜ!
此処からなら学園に行くバスも出てる」
「ならそれに乗って四季の所へ行くか!」
康太と一生は病院を出て駅の横のバスターミナルへと歩いて行った
『桜林学園行き』と言う行き先表示のバスが来ると2人は乗り込んだ
「久々だなバス」
康太は嬉しそうに言った
「たまには良いなバスも」
一生も嬉しそうに返した
暫くバスに乗ってると一生の携帯が胸ポケットで震えた
一生が電話に出ると
『貴方、何処にいるんですか?』と慎一から電話があった
「桜林に行くバスの中だぜ!」
一生が答えると
『桜林の駐車場で待ってます』
と、電話が切れた
康太は一生の肩に頭を置いて寝ていた
桜林についても起こして起きなくて、一生は康太を背負ってバスを降りた
外の風にあたり康太は目を醒ました
「オレ寝てたのかよ?」
康太が聞くと一生は
「爆睡してた」と笑った
桜林の駐車場へ行くと慎一が待っていた
「悪かったな慎一」
「いいえ。学長は待っておいでです」
慎一は康太を待つ間に神楽四季とコンタクトを取っていた
康太が学長室へのドアをノックすると、四季が飛び出して康太を抱きしめた
「おいおい…オレを座らせろ」
康太がそう言うと康太を抱き締めたまま四季はソファーに座った
一生と慎一は苦笑しつつも学長室への中へと入りソファーに座った
「四季、頼みと話がある」
「何でも言って下さい!
何でも聞いてあげます!」
「四季、明日、白馬に来い!」
「………え?」
「俺の話を聞け!」
康太に言われ四季は康太を離した
「九曜海路に逢わせてやる」
「要りません…今更でしょ?」
「乗り越えれねぇ壁が、今更の訳ねぇだろ?」
「ボクは乗り越えてませんか?」
「時を止めし哀れ子…」
「………え?」
「海路はお前の今を知らない
そしてお前は父の苦悩を知らない」
「解りました!
白馬に行きます!」
「四季、おめぇには血の繋がった身内がいるのを知ってるか?」
「……!……知りません…」
「神楽に婿養子に行く前に、九曜海路には子供がいた
内縁のまま出来た子だけどな、いたんだよ
神野譲二、そうお前の知ってる神野晟雅は神野譲二の息子だ
そして神野譲二は一条小百合と言う女優と不倫関係の果てに子を成した
その中の一人が一条隼人、良く知ってるよな?
お前は神野と隼人の叔父に当たる
だから隼人の子をお前の後継者に据えるんだ」
四季は驚いていた
繋がっていた
見事なまでに血は繋がって受け継がれていた
天涯孤独と悲しんだが…
こんなにも身近に…
血の繋がりがあったと言うのか…
「頼みと言うのは、白馬に来てくれ!
と言う頼みだ
話と言うのはお前に血の繋がりのある人間がいると言う事だ
聞いてくれるか?」
「ええ。ええ………総て聞き入れます」
神楽は了承した
「んとに、貴方は突然ですね…」
「魔界に行った時な、お前の親父に頼み事をした
その褒美で海路は人間界に来れる事になった
そろそろ滑りの悪い想いを一掃してやんよ!
お前は人の親のなる!
音弥が欲しくば、親の心を知れ!」
「音弥が欲しいので親の心を知ります!」
「お前のPCに地図を転送しとく
必ず来い!待ってるからな!」
康太は四季を抱き締めた
「じゃ!オレの話はそれだけだ!
オレは帰るな!」
康太が立ち上がると一生と慎一も立ち上がり
四季も立ち上がった
四季は深々と頭を下げた
康太は片手をあげて、学長室へを出て行った
駐車場の真一の車の前には悠太が待ち構えていた
「康兄!」
「悠太、どうしたよ?」
「康兄の姿見たから待ってた」
康太はそうかと笑った
「帰るなら乗せてくぞ?」
「俺はまだ帰れません
生徒会があるので…残念です
その後師匠の所へ行かないといけないので」
「そっか!じゃぁな悠太」
康太は悠太をポンッと叩くと車に乗り込んだ
その横に一生が乗り込み、慎一は運転席に乗り込んだ
車が走り出して消えて行っても悠太はそれを見ていた
一応、今日の予定は全部終わり、一生は
「家に帰るのかよ?」
と、問い掛けた
「オレは一足先に白馬に行く!
この後荷物を運び込み、オレは白馬に行く」
また突拍子もない事を言い出し…
一生は唖然となった
「旦那には行っておかねぇとダメだぞ」
「今言うとな仕事を抜け出す
…………困ったな…どうするかな…」
「なら伊織が帰るまで待って家を出れば良いじゃんか」
「…………だな…」
康太を最優先する男は仕事を放って駆け付けて来るのは解っていた
愛する男を苦しめたい訳じゃないのだ…
飛鳥井の家に帰り、康太はリビングに行く
そこで横になってると、知らないうちに寝てしまった
緊張してなかったと言えば嘘になる
何時だって動く時は命を懸ける
半端な思いでなど動かない…
眠りに落ちて気が付くと…
榊原の匂いがした
康太は慌てて飛び上がると榊原に抱き付いた
「伊織!」
康太に飛び付かれて榊原は康太を強く抱き締めた
「疲れましたか?」
「うん!疲れた」
「白馬に一足先に行くんですか?」
「………と想ってた」
「良いですよ。白馬に行きますか?」
「伊織 、仕事は?」
「……………持ち込みです…
でも君を抱く時間は譲らない
合間を見てにします」
「……伊織…ごめん…」
魔界に行ったり、須賀の救出に向かったり…
榊原の仕事の邪魔をした
「気にしなくて良いですよ!
君の事なら人任せはしたくありません!」
「伊織…愛してる」
ペロッと榊原の唇を舐めると
「白馬に行きたければ…辞めて下さいね
君をベッドに押し倒し好き放題にしてしまいますよ?」
榊原は笑った
康太は榊原の膝の上から降りた
そして寝室に行って荷造りを始める気だった
「康太、荷造りは既に終わってます」
「え……」
榊原は暇を見つけて荷造りをしていたのだった
「慎一を呼んで来てください」
榊原に言われて康太は慎一を呼びに行った
慎一がやって来ると榊原は荷物を慎一に持って貰い
一緒に部屋を出て行った
「……………オレって全く役に立たねぇじゃんか…」
康太は淋しく呟いた
康太は雑いから家のモノを破壊する
普通にやってるつもりでも…
康太が触ると壊れる
榊原は康太に…何も触らせない
期待していない…
何だかそれが無性に…悲しかった
榊原は康太だけを、乗せて白馬に向かった
一生達は皆集まってから白馬に向かう
白馬に向かう車の中…
康太は、PCを駆使して休む暇もなかった
そして、時折、瞑想した様に目を瞑る
榊原は康太に取り付く島もなかった
「康太、何かありました?」
榊原が言っても、じーっと榊原を見るだけで…
康太は何も言わなかった
「何か康太の気に障る事をしましたか?」
「してねぇよ!」
PCから目を離さず榊原に言う
………榊原は不安になった
「伊織」
「何ですか?」
「一生に言われても、いちいち、聞かなくて良い」
「それはどう言う意味ですか?」
「そのままの意味だ!」
「康太!君以外に大切なモノなんてない!」
叫んで…
榊原は路肩に車を停めた
ハンドルに顔を埋め…
榊原は震えていた
「伊織…」
康太が榊原に手を伸ばす
榊原はその手を振り払った
康太の瞳が…傷付いて…
涙で濡れた
康太は榊原から目を離し…目を閉じた
拒絶する榊原なんて見ていたくないから…
興奮した榊原は、落ち着こうとハンドルに顔を埋め
なんとか自分を立て直していた
ハンドルから顔を上げると…
康太は、そっぽを向いていた
「康太…こっちを向いて…」
榊原が肩に手を掛けると
康太は、ビクッと体を震わせた
「康太、ねぇ康太…」
康太は恐る恐る榊原を見た
脅えた瞳に…怖がらせてしまったか…と、後悔した
「怒ったの?」
康太は首をふった
「僕の事が嫌いになりましたか?」
ううん…と、康太は否定した
「じゃあ何かありましたか?」
「何もねぇ…」
「………康太…僕から君を奪わないで…」
榊原は康太に手を伸ばした
「伊織…」
「何が気に食わないの?」
「違う…オレは本当に役に立たねぇな…
伊織の足ばっかし引っ張る…
そう想ったら…落ち込んだ…」
「君の為に僕はいるんですよ?
解ってますか?」
康太は頷いた
「僕に取ったら君より優先すべきモノはない
してあげたいんです!
嫌ですか?」
「嫌じゃねぇけど…オレに振り回されてるのは現実だ…」
「康太…本当に君は可愛いんだから
そんな顔して拗ねないで下さい」
「どんな顔が解らねぇもんよー」
榊原はチュッと康太にキスを落とした
「さっきは怖がらせましたか?」
康太は首をふった
「時々感情がセーブ出来ねぇ時があんだよ」
「今日は僕と離れて淋しかったんですね?」
「………………うん……伊織がいないから…」
康太は榊原に縋り付いた
榊原は康太を抱き締めた
「白馬に行きますか?
それとも2人でホテルに直行しますか?」
そんな事したら一生達が大慌てで大変な事になる
「伊織と行く…」
「………康太、とても魅力的な誘いですけど…
白馬に行かないとダメなんでしょ?」
「オレも伊織以上に大切なモノなんてねぇ」
榊原は嬉しそうに笑いエンジンを掛けた
そして静かに車を走らせた
「白馬に行きますよ?」
「おう…それで良い」
「寝てなさい…僕の膝で…」
榊原が優しく康太の頭を撫でると康太は、榊原の膝の上に頭を置いた
暫くすると…康太の寝息が聞こえた
緊張して過ごしていたのだ
それでも康太は完遂するまで走り続ける
自分を追い込んで傷付き倒れても、その歩を止めない
白馬に行くと、去年と様変わりしたホテルが目に飛び込んで来た
外観を損ねない様に建て替えられたホテルが在った
真っ白な白亜のホテルが緑に眩しく映えていた
昼に見ればかなり美しいだろうけど…
白馬に到着した時は既に夜だった
「康太…康太…」
榊原は康太を揺すって起こした
康太は寝ぼけて榊原を見た
「メシ?」
「違いますよ…お腹空いてたら少し待って下さいね
何処に車を停めたら良いのですか?」
榊原が言うと康太は…キョトンとして首を傾げた
「もう白馬?」
「ええ。白馬に到着しました」
「伊織の車は関係者専用の駐車場に停めろ
この先のホテルの横にあるから」
榊原は康太に言われ駐車場まで走り、車を停めた
「お腹空いてますか?」
「ん。ペコペコ」
「ならホテルに行く前にレストランですね」
榊原はそう言い康太を促し車を降りた
すると近くを歩く職員が
「此処に車を停めるな!」
と、怒鳴った
康太は周りを見た
寝ぼけて間違えたか?
と、見渡すが間違いなく、康太は職員を睨み付けた
「てめぇ、誰に口を聞いてる!」
康太が言うと職員は「…え?」と不思議そうな顔をした
康太は胸ポケットから携帯を取り出すと電話を入れた
「オレだ!
白馬に着いて車を停めたら怒られた
どうなってるんだ!
どんな、社員教育してんだよ!」
康太が言うと『直ぐに行きます!』と電話を切った
けたたましく走ってくるのは朝宮一騎が走ってきた
「康太様!!」
駆け付けてくる朝宮の姿に社員は青褪めた
朝宮は、注意した社員に
「この方は当ホテルのオーナー飛鳥井康太様だ!」
と告げた
まさか…こんなに若い奴がオーナーだなんて知らなくて驚いていた
「康太様、近いうちに社員の前に顔を出して下さい
今後一切この様な事がないように対処して行きたいと思います!」
朝宮は、康太に平謝りだった
社員も一緒に平謝りしていた
「康太様。飛鳥井のお部屋にご案内致します」
朝宮が、ホテルのフロントに顔を出し
飛鳥井の部屋に案内しようとすると……
既に…他の家族に…貸し出した後だった
康太はあまりの酷さに眉を顰めた…
「飛鳥井の部屋は夏の時期は貸し出し禁止の筈じゃなかったのかよ?」
康太が言うとスタッフは大慌てで…
暫くお待ちを!と待たされた
康太は嫌な予感して
「朝宮、源右衛門の別宅は貸し出してねぇだろうな!」
と、怒った
朝宮は慌てて調べた
すると源右衛門の別宅も貸し出した後だった
「朝宮!源右衛門の別宅は今後一切貸し出し禁止といったん筈だ!
飛鳥井の部屋も今後一切貸し出し禁止だ!
今すぐお客様を移動しろ!」
康太は言い切った
するとフロントの女性が
「勝手な事を言われても困ります!
何処の誰だか知らないけど、偉そうに!」
と、吐き捨てた
「オレは飛鳥井康太!
このホテルのオーナーだが?
こんな社員なら要らねぇな!
朝宮、クビで構わねぇぞ!
飛鳥井から使える社員を持って来る
殆どの社員を入れ替えればスキルも接客態度もレベルは上るな」
康太は言い捨てた
榊原も「こんなに腐ってたとは…」と零した
「飛鳥井は蔑ろにされて良い存在ではない!」
康太はフロントに行くと
「出ろ!」
と、無駄口を叩いた女性社員に言った
「お前のような社員は要らねぇ!」
女性社員は顔面蒼白になった
「伊織、あと少しで一生達が来る
そしたら手伝って貰ってくれ…」
「ええ。寝る場所もないですからね…」
まさか……飛鳥井も馬鹿にされたもんだ…と、康太は零した
「朝宮、経理の台帳とか後で見せろ!」
こんなに腐ってたら…
腐った現実しか見えないだろう…
徹底した管理教育がなされてなかった
統制は取れてなくて…
バラバラだった
建て替えてリューアルオープンしたのに…
こんな現状では遠くない将来失墜は必ず来る
馬の調整も最近遅れてる
その現状を確かめる為に康太は早めに白馬に入った
まさか…此処まで腐ってたら…
何が出て来るか…
解ったもんじゃなかった
「伊織…最近白馬から上がる馬は絶不調でタイトルは愚か…パドックすら入れねぇ状態なんだよ?」
「え?……まさか…」
「白馬のホテルは建て替えて、源右衛門の別邸も立て替えた
この先の丘に結婚式場を建てて…変わる筈だった
が、生まれ変わる所か…赤字に転落した
挙げ句…馬も絶不調だ
早めに見に来る必要があったんだよ」
「そんな理由が……」
「このホテルを不調にして買い取る計画も出てるらしいな…」
「…何処の会社ですか?」
「この地元で結構大きな建設会社らしい」
「きな臭くないですか?」
「だろ?目を離すと…とんでもねぇな…」
「経理もな、今頃、証拠隠滅に必死で警察に捕まってるかもしれねぇんだよ!」
「横領ですか?」
「ばっちりと横領だ!
告発してやったかんな!
臭いメシ食って来るしかねぇわな!」
「聡一郎が最近忙しそうだったのは…この日の為ですか?」
「それもある
さてと、伊織、一生達を呼んで来てくれ」
榊原は言われ駐車場まで行き、一生達が来るのを待った
一生達は榊原を見つけると車を停めた
「どうよ?」
「……………酷い状態ですよ?」
榊原は白馬に来てからの事を一生に告げた
ともだちにシェアしよう!