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第33話 確かなモノ②

一生と慎一が食料を買い込んでやって来た 一生は財布を榊原に返した 榊原はそれを受け取ってポケットにしまった 「この近くの牧場がプリンを始めてたからな買ってきたぜ!」 と一生は言い、一つを康太の前に置き、他は冷蔵庫に片づけた 一生と慎一はかなりの食料を調達してきた 作るモノは明日から 簡単に食べられるモノは今日中に消化する 皆の前に弁当を置いた 榊原は「佐々木蔵之介さんがお見えになったら動きます」と伝えた 一生は「あの佐々木蔵之介?引っ越しのCMのじゃなく」と確かめた 「引っ越しのCMの方は……無理ですよ」 榊原はため息交じりに零した 皆、闘いを前にして黙々と弁当を平らげた 食事が終わると慎一は康太の前に玉露を差し出した わざわざ飛鳥井の家から持参したのだ 主に仕える男は何処までも、主の好みを通す男だった 食事を終えると、車の中からスーツケースを取り出しホテルの飛鳥井の部屋へと向かった 適当に部屋を決めて、そこでスーツに着替えて支度をする 康太は榊原にスーツを着せて貰った 「伊織……」 「何ですか?」 「…………仕事は?」 「夜にでも片付けます 康太が動く時、僕は横にいたいのです」 「………すまねぇ…」 「仕事は緊急なら義兄さんがやりますよ」 榊原はそう言いニコッと笑った 朝から瑛太を見ないのは… 佐伯に捕まり仕事させられてると言う訳だった 「瑛兄には泣いて貰おう……」 心で詫びる…… 「その分今夜頑張ります! 今朝まで康太を補充したので頑張ります」 榊原はそう言い爽やかに笑った 一生が見てたら… そこは爽やかに笑う所と違いまんがな…とボヤくだろうけど…… 榊原が康太と共に部屋を出ると瑛太と出くわした 「康太、何処へ行くのですか?」 アロハでなくスーツに身を包む康太の姿に……瑛太は問い掛けた 「速水建設に行って話をつけてくるんだよ! 放っておけば隙あらば狙って来るかんな 叩き潰して二度と狙おうと想わねぇようにしねぇとな」 と瑛太に話した 「速水建設はパイプは有りませんよ? 速水建設の社長はかなりのやり手で、暴力団とも親交がある……と噂される人物だ……気を付けて下さい 必ずや帰ったら顔を見せて下さいね!」 「おう!夜には一緒にメシを食おうぜ! だから必ず瑛兄に顔を出す待っててくれ」 瑛太は頷いて、康太に頭を下げた 目の前を……康太が戦地へと繰り出して行く 止められない 止めたいが…飛鳥井家の真贋の歩を止めるのは許されない 瑛太は康太の姿が見えなくなるまで見送っていた 「社長!早く仕事に戻って下さいね! 副社長は帰って来たら仕事させます! ですから早く仕事しやがれ!」 佐伯の逆鱗に触れ、瑛太は仕方なく仕事へ向かった ホテルの外に出ると、スーツに身を包んだ一生と慎一がいた そして聡一郎もいた 慎一は「レンタカーを借りて来ました!」と言い ベルファイアのドアを開けた 用意周到 康太が着替えていた間にレンタカーを借りに行き着替えを済ませていた 康太はベルファイアの中へ入って行った 榊原も康太の横に座り、一生と聡一郎が乗り込んだ そこへ神野が車の窓をコンコンッと叩いた 康太は窓を開け 「どうしたよ?」 と問い掛けた 「俺達はこれから街を回って映画見たり、過ごして来るわ 四季が一緒に過ごしたいと言うからな行って来るわ」 「おう!行って来い! 楽しんで来い!」 「貴方は?」 「オレか? 楽しくない場所に行く 下手したら無事で帰れるか解らねぇ場所にな!」 神野は……康太の腕を掴んだ 「必ず帰って来て下さい!」 「神野!」 「はい!」 「隼人が逢いたいと言っても行けれねぇ場所に行く 電話も…繋がらないと思う」 だから隼人の面倒を見ろ!と康太は言う 「解ってます! では俺達は出掛けて参ります!」 神野は康太の手を離して踵を返した 慎一はエンジンを掛け車を走らせた 神野の車の横を康太達を乗せたベルファイアが走り抜けて行った 慎一は車を路肩に車を停め、神野の車を先に走らせ、慎一は暫く動かなかった 着けて来られたら困るからだ 神野の車が見えなくなると、慎一は車を走らせた 「康太、何処へ向かえば良いですか?」 「速水建設へ解らねぇように下見に行く 真野が側にいるからな拾ってくれ」 飛鳥井に入り込んだネズミを、康太は再生していたのだ 慎一は「解りました!」と言い車を走らせた 速水建設はナビに入れておいた 動くなら欠かない場所 としてレンタカーを貸して直ぐにナビに入れておいた 慎一は淀みない走りで速水建設へと走って行った 速水建設の近くに差し掛かった所で 「喫茶店の横で車を停めてくれ」 と、康太が言った 慎一は喫茶店の横で車を停めた すると喫茶店の中から一人の男が出て来て、車に近づいた 康太は窓を開けると「乗れ!」と声を掛けた 男は車に乗り込んだ 「康太、社内に速水健二郎は詰めております」 そう言い男は康太の後ろの席に座った 「真野、このままオレと行動を共にしろ! ホテルに帰れば、お前に神野を紹介する お前は神野の事務所の懐刀に収まってくれ」 「ええ。何処へでも貴方の意のまま僕は行きます 僕の雇用主は君だ! 神野さんの処へ行こうとも、僕は君のモノだ」 「そうだ!おめぇはオレの持ち物だ! オレの持ち物だからな、オレは絶対の自信の元に出せるんだ!」 康太が言うと真野は嬉しそうに笑った 榊原は、顔付きが変わった真野千秋を見ていた 飛鳥井の会社で、捕獲された時はキツい瞳で 世の中を悲観して冷めた見下した顔付きをしていた だが今は生き生きと瞳は輝き、陽に焼けて健康的な顔をしていた 「今回は助かった 飛鳥井から直ぐに白馬に行かせて オレの意のまま仕事を完遂してくれた 本当にありがとう」 「謝らないで下さい! 僕の軌道修正は君がしてくれた 僕は君の為に生きようと想った そして君に仕え、君の駒になった 悔いなどないよ! 今は物凄く楽に息が出来て感謝してます」 と、礼を言い真野は本題に入った 「では、本題に入ります! 速水健二郎は代替えして社長に納まってからは、かなり強引に仕事をしてます 父から築き上げた信用を失墜させ…よからぬ噂ばかり立ててます かなり負債を抱えて…その起爆剤に飛鳥井の白馬のホテルを狙ったのだと想います」 「暴力団との繋がりは?」 「あれは噂に過ぎません 実際、暴力団と連めば甘い汁を吸われて 会社など立ち行かなくなります 高校時代の親友が暴力団の若頭をしていて それが噂の発端だと想います」 真野は潜入して調べ上げた事を逐一康太に報告した 白馬のホテルの横領を掴んだのも真野だった 宮瀬建設の社長の懐刀をやっていただけあって、切れ者で使える男だった 「この後、先代と話し合う お前は車の中にいるか?」 「…………そうですね 昨日まで仲の良い釣り仲間でしたからね…」 今は蕪村と名乗るが、佐々木蔵之介と先代が仲が良かったと調べたあげたのは真野だった 釣り仲間として先代に近づき交友関係も調べ上げた 慎一は車を走らせた 不審に思われない様に車を走らせ、蔵之介の電話を待った 暫く走っていると康太の携帯が震えた 康太は通話を押すと 「佐々木蔵之介です! 手筈が整いました! 貴方のPCに地図を転送します 其方へ出向いて下さい!では!」 蔵之介は用件だけ言うと電話を切った 康太はPCを出して貰うとチェックした 今走ってる道の直ぐ近くを蔵之介の地図は指していた 「慎一、お前調べた?」 「速水一族はこの地では有名ですからね 苦労する事なく(情報を)拾えました」 と、慎一は答えた 話し合うなら速水健一郎も視野に入れておく必要があると…調べてナビに打ち込んだのだ 慎一の運転するベルファイアは軽やかに走り抜け 目的地へと着いた 高い門塀に囲まれた重厚な佇まいがそこに在った 慎一は駐車場に車を停めると車から降りた 後部座席のドアをスライドさせ開けると 康太は車から降りた 榊原も一生、総一郎も降りると慎一はドアを閉めた 手にしたキーでロックすると慎一は門の横のインターフォンを押した 『何方ですか?』 嗄れた声の老人の声が問い掛ける 「飛鳥井康太と申します! 佐々木蔵之介さんに此方へ来るように仰せ付かりましたので参りました!」 と慎一は到着を告げた 『鍵は開いておる 入って来なされ!』 そう言うとインターフォンは切れた 慎一は門を開け康太達を通すと門を閉じた そして掛けて行き、玄関を開けた 「どうぞ!」 康太は玄関で靴を脱ぐと、スタスタと歩いて行った その後を榊原達は着いて上がった

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