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第34話 粛清

康太は長い廊下を黙々と歩いた 応接間であろう部屋も素通りして歩いて行く そして二階に上がるとテラスに出る扉を開けた 白いチェアーに佐々木蔵之介と老人が座っていた 康太は一歩前に出ると軽く頭を下げて 「飛鳥井康太だ!」と名乗った 老人は康太を吟味する様に眺め立ち上がった 「速水健一郎に御座います! 不躾な視線で貴方を拝見して失礼!」 「飛鳥井の悪魔が珍しければ見れば良い!」 康太は唇の端を吊り上げ皮肉に嗤った 「飛鳥井家 真贋 初にお目に掛かります」 速水健一郎は康太に深々と頭を下げた 佐々木蔵之介は何も言わず座っていた 「お座りください!」 健一郎が言うと康太はソファーに腰を下ろした 榊原達も康太の横に座った 康太は足を組むと不敵に嗤った 「速水健一郎、今日オレが此処に来た理由は解ってるのか?」 「解っております! 倅、健二郎の一件でおみえになられた 違いますか?」 「そう。おめぇの倅は飛鳥井のホテルを潰す気だった 従業員を懐柔して中から腐らせ赤字続きにさせ買い叩く算段だった かなり強引に進め、詰めもかなり甘い 力任せに総てを手に入れようとした愚か者だ! 飛鳥井康太の持ち物に刃を向けば、オレは黙っちゃいねぇぜ!」 「で、わしに何をさせるつもりで来られたのだ? 「オレが消すか お前が消すか どっちが良い?」 「どちらもお前の好きにするが良い」 「速水健一郎、オレが動けば跡形もなくなるぜ! オレは降りかかる火の粉は祓う!」 「それも定め… 倅の力量のなさが招いた事態じゃ!」 「そのクソを作ったのはお前じゃねぇのかよ?」 健一郎は……グッと詰まった 「倅の会社を潰すなら、お前の所になんか来ねぇよ! オレは動かなくても潰せるからよぉ! お前の倅の会社を追い込むのなんて容易い!」 「なら……何故?」 「倅を追い込んでるのは、おめぇだからだよ! おめぇが作った泥船に乗せた罪は大きいぜ!」 健一郎はガクッと崩れた 「お前は我が子を叩いて殴って帝王学を叩き込んだ オレもな、そうやって育てられたがな オレは曲がらぬ様に愛してくれる腕があった 健二郎はそれがなかった そればかりか……継母に折檻され、他の子供と差別されて育てられた 経営が上手く行ってたならお前は健二郎を社長に据える気はなかった 健二郎が会社を継いだ時には…泥船は沈み掛かっていた 他の子は泥船に乗せず、健二郎は沈没船に乗せた 負債は総て健二郎が抱えて、他の子は護るのか? それは歪むわな! 自分のケツは拭きやがれ! 泥船にしたのはお前だ ケツを拭くならてめぇが拭きやがれ!」 手厳しい言葉が投げ掛けられた 健一郎はそれを受け止め…… 深々と頭を下げた 「総ては己の不甲斐なさが招きました! 健二郎を蔑ろにした訳ではない …………だが………他の子供と……妻の手前差をつけた あれを…救う事なく育てたのはわしじゃ!」 「そうだ!お前の罪だ!」 「逝くならば、わしが逝くとする! それが最後に健二郎にしてやれる事だから…」 「オレは見ててやる! 見事カタを着けやがれ!」 「介添え宜しくお願い致します」 速水健一郎は深々と頭を下げると、覚悟の瞳を康太に向けた 佐々木は何も言わず見ていた 心の師匠が導くべき軌道を、瞬きするのも惜しんで見ていた 「蔵之介殿、会社まで乗せて行ってくれないか?」 「ええ。会社までお連れします」 佐々木はそう言い立ち上がった 「康太君、それでは参りましょうか!」 静にそう言い康太を促す 康太はスタスタと外へと向かって歩いて行った その後を榊原達も佐々木も着いて外へと向かった 外に出ると康太はベルファイアに乗り込んだ 榊原達も乗り込み 健一郎は佐々木の車に乗り込んだ 慎一がゆっくりと車を走らせた その後について佐々木も車を走らせた 行き先は 速水建設 白馬の自然を堪能する暇もなく 康太は降りかかる火の粉を祓いに向かった 速水建設へと向かう 佐々木の車は康太の車の後ろに着いた 速水建設の来賓駐車場に車を停めると 佐々木はその横に車を停めた 康太は佐々木を見て 「これが全部終わったら お前に話がある」 と、声を掛けた 「では君とお茶でも出来ますね! 僕は師匠の為なら何でもします! 何でも言って下さいね!」 と、佐々木は嬉しそうに答えた あの一件以降、時々佐々木は飛鳥井の家に来た 弟を見る為 康太に逢う為 暇を作っては飛鳥井に来た だが最近は康太が不在で…… 不在中と聞き慎一に電話を掛けていた一人だった 康太は何も言わず微笑むと速水建設を見上げた 「速水健一郎! お前が先に逝け!」 康太が言うと健一郎は社内へと入って行った その後を静に佐々木が追う 康太達はそれを見届けて社内へと入って行った 健一郎は社長室へと向かった 社長室のドアをノックすると、ドアは直ぐに開けられた 部屋の中から、健一郎に酷似した容姿の男が顔を見せた 「父さん……おみえになるなら迎えに行きました」 と父に声かけ…… 父以外の人間に気が付いた 「此方は……」 父に問い掛ける 健一郎は「部屋に通せ!」と頑なだった 健二郎は社長室のドアを開けると、父親と……… 他の人間も招き入れた 1番良い席のソファーに康太はドカッと座った 榊原はその横に座り、一生と慎一と聡一郎は後ろに立った 健一郎は息子の前の席に座り 佐々木はその横に静に座った 「健二郎、此方におみえになる方は 飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太様じゃ」 康太は不敵に鼻を鳴らすと健二郎を睨み付けた 「飛鳥井………康太……」 若いとは聞いていた こんなにも………子供だとは想わなかった 高校生位にしか見えない…… これが…… あのホテルのオーナーだと言うのか? 健二郎は唖然として…… 康太を見た そして飛鳥井康太が来たのなら… 要件は一つしかなかった 白馬のホテルを潰して、起爆剤にしようとした 不景気な世の中の逆を行くかのように… 飛鳥井のホテルは純利益を得ていたから… あのホテルを手に入れれば… この会社も乗り切れると想った 会社を継いで解ったのは… 既に手の打ち所もなく経営は悪化していた状況だった 泥船に乗せられた… 他の子は…白馬を出て行き 自分だけが泥船に残った 沈みたくないと足掻いて… かなり強引に、何とか生き繋いで来たが…… 泥船なのには変わりがなかった 父を憎んだ 何が社長だ! こんな沈み掛かった船になど! ………乗りたくはなかった 差をつけられている 同じ子供なのに…… 昔から……差は広がるばかり だが、祖父の起業した会社を潰す訳にはいかないと 躍起になって来た そしてゴリ押しをした 今、目の前には…… 裁いてくれる死に神がいた 健二郎はやっと解放される想いで一杯だった 飛鳥井の真贋の噂なら、建設に携わる人間なら嫌という程に流れて来る   飛鳥井に刃を向いて… 制裁を受ける会社を…… 見てきた 裁かれて… 総てなくしたかったのかも知れない 健二郎は微笑みを浮かべ、その時を待っていた だが父、健一郎は 「わしは自分のケツを拭きに参った! お前はもう、この会社の社長ではない 何処でも好きな所に行くが良い」 と言い捨てた 「………え?何を言っておいだ?父さん」 「ヤクザと親交のあるお前はもう用無しじゃ!」 不器用な男は… 不器用な言葉でしか… 息子を切れなかった 不器用な息子は 不器用な言葉でしか応酬出来なかった 「貴方は……身勝手な人だ… 人を泥船に乗せ、他の子供は安全な所に避難させ 俺だけ人身御供に出した癖に!」 力で押さえつけ言い聞かせた それが続けば…… 人は根底から歪む 息も出来ない位、縛り付け束縛して言い聞かせれば 人格は傷付き…歪むしかない それを速水健一郎はやったのだ 他の子は……大切に大切に守られ… 差をつけた その罪は……計り知れず大きい傷を残した 哀しい男達が…… 不器用に傷を深めていた 「俺は必死に頑張った! その間、貴方は俺の稼いだ金で家族団欒だった なのに今、何を出しゃばっておいでなのだ? 潰すなら貴方の家も家財も総て抵当に入れる 貴方は何もない愚かな老人になれば良い 俺が泣いていた時、見下した貴方の子供達に面倒見て貰えば良い!」 哀しき心は…… 復讐の鬼と化し 康太は哀れで仕方がなかった 復讐に囚われる 己を見失う 捌かれる日まで…… この男は…… 復讐の夢を見る そして……それを遂げた時 この男は……総てを背負い裁かれる事を願うのだ 刺し違える覚悟だけが…… この男を動かしているのだ 「哀れな…復讐鬼だな……」 康太は……呟いた 復讐の心など捨て……違った生き方をすれば もっと楽に息が出来たのに…… 敢えてそれをしない 命の糸が切れるのを待つ 哀れすぎて…康太は胸を押さえた 榊原は康太の手を強く握り締めた 何も言わず… 康太は見ていた 哀れな魂を見ていた 佐々木はそんな康太を見ていた あの時の自分は…… こんな風に……裁かれる事を夢見てた 疲れ果て… 堕ちて逝く夢を見て…破滅の糸を紡いだ 貴方は……こんな僕を見ていたのですね… こんなにも痛い… 人の心が痛い 歪んだまま…行くしかなかった そして果ての夢を見る 終われる日を夢見る 佐々木の瞳から… 一筋の滴が…流れて落ちた 「健二郎、終わらせてやる!」 康太は叫んだ 「お前は終わりたいのだろ? ならば、オレが終わらせてやる!」 「………飛鳥井………康太… 俺を終わらせてくれますか?」 健二郎は康太を見た その顔に安堵の色が滲み出る 「終わらせて下さい…… この息の根を止めて下さい…」 健二郎はそう言い涙を流した 「速水健二郎、オレもな祖父から修行と言う名目で殴られ蹴られ、教育されたんだぜ! ヨチヨチ歩くその頃から! 容赦のねぇ修行の毎日だった 日々辛かったぜ 他の子は…こんな修行しねぇのに… 飛鳥井の真贋だと言うだけで、血反吐を吐く修行をさせられた 何故?何故オレだけ? そんな気持ちでオレも育ったんだ」 健二郎は信じられない瞳を康太に向けた 「だがなオレには何時も抱き締めてくれる腕があった オレが心配だと…兄達は外に遊びにも行かず… 家に帰って来てくれていた! オレとお前の違いは…… お前には愛がなかった…… オレは兄達に愛された お前は家族の誰にも愛されなかった… オレも兄達の愛がなくば、歪んだ 何時か……滅ばす為に力をつけ、滅ぶ日を夢見るだろう 健二郎、もう夢から醒めねぇか? その夢の中は何もねぇだろ? 確かな明日に目を向ける気はねぇか?」 健二郎は首をふった 「この泥船を沈ませる為に俺はいる!」 と、覚悟を見せた でなければ、無理矢理築いた罪を…… 誰が背負う…? 自分の罪は自分で背負う その日の為だけに…… 生きてるのだから… 「総ての罪は、おめぇの父に在る! あの世まで罪を持ち込めば、おめぇの父は無間地獄に堕ちるしかねぇぜ! 生きてるうちに償うべきものは償う この世の罪状はこの世で償わなければならなお!」 「俺も……沢山の罪が在る…」 「おう!だからお前も生きてるうちに償えば良い! おめぇはまだ40そこそこじゃねぇかよ! 人生を終えるのは早ぇんだよ!」 康太は言い捨てた 健二郎は深々と頭を下げた 健一郎は、息子の前に出ると 「本日付けで速水建設の代表取締役社長はわしがなる! そして破産の手続きを取り、この会社を整理に当たる 今住んでる土地家屋は抵当に入れて整理に当たる お前は一切背負う必要などなし!」 と、健二郎に告げた 「お前に譲る前に、こうしておけば良かったのじゃ! 潰してしまえば良かったのじゃ! 要らぬ苦労を掛けたな…父を許してくれ……」 謝る父親は小さく見えた 絶対の威厳で逆らう事も出来なかった…… 大きな存在じゃなかった こんなに…… この人は小さかったのだろうか… 健二郎は父親を見ていなかった事実を知る 避けて来た 大人になった今 父親の介入を拒み生きてきた 何時から、この人はこんなに小さく…老いたのだろう… 健二郎は康太に 「こんなに老いた父に全部を被せない! 俺が破産の手続きを取ります! 現社長は俺です!俺が整理に当たります!」 と訴えた 破滅を夢見た男に康太は 「生き残りたいか?」 と、問い掛けた 健二郎は息を飲んだ 「…………ええ。……そんな道があるのなら… 存続する道を探りたいです」 「一旦整理するしかねぇんだよ おめぇの会社はよぉ! 整理するからな、おめぇは引っ込んでろ!」 「………はい。」 健二郎は萎れて…後ろに引っ込んだ 「健一郎、あの世まで金は持って行けねぇ! 私財を総て投入して整理に当たる! それで良いか?」 「はい。景気が悪いと察知すると取る分だけ取って妻も子供も出て行きました その分もどうぞ差し押さえて取って下され! 貴方の事だからな、それも視野に入ってると想います」 「おう!甘い汁だけ吸って、はい!サヨナラは虫が良すぎだろ? 名義も変えてねぇしな資産と見なして回収する」 「それでも足らぬのなら…この命…散らして充てて下され! わしが逝けば一億は下らぬ保険金が入ります!」 最後の手段を口にする だが康太は 「保険金は今度な! 無理矢理死んだら満額は難しい! 往生してこそ、保険金の使い道が在る!」と一蹴した 形無しだった 健一郎は項垂れて… 親子して、萎れて座っていた 「まぁ待て!今仲間が資産を計算してる!」 聡一郎がPCのキーを叩いて試算中だった 聡一郎は康太を見て 「この会社の土地家屋、自宅の土地家屋 山を幾つか持ってて、ビルも持ってます 最高値で買い取ってくれれば、負債はトントンになります」 「最高値は難しかろ?」 聡一郎の言葉に康太は笑って答えた 「そこの、蕪村辺りが買ってくれれば助かるんですけどね!」 聡一郎はそう言い佐々木を見た 「僕ですか?何億と投入する程…資産はないですよ?」 「誰が個人で買えと言ってますか! 蕪村、と言いませんでしたか?」 「利点がなくば、動く気はしない」 遣り手の社長の顔を覗かせ佐々木は言う こう所は聡一郎と佐々木は酷似しているかも、知れない 「利点もなく僕が言いますか! まぁ聞きなさい! 白馬の自然を壊す事なく開発を進めます! その第一歩だと想いなさい もっと白馬に人を集める為に骨身を削りなさい!」 「飛鳥井……でなく四宮が、ですか?」 「四宮興産の副社長がかなりの遣り手でね! 佐々木文弥と言うんですがね? 今手腕を発揮して事業拡大を狙ってるんですよ!」 聡一郎はそう言い笑った 佐々木は唖然として…聡一郎を見ていた 「佐々木……文弥……」 「今、この地に来てるので、後で逢わせます 康太の用件も、それですのでご心配なく」 「僕は……大盤振る舞いしちゃいたくなりました!」 「でしょ! 四宮興産社長の四宮聡一郎です! 以後お見知り置きを!」 聡一郎は立ち上がり佐々木に手を差し出した 佐々木はその手を取り、固く握り締めた 「康太が文弥をくれた! 文弥を配置したのは康太の采配 その為に貴方から貰い受けてくれた」 四宮興産の副社長をしてるとは……知らなかった 「では、本題に入りましょうか!」 聡一郎が言うと佐々木は席に座った 「速水建設は財務整理後、廃業の道を辿ります 異存はないですね!」 聡一郎は確認する様に問い掛けた 健一郎は「異存はない」と頭を下げ 健二郎も「はい!」と、答えた 「では手続きに当たりますので、社員を一旦解雇して下さい! それ等の行程をやって来て下さい!」 聡一郎が言うと健一郎と健二郎は立ち上がり社長室を後にした 康太は黙々とPCを駆使して他事をやっていた 今回の件には携わる気は皆無なのが解る 適材適所位置する飛鳥井康太は 今回は見届ける…と言っただけあって 口を出す気も、介入する気も皆無だった 暫くすると親子は戻ってきた 憑きものが落ちた様に…… 清々しい顔して親子で立っていた 父の横に息子が立ち その姿は間違う事なく親子だった 「社員は解雇して辞めて戴きました! 事後の処理はして給料は振り込むと約束して辞めて戴きました それで、宜しいか?」 健一郎が康太に問い掛けた 康太は顔を上げる事なく黙っていた 聡一郎が「ええ。それで宜しいです。」と答えた 「給料と心付けを指定の口座に振り込まさせて戴きます」 「総てお任せして本当に申し訳御座いません!」 健二郎は聡一郎に深々と頭を下げた 「佐々木さん、僕ね、白馬のホテルの近くにビルを買ったんですよ その手続きをしたのは文弥ですけどね!」 聡一郎はそう言い笑った 「そのビルの下は会社に、後半分はマンションにして売り出した所、半日で完売しました で、これからが本題! 蕪村と提携して手掛ける会社を作りたいと想います」 「飛鳥井建設ではなく……僕を選ぶ理由を聞かせてくれないか?」 「飛鳥井は白馬にはこれ以上の業種は持たない 白馬はホテルと結婚式場 後、馬を育てる それ以外をこの白馬でする気はない」 成る程…と佐々木は納得した 「で、僕は何をしたら良いのですか?」 「貴方は先行投資を少しだけして下さい そしたら利益は大きく貴方に還ります 白馬の自然を崩す事なく建設をする 蕪村はその手助けをして下さい」 「具体的に?」 「この地に大きな商業施設が出来る予定があります 告示されたので知ってますよね?」 「ええ。存じております」 「それを取って下さい!」 「え…無茶ぶりと言いませんか…それって…」 「四宮興産が出資する建設会社を立ち上げます 当然、康太にも株主に収まって貰います 建設会社を立ち上げるのは白馬の外観を崩したくないから… そして蕪村の事業提携なくして商業施設は取れない」 聡一郎はキッパリと謂った 「僕は君の優しげな風貌に騙されてたんですかね?」 「貴方と僕は酷似した存在…でしょ?」 聡一郎はそう言い笑った 「このまま他の建設屋に商業施設を取られると 24時間眠らぬ不夜城の出来上がりだ それは自然を崩す…人は…そこに在る自然より…楽な現実を望み…白馬の外観は跡形もなく消え去る 僕はそれは望みではない! 四宮興産もそろそろ、此処に在りと存在を示さないとね 漬け込むバカばかり増えて困る! 僕は今強靱な懐刀を手に入れた 打って出る時に在る! と、言う訳です! 乗ってくれませんか?」 「君の無茶ぶりに堪えて見せましょう!  総て飲まさせて戴きます!」 「では、必要な事項は佐々木文弥が当たります! 貴方は僕の腹心と連携を取り、当たって下さい この後、逢わせます! 副社長とは長い付き合いになるでしょう! 今後も手を組み提携して行けばと想っています!」 佐々木は背筋を正し 「はい!」と返事をした 康太は片付いたな…と呟き立ち上がった そして速水健二郎の前に立った 「健二郎」 「はい!」 「聡一郎が作る会社の社長をしろ!」 「え………」 「聡一郎の言葉を聞き寸分違えず生きて行け!」 「……それは出来ません…」 「御託は聞きたくねぇ! おめぇには遣らなきゃならねぇ事があんだよ! 今度乗るのは泥船じゃねぇ! そしてゴリ押しをすれば自分に返るのは身を持って解ったな!」 「はい。無理を通せば…罷り通らぬ事になるのは百も承知しております!」 「健二郎、健一郎は施設に入れろ 満身創痍の体だ…隠居させて見守って行け 憎しみを捨てて…我が親の最期を看取れ」 「……っ!はい!我が父の最期を看取ります!」 「施設に入れるのは金が要る お前は父を看取り、見届けたら……結婚をして幸せになれ」 「…………なれますでしょうか?」 「許して先に行けば…お前は良い父親になれる 自分が苦しんだ…想いの分だけ…父になれる」 健二郎は泣きながら…康太に深々と頭を下げた 果ての夢を見た人間を解き放ち その果ての先へ生きて行けと言う 凜として先を見る瞳はもう絶望に染まってはいなかった 「生きて行け、健二郎」 「はい!」 「辛かった日々はお前を歪めた だがオレがお前の歪みを矯正した もう歪む事なく進めるだろ?」 「はい!真っ直ぐと進んで行きます!」 健二郎が力強く謂うのを見届け康太は 「健二郎、おめぇの父は、今独りだ」と、真実を告げた 「……え?……」 「速水建設が危ないと解ると離婚して慰謝料と称して 資産を持ち去った 捨てられたんだよ、おめぇの父も。」 「………嘘……」 「厄介は背負いたくねぇよな? そう言う事だ! お前と共に動くには健一郎は満身創痍過ぎる 入院させて後に施設に入れろ 解ったな?」 父に誰もいなくば…… 本当にこの世で………自分だけが見る者はいない こんなに呆気なく? 「資産は没収して債務に充てる おめぇは働いて親父の面倒を見ろ! 」 父の面倒を見るにはお金が要る 何としてでも働かねば… 入院すらさせれない 「働かせて戴けるなら、働かせて戴いて父の面倒を見ます!」 「後は聡一郎の言う事を聞け! 良いな!違えれば討ちに来るぜ! それだけ忘れるな!」 「はい。心に刻んで明日を生きたいと想います!」 「聡一郎、後は頼むな」 「はい!既に文弥が動いております!」 「なら、帰るとするか!」 「話し合いは良いのですか?」 聡一郎は康太に尋ねた 「憑きものも落ちたしな! これ以上飛鳥井に刃は向けねぇだろ? ならば、それで良い! 深追いはオレの趣味じゃねぇ! オレは適材適所配置するが為にいる! 今、軌道に乗ったのなら手出しは無用!」 康太はそう言い立ち上がった 「蔵之介悪かったな! この後お茶をしようぜ!」 康太はもう要はないと背を向けた 佐々木は笑顔で立ち上がると 「ええ。師匠!君とのお茶は久し振りです! 今度、美味しいモノをご馳走させて下さい」 「おう!楽しみにしてる! 力哉に連絡入れて調整して貰ってくれ!」 「解りました!力哉君に連絡入れますね!」 佐々木も既に関係ないと背を向けた 聡一郎は「明日にでも連絡を入れます!」と言った 「今日は会社を総て閉めて、この後病院へ向かう事をお勧めします 康太が言うなら、かなり満身創痍で即入院てだと想います! 直ぐに動いて下さい! 何かあれば此方に連絡下さい!」 と言い名刺を渡した そして背を向け康太達と共に出て行った 皆を見送り…健二郎はソファーに崩れ落ちた はぁーっと息をつく 噂では聞いていたが… 目にすると身が竦む 飛鳥井康太の本物の眼に総てを晒された そして生かされ、明日へと繋げられた 生きて行く…… 精一杯に生きて行く それには…憎しみも…殺意も…苦しみも… 総て捨てて… 新しい自分を生きねばならない 健二郎は父に手を差し出した   「親父、病院へ行くぜ!」 健一郎は涙で濡れた瞳を息子に向けた 「最後に残ったのが俺しかいないんだからな 俺の言う事をきいて貰う!良いな!」 「あぁ…健二郎…すまない…」 「謝る暇はねぇぞ!親父! 退院したら特養ホームに行って過ごすんだろ? それには稼がねぇとな! 俺は稼ぐ!最後に親孝行出来て……本当に嬉しい 憎んだまま逝かせなくて本当に……感謝しても足らない その分働いて返さないならないからな!言う事を聞け!良いな!」 健二郎は、叫んで父親を背におぶさった 軽くなった父がいた こんなに軽くなっていたのか……と、気付かなかった 今 気付けて本当に良かった 健二郎は父親を車に乗せると、会社を施錠して出て行った 速水建設を後にした康太達は白馬のホテルに戻る車の中にいた 康太は一生に「部屋取ってある?」と、問い掛けた 「おう!三ヶ月前から取ってある!」 と答えた 榊原は聡一郎に 「そこにお連れして!」と頼んだ 聡一郎は携帯を取り出すと一生に部屋番を聞いてメールを送信した 直ぐさま返信が返る メールには『了解』と書いてあった 聡一郎は不器用な男は絵文字もない…と笑った 若いのに…… 徹底な教育をされた文弥は面白味のない男に仕上がっていた 「融通がきかねぇのが玉に瑕なんですよね」 「言うな聡一郎 おめぇも玉に瑕だろ?」 「…………僕は融通がききますが?」 「頑固一徹…オレの周りは…んなんしかいねぇじゃねぇかよ!」 「なら君に似たんですね! 側に長いですからね似たんですね!僕は!」 「……………言ってら……」 康太は呆れて呟いて笑った 榊原は何も言わず康太を抱き締めた 真野はそれを黙って見ていた 羨ましい程の信頼関係 それを見ていた ホテルの駐車場に車を停めると、車から降りた 佐々木も康太の横に車を停めると、車から降りた 慎一が佐々木を待ち構え 「どうぞ此方へ」と案内する 一生はフロントに向かうと予約していた四宮ですが!と到着を告げた フロントは予約客のリストを開き「四宮聡一郎様ですか?」と名前をあげた 「はい。」 「では到着手続きをして下さい!」 それを康太は離れた場所で見ていた 受け付けフロントはプロの顔して仕事をしていた オーナーが居ようが居まいが、自分の仕事をする プロだから! 「佐々木文弥と言う男が来たら部屋に案内して下さい」 「解りました!佐々木文弥様がお見えになられましたら、部屋の方へご案内致します」 文弥が来ても良いようにして 一生は鍵を受けると案内は断って部屋へと向かった 予約した部屋の前に立つと鍵を開け、ドアを開けた 慎一がドアを持つと一生は部屋の中へと入り康太達を待った 康太がソファーに座ると、皆もソファーに座った 慎一は佐々木をソファーに座らせ、立っていた 暫くするとドアがノックされ、慎一はドアを開けに向かった 「康太、文弥さんです」 慎一がどうぞ!と部屋へと通すと そこには……佐々木蔵之介……兄が居た…… 文弥は信じられない瞳を康太に向け… 慎一に促され、蔵之介の横に座った 「康太さん、お役に立ちましたか?」 「おう!ありがとう! 忙しいのに本当に助かった」 「四宮も損をせぬのであれば、僕は動きます! 僕は今、四宮聡一郎のモノですから! 聡一郎が受け止める総てのモノを消化する義務がある」 「おめぇの兄が提携してくれる! 兄と詰めてアウトレットの建設を進めてくれ!」 「……………兄と?」 まさか……堅実な兄が担ぎ出されるとは想わなかった 文弥は…困った顔を…康太に向けた 「んな顔するな! んな男前なのに情けねぇ顔すんな」 「…………康太君……兄を担ぎ出しましたか?」 「おめぇの兄も変わった もう破滅の先にいる男じゃねぇ! 共に行こうと想えば共に行ける おめぇらはカタチを変えたが誰よりも兄弟だ」 「ええ。解ってます! 何度も逢いに来てくれた兄は… 誰よりも近い存在になりました」 「今後は聡一郎と蔵之介とで提携をして白馬を護ってくれる事となる その礎にお前ななれ!良いな!」 「はい!」 文弥は笑った 見た事ない笑顔を兄に向けた 「この部屋は明日まで予約を入れ借りた! 兄弟仲良く、たまには過ごせ!」 蔵之介はえ!と驚いた顔を康太に向けた 「たまにはな、兄弟水入らずで過ごせ」 康太はそう言うと立ち上がった 「康太君!」 蔵之介は康太を射貫くと 「須賀尚人氏の事で動いてらっしゃるとか…」 「噂はそこまで飛び火したのか?」 康太は笑った 「宮瀬那智が掴み、僕に教えてくれたのです 白馬に出向くと言うと、何があっても我等は師匠の為に動く!と、伝言を仰せ付かってます!」 「その時が来たらな…力を貸してくれ」 「はい!それと、飛鳥井家の建設、蕪村が入札で取りました! 心を尽くして建てさせて戴きます!」 「頼むな!ならな蔵之介! 今宵は弟と飲み交わせ オレは家族が来るからな水入らずで過ごすとする」 ならな!と康太は背を向けた そして部屋を出て行った その後に榊原達も続き部屋を出て行った

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