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第35話 白馬①

ホテルの中を歩いていると、急に抱き締められた 見上げると笙が康太を持ち上げていた 「到着したのか?」 「ええ。父さん達もいます」 笙は康太を抱き上げたまま家族の方へ行った そこには清四郎と真矢が嬉しそうに立っていた 「清四郎さん、真矢さんいらっしゃい! 笙も骨休めしてくれ!  後で秘書に白馬を案内させる! 佐伯はお前と年も近い!仲良くしてやってくれ!」 「佐伯ってあの美人だけど男前の秘書?」 笙は問い掛けた 飛鳥井建設へ行った時…社長を蹴り上げる秘書を見た 厳しく尚且つ的確に動く才媛を目にした 「あぁ。佐伯は飛鳥井建設には雇われてない 飛鳥井康太の持ち物だからな! 会社の人間には例え社長でも屈しない! オレの為に在る人間だからな!」 と康太は笑った その台詞を聞けば納得する 社長でも怯まない 貫き通して仕事する訳は… 総ては飛鳥井康太の為に在るからか…… 笙は「なら案内して貰ってテニスでも誘おうかな?」と楽しそうに答えた 「おう!楽しんで来い! そして佐伯を頼みます!」 と言い康太は深々と頭を下げた 笙は慌てて康太を止めた 「辞めて…君に頭を下げられたら… 僕は困る…」 「佐伯は仕事優先ばかりさせて来た 普通の人が遊ぶ時、アイツは仕事する オレに還す為に楽しみも後回しにする だからな恋人が出来ても…長続きしない 当たり前だよな…workaholic(仕事中毒)の恋人なんか持ったら自信は喪失するからな オレは佐伯が不憫でならねぇんだ 白馬に来た時位はな 息抜きさせてやりてぇんだ 笙、頼むからアイツに楽しい時間を‥‥与えてやってくれ」 康太の願いだった 康太は笙に更に続けた 「佐伯の父親は蔵持の執事だ 佐伯は主に総てを捧げ 家庭を顧みる奴じゃなかった 母親を亡くしてからは… 手が着けられねぇ程にグレてな非行に走った あたりめぇだよな…母親が死んでも… 父親は…主の側を離れねぇんだもんな… 親子の溝は埋められない所まで来てたんだよ それを拾ってオレが貰った だからオレは責任があんだよ!」 幸せにしてやる責任が… 主として仕えてくれる佐伯に対して 幸せにしてやらねばならなぬ責任があるのだ 口は悪いが、それは素直になれない佐伯の照れ隠しだ 本当は誰よりも愛を求め 愛に傷付いた臆病者なのだ…… 「時には年相応に遊ばせてやりてぇ 連れ出して遊んでやってくれ…頼むな笙…」 康太が言うと清四郎も 「笙、お前の恩人の頼みです! 聞かねば男が廃りますよ!」 と、釘を刺した 「父さん…聞くに決まってます! 解りました! 瑛太兄さんと伊織が馬車馬の様に働けば彼女は暇になるのでしょ? なら頑張って下さいね!」 榊原は「兄さん、この後仕事に入ります!」と言い 「佐伯に案内して貰い楽しんで来て下さい もう連れ出しても良いので来て下さい」 と続け康太を促し歩き出した 瑛太の居る部屋に行くと陣内博史が安曇から預かった秘書、榮倉真美を連れて来ていた 康太が「陣内呼び出して悪いな!」と声を掛けると 陣内は康太に飛びついた 「お前が呼べば俺は何処へでも駆け付ける!」 そう言い懐いた 躾の良い大型犬がご主人様に飛び付き構って貰いたくて…… ご主人様が苦しそう……な情景にしか見えなかった バサバサ尻尾を振って陣内は康太に懐いた 「榮倉悪いな、呼び出して」 康太は陣内を引っ付けたまま榮倉真美に声を掛けた 榮倉は陣内をバリッと剥がし 「貴方が呼べば榮倉、何処へでも駆けつけます! あ!私、安曇には帰りません! 貴方を主に仕えたいと申しましたら、安曇先生は仕方ないね…と諦めました! ですから、もっとお呼び下さい!」 危険な台詞をサラッと言い榮倉は笑顔全開で微笑んだ 昔、モデルをしてたと言うだけあって、かなりの美人だった 「榮倉!覚えとけ!」 康太から剥がされた陣内が吠えても、榮倉は知らん顔 「本当に暑苦しい!」 と一蹴する 康太は苦笑した どう見ても痴話喧嘩にしか見えなかったから… 「お前等の夫婦漫才はもう良い!」 と康太が言うと ピキッと二人は固まった 陣内は「誰が鬼ババアと‥‥止めてくれ」とボヤき 榮倉は陣内を蹴飛ばし「ご冗談を!私は既に好いた方がおります!」と一蹴した 「榮倉!」 「はい!」 「お前を呼び寄せたのは佐伯の仕事の配分量を減らしたいからだ! 佐伯は休みもなく飛鳥井康太に仕えてくれてる 白馬に来た時位はな骨休めさせてやりてぇんだ と、想いお前を呼び寄せた!」 「はい!榮倉、佐伯さんに変わり仕事します! 佐伯さん、貴方は働き過ぎですので、休んで下さい!」 榮倉は佐伯に引導を渡した 佐伯は唖然として康太を見た 「陣内、お前を呼び寄せたのは、このホテルの経理システムを飛鳥井と繋げて監査に当たって貰いたいからだ!」 テキパキと康太が指示をする 「了解!俺は何時もお前の想いのまま動く!」 陣内は、忠実な康太の駒だった 斬り捨てられたら…… 自分の居場所をなくす 飛鳥井康太の作るステージこそ自分のいる場所だと想えるから必死に食らい付いていた 自分の居場所をずっと探していた 会社の人間と衝突しても……自分を曲げない陣内を拾ったのは康太だ 康太は居場所をなくした陣内に 『お前は手腕も発揮してないのに自己主張が強すぎなんだよ! 自分の足下も固めずに好き勝手ほざけば、会社に居場所はなくなるのは当然だ!』 解ってる…… そんなのは百も承知でやった 居場所がなかった 誰も……自分の事を解ってくれなかった 『陣内!2年飛鳥井で耐えれば、お前の居場所を用意してやる どうする?嘆いて生きてくか、踏ん張って耐えて掴むか? 決めるのはお前だ!オレじゃねぇ!』 康太がそう言ってくれたから 「耐える!何があっても耐える! だからお前の側にいさせて……」 と、康太の側に来た そして居場所を作って貰った トラブルも起こさずに我慢の日々だった その分人を見る眼を養えた そして配置して貰い今がある なのに………康太の借り物に…… 「陣内!」 康太は頗る笑顔で陣内を見た 「はい!」 答えると…… 「サクサク動きやがれ!」 檄を飛ばした 陣内は姿勢を正すと、はい!直ちに!と言い部屋を出て行った そしてやっとこさ、佐伯に振り返った 「佐伯!」 「なんだ?」 「おめぇはさ、日曜も会社に出て瑛兄に付き合い仕事してんだろ?」 「暇だからな!気にするな」 「オレはめちゃくそ気にすんだよ! と言う事で、榮倉呼んだからなお前は休みに突入して良いぞ! この白馬にいて遊ばなくてどうするよ? 後、二日もすれば仕事は片付く そしたらオレ等も夏休みだ! お前には一足早い夏休みをやろう!受け取れ!」 「…………なら帰る……」 「それは許可しねぇ! 佐伯が来るんだよ!」 康太は佐伯を射貫きそう言った 「………っ!……何処の佐伯だ…それは?」 「佐伯朗人!蔵持家の執事をしてる佐伯だ」 「余計な事を…」 佐伯は唸った 「真実を見ない 何も見ない 逃げてその瞳には… 何も映らない おめぇはオレが拾った頃と変わらねぇ…」 佐伯は康太を睨み付け 「おめぇは昔から人の傷ばかり広げて……」吐き捨てた 「おめぇの主はオレだ! 狂犬なら保健所に突き出すぞ!」 「貴方に噛み付いてはおらぬ!」 「言う事を聞かねぇなら駄犬にしかなれねぇぞ!」 「貴方の言う事を聞いて来た! 必死に貴方の想いのままに生きてきた!」 佐伯は泣き叫んだ   康太は佐伯の涙を拭うと、優しく抱き締めた 「踏み出せ……佐伯 その瞳に…そろそろ真実を映し出せ」 「厭だ…母さんが…アイツの名を呼んで死んだのは変わらない… 私が居るのに…母さんはアイツの名前を呼んだ なのに!……アイツは葬儀にすら出なかった…… 何を見ろと言うのだ康太…… 私に何を知れと言うのだ……」 止めどなく流れる涙は…… 佐伯の頬から流れて落ちた 榊原は佐伯の涙を拭ってやり康太ごと抱き締めた 「佐伯朗人が来るのは確実 白馬から消えるのはオレが許さねぇ!  勝手に帰るのは許さねぇ!」 「私に……見ろと言うのだ? 憎んで…殺したいと想ったあの人を…… 私はあの人の執事人生は天晴れだと認めた それでは足らないのですか?」 「……………オレを許してくれ……」 康太の台詞に…… 佐伯は泣き崩れた 榊原は兄を呼んで佐伯を託した   「兄さん、佐伯はもう仕事にはなりません 連れて行って落ち着かせて下さい 頼みます!」 榊原は床に崩れて泣いている佐伯を抱き上げると兄に託した 佐伯を腕に貰った笙はドアを開けて貰い部屋を後にした 佐伯と笙の居なくなった部屋はシーンと音をなくしていた 「さぁ仕事するぞ!」 康太の号令で止まった時間が動き出す 榊原は康太を膝に乗せ仕事を始めた 一生が榊原の上の康太を剥がしに来ると 榊原は残念そうに康太を離した 「旦那、今日は俺と慎一と聡一郎がサポートに入る! 康太は榊原のご両親と食事にでも行くと良い! 清四郎さん、康太を頼みます!」 一生は康太を清四郎に託した 託された清四郎と真矢は康太を連れて部屋を後にした 清四郎に連れられ部屋の外に出ると康太は 「オレだって‥‥ひでぇ事をしてる自覚はある……」 と自虐的に笑いを零した 真矢は康太を抱き締め 「人はそれでも動かねばならないのです 止まったままでは生きられない… 時を止めたまま囚われてたら…生きてるとは言わないでしょ? 康太は間違ってはいません」 と優しく諭した 清四郎も 「康太…その時は辛くても…人は気付く生き物だよ きっと佐伯さんも気付くよ…嫌…気付いて足掻いていたのかも知れないね 君は解放してやるんだろ? 何処が酷いんですか? 君ほど優しい人間は私は知りません」 清四郎も優しく康太を抱き締めた 「康太、レストランへ行き去年食べたビックパフェ食べましょうね!」 真矢は康太を促してレストランへと向かう 康太は清四郎と真矢の深い愛に支えられ…一緒にレストランへと向かった レストランへ行くと清四郎が康太と座った 「あなた……狡い……」 真矢が康太と座ろうと想っていたのに…… 清四郎に盗られた… 真矢は諦めて康太に話し掛けた 「康太、此処へ来る前に村瀬の病院に寄って来ました」 「京香は元気だった?」 「ええ。瑛智は見れば見る程に瑛太に似ていて時間を忘れて見てました 京香の所に太陽と大空もいたのですね…驚きました」 「翔と流生、音弥と北斗は紫雲龍騎の処へ預けて修行させている 飛鳥井の家が建つ頃しか引き取れねぇんだ 今は何かと飛鳥井は目を付けられてる 弱点は……子供と…身重の京香に行くのは避けたかった 村瀬が預かっても良いと言ってくれたからな 真矢さん…太陽と大空を側で育てられず…本当に申し訳ない」 「康太は子供の身の安全を第一に考えた 本当なら側に置きたいのは…貴方でしょ?」 「真矢さん……」 「京香も言ってましたよ 康太は誰よりも母であり親でいたと! 私もそう思いますよ 何も側で護るばかりが親ではない 子供の為に必死に選択をして配置する 自分の感情を差し置いて出来る強い母だと私は思いますよ」 康太は……何より嬉しい言葉に瞳を潤ませた その時、康太の携帯が震えて着信を告げた 康太は、電話に出ると何も話さず用件を聞いていた 一言も発する事なく電話を切った そして、何もなかった事のように微笑んだ 「オレは今体が足らねぇ位…忙しくて… 伊織は仕事を疎かにしてしまったからな…」 白馬に来ても仕事だと……申し訳なさそうな顔をした 「伊織は自業自得でしょ?」 真矢は笑った 康太のストーカーとまで笙に言わしめた男だったから…… 1週間、康太の側についていた時の話を笙は両親にした 『伊織は一日に何度も康太に電話をするんですよ! で、康太が出ないと共に行動してる一生か慎一に電話を入れて…見てる僕がウンザリしました』 笙はゲンナリ…言った 真矢は予測通りですか……と苦笑い 清四郎は言葉もなかった その時、また康太の胸ポケットが震えた 「伊織…てめぇ仕事しろ!」 康太が怒ると真矢はやはり……と肩を落とした ブチッと電話を切ると…… しつこい位電話が鳴り…… 一生から電話が入った 『旦那が康太の捕獲に向かったぜ! 側にいないと手が着かない言うからな捕獲されて来い!』 一生が言うと、レストランに愛する男の姿が見えた 康太は「早っ……もう来たわ」と一生に告げた 一生は笑って電話を切った 脇目も触れず康太へと歩いて来る男を見つめる 「康太、おいで!」 榊原が康太を呼ぶと 康太は立ち上がり榊原の側へと行った 榊原は康太を腕に収めると 「父さん、母さん、清隆さんと玲香さんがもうじき到着します! 此処にお呼びしましたから、ごゆっくり過ごして下さい」 真矢は「康太は置いて行きなさい」と一応言ってみる 「嫌です!」 即答で返り…爆笑した 「あなた…伊織は堪え性のない子でした…」 涙を拭きながら笑う妻を見て清四郎も笑った 「康太限定ですからね…諦めましょう!」 清四郎が言うと榊原は肩を竦めた 「父さん、僕は仕事が詰まってます! では、また夕飯の時に!」 そう言い榊原は康太を連れて帰って行った 真矢は「仕事が詰まってるなら置いて行けば良いのにね…」とため息交じりに零した 清四郎は「康太がいないと仕事が手に着かない…でしょうね…」と見送り…零した そして2人して顔を見合わせ…笑った 「つくづく暑苦しいと想うわ、あなた」 「ええ。本当に暑苦しい…一生が零すのが解ります!」 真矢と清四郎は、一頻り暑苦しい息子の愚痴を言い 注文したデカいパフェを2人して分けて食べた 悪戦苦闘してると、清隆と玲香と、源右衛門がやって来た 玲香は「そのデカいのは康太がおったのかえ?」と尋ねて周りを見渡した 「ええ。我が息子はこのパフェが来る前に奪回して連れて行ってしまったんですよ!」 と清四郎が愚痴る 「康太にはGPS着けておるからのぉ~」 玲香がサラッとヤバい事を口にした そこまで!! 清四郎は額を抑え 「そこまですると犯罪の匂いが……」 と言い謝った 玲香は笑い飛ばし 「伊織は康太を野放しにしておけんと……想っておるのじゃ! 仕方ながないのぉ~康太を狙う虫なら腐る程おるからのぉ~」 と、源右衛門を見た 源右衛門は「真贋の伴侶は生涯一人!変わりはない! 攫って誘拐したい奴ならウヨウヨおるからのぉ~」 と笑い飛ばした 飛鳥井家 真贋 それを手に入れたら世界を手に入れられる   と、妄想を見てる奴は限りなく多い また康太を見れば欲しくなる 狙われて…攫われて…と言うのも強ち…戯言ではない 玲香は「康太の事は伊織がする!放っておいて構わぬ」と笑いデカいパフェの参戦をした 源右衛門も、清隆もパフェに参戦し…… あまりの甘さに撃沈…… よくもまぁ……こんなに甘いのを康太はペロッと食べたもんだと感心しながら… 全員でデカいパフェと闘っていた 康太は榊原に捕獲され連れられて行く途中で 「何があった?」 と問い掛けた 清四郎と真矢なら榊原は康太を任せる なのに連れに来たと言うのは… 「貴史が倒れました どうします?お見舞いに行きますか?」 え!…………突拍子もない台詞に康太は榊原を見た 「三木が僕の携帯に電話を入れて来ました」 「あぁ、陽人から電話あったからな…」 通話中で繋がらなかった…から榊原に掛けたのだ 「夜遅くなるけど見舞ってトンボ返りだな …………明日は佐伯が来る…外せねぇからな…」 せっかく…榊原の親が来たのに… 「伊織、おめぇ清四郎さん達といろ!」 「嫌です!それは聞けません! 挿れて…ってオネダリなら聞いてあげますが 僕と離れ様とする言葉は聞く気は一切ありません!」 「嘘つき!」 康太は想わず叫んだ 「何処が嘘つき!ですか?」 榊原が問い掛けると、康太は紅い顔をした 「挿れてって頼んでも…聞いてくれねぇじゃねぇかよ!」 「少し焦らすのは許しなさい! でもちゃんと挿れてあげてるでしょ?」 榊原はしれっと言った 康太は反撃に出るのを辞めた 口で榊原には叶わないから…… 「そんな潤んだ瞳で男を見るんじゃありません! 何時も煽って火を着けるのは君なんですよ?」 「知らねぇよ、んな事‥‥」 「愛してますよ奥さん!」 榊原はそう言い康太のつむじにキスを落とした 部屋に戻ると一生が、康太に悪い…と謝った 「電話してたからな伊織の方に電話しやがった!」 一生が言うと慎一も 「俺も電話してましたから…伊織に電話したんだと想います…」 と謝った 「構わねぇよ! どっち道解る事だしたな!」 康太はそう言いソファーに座った   「酷使しすぎたか?」 と、独りごちた 須賀を救出して、帰る兵藤を掴み白馬へと行かせた 白馬で寸分違わず動いて貰い 選挙の遊説で各地を飛び回った しかも、この暑さ… 「なぁ、貴史は今どこにいんだよ?」 「新潟の市民病院に運ばれたそうです」 榊原が言うと慎一は 「案外近いかも…」 と頭の中でルートを探り出し 「これから行きますか?」と問い掛けた 「伊織の仕事が終わらねぇ… メドが立つまで動かねぇ」 「では、またレンタカーを借りて来ます!」 慎一はそう言い忙しそうに出て行った 康太はソファーに寝そべり思案する 思案するんだが……眠気に負けて…寝た スヤスヤ気持ち良さそうに眠る康太を尻目に 榊原は仕事を片づけていた 瑛太も仕事の鬼と化し 一生のサポートを受け仕事を片付ける事に専念した 暫くして慎一が戻って来ると聡一郎も戻って来た 聡一郎は陣内のサポートして出掛けてたのだ 戻って来ると聡一郎も必死にキーボードを叩き 仕事していた その中、康太は……深い眠りに落ち笑っていた 物凄く楽しそうに笑っていた 全員でなんとか仕事を片付けメドが立つと 榊原は康太を見た スヤスヤ楽しそうに眠る康太の側に行くと 持ち上げ膝の上に乗せ抱き締めた 康太の鼻一杯に榊原の匂いがして 康太は目を醒ました 「メシ?」 またこの台詞で、榊原は苦笑した そう言えば…朝食べたなり、何も食べさせてなかった 清四郎達とレストランへ行っていたけど、注文前に連れて来た 「お腹空いてますか?」 「ん……背中とお腹がくっつく程にオレは腹が減ってる」 康太の言い草に榊原は笑って頬にキスした 「ごめんね。 何か食べに行きましょう 好きなのを食べて良いですよ! 何でも買ってあげますからね! 僕が康太の望むモノなら何でも買ってあげます」 甘い睦言を吐き出す 一生は康太を持ち上げると 「サクサク動く!」と言い歩き出した 「一生!」 榊原は慌てて康太を奪回しようと頑張る 「旦那、明日には佐伯が来る 明後日は多分記者会見だ オレ等はその電話を受けて、電話に出られなかった 貴史の所に行くなら用が一つ増えた事になる サクサク動かねぇとな、間に合わねぇんだよ!」 榊原は康太を奪回し 「解ってます! 僕が本気になれば、片付けられない用件ではない!」 と言い榊原は早足でレストランへと向かった 瑛太は苦笑して 「先の総会で伊織は血も涙もない台詞を吐いて株主を震撼させました 誰も異議を唱えられない…それ程に鬼気迫る迫力がありました」 と、一生と聡一郎と慎一に零した 「とても同一人物には見えませんね…」 瑛太は思い出して笑った 聡一郎はそんな瑛太を見て 「瑛義兄さん…それは言ったらダメだって 瑛義兄さんも、伊織と変わらないでしょう!」 キツい一撃を放った 聡一郎を始め、一生、慎一、隼人は飛鳥井の家族を義兄さん、義母さんと呼んでいた 家族として受け入れてくれるから、皆も応えて呼んでいた 「聡一郎…それはキツい…」 瑛太は一生に泣き付いた 一生は「聡一郎!」と怒った 何処までも康太の持ち物には甘い男、緑川一生だった 「一生に怒られたから行くとしますか!」 聡一郎はそう言い慎一の背中を押して部屋を出て行った 楽しそうに慎一の肩に腕を巻き付け、聡一郎は笑っていた レストランへ行くと何故か安曇勝也が康太の前に座って 「好きなだけ食べなさい!」 と、親バカぶりを発揮していた 一生は訝しみ…康太に近づいた すると榊原が 「勝也さんは子供を連れて来てくれたのです!」 と答えた 誰も誰の?とは聞く事はなかった 康太の横には和希や和真位の年の子が座っていた その顔は何処から見ても飛鳥井の血を感じさせずにはいられなかった 「勝也、悪かったな」 「いいえ!構いません! やっと君に渡せます! 登喜子なんて情が移り離したくない… と言う始末でした!」 「やれねぇからな! それより、貴也から何か預かってねぇか?」 康太が言うと安曇は横に置いた鞄から分厚い書類を取り出した 「貴也が貴方に渡してくれと仰せ付かってます!」 康太はそれを受け取った 「貴也を使いましたか?」 「おう!使える男に磨きを掛けてる最中だ あと少ししたらお前の秘書が出来る位には仕上げてやる! 時が来たらオレが適材適所、配置してやろう!」 「え…………何時から?」 安曇は問い掛けた 悠太をレイプした卑怯きまわりない息子を叩き直してくれたと言うのか? 「貴也と貴之はもう少し飛鳥井康太が預かる 登喜子にはそう言ってある」 「私は知りませんでした……」 「登喜子は頑なな女だ 少し肩の荷を下ろしてやらねぇとな 自分ばかり責めて、そのうち壊れるんだ そうならねぇ為の布石だ!気にするな」 「康太……最近息子達の態度が変わりました…」 「おう!オレが登喜子から貰い受けたからな! 貰い受けたからには礼節は叩き込む 今は貴之の方は三木に預けてある 貴也の方はトナミ海運の戸浪海里に預けてある どっちもオレの意に反すれば鬼になるならな」 「君には返しきれない恩がある……」 「食えねぇのは要らねぇよ!」 康太はそう言い笑った 安曇は姿勢を正すと 「須賀直人の為に記者会見を開かれるとか?」 「早ぇな、相変わらず!」 「私も1枚噛ませて下さい!」 「もう人は沢山いる」 「沢山いても私は出るつもりです!」 安曇は一歩も引く気はなかった 「……………勝也…」 「君が何と言おうとね! 私は頑張って記者会見の席に座る!」 康太は諦めた 「ソースは?」 出所を聞く 「ベッドの上でダウンしてる、彼は何でも教えてくれます!」 くそったれ! 「やはりアイツか……」 文句の一つも言わなきゃ気が収まらない 「伊織」 「はい。」 「貴史の所に行くわ」 「君なら文句の一つも言いに行くと思ってました」 「息の根止めてやろかな?」 飄々とベッドの上で寝ている人物を思い浮かべる 「辞めときなさい……康太」 ため息交じりに榊原は呟いた 「あんでだよ?」 「喜んで君の手にかかる奴ですよ! 最高の笑顔を浮かべ……嬉しいぜ!と言います 辞めときなさい……」 思い浮かべて……康太はゲンナリした 「うん!辞めとく……」 「愛するお前の手に掛かるなら、俺は天国にだって逝ける……って台詞は聞きたくないでしょ?」 康太は貴史なら言うわな…と想い頷いた 一生は兵藤の言いそうな台詞を並べる榊原の方に……クラッとした 好敵手は熟知している 一生は安曇の解らないんだけど……と言う視線に 「兵藤貴史がこの世で一番愛してるのは飛鳥井康太 唯一人なんですよ」 と、答えてやった 言われてみれば……   康太の事を話す兵藤貴史は、優しげな……愛で満ちた顔をしていた この男もこんな顔が出来るのだと想っていた… だから………か だとしたら兵藤は……… 「勝也、これから貴史の所に行く 見舞いに行くつもりでいたんだよ 予定は変えねぇ」 康太は安曇から還して貰った子を聡一郎の腕に渡した 「四宮 永遠(とわ)だ! お前の子だ!お前が育てろ!」 「康太……僕はまだ君と動きたいのです!」 聡一郎が言うと 「ならな京香の所に持っていけ 京香の所には病院が派遣したベビーシッターもいる」 「解りました!…………足は?」 「足か………待ってろ! 俺が呪文を唱えれば城田琢哉が出てるからよぉ!」 康太が笑うと、側まで来てた城田は、苦笑して 「呼ばれてみました!」 と、顔を出した 城田の存在に気付いてない聡一郎は   「ギョェェェェェェ~」 と叫んだ 「魔法……?」 「んなん使えるかよ! 白馬に呼んだ城田が仕事を終えたから、腹ごしらえする為一緒に来たんだよ! この後帰るから乗せて行って貰えと謂う事だ!」 康太は苦笑した 「城田、悪いな!」 「いいえ。気持ちの良いドライブが出来ました 書類は社長に渡しておきました!」 「城田」 「はい。」 「この間は助かった」 須賀の捕り物の時の事を言っているのだと気付いて、城田は笑った 「お役に立ちましたか?」 「すげぇ助かった 一分一秒争っていたからな 入り口探す手間が省けた ありがとう」 「兵藤貴史が動くのは貴方の為だけだ! その兵藤が動いてるなら貴方の為だと思いました」 「素早く動けたからか……命を救えた」 康太が言うと城田は笑顔で笑った 「お役に立てて良かったです!」 胸を張り凜として立つ姿は自信も実力も手に入れた実績が滲み出ていた 「城田、メシ食ったら総一郎を横浜まで送り届けてくれねぇか?」 「良いですよ! 飯は奢りですか?」 「おう!たらふく食え! オレが奢る!」 やったー!と喜ぶと城田は康太の前の席に座った オーダーを頼むと 「記者会見早は滞りなく行えそうですね! 下手したら早まるかも知れませんよ?」 と康太に言った 「ソースは?」 「統括本部長が仕事じゃなく駆け回ってます 夜も寝ずにもう3日も会社に寝泊まりしてます」 「…………栗田は駆り出してねぇけど?」 「動いてますよ! 記者会見の段取り、東都日報の今枝と詰めてる」 「……………命令してねぇんだけど?」 「…………恵太さんは飲まず食わずの上、眠らずに動いてる栗田と言い合いになって泣いてました 恋人より………貴方を優先すればね……怒りたくなりますよね?」 「知ってるの?」 二人の関係を?? 康太は聞いた 「統括本部長は貴方命ですが……恵太さんはベタ惚れでしょ? 見てれば解ります!」 「城田」 「何ですか?」 「白馬に来いと主が怒ってた! と、今電話しろ!」 城田は楽しそうに携帯を出すと 「お疲れ様です!統括本部長! 俺は今、白馬に来てるんですよ 知ってますよね?」 『……………知っている』 「伝言です!」 『…………っ!』 「今すぐ白馬に来やがれ! との、事です!失礼!」 城田はそう言い電話を切った 電話を切った後、慌てふためく栗田を思い描き 城田は笑った 「統括本部長は完璧なんですがね……」 城田は溢す 「完璧なら良いじゃねぇかよ?」 「貴方が絡むと……子供みたいになる」 「甘えてんだよ、許してやれ!」 「良いんですけどね」 ふて腐れて言う城田の方こそガキ臭いと一生は想う 言わないけど……

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