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第36話 白馬②

城田はたらふく食べると席を立ち上がった 「貴方の為に働いて参ります!」 と言い聡一郎に声を掛け 聡一郎と共にレストランを後にした 「伊織、貴史の所に行くとするか!」 康太が言うと榊原は伝票を持とうとした   それを押しとどめ安曇が伝票を持った 「父がいるのに…甘えれば良いのですよ」 安曇は笑って支払いに行った 現総理をしているだけあって、安曇の廻りには見えないでいてもSPが着いている   安曇から目を離さず逐一動きを目で追う そして何かあれば身を挺して安曇を守る 安曇は戻って来ると名残惜しそうに康太を抱き締めた 「君が白馬にいるうちに、また来ます」 「おう!待ってるからな」 康太が言うと安曇は康太をギュッと抱き締め 断ち切る様に離した 「康太、また電話します」 康太が頷くのを見届けて安曇はレストランから出て行った 見えない席で見張っていた男達も一斉に引き上げ レストランの中は静けさが戻った 康太は立ち上がると 「着替えて行こうぜ!」 と言った   お見舞いでだから、スーツでなくもう少しラフな格好で行こうと言った 「では着替えに行きますか?」 榊原は康太を腕に収めると歩き出した 目を離すと何処かへ行っちゃうから…… 飛鳥井の部屋に行くとフロアのソファーには玲香が座っていた 康太を見付けると 「何処かへ行くのかえ?」 と尋ねた 「‥‥このタイミングで‥‥いるんだもんな」 康太はボヤいた 榊原は「仕方ありませんよ!でも騙されてくれる方ではないので正直に言わねばなりませんよ」と現実を口にした 康太は観念して真実を伝えた 「おう!これから貴史の見舞いに行ってくる」 康太の言葉に玲香は 「貴史?あやつは……入院しておるのか?」 「そう連絡が入った どんな状況は解らねぇ この暑さだし…色々と酷使したしな 見舞いに行ってくる」 「なら我も行く!連れて行け」 玲香は一度言うと聞かない頑固者 榊原は 「お連れします。 着替えてくるのでお待ちください!」 と言い着替えに行った 見舞いと謂う事もあり、大人し目の服に着替えてフロアに戻ると…… 人が増えていた 清隆も清四郎も真矢もいた 「皆さん…お見舞いに行くのですか?」 想わず榊原が問い掛ける 真矢は「そう。行きましょう!」と兵藤の心配をしていた 玲香は大きな果物籠を誂えさせ持っていた 「母ちゃん……流石…」 康太を唸らせた 慎一は 「レンタカーを下に持って来ます」 と康太に言った   「ベルファイアに…全員乗れるのかよ?」 康太が言うと慎一は思案しする 「ギリギリ乗れます」 慎一は下へと下りて行った 暫くして一生の携帯に 『正面玄関に車を着けた 下りて来て構わない』 と電話を入れた 「慎一が来ました! では行くとしましょうか!」 一生は、皆を促し下りて行った 正面玄関には慎一が運転するベルファイアが停まっていた 全員でその中に乗り込み、車を走らせる 慎一は病院を聞いた時点でルートを調べていた 1時間ちょいで兵藤貴史が入院している病院へと着いた 駐車場に車を停めると一生が病院へと走って行く 康太達が病院の中に入って行くと 一生は見舞いの受け付けを済ませ、面会バッヂを皆に手渡した 「部屋番と場所は聞いたから!」 一生は、そう言うと最上階へと向かうエレベーターへと向かった 少し待ち来たエレベーターへと乗り込む 「貴史は個室にいる だから最上階になる」 と、一生は説明した それで、皆は納得した 兵藤がに入院している病室の前に立つと慎一はノックした 病室のドアを開けたのは…… 兵藤貴史だった 「貴方……起きてて大丈夫なんですか?」 想わず慎一は、叫んだ 玲香は兵藤の前に出ると、深々と頭を下げた 「兵藤貴史、貴方のお見舞いに参った」 丁寧なご挨拶を受け、兵藤は皆を病室へと入れた 病室への中には兵藤美緒 貴史の母親が座っていた 美緒は玲香を見付けると…… 飛び付いて………泣いた 気丈な兵藤美緒が泣くなんて…あり得なかった 玲香は美緒が落ち着くまで… ずっとその背を撫でていた 康太は兵藤の寝るベッドの上に座ると 「貴史、何があったんだよ?」 と問い掛けた 良く見れば、兵藤の顔や体躯には…擦り傷や切り傷があった 「…………見えてんだろ?」 兵藤は拗ねて康太に言った 「甘やかしてやるからな来いよ!」 康太が言うと兵藤は康太の胸に飛び込んだ その背が震えていた 「美緒!」 康太が言うと美緒は立ち上がった 「二人きりにさせろ! 伊織以外を連れて行け」 「解りました!」 美緒は玲香達に 「お話しします! 喫茶店にでも行きましょう!」 と言い連れ出した 兵藤は泣いていた 泣いて…悔しそうに康太の服を掴んでいた 泣いている姿など… 親にも見せたくないのだろう… 気丈に踏ん張った箍が…… 康太を目にして決壊した 「貴史、もう大丈夫だ」 背中を撫で…声を掛ける 榊原は康太の反対側に座り、兵藤を抱き締めた 優しい手が兵藤を包む 一生は……こうして榊原と康太に生かされて 癒やされて来たのが解る 「悔しい………」 兵藤は、そう吐き出した 「貴史、人に目を向けぬ政治家は弾かれる オレはそう言わなかったか?」 「………言った……」 「お前が踏ん張ってもな……本人が気付かねぇとな…」 「……………今は考えたくねぇ…」 兵藤は珍しく気弱に言った 康太は落ち着くまで…何も言わず兵藤を、抱き締めていた そして兵藤は眠りに落ちた 康太はそっと兵藤を離すと、榊原がベッドに寝かせた 康太は携帯を取り出すと 「何処よ?」 と聞いた 「展望台のレストランにいる」 「なら行く!」 康太は携帯を切ると歩き出した 榊原は康太に手を出した 康太はそれを握り締め、病室を出て行った 康太が展望台のレストランに来ると、一生が立ち上がった 「貴史を見てるわ!」 そう言い入れ替わりに一生が病室に向かった 康太は美緒の前の座った 「美緒、貴史は当分は立ち直れねぇぞ」 康太が言うと美緒は覚悟の瞳を康太に向けた 「仕方あるまい…」 「荒療治するかよ?」 「……良い…捨てておけ……」 「捨てておいても良いけどな 後々使えねぇ事態は避けてぇんだよ! 時間を置けば……アイツは頑なになり…ダメになる」 「………我は何もしてやれぬ!」 「しろとは言ってねぇよ!」 「なら何をすればよいのだ! 我は……何をすれば…避けられのだ!」 美緒は興奮して叫んだ 康太は冷ややか瞳で一瞥した 「美緒、オレは人に目を向けぬ政治家は弾かれると、あれ程言ったよな?」 「言った…たが躍起になればなる程… 程遠くなる!我は力不足は否めない! もう…………貴史を………政治家にはさせる自信を失った……」 「美緒」 涙で濡れた瞳を康太に向けた 「兵藤貴史の将来を決めるのはおめぇじゃねぇ! 将来は誰かに用意されて逝くんじゃねぇ!」 「解っておる!………解って……」 美緒は泣き崩れた 「おめぇも貴史も世間知らずだからな…」 康太は言い捨てた 「美緒演説中は人混みの真ん中に立つな!って何故教えなかった? 初歩の初歩だろ?」 「今回の選挙は‥‥何かが違う‥‥‥ 我は後手後手に回ってしまっていた‥‥ 追々教えねばと想っていた矢先にやられたのだ」 兵藤貴史は人混みに紛れ…バランスを崩し…倒れた 倒れた兵藤の上を人が歩いて行き…揉みくちゃにされた 遊説の選挙カーから、わざと落とされたり 遊説中の歩道のど真ん中に立たせられたり… 兵藤は後援者からも試され…かなり精神的に摩耗していた そんな時に…ビラを配らされた 何がおこったか判らなかった 気付いた時には人の足が襲いかかります… 兵藤は意識を手放した 美緒が気付いた時には……兵藤は倒れていた 検査の為に入院した 検査の結果……身体的な場所以外は……問題なしだった 「美緒、アレは世間を知らねぇ 今飛鳥井と三木の所で修行中だ いきなりレベルを上げてやるな…」 「………後援者の人間が……貴史を試した! それが問題だろうが……」 「お前の夫は…庶民を見ねぇからな  人を見ねぇと反発はおきる 況してや、そんな奴の息子だからな力量を見ようとする奴は出てくるさ そんな事も予測出来なかったのかよ?」 「後援会が敵に回るとは…… 想わなかった……」 美緒は本心を吐露した 「まぁ、2、3日入院してろ! オレは今手放せねぇ件を抱えて身動き出来ねぇ! それか白馬に来るか? 美緒、おめぇもな立て直さねぇと…足下ばかり見られて…叩かれて安くなっちまうぞ!」 康太の言う事は最もだった 「白馬のホテルを借りたい……頼めるか?」 「母ちゃん、ホテルの予約取ってやれよ オレは今、体躯が足らねぇ程に忙しいんだ 構えねぇけどな、もうじき力哉も来る 誰か側にいてくれるだろ?」 康太はそう言い笑った 「美緒、人は試す生き物なんだぜ 後押しする人間の力量もなく着く奴はいねぇ ふるいに掛けられ人は試して行く それが世の中だ おめぇら親子はどれだけ世間知らずなんだよ? おめぇの旦那がな……人間離れしてなければな… 兵藤昭一郎は人間味がねぇ……」 「もう良い……側で見てきた我が一番解っている それでも……引く道はない! 行かねばならぬのじゃ!」 「引けとは言ってねぇよ 強靱な刃に叩いてなるしかねぇと言ってる!」 「……………人は……そんなに強くはなれぬ…」 「オレも人だぜ! 血反吐吐いたって…逝くしかねぇだよ! 弱くてもな…泣き叫んでもな… 後退りは出来ねぇだよ!」 康太はそう言い皮肉に嗤った 「まぁ良い。 オレは忙しい 貴史が目を醒ましたら帰る」 美緒は康太に深々と頭を下げた 「兵藤貴史は稀代の政治家にする! オレの果てはそれを捉えてる もう代わりはいない駒として収まった!」 康太の言葉は絶対だった ならば美緒は逝くしかないと歯を食い縛った 「美緒、白馬に行ったらおめぇに宿題を出す! 夫とその宿題をやれ! 宿題が終わったら答えを聞かせに来い!」 「はい!解りました」 康太は展望台のレストランを出て行った 病室に戻ると、兵藤は起きていた 「悪い…寝ちまった」 「貴史、着替えろ!オレと来い!」 え………? 兵藤は康太を見た 「オレについて歩け」 「………お前に?」 「でねぇともう…お前は恐怖ばかり募って… 使い物にならなくなる 使い物にならねぇおめぇはオレには不要! オレの果てにおめぇはいなくなる それで良いならな、寝てろよ! 嫌なら来いよ!貴史」 兵藤は立ち上がりパジャマを脱いだ 素肌は…青く打ち身になったり、傷が出来ていた 素肌に服を着てズボンをはいた 私服に着替えて兵藤は康太の前に立った 「これよりオレから目を離すな!」 「おう!」 美緒が病室に戻ると兵藤は私服に着替えていた 驚く美緒を他所に兵藤は 「美緒、病室の精算をしてきてくれ」 「………大丈夫なのか?」 「今立たねぇと斬り捨てられるしかねぇからな… それは不本意だから…踏ん張ろうと想う」 兵藤の言葉を聞き美緒は精算をする為に、病室を後にした 暫くして美緒はやって来た 康太はそれを見て病室を後にした 病院の駐車場に出て、康太達はベルファイアに乗り込み 兵藤は美緒の運転する車で 白馬のホテルに向った ホテルに着くと栗田が康太の姿を見て飛び出して来た 「康太!」 デカいナリして康太に懐く 康太がもっと小さい頃から… 栗田は康太に飛び付いて抱き締めていた 誰よりも忠犬だった 「一夫、暑い……」 康太が愚痴を言うと栗田は康太を背負った 昔から甘やかして甘え倒した主なのだ 康太は静に控えて立ってる恵太に声を掛けた 「よう!恵兄、一夫に駆り出されたか?」 そう言い笑う 「ええ。君に怒られると……泣き着かれればね 誰よりも愛しい男ですからね……惚れた方の負けです」 恵太はそう言い笑った 康太は栗田に 「この駄犬!主の言い付け守りやがらねぇからな! 捨ててやろうかと想ってたぜ!」とボヤいた 康太が言うと栗田は… 「康太……」 と、泣き付いた 康太は栗田の背から下りて前に立つと 「腰を屈めろ!」 と言った 栗田は何をされるか知っていて腰を屈めた 康太は思いっ切り栗田を殴った 栗田の体躯は……後ろへと飛ばされ… 榊原が支えた 栗田の唇から鮮血が流れた 康太は栗田の手を掴むと、ソファーに座らせた 「何故勝手に動いてる?」 康太は栗田の鮮血を舐めながら問い掛けた ペロペロと康太の舌が栗田を舐める 「すみませんでした……」 「家にも帰らず? 喧嘩でもしたのか?」 「いいえ。しておりません」 「なら何故?」 康太の舌が栗田のささくれ立った心まで舐め尽くす 「……貴方が記者会見を開くと耳にしました」 「誰から聞いた?」 「噂はかなり広がっています 俺が拾える程だった だから俺は東都日報が飛鳥井康太の記者会見の場を用意していると耳にした 貴方の飛鳥井康太の記者会見の場を‥‥情報漏洩した中でやって欲しくなかった!」 「栗田‥‥」 「だから俺は‥‥今枝に連絡を取り‥‥手伝っていた」 「だから不眠不休で? オレが喜ぶと想ったか?」 「いいえ………怒られると想ってました でも!貴方の会見の場を…人任せは嫌なんです! 三木も同じ気持ちで東都日報に来ていました」 「今夜は白馬に泊まれ」 「はい……」 「横浜に戻ったら自分の仕事をしろ」 「はい。」 「お前を酷使したい訳じゃない」 「解ってます!」 「お前を貰い受けた日から お前の幸せだけを願っている」 栗田は康太を抱き締め泣いた 「幸せです! 貴方に幸せにして貰ってます!」 「泣くな…」 康太は栗田の涙をペロペロ舐めた 「康太…家に帰ります 仕事もします だから……」 捨てないで……と訴える 「無理しないならな!」 「はい。はい………」 ナリはデカいが…… まるで子供みたいだった 康太は栗田を抱き締めたまま恵太に声を掛けた 「喧嘩してたんだって?」 聞かれて……バツの悪い顔をした 「ええ。一夫は家にも帰らず…ご飯も食べず… 取り憑かれた様に働いてたから……」 「許してやってくれ…… オレの教育が足らなかったみてぇだからよぉ!」 康太はそう言い笑った 「幸せになれ! お前を貰い受けた日から オレの願はそれだけだ!」 栗太に言い聞かす 「幸せです…… 貴方がいれば俺は生きてけます!」 それは………台詞が違うと…… 康太は苦笑した 「喧嘩するな…」 「……すみません…」 「一夫、泣くな… 捨てないから泣くな」 「返さないでね」 脇田誠一の所へも返されたくないのだ 「誠一は受けとらねぇぞ……返せるかよ!」 「貴方の為に働きます」 「メシを食え!」 「はい…」 「家に帰れ!」 「はい!」 「喧嘩するな」 「もうしません……」 「泣くな……」 「貴方に捨てられると思ってたから……」 勝手に動けば… 痛いしっぺ返しが来る   それが飛鳥井康太だから…… 康太を目にするまでは…… 心臓が止まりそうな位……緊張した だから……涙が止まらなかった 榊原は康太と栗田を見ていた   どう見ても……二人には信頼以上のモノはなかった 康太のモノ それが栗田一夫だった 「おめぇを誠一から貰い受けた時はまだオレは小学生だった」 「ええ。ランドセルを背負った主に着くのは不本意でした 蹴り飛ばされ懐かれ……こき使われ… だが今は貴方以外に仕える気はありません!」 「オレの懐刀だろ? 今までも、これこらも!」 「ええ。俺は貴方にしか仕えません!」 「一夫、オレは体躯が後二つは欲しい位忙しい」 「はい!何かあれば呼び付けて下さい! 栗田一夫は貴方のモノですから!」 「んとに、おめぇは可愛いな!」 康太はそう言い頬にキスを落とした 「伊織、メシ食わせてくれ」 「ええ。皆さん食事をしましょう!」 榊原はそう言うと康太を抱き上げた 康太の腕が榊原の首に廻り、甘える 「伊織!伊織!」 康太は嬉しそうに榊原の名を連呼した 仲の良いカップルの熱い抱擁を他所に 一生は「お義母さん、宴会は何処で?」と問い掛けた 「源右衛門の別邸は使えぬのか?」 玲香に聞かれ一生は困った視線を康太に向けた 「構わねぇだろ? 海路も最期の日は飲んだくれて帰るが良い」 一生は納得して部屋を出て行った 神野を捕まえ宴会の準備をして 康太達を呼びに来た 兵藤と美緒は片隅に座っていた 康太は榊原の腕から下りると、兵藤に手を差し出した 兵藤は何も言わず康太の手を取った 「うし!行くぜ貴史!」 「お前は本当に元気だな」 「気力だけだ! でねぇと……立ってられなくなるからな!」 自分を奮い立たせて康太は歩く 限界を超えて… 康太は我が道を逝く 誰よりも身近で見てきた筈だ 兵藤は……友を見た 康太は兵藤の手を離すと慎一によじ登った 「慎一、沢庵持ってきてくれた?」 「持って来ましたよ」 「やった!井筒屋の沢庵!」 慎一は康太を抱き上げたまま、ホテルを出て源右衛門の別邸へと向かった 榊原は静かに後ろを歩いた 一生は駆け回り、宴会の手筈する   康太を抱き上げる慎一に 「おい!手伝え!」と叫んだ 慎一は康太を榊原に渡して一生と共に駆けていった 「伊織、風呂に入りたい」 この暑さで動けば…体躯はベトベトだった 「食事の前に?」 「食ったら。 伊織が食べると塩っ辛いオレだからな!」 「僕は気にしませんよ どんな康太でも食べたいです」 「伊織…」 康太は榊原にキスした 「こんなに愛させてどうするんだよ?」 「もっと愛して下さい 僕は困りません」 康太は伊織!抱き着いた 熱々のカップルを尻目に… 一生や聡一郎、慎一は甲斐甲斐しく動く 隼人も一生に駆り出され 神野や四季も甲斐甲斐しく動いていた 「伊織、全身洗って…」 「良いですよ! 綺麗に洗ってあげます」 「ならオレは全身舐めてやる」 「…………今押し倒されたいですか?」 「伊織がしたいなら…」 「………………魅力的過ぎて…鼻血噴きそうです」 エスカレートしそうなカップルを一生は 「こらこら、食事前に押し倒したらあかんがな!」 と、引き離した 康太は一生におぶさり、邪魔をする 「一生、馬に蹴られるぞ」 「はい!はい!井筒屋の沢庵が要らねぇならな!」 「要る!オレの沢庵!」 康太は一生に連れられ宴会の広間に移った 榊原は苦笑して 「僕は沢庵に負けました!」 と溢し… 兵藤に声掛けた 「行きますよ貴史。 沢庵を盗られますよ…」 榊原は楽しそうに宴会の広間に向かう 甘い睦言を言ってた次の瞬間… 駆けて行く恋人同士に…… 兵藤は苦笑した 家族や仲間に囲まれ 暫しの休養 九曜海路は神野や四季、隼人達と仲良く座っていた 拘りを超えた顔をしていた 海路は康太を見付けると、深々と頭を下げた 「……今日一日、映画を見たりショッピングをしたり 皆でファミレスに入ったり…… 何処の家族でもしてる当たり前の事をして過ごしました」 「良かったな海路 お前が築けなかった時間だ 心に刻んで…還れば良い」 「………口惜しいです こんなに楽しい時間を…… 築かなかった自分が……」 「血は脈々と受け継がれる そうして人は乗り越えて行く お前の想いが…… 受け継がれる…」 「ええ。今回誰よりも血を感じました 同じ血が流れてると……今更ながらに気付きました」 「海路、何時か還る時の為に確かな存在になれ」 「ええ。確かな存在になって行きます」 「今夜は飲め そして明日還って行け」 海路は康太に一礼すると四季や神野の側に行った 瑛太は神野と飲んでいた 顔付きが変わり雰囲気が変わった神野を見ていた 瑛太の目の前にいる神野は…… 頑なだった殻を破り、超えられない壁の向こうに行った… 晴れやかな顔をしていた 宴会に突入すると、笑いが部屋に響き渡り 楽しい時間が流れて行く 康太は一心不乱に食べて腹を満たすと立ち上がった 「花火しょうぜ!」 康太が言うと榊原達は立ち上がった 康太は部屋の窓を開けると 「外で打ち上げるから部屋で見てろ!」 と言い部屋を出て行った 暫くすると打ち上げ花火が部屋を染めた 飛鳥井の家族も 榊原の家族も 海路や四季、神野達も 花火を見て 花火をつまみに飲んでいた 忘れられない夏になった 二度と来ない夏になった その夜 笙は皆の前には姿を現さなかった

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