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第38話 繋がる明日

康太は精液が渇き肌に張り付く不快感に目を醒ました 榊原はそんな康太の寝顔をじっと見ていた 目を開け飛び込んで来たのは榊原の顔だった 愛しげに見つめる榊原の顔が眼に入り 康太は笑った 「伊織、おはよう」 「康太、愛してます」 チュッと康太の唇にキスを落とし 榊原は笑った 「起きて支度をしないと一生がドアを叩きまくりますね」 榊原は朝から元気な一生を思い浮かべ言った 「だな……」 康太も笑い起き上がった 康太を抱き上げ浴室に連れて行き 中も体躯も洗う 康太に関しては手を抜かない 綺麗に磨き上げ洗って行く 二人して湯に浸かり、少しだけ満喫して浴室を出た 手早く康太の支度をして 自分の支度をするとシーツを剥がしリネンに入れた そして康太を促し部屋を出た 部屋を出ると部屋の前のフロアのソファーに一生と慎一が座っていた その横に……聡一郎と隼人が寝ていた 「どうしたよ?」 「朝までタチの悪い酔っぱらいに絡まれてた」 一生はそう言い苦笑した 「メシを食おうぜ!」 康太が言うと慎一が 「別邸の方にご用意しました! 皆様お待ちです!行きますよ!」 と慎一が告げた 康太は一生の横に行くと 「瑛兄?」 と問い掛けた 「ええ。かなり悪酔いしてたわ」 一旦寝て……起きて飲んで… 一生は瑛太に付き合わされた 「忙しかったからな…」 康太は一生に「悪かった」と謝った 「良いって事よ! それより今日は佐伯だな」 一生は康太に罪悪感を抱かせない為に会話を変えた 「メシ食わねぇからな……」 康太はボヤいて……兄を思い浮かべた 榊原は康太を抱き締め 「仕事してると食べる必要性を忘れるんですよ」 とフォローした 「…………腹が減ったら食わねぇか?」 「……………食べないから悪酔いしたんですよ」 「伊織もな……食事はエネルギーみたく食うからな…」 「僕は君が美味しそうに食べてれば満足です!」 「食わねぇと離婚すると脅してやらねぇとな」 康太が言うと榊原は慌てた 「僕はちゃんと食べてます! 倒れて以降はちゃんと食事は欠かしてません」 「食わねぇと許さねぇからな!」 榊原はニャッと嗤うと 「その台詞義兄さんに言いましょう!」 と、言い康太を抱き上げホテルの外へと向かった 一生はそんな榊原を見て…… 「黒い羽根と尻尾が出てますがな……」 とボヤいた バッサバッサ黒い羽根が音を立て、黒い尻尾が嬉しそうにバタバタ振られてる 「う………ん………シュールだ……」 そんな一生に苦笑して慎一は隼人を持ちあげ トンボ帰りして帰って来た聡一郎を促した 聡一郎は疲れ果て…… 「帰ったら酔っぱらいの巣窟だなんて…… 僕は可哀想じゃない??」 と慎一に訴えた 慎一は苦笑して聡一郎の頭を撫でた 別邸に行くと、皆疲れ果てた顔をしていた 爽やかな朝とは程遠い…… 康太は瑛太の膝に座ると 「瑛兄」と呼んだ 「何ですか? 何か欲しいのがありますか? 良いですよ。買ってあげます」 「違ぇよ!んなんじゃねぇ!」 康太が怒ると瑛太は 「なら何ですか?」と問い掛けた 「メシは必ず食いやがれ! 食わねぇと消えるかんな!」 康太はそれだけ言うと膝から折りようとした 擦り抜ける康太を抱き締めると 「食べます! だから消えないで……ねっ!」 と訴えた 「昨日、メシ食ってねぇだろ?」 瑛太はうんうん!と頷いた 「メシも喰わず飲めばな悪酔いするだろ?」 「………ごめん……許して…」 萎れた瑛太を抱き締めてやり 「また倒れたらどうするんだよ!」 康太の言いたい事は厭と言う程に解っていた なくしたくないのは……瑛太も同じ 「食べるから!」 「ならモリモリ食え!」 それは無理だった…… 酔っ払った翌朝にモリモリ…… 食える人は……珍しい 「最大限の努力はします!」 「少しでも腹の中に入れろ! 瑛兄は伊織と同じ……メシをエネルギー補給みたく食うかんな……」 「私は伊織とは違います! 大丈夫!美味しそうに食べます!」 瑛太の台詞に榊原は康太を奪回して 「義兄さん、僕も美味しそうに食べてます!」 一緒にするな!と怒る 聡一郎はブチッと切れた 「ええい!うるさい! どっちも変わらねぇだろ! 四の五の言わず食いやがれ!」 雷を落とした 榊原は康太を座らせると、聡一郎の頭を撫でた 「聡一郎、怒らないの」 撫で撫でされて聡一郎はバツの悪い顔をした 「伊織……撫でないで下さい」 「聡一郎は良い子ですよ!」 ニコニコして榊原は言う 「………伊織……僕を虐めないで下さい」 榊原は笑って康太の横に座った 食事の席に、兵藤美緒と貴史の姿もあった 康太はポリポリと沢庵を食べ朝食を済ませると 慎一の耳にボソボソ呟いた 慎一は立ち上がると書類を取り行き康太に渡した 康太はそれを受け取り一生に渡した 一生はそれを受け取り黙々と食事をしていた 瑛太も珈琲とサラダと……クロワッサンを食べていた 榊原も珈琲とサラダとクロワッサンを食べていた 食事を終えると一生は兵藤美緒へと近寄った 「康太の出した宿題です! 見事完遂して康太の前に答えを言いに来て下さい」 そう言い一生は封筒を美緒に渡した 康太は立ち上がると 「この別邸は今夜は使えない 朝食を終えたらホテルに戻ってくれ」 と告げた 清隆や玲香は頷いた 源右衛門は「厩舎に行っておる。その後旧友に会いに行く」と告げた 康太は源右衛門を見て 「じいちゃん厩舎の後は、此処に帰って来いよ じいちゃんの部屋があんだぜ! そこでのんびり過ごせ」 この暑さで出歩くのは危険だから…… 「ならそうするわ この暑さは堪えるからのぉ…」 「夏の間はじいちゃんの部屋でノンビリしとけよ 近いうちに厳正が来るからよぉ!」 「厳正が……?」 「陣中見舞いに来いと言っといた」 なる程と納得して源右衛門は頷いた ゆっくりお茶して、皆で寛ぐ 清四郎も真矢と寛いでいた 玲香は美緒と尽きぬ話で盛り上がり 真矢も巻き込んで楽しい時間を送る 昼、少し前に康太が立ち上がると 家族はホテルへと帰って行った 美緒は兵藤を置いて玲香と共に出て行った 源右衛門は厩舎に出向いた 「一生」 「あんだよ?」 「佐伯は?明日菜の方は捕まえてるのかよ?」 「笙が連れて来てくれる算段はついてる」 「なら逢わせられるな……」 「逢わせねぇと……溝ばかり深くなって… 他人より遠い存在にしかなれねぇからな…」 親子なのに…… 他人より遠い…… そんな刹那過ぎる親子の軌道修正をする 今 軌道修正をせねば…… 親子は誰よりも遠い位置で…… 近寄る事を拒絶して生きて行くしか出来ない そんな刹那い親子の軌道修正する 心を鬼にして…… 在るべきカタチへ導く 適材適所配置する それが歪めば…… 明日へは続かないから…… 海路は息子や神野、隼人に別れを告げて… 康太に御礼を言い 魔界に還って行った 総一朗が送って魔界に還した 康太は人払いして誰も寄せ付けぬ様にして 聡一郎に送らせた その後、聡一郎を部屋に入れ一生を、側に付けた そして駐車場へと出向き佐伯朗人を待った 佐伯は蔵持の人間に送られて白馬に来た スーツケース一つ持って車から降りた佐伯は…… 蔵持善之介に仕えている雰囲気はなかった 執事の制服を脱いで、スーツを着た佐伯は 普通の……年老いた風貌にしか見えなかった 「佐伯……良く来てくれた」 康太が声を掛けると佐伯は深々と頭を下げた 「康太様……佐伯は恥を忍んで参りました」 どんな制裁も罵声も受け止める覚悟は出来ていた それだけの事をして来てしまったツケを払う 何時か……向き合わねば……と先送りにして来た 怖かったから…… でも確りと目を反らさずに現実を見ねばならぬ時が来たのだ 佐伯は覚悟を決めていた どんなに拒絶されても…… 余生は娘を見守る為に使う 陰からしか見られなくても良い この世でたった一人の娘なのだ 愛してやれなかった娘だけど… 娘を想わぬ日はなかった 苦悩に満ちた顔を康太に向けた 康太はそれを受け取り 「佐伯、軌道修正はオレの務め 無理矢理逸れた道を直す時が来た」 康太の顔が神々しく見えた 「はい!康太様」 佐伯は康太に促され別邸へと向かった 別邸には既に笙が佐伯明日菜を連れてやって来ていた 応接室に明日菜が静かに座っていた それを笙が見守り 一生、聡一郎、隼人と兵藤が見届けていた 「佐伯、お前の娘だ!」 康太はそう言うと明日菜の腕を掴み 佐伯の前に立たせた 明日菜は頑なに目を反らしていた 「佐伯明日菜!目を反らすな!」 康太は唸った 仕方なく明日菜は父を見た 初めて…… こんなに近く…… 娘は父を見た 「明日菜……」 佐伯は娘の名を呼んだ… 苦悩に満ちたその声に…… 来るのに悩んだ……父の覚悟をしった 「私はお前に許されるとは思ってはいない」 佐伯はそう言い明日菜に深々と頭を下げた 明日菜はそれを見ていた 目の前の人は……… 誰? こんなに年を取って…… 蔵持家の執事として主に仕えていた…… その様子は微塵もなかった 誰…… 父を見なかった間に……… この人は………年を取った そんな事に今気付いた 悩んで 苦しんで それでも、その生き方しか出来なかった 不器用な男が…… 目の前にいた 不器用すぎる…… 父も…… 私も…… 明日菜は父を見た 確りとその瞳に父を映し出した 「父さん……」 その名で呼ばなくなって…… 何年も経つ グレて落ちるしかなった こんな体躯………要らない そう思って生きていた 落ちて…… 落ちて…… 気付いた時には…… 犯罪一歩手前…… こんな事望んでなかった……… 足掻き苦しみ…… 抜けようとした そんな佐伯明日菜を救ったのは飛鳥井康太だった 落ちた明日菜を拾って…… 殴り付け 怒られた…… 抱き締められ… 明日菜は泣いた 『佐伯明日菜、何もやる事がねぇなら オレの為に生きろ!』 康太はそう言い明日菜に生きる明日を与えた 秘書として生きて行く その為だけに勉強して努力した 他は考えず……… 飛鳥井康太の為だけに…… 瞳を向けて生きていた その時間がなくば…… 今 こうして苦悩に満ちてる…… 父と向き合えなかった 「明日菜……」 娘の名を呼ぶ父の声は不安に満ちていた あんなにも毅然と立ち振る舞う姿が…… 嘘のようだった 蔵持家の執事として生きていた 主の為だけに生きていた 娘の明日菜も…… カタチは違えど… 主の為だけに生きている 拾われ育てられ…… 佐伯明日菜を作ったのは飛鳥井康太だ 彼の為だけに仕える 嫌いな父の……… 姿を真似るかの様に…… 明日菜は同じような生き方を選んだ 「父さん、貴方の執事人生は天晴れとしか言いようがありません!」 明日菜は胸を張り父に最高の賛辞を贈った 「明日菜…」 佐伯は目頭を押さえ姿勢を正した 「佐伯明日菜様 貴方の主に仕えるお姿も天晴れで御座います」 「蔵持の家を勇退されるとか……」 「ええ……今年限りで…蔵持の家を去ります」 「そしたら今後は何をなさるのですか?」 「娘を……見て行こうと想います」 明日菜は驚愕の瞳を父に向けた 信じられない……言葉だった まさか……… この人の口から…… 聞けるとは想ってもいなかった 「主に仕えた人生でした ですが残りの人生は……亡き妻の思いを胸に…… 娘を見て逝きたいと想っています 許されないのは解っています 目の前に出るなと言うのなら…… 二度と目の前には現れません」 「母さんはずっと……貴方の名を呼んでいた!」 「お前の母さんにも……詫びても詫び足らない……」 頭を下げる佐伯を見て康太は 「妻を亡くした佐伯が平気でいたと想うのか?」 と問い掛けた 榊原は佐伯と明日菜をソファーに座らせた 「まぁ聞け」 康太はそう言い話し出した 「蔵持善之介は何時もオレの顔を見ると懺悔をする 佐伯の人生を………壊したのは私だ……と、オレに話す 善之介は自分に仕えさせた佐伯の将来を危惧していた 家庭を壊し…仕えさせてしまった…… オレが善之介と知り合ったのは……佐伯の妻が他界して一年後だ もっと前に知り合ってればな……オレも悔やんだ だが幾ら悔やんでも……時は巻き戻せねぇ オレはグレた明日菜を拾って育てる事にした でなければ……明日菜の一年後はなかったからな… そしてオレは心に決めた 何時か……親子の歪みを軌道修正する 過去に親子して囚われて……未来を歪めて生きて行くのは許さねぇ…… そろそろ互いを知るべき時が来た」 康太はそう言い明日菜の横に座った 「佐伯朗人は何も持たない老人なる ……………それでもおめぇは許せねぇか?」 明日菜は涙で濡れた瞳を康太に向けた 「私は………父親を間近で見てはいなかった……」 想い遺る人は何時も毅然して若く…溌剌としていた 今目の前にいる人は…… 確実に年を重ね…… 残りの時間を生きようとしていた 「気づけば……厭と言う程…… 親子だな……私たちは……」 父は蔵持善之介の総てを捧げ 娘は飛鳥井康太に総てを捧げていた 父の事を言えない生活をしている   結婚して下さい 請われても…… 捨てて行く事はしなかった 夫は康太が見付けてくれる 康太の持ち物じゃなくなるのは厭だった…… 「父さん、私は貴方の娘です!」 主に仕える……誇りを胸に明日菜は父を見た 「主が言えば……私は白馬から逃げる事も出来ない 主が軌道修正すると言うのなら…… 私はそれを受け入れる 私は飛鳥井康太に拾われて……生かされているのだから 父さん……私の生き方は……気付けば貴方と同じでした」 だから……もう恨んではいません 今なら解る 自分には大切な人はいないが…… 大切な人がいたって…… 主の為に生きて行くのを選ぶだろうから… 父の生き方を…… 知らないうちに……なぞっていた 誰よりも嫌悪してたのに…… その嫌悪した存在になろうとしていた 拾ってもらわねば…… 今はなかった 生かしてくれてるのは……飛鳥井康太だから 何よりも優先させて…… 生きている自分を見ないで来た 「明日菜……立派になられました」 「蔵持の家を出たら一緒に暮らしましょう!」 佐伯は驚愕の瞳を明日菜に向けた 「残りの人生は……私の側で生きて下さい」 佐伯はそっと娘を抱き締めた 「ええ……ええ……」 嗚咽を漏らして佐伯は泣いた その姿を見れば…… 長年の恨みなんて…… 消え去る 佐伯明日菜は晴れやかに笑った 憑きものが落ちて…… 乗り越えたモノだけがする 晴れやかな笑顔だった 明日菜は立ち上がると康太に深々と頭を下げた 「気付けば……私も父と同じような生き方しか出来ないでいた…… 今なら解る……今なら……私は父が解る きっと私も父と同じ道を辿る 私が一番大切のは飛鳥井康太、貴方だ 他は……全部なくしても…… 私は貴方だけはなくしたくない 貴方に仕えて……私の人生が終えるなら…… 良いと想った時点で……父と同じだった ありがとう……康太 貴方が私にくれる無償の愛を……受け取りました」 「明日菜、いい顔になったな!」 康太は笑った 明日菜は横に座る康太に抱き着き…… 泣いた 号泣……としか言いようがない 子供みたいに…… 嗚咽を漏らし……泣いた その背を佐伯は撫でていた 兵藤はそれを見ていた   必死に生きた親子を見ていた 似た者親子の軌道修正を…… 涙を堪えて見守っていた 「取り敢えず、親子水入らずで過ごせ 今夜は佐伯は蔵持に戻らねぇ 明日、お前は送り出してやれ 最期の日々を悔いなく過ごさせる為に送り出せ」 「はい!そうします!」 心を尽くして……父を戦地に送り出す 最期の日々を…… 悔いなく終わらせてやる為に…… 送り出す 「父の執事人生が悔いなく終われます様に…… 心を尽くしたいと想います」 明日菜は心より言った 榊原はポケットからキーを取り出すと明日菜に渡した 「お父様と過ごして下さい!」 と言い榊原は明日菜の手にキーを握らせた 「副社長、仕事は終わりましたか?」 「はい。何とか終えました…」 「では良いです! 私は父と過ごします 本当にありがとう御座いました」 気付かずに行かなくて良かった 父を避けて…… 執事人生を終わらせなくて良かった 佐伯明日菜は心より康太に感謝した そして、父の手を取ると…… 別邸を出てホテルへと向かった 康太達はそれを見送り…… ホッと息を吐き出した 榊原は康太を持ち上げると膝の上に乗せ 「佐伯は頑固ですからね…… 本当に良かったです」 と、胸を撫で下ろした 「伊織…」 「何ですか?」 「横浜に帰る」 「………え……」 榊原は唖然とした 「須賀が意識を取り戻した」 「本当に……」 「まだ話せねぇ…けどな 見てみねぇとな…何とも出来ねぇ」 「記者会見の打ち合わせもありますね」 「記者会見は明日になりそうだ 若旦那や善之介達は残念だけど……スケジュールが合わねぇだろ?」 「それはどうでしょう… 栗田が掴めた位ですからね…掴んでそうですよ」 「…………鼻が良いのが多くて困るな」 「君が繋いだ縁でしょ?」 榊原は康太の唇にチュッとキスを落とした 「横浜に帰るなら、着替えは持たなくて良いですね 着替えに家に還れば良いですからね」 「オレのスーツは?」 「会見に着るのは飛鳥井の家にありますよ 白馬で記者会見出来ないですからね 置いてきました」 「じゃあ、還るか… 2、3日、留守にする 誰か残ってくれ」 一斉にそっぽを向く   誰も残る気は0だった 「…………残る奴は誰もいねぇのかよ?」 慎一が立ち上がると康太を抱き上げた 「貴方が大人しくしてればね、皆、残ろうと想いますよ? 目を離すと何するか解らない貴方ですからね…… 側で阻止しようと……残りたくないんです」 慎一がそう言うと康太は唇を尖らせた 慎一は笑って康太を榊原に返した 「………伊織、両親がいるんだぞ」   康太が言うが榊原は聞いちゃいない 「慎一、着替えは要らないので行きましょうか?」 「ええ。レンタカーは返して来たので、来た車に乗って行くしかないですね」 「ええ。向こうに着く前にファミレスに寄りますか」 「腹が減ったら堪え性のない人ですからね……」 榊原は康太を下ろすと手を繋いだ 瑛太と飛鳥井の家族と榊原の家族に 「記者会見が在るので一旦帰ります」 と、告げた 瑛太は兵藤を掴むと 「乗せて行きます!」と言った 「康太に着いて歩くんでしょ?」 兵藤は……お願いします……と言うしかなかった 清四郎と真矢は笑って 「気を付けてね 終わったら還って来て下さいね」 と言った 「オレ等は夏休みは白馬で過ごす 還って来ます! じぃちゃんを頼みます!」 と、頼んだ 「源右衛門は任せておいて下さい 親孝行したいと想います」 清四郎は楽しそうに言った 康太は清四郎や家族に深々と頭を下げると 飛鳥井の部屋を後して、下へと下りて行った 康太は榊原の車に乗り込み 一生は慎一が運転する車に隼人と聡一郎を連れて乗り込もうとして……… 兵藤に掴まれ瑛太の車に拉致られた 慎一は笑って運転席に乗り込み 隼人と聡一郎を乗せた 榊原の車が走り出すと、皆は後を追った 横浜の地へ…… 想いを馳せて…… 向かった 夜という事で結構道路は空いていた お盆のピークの頃なら……こうはいかない 康太は榊原の膝の上に頭を置いて眠っていた 榊原の指が…… 康太の髪を撫でる 夜通し走り続けて、見慣れた街並みを目にして榊原は康太を起こした 車は何時ものファミレスの駐車場へと向かい 車を停めた 全員揃ってファミレスの中へと向かう 椅子に座ると一生は 「須賀の意識が戻ったって本当か?」 と問い掛けた 「話は出来ねぇけどな…義恭から電話があった」 白馬に来て3日 須賀がICUに入って…4日は過ぎた 「須賀を見舞って、東都日報に行く」 康太が、そう言うと胸ポケットの携帯が激しく震えた 「あんだよ?」 『康太、詳細の書類は届きました?』 「おう!見た でもな繁雄、会見が早まった分 参加者は変わるぜ」 『大丈夫です!根回しは俺の得意分野 総て了承を得てます!』 仕事の速さに…目眩がする 「若旦那も?」 『安曇さんに、蔵持さん、そして相賀さんです!』 「全員、早まったのに……?」 『ええ。皆さん了承なさいました! 明日の会見は全員で出る  俺も参加します!』 「繁雄……今枝の仕事を盗るな…」 『盗ってませんよ! 手筈は今枝が整えてる 栗田が出て来たのは驚きましたが… 流石、貴方の懐刀だけあって見てますね 栗田と飲みました 彼と知り合えて良かったです! 凄く仲良くなりましたよ』 三木はそう言い笑った 「繁雄、オレは今、横浜に帰ってきた」 『飛鳥井の家におられますか?』 「おう!腹拵えしたらな帰る」 『なら駐車場で待ってます』 三木はそう言うと電話を切った 康太はため息をついた 「ほら、食べないと三木が来ますよ」 自分のサラダを取り分け康太に食べさせる ステーキだけだと栄養が偏るから…… 言われて康太は食べ出した   慎一は、プリンのオーダーを持ち帰りに変えた 食事を終え飛鳥井の家に帰ると、駐車場には三木繁雄が立っていた 「康太!逢いたかった!」 三木が康太を抱き上げ、スリスリする 榊原は三木を促し、エレベーターの中へと乗り込んだ 飛鳥井の家の鍵を開け、部屋の中に入る 皆を応接室に通して、ソファーに座らせた 慎一はお茶の支度にキッチンへ向かった 「康太、何でも買ってあげますから許してね」 三木はそう言い康太を抱き締めていた 「だから……お前は俺のパトロンかよ…」 「記者会見用にスーツでも作ってあげましょうか? 君に貢ぐのは惜しくはありません !」 三木はそう言い笑った 「繁雄、オレは当分白馬から出る気はねぇ…」 「解ってます 毎年のことですものね」 「今年はもっと長い じぃちゃんが、この暑さなのに無理するかんな 休ませてやりてぇんだ」 源右衛門は高齢 この夏の暑さはかなり堪えていた 「これから須賀に会いに行く その為に帰って来たんだからな…」 「須賀の意識が戻られたそうで!」 「………お前はそれを何処から聞いた?」 「俺は安曇さんにお聞きしました 何でも安曇さんは毎日顔を出しに見舞いにおいでのようです」 「毎日……?」 日本の礎になる男は分刻みでスケジュールが詰まり忙しい筈なのに? 「ご自分が行けない時は人を使い…… 何かあれば…直ぐに動けるよう見舞われたみたいです」 「あの忙しい男が……?」 康太は、信じられないと呟いた 誰よりも忙しく 誰よりも気が抜けない安曇勝也 現総理大臣と言う要職についた男は日本という屋台骨を背負って生きていた 「須賀尚人は君の駒だ 生かしておいてこそ価値がある ならば死なせる気はないんですよ 俺も須賀は死なせる気はない 生かしておいてこそ康太の為になれば、何としてでも手は打つ 考えるのは同じと言う事です」 「繁雄……」 「病院に行くなら乗せて行こう」 三木はそう言い康太を持ち上げた 「伊織、疲れてるでしょ? 後部座席に康太と座れば良い 他は留守番だな そんなに一度に行ったって見舞いすらさせてくれねぇからな」 康太を榊原に預け三木は歩き出した 榊原は康太を抱き上げ、応接室を出て行った 康太を見送り一生は 「忠犬ハチ公が!」とボヤいた 兵藤は拗ねる一生を見て笑った 一生は兵藤の首根っこを掴んだ 「笑うな!」 「繁雄が忠犬ハチ公なら お前等は何だ?」 兵藤が揶揄して一生の頭をポンッと叩いた 「俺からしたら……お前等は変わらねぇよ」 「俺等は康太の為だけにいる存在だからな」 「羨ましいな……お前等の絶対の存在が… 羨ましくて堪らねぇ時がある」 哀しそうに呟く兵藤を抱き締め 「んな事言うな お前も絶対の存在を作って行け!」 「無理だな……俺はアイツ程面倒見が良くねぇ…」 「面倒見が良い……兵藤貴史 それは……それで怖いかもな…」 一生はそう言い笑った 聡一郎が兵藤の背中におぶさり 「貴史、貴方当分一生と寝泊まりしなさい」 聡一郎に言われ兵藤は厭な顔をした 「え!何で一生?」 「なら僕でも良いですよ!」 「…………聡一郎と………」 「んな厭な顔をするとキスしますよ!」 聡一郎は兵藤の頬にキスを落とした 「聡一郎!ゃめ!んとによぉ! 誰でも良い!泊めてくれよ! 俺は当分康太と共に動く…… そこから初めて行こうと想う……」 慎一が「俺の部屋で良ければ、どうぞ!」と言った 一番無難な人間に 言われ兵藤は 「なら慎一頼むな 明日は一生の部屋に行く 明後日は聡一郎に世話になる 当分宜しくな!」 と言った 「なら当分客間で雑魚寝しましょ!」 聡一郎が楽しそうに言った 一生がそれに乗る 「康太さえいなきゃ被害は皆無だしな!」 3人は…雑魚寝をすると言いつつ 応接室から出る事はなかった 康太が家に帰って来たと一番に解る部屋 それが応接室だから…… 三木と共に家を出た康太は地下の駐車場へ行き 三木の車に乗り込んだ 後部座席に榊原と伴に座る 榊原は康太を膝の上に寝かせると、優しく撫でてやった 暫くすると規則正しい寝息が聞こえた 「康太、疲れてるの?」 三木が問い掛ける 「須賀の根回しに動き回り 白馬のホテルの軌道修正をした その他にもやる事が山積して…動き回ってました その上…貴史が倒れたと貴方からの電話でしたからね 康太の電話は鳴りっぱなしです 飛鳥井康太が動く時、人も情報も動き出す」 「悪かった……貴史は精神的なダメージが大きくてなら 入院させてても治りはしない 康太しか治せない……だから電話した」 「解ってます 康太の果てに立たぬ兵藤貴史など無用の長物です そうならない為に不戦は張らないと……ね」 三木は何も言わなかった 理解ある風に見えて… 榊原伊織と言う人間は一筋縄ではいかないから…… 「三木」 「何ですか?」 「僕は康太程甘くはない 覚えておいて下さい」 「解っております! 貴方は何も言わないが……康太の為にならねば 排除するのに躊躇すらしない……」 「三木、僕は康太の果ては歪める気はありません 君が康太の為に在る存在なれば何も言わない」 三木は背筋に冷たいモノを感じアクセルを踏んだ 病院の駐車場に車を停めると 榊原は康太を起こした 「伊織…?朝?」 「違いますよ 病院に着きました」 「病院……?」 寝ぼけて首を傾げる そして思い出して 「須賀……だ」 と起きた 車から降り、病院の中へと入って行く 三木は事前に久遠医師にコンタクトを取り付け そちらに向かった ICUに近付くと久遠が立っていた 「此方へ」 そう言うと久遠は歩き出した カンファレンスルームに入ると、康太の前に書類を出した そしてその上に 『一言も話すな』 と書き殴った 「では飛鳥井直人さんの、病状説明をします」 久遠は、そう言い 『須賀直人の噂が飛び交いすぎて… この病院にも…息の根を止めようと馬鹿が入り込んだ!』 と、紙に書いた 康太は……ため息を溢した 栗田でさえ掴めた…… その気になれば……掴めない情報ではない 何処から流れてるか…… 考えたくないが……東都日報からの可能性は濃厚だった 「飛鳥井尚人さんはもって……3日 …………ご家族の方は覚悟して下さい」 久遠の説明を受け流し 康太は書類を見ていた それに目を通し笑った 三木は「助かる道はないんですか?」と久遠に聞いた 「弱ってきてます……時間の問題です」 と告げた 三木は「畜生!」と叫んだ 説明が終わると……カンファレンスルームを出た 「面会は許すので……行きなさい」 久遠はそう言うと戻って行った 康太達は須賀の入ってるICUへと向かった 消毒をして白衣と帽子とマスクを着用してICUに入る それを影で見ている人間の存在を感じて 康太は中へと入って行った 須賀を見舞い…… 暗い顔をして、康太は顔を覆った 「康太……泣かないで……」 榊原は康太を抱き締めた   三木は「帰りますか?」と問い掛けた 榊原は「ええ。帰ります。」と答えた 「此処にいても……何もしてやれません……」 三木は榊原を促し帰宅の途に着いた 病院の駐車場へ向かい康太と榊原を後部座席に乗せた 何も言わず……飛鳥井の家に帰る 三木はマンションの前で車を停めると康太と榊原を下ろして還って行った 榊原は康太を促しマンションのエントランスをくぐった そしてセキュリティを解除してマンションの中へと入った エレベーターに乗り飛鳥井の家に着くと、榊原は康太を抱き上げた 玄関のドアが開くと一斉に応接室から飛び出した 「須賀は!」 一生が問い掛けた 「………もって3日だ……」 一生はがっくし床に崩れた 康太は一生に持ってる書類を渡した 一生はそれを見る 聡一郎と慎一と兵藤はそれを覗き込んだ それで納得し兵藤は一生を起こして応接室へと向かった 「康太、俺等は客間で雑魚寝するわ」 一生はそう言うと 「ん?オレも雑魚寝に参加しろと言うのか?」 と問い掛けた 一生はブンブン首を横にふった 「総一朗、適当に布団敷いてこい! オレは疲れてんだよ!」 「そりゃあ連日朝まで犯ればな疲れますわな」 一生が呟くと康太は笑って一生を掴んだ 「なら今夜も朝まで犯ってくるか!」 と笑った 「嘘……」 「伊織、部屋に戻るぞ」 康太が言うと榊原は笑って康太を抱き上げた 「なら朝まで頑張りますかね」 榊原もそう言い部屋へと還って行った 寝室のベッドに置かれ康太は 「この部屋は大丈夫かな?」と問い掛けた 「この部屋……と言うか、この家は大丈夫でしょ? あのセキュリティを敗れる人間はいないでしょ?」 「工事とか入ればな……万全は皆無に等しい…」 「…………明日業者を呼びますか?」 「要らねぇよ! それより眠い……あんでこんなに眠いんだ?」 車の中でも寝てたのに… 「成長期か?」 康太は呟いた 「背が伸びるかな?」 嬉しそうに笑う康太の唇に、榊原はキスを落とした 「成長期は……終わってるでしょ?」 「眠い……伊織…」 康太に触ると体温が少し高かった 「貴方…熱出てます?」 「伊織……今夜は…出来そうもねぇ…」 怠そうに康太が言う 榊原は康太の服を脱がすと、ベッドに寝かせた 体温計を持ってきて脇に挟ませる 「動いたらダメですよ?」 榊原は注意する 康太はちゃんと挟まず…体温の計測が出来ない時が多いから…… 康太はちゃんと脇に挟んで寝ていた ピピッと計測の合図に、榊原は体温計を取り出した 見てみると『38℃5分』だった 康太にしたら熱が高い方だった 怠くて寝ていたのは……熱の所為だったのか? 忙しかったし、止まれなかったから……見落とした? 榊原は悔やんだ ちゃんと見てたのに…… 康太に熱を出した 榊原は氷嚢を持って来ると康太の頭の下に入れた そして部屋を出て、何か薬……と探してると 一生が「どうしたんだよ?」と問い掛けた 榊原の寝室の電気が消えてる時、リビングも消える なのに……リビングの電気が着いているから一生は顔を出した 「一生、康太が熱を出してるんです」 榊原が言うと一生は寝室に飛び込んだ ベッドの上で寝てる康太の顔は赤かった 「旦那……病院に行くか?」 「………寝かせてやりたいから困ってます」 「飛鳥井の主治医に……往診して貰えないか頼んでくるわ!」 一生はそう言いリビングを飛び出した 応接室に戻り電話をかけ始めた一生に不審がり 全員起きてきた 「飛鳥井康太ですが、熱を出してるので… 往診お願い出来ませんでしょうか?」 一生はダメもとで頼み込む 「迎えに来い! そしたら診察してやる」 飛鳥井義恭は横柄に行った 「解った!今迎えに行く!」 一生はそう言い電話を切った 電話を聞いていた慎一が、キーを持って応接室を後にする 主治医の所へ行く前に榊原の所に顔を出した 「伊織、これから主治医の所へ行き、往診に来て貰いますから!」 と榊原を安心させる為に言った 榊原は「頼みます慎一」と苦悩に満ちた顔をした 慎一は早足で飛鳥井の家を後にして地下駐車場へと向かった 兵藤が榊原の所まで来て顔を出した 「康太、熱出したのかよ?」 「熱は3日前からありました 中々引かなくて康太は怠そうで…… 最近暇になると寝てばかり… 相当怠かったと思います でも立ち止まれませんからね…… 血反吐吐いたって…康太は逝く 誰一人康太の動きを止めてはならない 僕だって……止めません 今日がこの世の最期になったとしても… 僕は康太を逝かせます」 「犯り過ぎで怠がってるのかと思った……」 「犯り過ぎも一部ありますね 連日連夜止まりませんでしたからね」 「濃いな……お前等は…」 榊原は笑った   「散々言われてます」 「羨ましい位にな…」 兵藤の呟きに榊原は何も言わず微笑んだ そこへ聡一郎が顔を出した 「やっぱし熱あった?」 「気付いてましたか?」 「僕達は伊達に康太に抱き着いてる訳じゃありません」 「そうでしたね。」 「ここ2、3日体温高かったですからね… 康太は怠そうでした……まぁ、伊織が何とかすると思ってました」 「何とかする前に康太が動きましたからね…」 「動き出した康太を止めるのは至難の業 また止められるのは本意ではない 仕方ないですよ伊織……康太ですからね」 「…………ええ。康太ですからね…… それより隼人は?」 「お子様は寝てます! また背が伸びたみたいです……」 「隼人はまだ成長期ですか… 康太が怠いのは成長期かな?言ってました」 怠いのを成長期にする辺り……康太だった 一生が顔を出して 「どうよ?」と問い掛けた 「今夜は…上がる一方です」 「2、3日前から熱あったもんな」 一生も同じような事を言う 皆……康太が熱があったのを知っていたというのか? 兵藤は信じられない想いで……皆を見ていた 「38℃5分……康太にしては高いです」 「このお子様の平熱は7℃近くだもんな」 「隼人もついでに見て貰いますか? こんなに早く寝るのは…熱出てますよ?」 榊原が言うと一生も 「だな!この親子は熱の出る周期も同じだからな」 と溢した 「親子ですからね似るのですよ」 榊原は言った 血の繋がらない関係 一条隼人と飛鳥井康太は他人だった なのに榊原は親子と言った 暫くして慎一が医者を連れて帰って来た 慎一が、連れて来た医者に 全員唖然となった なんと慎一は久遠医師を連れて帰って来たのだ 榊原は何で久遠医師?と視線を慎一に向けた 「主治医の病院に行きましたら…久遠先生が義恭先生と一緒におられました」 飛鳥井義恭の妻の弟が久遠医師だと聞いた事があった 縁続きなのは解るが…… 「で、義恭先生は久遠先生に…… 『お前、ちょっくら見て来い!』と言われたので… 久遠先生が往診に来てくれました」 慎一の説明でやっと納得が行き、榊原は久遠医師に深々と頭を下げた 「御足労かけます」 「紅い顔した坊主はやっぱし寝込んだか?」 久遠医師が揶揄して言う こうなるのは予測がついていた…と言わんばかりの台詞だった 「2、3日位怠そうにしてたろ?」 「ええ。今夜は熱が下がりませんでした…」 「診せろ!」 久遠医師を寝室に連れて行くと康太は紅い顔をして寝ていた 久遠医師は布団を捲ると、康太の体に聴診器を当てた キスマークの散らばる体躯を気にする事もなく見て行く 「点滴打っとくか! 明日は記者会見なんだろ? 寝込んでられねぇならな治してやらねぇとな!」 予測していたのか、往診鞄の中から点滴を出した 「注射もしとくか この坊主は無茶ばかりしやがるからな!」 久遠は腕を消毒すると、注射を打った そして点滴を打つと、持ってきた点滴スタンドをセットすると康太の腕に点滴を打った 「点滴が落ちるまではいる!」 久遠はそう言うとベッドの横のソファーに座った そしてカルテに記入して行く 榊原は「隼人も見て貰えませんか?」と声を掛けた 「やっぱしあの坊主も寝込んだかよ!」 久遠は笑った 「親子だな!熱まで仲良く一緒かよ!」 久遠は隼人が刺されて入院した時からの…… 担当医だった 飛鳥井康太はオレの息子だと久遠に言った どう見ても……康太の方が……子供のような顔をして臆面もなく息子だと言う それを知っていた 「連れて行け! 坊主の分も点滴はある!」 久遠は不敵に笑った 榊原は……隼人堪えろ……心の中で拝んだ 慎一が久遠を客間に連れて行く 雑魚寝の布団の敷かれた中 紅い顔して隼人は寝ていた 久遠は隼人の服をたくし上げると、聴診器を当てた 「この坊主も過労だな! 1本打っとくか!」 久遠はそう言い隼人の腕を消毒した そしてブスッと注射を打つと隼人は飛び起きた 「痛いのだ……何で……」 隼人は泣いた 一生は隼人を抱き締めた 「おめぇ熱出してんだよ」 「オレ様は元気なのだ……」 「康太も熱出して寝てんだよ」 「康太は弱っちいけど、オレ様は元気なのだ…」 「康太の前で…んな事言うと、その口縫われるぞ」 一生は呆れて言うと 「康太の前では言わないのだ…怖いじゃんか」 と笑った 久遠は慎一に持たせた点滴スタンドをセットすると 隼人の腕を消毒して、素早く点滴を打った 「痛いのだ!」 隼人は叫んだ 「このお子様は……まだ元気だな」 久遠は点滴を打っても気絶した様に寝ていた康太を思い浮かべた 「康太は限界超えてたからな……」 一生が言うと 「それでも行くからな…あの坊主は」 と苦笑した 「この点滴はゆっくり1時間掛けて落ちる様に設定した さぁ俺をもてなしやがれ!」 久遠が言うと慎一は応接室へと久遠を招き入れた 瑛太が騒がしさに応接室に顔を出すと、久遠医師が来てて驚いた そんな瑛太に一生は説明した 瑛太は康太の顔を見に……応接室を出て行った 「んとに……飛鳥井は無茶ぶりが好きだな! 過労死寸前が此処にもいた!」 久遠はニャッと笑った 聡一郎はニコッと笑って  「過労死寸前、呼んで来るので処置できます?」 と、問い掛けた 「おう!呼んでこい! 見越して注射は持ってきてるぜ!」 久遠の言葉を聞き聡一郎は瑛太を呼びに行った 「瑛義兄さん、久遠先生が呼んでますよ?」 聡一郎に、呼ばれ瑛太は 「え?私………ですか?」 と嫌そうな顔をした 「ええ。過労死寸前の顔した瑛義兄さんですよ!」 ニコッと言われ……背筋に冷たいモノが流れて行く 榊原は、聡一郎に 「義兄さんをお連れして!」 と頼んだ 「ええ。解ってます! さぁ、行きますよ!」 聡一郎は瑛太の腕を掴むと応接室へと引っ張って行った 応接室には、極悪人面した久遠先生が 「1本行っとく?」 と待ち構えていた 「久遠先生……私は元気です」 瑛太が抵抗する 「さっきな、オレ様は元気なのだ……と言う奴に点滴1本打っといたんだけど? 飛鳥井は無駄な抵抗するのが好きなのか?」 久遠医師にそこまで言われれば…… 瑛太は腕を捲るしかなかった 「疲れが抜けねぇんだろ?」 「夏バテ……かと……」 「ぶっ倒れる前に一度診察に来い!」 言われ観念する 「はい。明日にでも……行きます」 「良い心掛けだな!」 と言い久遠は瑛太の腕を消毒し、ブスっと注射を打った 「…………ぅ………」 病院と医者と坊主は大嫌いな瑛太だった 「無茶をすれば、その分寿命を縮めてると覚えとけ」 「はい。」 久遠はカルテに書き込みして時間が来るまで兵藤を見ていた 「おい!坊主、おめぇ怪我してるのか?」 不意に言われ兵藤は驚いた 「ええ……」 「肩を庇いすぎるからな 見せてみろ!服を脱げ!」 兵藤は観念して服を脱いだ 上半身裸になると久遠は医者の目をした 触診すると兵藤は呻いた 「診断はなんと出た?」 「全身打撲……擦り傷…」 「まぁ妥当だな……痛いなら痛み止め打ってやる 明日病院に来い!診てやる!」 兵藤は痛み止めを打って貰った 暫くするとソファーで寝息を立てて眠りに着いた 「この坊主、暴行でも受けたのかよ?」 久遠は一生に聞いた 一生は久遠に選挙の遊説中に起きた事を話した 「息がぶれてる…詳しく検査を進める 擦り傷打撲だと、そこまで検査しねぇ病院も多い 多分……肺に欠損見つかるかもよ?」 「明日病院に連れて行くしかねぇな……」 「明日はその坊主は動かねぇだろ?」 一生は、え…?と久遠を見た 「記者会見を控えて、ソイツは動かねぇだろ?」 「………あぁ……康太の側で自分を立て直すと…決めたからな……」 「記者会見の後に連れて来い! それまでは薬を出しとく 明日にでも飛鳥井の病院に取りに来い」 「はい。」 「坊主達の薬に、瑛太氏の薬も出しとく 管理して飲ませやがれ!」 「必ず飲ませます!」 「おう!坊主!頼むぞ!」 久遠は時計を見て点滴の終わりを、確認すると立ち上がった 康太の点滴を抜いて処置をして片付ける 久遠は榊原の方を向いて 「今夜はエッチは禁止な エッチしたら明日の記者会見は見送る事になるぜ」 と釘を刺した 「はい。解ってます」 榊原は久遠に深々と頭を下げ礼をした 久遠は隼人の点滴を抜いて処置をして片付けた そして一生に 「明日薬を取りに来い!」と言い 帰って行った 慎一が久遠の荷物を持ち駐車場へと向かい送ってゆく それを見送り、一生はソファーにドサッと座った 「瑛義兄さん、もう寝て構わねぇから!」 早く寝やがれ!光線を瑛太に向ける 瑛太は苦笑して   「寝てきます。 後は頼みますよ」 と一生を抱き締めた 「ぶっ倒れたら康太は泣くからな!」 グサグサ釘を刺す 「お休み一生」 瑛太は一生の頬にキスを落とし 応接室を後にした 「んとに……飛鳥井は無茶ぶりが好きだからな…」 一生は自分は後回しにして康太のために動く瑛太にため息を着いた 「君も変わらないでしょ?」 不意に榊原に言われて、一生は後ろを振り返った 「旦那……どうしたよ?」 「久遠先生は帰られましたか?」 「おう!慎一が送ってたぜ」 「診療費……」 榊原は呟いた 「明日薬を取りに行くからな その時精算すれば良いだろ?」 「一生、義兄さんを連れて精算して下さいね ついでに義兄さんの診察もすれば良いです」 「…………旦那……」 本当に腹黒い…… 性格が悪い 一生はため息を着いた 「明日は……嫌、もう今日ですね 康太は記者会見で動きます 多分…東都日報で……一悶着あるかも…… 須賀が殺されかけました 病院にいるのにですよ?」 「え…まぢかよ…ひでぇ一族だな……」 「その情報の漏洩は……東都日報しかあり得ない」 「だな……康太の周りは殺されたって口を割らねぇ 漏れたとしたら東都日報だわな」 「今枝は……かなり立場が悪いんですね 今枝の周りは、今枝を失脚させようと……足を引っ張ってる……本当に醜い!」 「出る杭は打たれる……今枝は特出したからな 驚異なのかもよ?」 「一生、君はもう寝なさい」 「旦那は?」 「僕も寝ます 康太が寝てるので横で寝ます」 「…………旦那……このデカいの……」 一生は兵藤を指差した 「貴史を持ち上げれます?」 お姫様抱っこできる……かと聞く 「……………無理だわ……」 「なら、此処で寝かせておくしかないです」 クーラーを低めの設定にしてライトを落とす そして一生は応接室を出た 「旦那、お休み 康太を頼むな」 「ええ。お休みなさい」 榊原は自分の部屋へと戻っていった 一生はそれを見届けてから客間に行った 客間では聡一郎が、隼人を冷やしていた 「寝た?」 聡一郎に問い掛ける 「寝てます。 点滴が効いたんですね」 「言わねぇからな……」 「それは君もでしょ?」 熱を出しても康太を追う…… それを言われたら一生は弱かった 「聡一郎…虐めるな」 「じゃ、優しく抱き締めて寝てあげましょうか?」 「…………遠慮しとく」 「親孝行してあげます!」 聡一郎は一生を布団に無理矢理入れて   電気を消した そして同じ布団に入ってきた 「……ちょっ………まぢかよ?」 「昔は良く寝てくれたでしょ?」 「昔は昔だ……」 「たまには良いでしょう?」 聡一郎が一生を抱き締める 昔、一生がそうしてくれた様に抱き締め 接吻をした 啄む様な接吻を送り……一生を甘やかした 一生は聡一郎の胸の中で… 眠りに落ちた 聡一郎も一生を抱き締め……眠りに落ちた バラバラに壊れた聡一郎を組み合わせたのは一生だった お前は汚くなんかない…… そう言い全身舐めて……清めてくれた 繋ぎ合わせて……側にいてくれた 何があっても側にいる   学園の嫌われ者にもなってくれた 聡一郎は一生を試す様な事ばかりした なのに一生はどんな仕打ちにも耐えて聡一郎を見放さなかった 絶対の存在 絶対の愛を一生はくれた そうしてこの世に繋ぎ止められた その器に魂を入れたのは飛鳥井康太 聡一郎は二人の愛に支えられ 今生かされてる存在だった 聡一郎にとって…… 一生は親であり…… 絶対の存在だった 聡一郎は、久し振りの一生のぬくもりに触れ 一生を抱き寄せた そして深い 深い眠りに落ちた

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