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第46話 帰宅
かなりの犠牲者を出して夜は明けた
康太は榊原の上に乗っていた
「なぁ、なぁってば!伊織
オレさ……若旦那が白馬に来るのを忘れてたわ…」
榊原に跨がり康太が訴える
「……康太、まずは、キスして……」
「それどころじゃねぇもんよぉー」
と言いつつ、口吻……
「……んっ……ぁ…」
と声が漏れる程の執拗な接吻をした
「若旦那、何時来るんですか?」
「…………連絡してねぇ……」
康太はスッカリ忘れていたのだった
「………康太……電話します」
榊原は康太を抱き締めたまま起き上がった
そしてテーブルに置いた携帯を手に取り
戸浪の処へ電話を入れた
「お疲れ様です!伊織ですが…若旦那ですか?」
『伊織!中々白馬に行けなくて済みません』
「何かありましたか?」
『…………千里が事故りました…
今は離れられません…
また電話します……』
戸浪はそう言い電話を切った
憔悴しきった声だった
「康太…千里が事故って入院してるそうで
若旦那は白馬には来れません」
「…………戸浪は父親だ
オレ等が出て良い領域じゃねぇ…」
「そうですね
なら横浜へ帰りますか?」
「おう!オレはやる事があんだよ!」
「そんなに急かさないで」
榊原は康太にキスした
「伊織…」
「何ですか?」
「……皆起きて困ってるからな
この辺にしとこうぜ!」
「そうですね。」
榊原は笑って康太を離した
支度をして荷物を詰める
そしてブレーカーごと電気を落とした
ホテルで朝食を取り、飛鳥井の家へ帰る
源右衛門は清隆の車に乗せられご機嫌だった
清隆の車に玲香と源右衛門が乗り込み
瑛太の車に隼人と聡一郎が乗り込んだ
榊原の車に康太と一生と慎一が乗り込み
清四朗の車に真矢と悠太と笙が乗り込んだ
目指すは飛鳥井の家へだった
飛鳥井の家に着くと、皆荷物を持ってエレベーターを待った
清四朗達は一旦家に帰って荷物を置いて来ると言い、自宅へ帰った
「伊織、腹減った…」
ドライブインで食べて帰って来た筈なのに?
もぉ……減ったのね…
榊原は苦笑した
「もう少し待ちなさい
そしたらデリバリー頼みます」
「伊織」
「何ですか?」
両手に荷物を抱えて榊原は立っていた
なのに………
「伊織、愛してる!」
なんて台詞を吐くから……
両手の荷物を……落とした
「……痛ぇ!……!」
傍にいる一生の足の上に……直撃した
一生は……
「……ったくこの子は……」
とボヤいた
榊原は……落とした荷物を持ち上げ……
「康太……」
と困惑して名を呼んだ
「伊織は?」
「荷物を下ろしたら言ってあげます」
「ケチ…」
康太の呟きと同時にエレベーターのドアが開いた
榊原はエレベーターから下りると荷物を下へ下ろし
康太を引き寄せた
「僕も愛してますよ!奥さん」
榊原が康太を抱き締め……激しい接吻を送る
飛鳥井の家族はその横を通り、部屋に帰って行った
一生も聡一郎も隼人も荷物を家に運び込む為に、気にする事なく家に入って行く
慎一は素早く自分の荷物を家に入れると、榊原の荷物を持って榊原の自室のリビングに運び込んだ
榊原は康太を離すと抱き上げた
「荷物がある時は……君を抱き締められなくて…
困るので、荷物を下ろしてから言って下さい」
「ん。ごめん」
「僕が不安定だったから?
康太は気にしてますか?」
「違う!伊織を見てると何時も言いたくなる
………愛してるし、伊織しか見ないからな」
「僕だけ見てれば良いんです!」
榊原は康太を抱き上げたまま家へと入って行った
家に入ると慎一が
「荷物はリビングに入れときました」
と榊原に告げた
「慎一悪かったですね」
「……主の好き好き光線は今に始まってません
何時も伊織を見て惚れまくり光線、愛してる光線
出してますからね
それが溢れて来ると、康太は言葉に出てしまうんです」
「慎一 …」
「許してあげてください」
「愛してると言われて怒る人間はいません
でも荷物を持ってると……抱き締められません
それが少し困りました」
慎一は笑って
「デリバリーの注文入れて来ます」
「頼みますね」
榊原は寝室へと向かった
康太をベッドの上に下ろし、着替えさせる
自分も簡単に着替えると
スーツケースの中の着替えを洗濯機に放り込み
掃除に掛かった
一生がドアが開け放たれた寝室を覗き込んだ
ベッドの上に康太が座っていた
榊原は掃除と洗濯に余念がない
「旦那、康太持ってくぞ」
一生が声を掛けると
「家から出なければ!」
と釘を刺した
「旦那…おめぇが荷物を足の上に落とすからよぉ
俺は足を損傷したんだ!
外に康太を抱き上げて出るのは勘弁だわ」
榊原は掃除の手を止め一生を見た
「怪我したの?」
「筋違えたかも…歩くと痛ぇ…」
「病院に行きますか?」
「後で湿布はっとく」
気にすんなと一生は榊原の肩を叩いた
一生は康太を抱き上げてリビングに連れて行くとソファーに座らせた
「さてと、横浜に帰らなきゃならねぇ理由を教えてもらおうか!」
と迫った
「須賀がな、このマンションの下に来る」
康太の言葉に……
一生は驚愕の瞳を康太に向けた
「須賀……意識を取り戻したのか?」
「……ぁぁ……」
「………今……どんな、状態?」
顔も潰されていた
見付かっても直ぐに身元が判らない様に
顔を潰し……
指紋を削いだ
「顔は、再生手術を受けたからな……
伊織が見ても治って来た位にはなってる」
「……身体は?」
「……足は骨まで粉砕したからな……
一時は切断も視野に入れていた
でも何とか人工プレートいれて定着しつつある
腕もまだ使えねぇな…
でも固形物を食べれる位には快方に向かってる
後は時間の問題……と、精神的な問題だな」
「………発狂してもおかしくない……暴行……なんだろ?」
「……あぁ。」
「………須賀は正気だったのか?」
「正気だったぜ!
オレに返せなくて申し訳ない
オレに逢いたかった……と泣いていた」
須賀の気持ちが痛かった
一生は胸を押さえた
「FlashBack……は?」
「……慎一並みの精神力だと義恭を唸らせてる
でも、後から来るかも……な」
「気が抜けねぇな……
大丈夫だ!康太!
俺らがいる!
お前は悩まなくて良い」
一生はそう言い康太を抱き締めた
「………一生……」
「旦那の脚本の話も、急ぐな
俺らがフォローする!
皆で解決して行けば良い…
勝手に早まるんじゃねぇ!」
一生は康太を抱き締めて、そう言った
そして動く算段をする
「取り敢えず迎え入れる準備に動くか?」
「一生、行って欲しい場所があるのは嘘じゃねぇ」
「解ってる!
俺は何処でも行く!」
康太は笑って
「そんなに遠くねぇし
何日も離れろと言ってねぇもんよー」
と一生を撫でた
「俺らは動けれてこそ、お前の側にいられる
動けねぇ自分など要らねぇ!」
「須賀のマンションの荷物をトナミ海運の倉庫に一時的に預かって貰ってる
それをこのマンションの須賀に住まわせる部屋に持って来て欲しいんだ」
「なぁ……康太」
「あんだよ?一生」
「須賀は結婚していなかったのかよ?」
「………須賀は独身だ
結婚歴は一回……死別だ
妻はスキルス性の癌で他界した
それ以来……人との付き合いを辞めた
オレと出逢った時の須賀は、総てを拒絶して
血を流していた……
だから誰よりも強固に君臨するしかなかった
妻を亡くした哀れな男を隠す為だ……
須賀の部屋は……妻がまだ生きてるままだった…」
「………荷物を片づけてねぇって……事か?」
「妻の服が……寝室に落ちてた」
「………っ!」
須賀は妻だけを思って夜を過ごしていたというのか…
「それらは総て……精算した
事務所の荷物は新しい事務所に移動した
相賀のサポートの元、始動している
妻の荷物は……廃棄した
それしか……先に進めねぇからな……
恨まれても……殺されても……鬼になるしかねぇ」
「須賀はおめぇを恨んだりしねぇよ」
「須賀の私服も……全部廃棄した
新しい家具を皆がくれたからな、そこに入れてある」
「皆?」
「善之介や若旦那、勝也に晟雅
そして繁雄と、どう言う訳か
今枝もくれたし、東城もくれたな
他にも沢山の人が何らかのカタチをくれた
皆の想いが須賀を繋ぎ止めようとしている
そしてこの世に生きてくれ……
新しく生活を初めてくれ……と、贈り物してくれた
それらを運び込み新居に入れて欲しい」
「解った!足りねぇモノがあったら
俺も贈り物する!」
「頼むな一生」
「お前の依頼なら、俺は命を懸けて完遂する!
それが俺がお前の側にいる理由だ!」
「一生」
「あんだよ?」
「俺の側にいるのに理由はいらねぇぞ!」
「………っ!……」
やはり叶わない……
理由を向けては踏ん張ろうとしてるのに……
「俺はおめぇの側にいたいんだよ!」
「なら、いればいいじゃん」
簡単に言われ一生の胸の中の支えが崩れて逝く
「いるよ!
離れろと言われても離れるかよ!」
一生は叫んだ
康太は笑って一生を引き寄せた
「一生、オレは……酷い事ばかりするな……」
「酷くなんかない!
その人に必要な事をする
適材適所配置するがお前の務め!
その時泣いても叫んでも……
後で必ず……それで良かったとお前に感謝する」
「……一生……」
「だから!お前は信じた道を逝け!
俺らは後に続いて逝く
お前へと続く場所に必ず逝くから!
お前は進んで逝けば良い!」
「ありがとう…一生」
「飯食ったら、若旦那の会社に顔を出し
倉庫に行くわ!
そしてトラックの手筈を付けて運び出す」
「マンションの下に着いたら慎一に電話を入れろ」
「了解!」
「慎一が総て整ったと電話をして来たら
須賀を迎えに行く」
「総てお前の想いのままに完遂して来る!」
「一生、若旦那は会社にはいないと想う…」
「田代は?」
「いるだろ?」
「なら田代に挨拶して来る!
何も言わずに行けれる筈などないからな!」
「そうしてくれ」
「………若旦那……仕事してねぇのか?」
「…………若旦那はオレの出る幕ではないからな…」
「俺はお前が元気で伊織に愛されてれば
それで安心出来るからな!他はどうでも良い…」
康太は笑って立ち上がった
「飯だ、一生」
「はいはい。お連れしますよ」
一生は立ち上がると康太を抱き上げた
「旦那、康太を応接室に連れてくぜ」
「構いませんよ!」
榊原も応接室へと向かった
応接室にはデリバリーが到着して、慎一が準備をしていた
慎一は康太を見付けると、一生から奪って何時もの席に座らせた
家族で揃って食事をしてると清四郎達がやって来て
一緒に食事をした
飛鳥井の得意技【宴会】に突入して
飲み出した家族をよそに一生は食事を終えると
目的の為、飛鳥井の家を後にした
隼人は康太に抱き付き
「康太、オレ様は……お腹が痛いのだ…」
と、訴えた
榊原が「隼人、盲腸やりましたか?」と問い掛けた
「オレ様は刺されて入院した以外は健康で
病院の厄介になった事はないのだ!」
少しだけムカッ
康太は閃いた!
「隼人!それは盲腸だ!
久遠先生に診て貰って、2、3日入院しろ!」
と笑顔で言った
飛鳥井の家族も
榊原の家族も
案外セコい康太の発言に苦笑した
聡一郎は「昨今の医療では盲腸は日帰りで帰れますよ?」と答えた
「……伊織!」
うるうるの瞳を向けられ榊原は苦笑する
「康太、僕達は疲れてたんですよ!」
康太はうんうんと頷き
嗤う
「隼人、おめぇも最近仕事ばかりで疲れてるよな?」
「そうなのだ!
康太が連れて来た真野は優秀で
仕事を取るのも天才過ぎると神野がボヤいていた
で、オレ様も忙しくて……疲れたのだ」
康太は、うんうん!そうだろ!そうだろ!
と頷いた
「疲れてたら盲腸でもな!
最低3日は入院しねぇとな!」
と呟き
「隼人!おめぇ入院しろ!」
と言った
「解ったのだ!
康太が言うなら1ヶ月でも入ってるのだ」
流石、康太の為なら地球の裏側にだって行ける!隼斗の発言だった
「聡一郎!」
「何ですか?」
「お前、隼人を連れて久遠先生に診せて来てくれ」
「解りました!」
「何が何でも入院させてくれと飛鳥井康太が言ってたと久遠先生に伝えてくれ!」
「解りました!
一字一句違える事なく久遠先生に伝えます!」
「そして、飛鳥井康太が望んでそうな個室を用意して入れてくれと言ってたと伝えてくれ!」
「解りました!
腹減り隼人が食べ終わるのを待って
保険証を持って久遠先生に診て貰います!」
「悪いな聡一郎
オレは今動けねぇ
一生が荷物を持って来たら
須賀を迎えに行かねぇとな…」
「………え?須賀?」
聡一郎は、立ち入り禁止の場所にお前等を連れて行けなかった
と言った言葉を思い出した
須賀に逢いに言ってたと思えば納得がいく
「3階に住まわせる
身の回りの世話をしねぇといけねぇんだ
聡一郎も力になってやってくれ!」
「解ってます!」
聡一郎は食い意地がはった隼人が食べ終わるのを待って、保険証を持って久遠先生に診せるべく
隼人を引き摺って行った
それを見送り、一息つくと康太の電話が鳴った
「荷物を持って来た!
トラック3台になったぜ!
入れて良いのかよ?」
「慎一が鍵を持ってる
今行かせる」
と言い康太は電話を切った
慎一は何も言わずに立ち上がると部屋を出て行った
康太はさてと食うか!と食べ始め
腹が膨れると悠太に玉露を入れて貰って飲んだ
悠太は榊原にも玉露を入れた
飲み終えると下の階の状況を見に行った
3階の須賀が入る部屋はドアが開き荷物が運び込まれてる最中だった
一生は康太を見付けると
「トラック三台分だぜ……
こんなにあるとは想わなかった…」
とボヤいた
「食器類がないからな、慎一と買いに行くよ
康太はこの後どうするんだよ?」
「義恭の所へ行って須賀を一旦総合病院の個室に入れようと想ってる」
「此処に入れるんじゃねぇのかよ?」
「隼人が総合病院に入院するからな、同じ部屋に入れてやろうかと想ってるんだ」
「隼人…何処か悪いのかよ?」
「おう!悪くなきゃ入院出来ねぇじゃねぇかよ!
何が何でも入院させて貰えと送り出した
久遠先生が入院させてくれると想う」
何が何でも……
隼人……耐えろ!……一生は心の中で拝んでおいた
「荷物を運び終えるまで待っててくれ」
「だから、見に来たんじゃねぇかよ!」
今度は留守番じゃなく待ってると康太は笑った
運送業者に総て荷物を運ばせると、康太は部屋に一旦戻った
「病院で違和感のない服に着替えて来いよ」
康太に言われて慎一と一生は部屋へ走って行った
康太は榊原と寝室に戻り、着替えた
「久遠先生、隼人を入院させてくれるかな?」
「大丈夫ですよ!
入院させてくれるでしょ?」
「なら伊織、行くとするか!」
「ええ。お連れします」
榊原は康太の肩を抱いて寝室を後にした
鍵をかけ、康太を応接室まで連れて行くと
支度をした一生と慎一がソファーに座っていた
康太達を見ると、2人は立ち上がった
「では行きますか」
榊原が言うと慎一は
「隼人の部屋で支度だけして来ました」
と言い入院の荷物を見せた
榊原は「隼人のゲームは入れた?」と問い掛けた
「入れました!
隼人は康太同様ゲームがないと大人しくしてません!
欠かせませんから持ってます」
隼人の嗜好を熟知した慎一ならではの発言だった
康太と榊原は一生と慎一を連れて地下駐車場へと向かった
車に乗り込むと榊原の車は総合病院へ向けて走り出す
車の中で康太は榊原の肩に頭を置いていた
「眠いですか?」
榊原の指が康太の頬を撫でる
「違う!伊織とくっついていてぇだけ!」
康太はそう言い笑った
「離れてダメになるのは多分オレの方だ」
「……康太?」
「伊織をなくす位なら……オレは自分の息の根を止める
お前はオレを照らす光だ
その光を失えば………
オレは闇に堕ちるしかねぇ……」
康太の愛が痛かった
康太を照らす光……
闇に堕ちない様に……
照らし続ける康太の一条の光……
なくせば……
闇に堕ちて……総てを消し去ろう……
お前を失って生きられないんだから……
榊原は康太を引き寄せた
そして強く抱き締めた
榊原は康太を抱き締めたまま車を走らせ
総合病院の駐車場で車を停めると
執拗な口吻を康太に送った
照らしてあげます君を……
君だけを……
この命が尽きようとも……
君を照らす光になる
車内では……執拗な接吻が繰り広げられていた
一生は車から下りると助手席のドアを開けた
そして榊原の腕から康太を取り上げた
「………一生……」
少しだけ恨みがましい瞳を向けられる
慎一がため息をつき
「伊織、病室へ行かないと何も始まりませんよ!」
「…………離れたくない……
気持ちは大きいのにね……」
苦笑する
そして車から下りるとロックしては病院へと向かった
康太が風を切って歩く
まるで孤高の戦士の炎帝の様に……
彼は何時も一人だった……
照らされる光もなく……
彼は……青龍の想いだけで生きていたの?
康太の後を離れる事なく距離を置き榊原は歩く
決して目を離さず、距離を置く
一生と慎一はその後を追い2人から離れる事なく後を行く
一生は受付へと早足で向かった
隼人の病院を聞くと、面会の手続きをして、康太の側へとやって来た
「隼人入院してた!」
聡一郎が康太の意のまま久遠先生に伝えてくれたのだ
覇道を掴む……
その覇道の先に………確かな手応えを感じて
康太はほくそ笑んだ
榊原を見上げる
榊原は優しい瞳で康太を見ていた
康太が隼人の病室に行くと、久遠医師が待ち構えていた
「受け付けから連絡が入ってたから待ってたぜ坊主!」
悪代官ばりの笑みで久遠は嗤う
「隼人を入院させてくれてありがとうございます」
康太は頭を下げた
「一条隼人は盲腸だ!
取る程じゃなかったけどな
持ってても仕方ねぇからな取っといた」
ベッドを見ると隼人が眠っていた
「隼人が入院してる間だけでも須賀を此処に入れられないか?」
康太が言うと久遠は爆笑した
「そう言うと想ってな、デカい病室取っておいた!
そして、隣は戸浪千里!
坊主の要望通りの病室を取ってやった!」
さぁ褒めろ!とばかりに久遠はどや顔した
「流石!義恭の後を継ぐ者!」
康太はそう言い久遠を見た
「御存知でしたか?」
「隼人が刺された日に逢った日から知っていた」
そんなに昔から………久遠は苦笑した
「叔父貴には子供はいない
俺は叔父貴には可愛がって貰ってるからな!」
「今は‥‥そう言う事にしておいてやる!」
「‥‥‥ずっと‥‥そう言う事にしておいてくれ!」
康太は笑って答えなかった
「俺は飛鳥井義恭を継ぐ気はねぇ‥‥
どんな病院に行ったって腕で黙らせれる!
それだけの腕は持ってるんだからな!坊主!」
久遠は康太の頭をガシガシ撫でた
そして肩を叩くと横を通り過ぎて行った
「慎一」
「はい。」
「須賀を連れて来てくれ!
一度この目で見ねぇとな……
マンションで住まわせて良いか
判断がつかねぇんだ」
「解りました!
義恭先生に逢って話をして来ます」
慎一はそう言い病室を後にした
「伊織…」
「何ですか?」
「下の売店で飲み物を買って来てくれ
そしてお前達の好きな珈琲を買って来てくれ」
「解りました!
良い子にしてて下さいね」
ウロウロ消えたりしないで下さいね!と釘を刺す
「伊織、お前なしでは生きて行けねぇ!」
メガトン級の殺し文句を言われて……
榊原はクラッとなった
そして病室を後して康太の所望するモノをゲットすべく売店に向かった
一生はため息をついた
「……康太……」
「伊織程に愛せる奴はいない
不安がらせた分、言葉にしてやる
オレの愛だ、黙っとけ一生」
「黙っとくけど……」
あんな愛の言葉を受ける方は……
正気じゃいらない……
榊原の苦悩を思わずにはいられなかった
「一生、おめぇも不安がるな
おめぇを傍から離す気はねぇ!
共に逝くんだろ?」
んとに、タチが悪い……
「共に逝くよ!
何があったって!」
一生は叫んだ
そして聡一郎に
「病室で叫ぶなら外に行きさい!」
と怒られた
康太は一生の頭を撫でてやってた
「康太、僕も!」
康太の言葉通りに完遂したんだから、僕を撫でろと聡一郎は康太に頭を出した
康太は笑って聡一郎の頭も撫でた
榊原が病室に戻って来ると……
康太の思惑が…
榊原の後ろにいた
「康太、カフェに珈琲を買いに行ったら若旦那に出逢いました」
そう言い榊原は戸浪を病室に入れた
康太はニャッと嗤って
「若旦那、奇遇ですね」
と言った
戸浪は……言葉もなく……
康太に飛びついた
そして康太を抱き締めた
抱き締めて……戸浪は泣いた
「…………私が今……1番逢いたい人が……目の前にいた……」
戸浪はそう言い泣いていた
康太は何も言わず戸浪を抱き締めた
「若旦那、こっち来い」
康太はそう言いソファーに戸浪を連れて行った
そして優しく抱き締め、頭を撫でてやった
泣いて……
泣いて……
康太に抱き締められ、撫でられ……
戸浪は……眠りに落ちた
榊原は戸浪の体躯を支えると康太を退かし、枕を用意して寝かせた
戸浪は起きる事もなく……
眠りに落ちた……
「伊織、ありがとう」
「良いですよ。
若旦那は遠慮して来ようとはしませんでした
でもお逢いしたのに、素通りで帰ったら怒られます
とお連れしました」
「そうか……伊織、ちょっくら行って来る」
「隣ですか?」
「そう。」
と言い康太は榊原に手を出した
榊原はその手を取った
「一生、慎一が来たら呼びに来てくれ」
「あいよ!」
康太は榊原と共に病室を後にした
そして、隣の病室のドアをノックした
ドアを開けたのは戸浪の妻の沙羅だった
沙羅は康太の姿を見て驚いていた
「………!……康太さん……」
「中に入れてくれねぇか?」
沙羅は慌てて康太と榊原を病室の中に入れた
病室の中に入ると康太は
「沙羅、席を外せ」
と言い放った
「……あの?戸浪は……?
お逢いになられたのですか?」
「若旦那は隣の病室で寝てる
隣はこれから須賀が来るから尋ねるのは遠慮してくれ」
「解りました
会社に顔を出して来ます
お願い出来ますか?」
「沙羅」
「はい」
「少し眠れ……」
康太の言葉に……沙羅は涙を溢れさせた
康太は沙羅の頬を撫でた
「家に帰って眠って構わない
若旦那は眠らせた
お前も少し眠れ
オレか仲間が看てるから眠れ」
はい……と言って涙する沙羅は疲れを隠せない顔をしていた
康太の言葉に安心した部分が大きかった
ホッとして……気丈にしてきた箍が緩んだ
「千里を……お願いします」
「あぁ。看ててやるから帰れ」
沙羅は…病室を後にした
康太は千里のベッドの横に立った
千里を覗き込むと……脅えた瞳が康太を見ていた
「千里、オレが解るか」
「康太さん……」
「そうだ!痛かったな!」
康太は千里の頭を撫でた
「………康太さん……僕……」
千里は泣いていた
「あんで、走ってる車から飛び降りた?」
「………僕はそうするしかなかった……」
「……他にも方法は色々あったろ?」
千里は首をふった
「僕は戸浪の家の子なのに……
家の恥さらし……なんだ……」
康太は千里の頬を叩いた
「恥さらしじゃねえ!
そんな事を思ってるならお前の看護で疲れ果ててるかよ!」
「…………先輩が好きだった……」
「そうか」
「無理矢理……先輩を……僕は奪った……」
戸浪とよく似た顔が悲しみに歪む
「奪ってしまいたい程、好きだったんだろ?」
万里は頷いた
「……戸浪の為に生きて行かねばならないのに……
僕は………先輩を愛した
先輩は僕が悩んでるのを知っていた
だから……別れてあげるよ……と言ったんだ
先輩の車が……戸浪に着いたら……先輩は……
僕から……離れてしまう……
僕は……引き留めたくて……車から飛び降りた…
馬鹿だよな……そんな事しても……仕方ないのに…」
大人の顔をしていた
男の顔をしていた
高校に入ってからメキメキ伸びた
今は悠太位の体格になっていた
「好きなのか?先輩が……」
「………愛してます……」
「お前は戸浪を出て身を立てろ
好きなデザインの方に向かえば良い
そろそろ、師匠を持たせようと考えてたのにな…
それより早く……なっちまったな」
「……康太さん……」
「おめぇの愛する先輩は男だろ?」
「………はい。」
「千里、オレの愛する相手も男だぜ!
堂々と手を繋いで……歩けねぇ……
でもなオレは何があっても離したくねぇんだ
だから、一緒にいられる努力をする」
「………康太さん……僕はまだガキでした…
先輩を……支えて護るだけの力はない」
「諦めるのかよ?」
「………諦めたくない………です」
「なら諦めるな!
諦めず頼れる男になれ」
「……誰にも……言えませんでした」
「……言わなくて良い
まだ言わなくて良い」
「………え?」
「誰に何も言わせない自信を身に着けたら
言えば良いんだよ!
それがお前のケジメならな言えば良い」
康太は千里の髪をくしゃっと撫でて
「男になったな千里」
と笑った
「愛する想いを諦めるな!
この先、どんな障害があってもだ!
諦めなければ、その先に行ける
諦めたら、そこで終わる
オレは死んでも諦めねぇぜ!」
千里は康太の横に立つ榊原を見た
この二人は……同性なのに……
愛し合う絶対の存在だった
「千里、おめぇは戸浪を出ろ!
おめぇの両親はそれを受け入れてる
だから家の事は気にしなくて良い
おめぇの両親は、おめぇが幸せでいるなら
例え同性を恋人に持っても見守ってくれるぜ!
根回しは出来ているんだよ!
お前を外に出す根回しなら、もう出来てるんだよ
……ったく、早まりやがって……」
「………ごめん…康太さん……」
「泣くな……」
「僕は……もう先輩へは行けない……」
「あんでだよ?」
「迷惑かけた……」
「先輩は、後悔してるぜ
別れ話なんて言わなきゃ良かった……
ってずっと自分を責めてる」
「……え?………」
「だからな、呼んでやった」
「嘘……」
「慎一が須賀を連れに行くついでに呼びに行った
おめぇも母親の前で……恋人と仲直りは出来ねぇかんな
沙羅を家に追いやった
若旦那は隣で寝てる
頑ななおめぇに両親は疲れ切ってる……
少し軌道修正しとかねぇとな……と思っては来たんだよ」
「……ありがとう……康太さん」
「おめぇの恋人には釘刺しといたかんな
素直な言葉で恋人と話せ!
解ったな!」
「……解りました」
「好きに性別は関係ねぇんだよ
その人が好きになるのに……年齢も性別も関係ねぇ
どれだけ好きか……その人と生きて行けるか
それだけあれば、おめぇ等は先へと行ける」
「僕は戸浪を出ます!」
「おめぇは戸浪には残れねぇ定めだ
好きに生きて行くしかねぇんだよ」
千里は何度もはい…と頷いて泣いた
「オレの愛する存在は男だが
オレは恥はしねぇぜ!
オレが生きて行く上でなくせねぇ存在だからな
共に生きて逝ける道を探る!」
胸を張り言う康太は綺麗だった
誰よりも愛に満ち
輝いていた
千里は康太の姿を胸に刻んだ
そしてそれを支える榊原伊織を……
胸に刻んだ
愛し合う絶対の存在がそこに在った
性別を超えて愛し合う姿が…
そこに在った
その時ドアをノックされ榊原は開けた
すると慎一が立っていた
その横には……
千里の愛する先輩が立っていた
慎一に促され、先輩は部屋に入った
康太は千里の先輩を見ると笑った
「ほほう!千里は面喰いなんだな」
とても綺麗な顔をした先輩が立っていた
千里はカッと赤面した
「飛鳥井康太だ!」
康太は先輩に手を差し出した
「江口航です」
と言いその手を握った
「オレの横にいる男前はオレの伴侶だ」
「…………噂でなく…」
江口と名乗った先輩は榊原を見た
偉く男前で……役者のような顔をしていた
胸を張り堂々と伴侶と言う……康太に……
江口は驚愕の瞳を向けた
「オレの伴侶は男だが
オレは恥はしねぇ!
オレが惚れ抜いて愛する男だ
この命より大切な男だ
オレの総てだ、伊織ほど大切なモノなんてねぇ」
康太はそう言い榊原を見た
とても嬉しそうな顔で笑った榊原がいた
「…………飛鳥井康太さん
桜林では貴方の名前を知らない生徒はいない
榊原伊織さん、貴方も執行部の鬼として…
有名です…
まさか……この様なところではお逢い出来るとは思いませんでした」
「愛してるなら離すな」
「…………ボクは千里の為にならない……」
戸浪……トナミ海運の一員になるべく育てられた存在
なのだから……
「千里は戸浪を出るが定め
親も了承している!
それでも、離れるか?」
「…………え?……」
「振り出しに戻って話し合え!
なくせないなら、話し合え!
解ったな!」
「…………はい。」
江口が了承すると康太は千里の傍に行った
「リミット午後5時
それまでに話をつけろ」
ならな!と言い康太は病室を出た
榊原も康太の後を追って病室を出た
病室を出ると康太は慎一に声をかけた
「義恭は何と言ってた?」
「丁度良い!検査をしたかったから連れて行ってやろう!
と病院の救急車で連れて来てくれました」
「そうか。
なら須賀は病室?」
「いいえ。検査をしてます」
「そうか…」
康太はそう言い隼人の病室へと戻った
病室に戻ると、まだ戸浪は眠っていた
康太はその横には座った
榊原は康太の前に冷蔵庫から出した飲み物を置いた
「伊織」
「何ですか?」
「オレはめちゃくそ腹が減ったぞ…」
「………少し我慢出来ますか?」
「する!伊織が待てと言うなら何年でも待てる」
「そんなに待たせませんよ」
榊原は苦笑した
「伊織が言うならオレは待てれるぜ!」
康太はそう言い榊原を見た
榊原は康太を抱き上げ膝の上に乗せた
「今夜は此処で泊まりますか?」
「今夜は泊まる
明日から仕事だろ?伊織」
「ええ。明日から会社に顔を出します」
「オレはここにいるかんな
伊織は仕事して来いよ」
「………本当は離れたくないんですが……」
「オレは何時もそう想ってるぜ
伊織と離れたくねぇって、何時も想う
でも明日へ繋げる為に動かねぇとダメだかんな
オレは逝く……本心は、伊織とすっといたい…だけどな」
「…………康太……」
「オレは病院から出ねぇ
動かせるとしたら、慎一か一生を使う
だから伊織は仕事して来いよ」
「解ってます。」
康太はそう言い立ち上がった
そして聡一郎の耳に何やら話し掛けた
一生がそれを見て来ようとするのを手で遮り
聡一郎と康太はなにやら話していた
そして、ソファーに座ると聡一郎はPCを駆使してなにやら始めた
康太は榊原に跨がり抱き着いた
「眠い……」
榊原に擦り寄る姿は猫みたいだった
「寝ますか?」
「伊織に甘えてんだよ」
榊原は康太の頭を撫でた
そして服の中に……手を忍ばせた
「ちょっと待て!」
一生が榊原の手を康太の服から出した
榊原は笑って
「康太の素肌は触り心地が良いのに……」
と残念そうに呟いた
「触り心地が良くてもダメでっしゃろ
此処は病院でんがな……」
「一生、僕は場所なんて気になりません」
「………!少しは気にしろ!」
一生が呆れた様に言うと榊原は笑った
榊原の耳に康太が話し掛ける
榊原にしか聞こえない声で……
榊原は顔色一つ変えず聞いていた
そして榊原の唇をペロッと舐めた
榊原は康太の後頭部を抑え込み執拗な接吻をした
湿った音が病室に響くと……
「………旦那、止まりなはれ…」
と一生が釘を刺した
唇を離すと康太はトロンっと榊原の胸に顔を埋めた
「一生……このまま康太の中へ挿れたいです」
榊原の爆弾発言に……一生は立ち上がった
「………旦那、此処で始めたらあかんがな」
「大丈夫、まだ理性があります!」
榊原はそう言い笑った
暫くすると義恭が病室に訪ねて来た
榊原の上に乗る康太の姿に義恭は苦笑した
この夫婦は…本当に何時も引っ付いてる
片時も離れたくないと抱き合う
「坊主、須賀の検査をした」
「どうだった?」
康太は榊原の上から下りた
「マンションに住まわせる前に状況を把握しとかねぇとな……
住まわせたは良いが……手に負えない……
っては両方の負担になるかんな」
「回復に向かってる
坊主が見舞いに来てから須賀が更に頑張って
努力した
見ているこっちがハラハラする程にな…
だがな……気張りすぎなのは……少し危ういな
精神力だけで奮い立たせて踏ん張ってる
それが切れたら……見通しはつかん!
此処で様子を見ると言うのは懸命だな」
「須賀はそんなに頑張ったのかよ?」
「あぁ、自分を追い込んで踏ん張っておった
所で……そこに寝てるのは……過労一歩手前か?」
青い顔して寝ている戸浪を指していた
「介護疲れ……だな」
「疲れが抜けない顔をしている
看ておくか!
坊主の廻りは過労一歩が多いな」
義恭は笑い戸浪の服を脱がした
聴診器を立てて診察する
それでも戸浪は眠っていた
頑なに……親を拒絶して……
今にも死にそうな顔した千里から目が離せなかった
沙羅と二人で精一杯付き添って介護した
だが……千里は親も……現実も……拒否って……顔を背けていた
その現実に……親は打ちのめされ……
追い込まれていた
康太の顔を見たい……
心の内を晒け出して……弱音を吐きたかった
だが白馬に行ってる康太に甘えれば……
源右衛門の為に行ってるのに…呼び寄せてしまう
戸浪が泣き言を言えば康太は来てくれる
だが、それはしてはいけないと思った
だから……気張って……親の務めを果たそうとした
心身ともに弱っていたのは…否めなかった
義恭はナースコールを押すと、看護師に注射とアンプルを持って来いと指示を出した
暫くして看護師は義恭の指示したモノを持って病室に現れた
戸浪の腕を捲ると消毒して注射を打った
その時……戸浪は目を覚ました
「………え?………痛い……」
戸浪は視界の先の康太を探した
そして康太を見付けると
「………康太……何が起こってるのですか?」
と情けない顔をした
康太は戸浪を抱き締めた
「過労一歩手前の顔してるからな
義恭が注射を打ったんだよ」
「…………過労一歩手前…」
戸浪は絶句した
「坊主、点滴も打っとくか?」
「頼めるか?」
「気にするな!
病人を目の前にして放っておけぬからな!」
義恭は看護師に点滴を持って来る様に言った
看護師は病室を出るとナースセンターに向かい
義恭の指示のモノを持って病室に現れた
義恭は点滴スタンドをセッティングすると、そこに点滴を引っ掛けた
チューブを伸ばし、針をセットすると
戸浪の腕を消毒した
そしてブスッと点滴の針を刺すとテープで固定した
「一時間は、大人しくしてろ!」
義恭はそう言い病室を後にした
戸浪は「康太……」と情けなく言った
「無理して限界超えるまで踏ん張るおめぇが悪い」
康太は一蹴した
「………千里の瞳は……
何も見つめてませんでした
それが哀しくて……傍を離れられませんでした」
「もう大丈夫だ!
おめぇが病室に戻れば千里はちゃんとおめぇを見る」
「……え?千里に逢われたのか?」
「千里はオレに任せろ!
戸浪を出る日までは愛してやれ
戸浪を出ても、千里はおめぇの子供だ
どんな選択をしたって許してやれ」
「千里は……あんなにも頑固に……」
「おめぇに酷似してるんだよ
おめぇの子供の中で千里は1番おめぇの血を濃く受け継いだ
恋愛の対象までな………」
「………康太………千里は…」
「許してやれ」
「………千里は私の子供です
何があっても私の子供です!」
「然るべく時が来たら千里は戸浪を出る」
「解ってます……
千里は外に出す……
それは違えはしません」
「それだけ解ってれば大丈夫だ
だから自分を追い込んだりするな」
「………康太…ずっと君に逢いたかったです…」
「言えば良いんだよ
電話してくれば良い」
「………白馬に行かれてる君に……
電話は出来ませんでした
また……貴方に逢えば……私は……弱くなる
父として踏ん張らねばならぬ時に……
貴方に甘えて…それは出来なかった……」
戸浪の苦悩が解る
康太は戸浪の髪を撫でた
「弱くなっても良いんだ若旦那
人はそんなに何時も気張って生きて行けねぇ
自分を解放して休ませてやらねぇと壊れると言わなかったか?」
「……壊れそうでした……
いいえ……半分壊れてました……」
「なら作り替えてやられねぇとな」
康太が優しく戸浪の頬を撫でた
「………私はこんなにも情けない人間ではなかった……」
康太と出逢う前なら……
何の感情も抱かなかったのに…
「眠れ!夢も見ない世界に堕ちて休め……」
康太が言うと戸浪は……
意識を手放した
スースーと寝息が聞こえる
眠ってた隼人が目を醒まし
「康太!痛いのだ!」
と康太を呼んだ
康太は隼人の側に行き隼人の頭を撫でた
「大丈夫か?」
「………腹が痛いと言うと……あの医者……
悪魔のように嗤ったのだ
そして康太の言葉を聡一郎が言うと瞳を輝かせたのだ
オレ様は……殺されると思った……」
康太は頭を抱えた
そして聡一郎を見ると……
「総て本当です……」
諦めの聡一郎の顔を見て、康太は後悔した
まさか……そこまで悪魔だとは……
「でも遅かれ早かれ、取らないとダメだったみたいです
丁度良い!今日取ってやる……と、本当に怖かったです」
「…………腕は良いんだがな……」
「………腕は良いです……」
聡一郎も納得の言葉を言う
だがいかんせん……
悪魔の様な奴だから……
「もう痛いのは終わりだ」
「解ったのだ
康太、撫でて……」
康太は下脇腹を撫でてやった
暫くして義恭が須賀の寝台を持ってやって来た
隼人のベッドの横に須賀の寝台を滑り込ませた
「今夜を入れずに3日間だ!
ダメだったら、わしが病院に引き取る」
「あぁ!それで構わない……」
「また様子を見に来る!」
義恭はそう言い病室を後にした
康太は須賀のベッドの横に座った
須賀は眠っていた
眠った須賀の頬を撫でた
その時……柔らかな風が康太を包んだ
『その男の深淵……見て来ようか?』
「弥勒……」
『お前は悩まなくて良い……
俺がその男の深淵を見て来よう』
「………弥勒……明日には1本支払う……」
『康太、お前の為にしたいんだ
お金で換算する気はない
俺は金は受け取る気はない』
「………弥勒……」
『気にするな……
お前は何も気にしなくて良い』
「……弥勒…礼を言いに今度行く」
『おぉ!逢いに来てくれ!
待っておるからな!』
優しく康太の周りを包み込み……風は止んだ
榊原は康太の横に行くと、優しく康太を抱きしめた
「康太、医学は進歩の一途を遂げてます
悲観する前に、須賀に合った治療法を考えれば良いのです!」
「……伊織……」
「気弱な君は似合いませんよ!
僕の愛を一身に受け、毅然としてなさい」
康太は頷いた
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