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第47話 深淵
須賀は目を覚ました
暗闇に辺りを見渡す
此処は……あの日の絶望の場所か?
自分はまだ助けられてなく
置き去りにされ……
死ぬのを待たれてるのか?
自宅に暴漢が潜んでいた
帰宅と同時に襲われて……
薬を嗅がされた
意識をなくしていたら痛みに襲われた
目を醒ますと…
殴る蹴るの暴行を受けた
顔を執拗に殴られた
発見されても身元が判らぬ様にと
指紋を硫酸で焼かれた
死にたい程の……痛みと絶望の中にいた
死んだ方が楽になれるなら……
喜んで死を選んだろう
それ程の暴行だった
男達は弱って行く須賀を見て嗤っていた
嗤って暴行の数々を繰り返す
死ぬのは怖くはなかった
この命が途絶えた先に……
妻がいると思えば……
寧ろ……死にたい想いは強かった
愛していた
愛して……愛して……惚れぬいた妻だった
妻を亡くした空虚は大きかった
それでも事務所の社長としてやらねばやらぬ
生きねばならぬ
そんな時に……
飛鳥井康太と出逢った
彼は事務所の繁栄を約束してくれた
そればかりか……
孤独な須賀を危惧して
友を与えてくれた
相賀は何時も気にして電話をかけてくれ
飲みに誘ってくれた
………苦手な類の人間だった
父に愛されず……生きてきたから高齢の人間は好きじゃなかった
だが、相賀は本当に骨身を惜しまず須賀と接してくれた
何時しか……父のように慕い
仲良く酒を酌み交わすまでになっていた
神野も戸浪も三木も……
何かにつけて須賀を誘い出してくれた
何時しか須賀の廻りには……
優しい人達がいてくれた
飛鳥井康太が与えてくれた
無償の愛だった
その愛に触れ……
須賀は変わった
そんな今の自分は……
死ぬのが怖かった
なくすのが……
怖かった
側にいられないのが……
泣きたくなる程に……
辛かった
考えるのは何時も
康太の事ばかり……
貴方に返せなくて……
この世を去るのは本望ではない
この世に神がいるなら……
頼むから……
最期に……康太に逢わせて下さい
何も望みません
最期にこの瞳に映る姿が……
飛鳥井康太でありたい
そう願って
その願いだけで……
生き耐えて来た
その想いだけで
痛みと……恐怖を乗り越えて来た
この暗闇は……
あの日の絶望か?
須賀は動かぬ体で辺りを見渡そうとして
止められた
「動くな」
「…………え……」
康太の声に須賀は目を見開いた
目の前に康太の顔があった
「あの日の絶望なんかもう来ない!
もっと早く気付けたら良かったのに……
オレは遠くに行ってたからな……」
優しく須賀の頭を撫でた
「………康太……
貴方に逢いたくて…
最期に貴方に逢わせてと……
神に祈りました
長年生きてきて神なんかいないと想っていたのに…
貴方に逢わせて下さい……と祈ってました」
「もう全部終わった」
「……康太……」
「お前は歩み出さねぇとダメだと……
判ってるよな?」
妻の事を言われてるのは解った
「………思い出の中は優しいけど……
こんな暖かな温もりはない……
命があるなら私は動き始めます」
「お前のマンションは処分した」
「……はい……」
「妻の……モノ総て処分した」
「………ありがとうございます
何時か処分せねば……私は進めない……
頭では解っていました……でも捨てれなかった」
「お前は今、生きてる」
「はい……」
須賀の眦から熱い滴が流れた
「辛くても苦しくても……逝かねぇとならねぇ」
「解ってます……康太
妻はもういない……
抱き返してくれる腕もない……」
「………辛い想いをさせてすまねぇ」
「康太…私は生きてるんですね」
「あぁ。お前は生きて俺の前にいる
2度とお前には手は出させねぇ!
おめぇはまだ遣ることがある」
「まだ君に返せてません
花菱のブランドの立ち上げにも立ち会えませんでした
死にきれません」
「無理だけはするな……」
「康太……」
「当分はオレのマンションの下に住め」
「………そんなに世話にはなれない……」
死にかけた日々の莫大な費用……
それだけでも……考えれば返しきれない
「オレのもんだろ?おめぇは?」
「……ええ。君に返す為だけに生きてます」
「なら黙って返せる日まで側にいろ」
「………康太……」
「無理して耐えなくて良い……
辛いなら辛いと言え……」
「………康太……君に逢えない日々は辛かったです」
傷じゃなく……
逢えない日々は辛かったと言う……
「必ずおめぇは治してやる
このオレが何年経とうが治してやる!」
それだけで……
須賀は満たされる
何も要らない
無償の愛をくれる
この人の側にいられるなら
何も要らない
「………康太、私は……君に返したい…」
「なら元気にならねぇとな!」
康太はそう言い笑って須賀を撫でた
満たされて行く
何もない自分を満たしてゆく
この人の言葉に埋められ……
動き出す
「……元気になって貴方に美味しいモノを食べさせなきゃ」
「おめぇの食わせてくれるのは何時も美味ぇかんな!」
「事務所の子に教えて貰うんですよ
料亭とかじゃなく、若い子の好きそうな場所は何時もチョイスしてました」
「おめぇの事務所のタレントは相賀が引き受けてくれている
事務所も新しい場所に移した
そこにおめぇの家も完備して住める様に
セキュリティを完備したビルに事務所は移した
2度とお前を傷付ける奴は出ない!
2度とおめぇを傷付けさせねぇ!」
「………康太、私の人生で貴方に出逢えた事が生きる導です」
「ゆっくり治して行けば良い
焦るな、踏ん張ってばかりだと壊れるぜ」
「…………貴方が消えないなら……
速度を落とします……」
「消えねぇからな、ゆっくり行け
そして、まだ眠れ!
お前の夢を妨げる奴は排除してやる
だから眠れ!」
須賀は瞳を閉じた
暫くすると、規則正しい寝息が聞こえた
康太は側を離れると、ソファーに座った
すると戸浪が康太を抱きしめた
「須賀………ですか?」
あれから、ぐっすり眠ってしまい、今目を醒ました
辺りは暗く……思案していた所だった
「そうだ!」
「………喋れるんですか?」
「喋れる」
「傷は?」
「足は骨が粉砕される程叩き潰された
一時は切断も視野に入れていた
粉砕された骨を取り除き使える骨をプレートで繋ぎ合わせ、様子を見ている
立って動くのはまだ先だ
そして指は硫酸で焼かれたからな再生には時間がかかる
慎一と同じだけ……爪も……指紋もない
腕の骨は折れて……
喋れても動くにはまだ時間が必要だ」
戸浪は康太を優しく抱き締めた
「命があれば…明日へ繋げれる
明日へと生きて行けます」
「………そうだな」
「時間は掛かっても……
須賀ならまた立ち上がります
君に返す為に立ち上がります」
「返さなくて良い……」
「…私も君に返す為に何時だって己を奮い立たせてます」
「だからオレに返さなくて良いってばよぉ」
「繋がっていたんですよ!
貴方と繋がって明日を繋いで行きたい
願いです……奪わないで下さい」
「………若旦那……体調はどうよ?」
「凄く体が軽いです」
「今夜は沙羅も帰って来なくて良いと電話しておいた
若旦那も今夜はゆっくりしろ!」
「………千里は?」
「聡一郎が着いてる
だから気にするな」
「………康太は何故?病院に?」
「…………病院じゃ早々世話も焼けねぇかんな
隼人を無理矢理……入院させた……」
無理矢理……!!
戸浪は言葉を失った
「久遠医師は飛鳥井の主治医に収まる男だ
多少の無理なら聞いてくれる
須賀の様子も見たかったからな」
「………康太……本当にありがとうございました」
「礼は要らねぇ!
食えねぇのは貰わない主義なんだ」
康太は笑った
「腹減ってねぇか?」
「少し減ってます」
戸浪が言うと慎一が戸浪の前に弁当を置いた
病室側のカーテンを閉めて、飲み物を用意した
慎一は康太の前にも置いた
榊原は康太の横で寝ていた
「伊織は……寝てるのですか?」
「明日から仕事だかんな
無理矢理寝ろと寝かせた」
「………伊織は君を置いて行きたくないでしょうね」
榊原の胸の内を代弁する
「誰よりも離れたくねぇのはオレの方だ
オレは伊織にべた惚れだ
好きで、愛しくて……堪らねぇ……
本当なら片時も離れたくねぇ……
でもな無理だからな…オレは逝くしかねぇ…」
榊原を盲目的に愛してるのは康太の方だ
だが、明日の飛鳥井を築く為に…
康太は動く
そんな想いを封印して……
康太は前へと進む
そんな康太の言葉が刹那かった
「康太、君達夫婦は私の目標です」
戸浪が言うと康太は笑った
「若旦那、食え」
戸浪は弁当を康太と共に食べた
ソファーに横になると……
また眠りに落ちた
康太は榊原の髪を優しく撫でた
眠れ伊織
………夢の中でも
オレを愛して離すな
翌朝、戸浪は千里の病室へと戻って行った
病室には瞳を輝かせ笑う千里の姿があった
千里は両親に瞳を向けると
「ご心配を掛けて本当にごめんなさい」
と謝った
「………康太に逢ったのですか?」
戸浪が問い掛けると千里は真摯な瞳を父に向けた
「はい!康太さんにお逢いしました」
戸浪は千里の頭を撫で
「君は康太に預けてます
戸浪の家を出ても……君は私の息子だ
それだけは忘れない様に…」
「……父さん…母さん、僕は貴方達の息子に産まれて来て本当に良かったです」
千里は深々と頭を下げた
沙羅は何も言わず千里を抱き締めた
「康太の導いて下さる未来に向かって行きなさい」
戸浪はそう言った
千里は覚悟した瞳を両親に向けた
「戸浪千里は恥じない人生を送りたいと想います」
例え……愛する人は……
貴方達に胸を張って見せられなくとも……
戸浪に生きた血まで捨てた訳じゃない
どんな生き方をしようとも、この父と母の元に生まれた誇りまでは……忘れはしない
「千里、君が選んだ道を行きなさい……」
「はい!」
「………だが……今はまだ側にいる……
外に出ても……お前は父さんと母さんの子だ」
戸浪は千里を強く抱き締めた
沙羅もその上から強く抱き締めた
戸浪海里を誰よりも知っているのは……沙羅だった
子供に……戸浪の性癖が出る可能性も捨て切れてなかった
沙羅は薄々気付いていた
気付いていて……
掛ける言葉を失っていた
「千里…愛してるわ」
沙羅は愛しげに我が子の頭を撫でた
つい最近まで……子供だったのに……
今は戸浪に酷似した瞳をするようになって……
戸浪は康太に感謝しつつ
「父さんは会社に行くけど大丈夫かい?」
会社に行かねばならぬ現状を伝えた
千里は「会社に行って下さい!」言った
「もう僕に付き添いは要りません
父さんや母さんは付きっ切りで介護して下さいました
もう大丈夫です!
僕はもう二度と同じ過ちは繰り返しません」
千里の言葉に安心して戸浪は会社へと向かった
沙羅も……家へと、片付けに向かい会社へと向かった
それを聡一郎は千里の側で見届けていた
戸浪も沙羅も聡一郎に頭を下げて、やるべく場所へと繰り出した
聡一郎は見届けると康太へそれを報告しに行った
聡一郎は康太の側に行くと
「見事軌道修正されてました
千里はもう大丈夫です」
と告げた
康太は嬉しそうに笑って
「そうか。」と言った
病室には榊原の姿はなかった
「伊織は?」
「会社に行った」
「……そうでしたね
お盆も過ぎて会社は始動しているのですね」
康太は静かにソファーに座っていた
あまりにも静かすぎて…
一生がどこか悪いのか?と勘繰る程に…
聡一郎が一生に
「今日の康太は静かですね……」
とやはり言う程に……
康太は静かだった
康太の瞳は何も映してはいなかった
静かに康太が座っていた
だが明らかに……
何時もの康太ではなかった
「………一生……」
聡一郎が一生を呼ぶ
「………言いたい事は解ってる」
「……伊織がいた時からですか?」
「……違う……旦那を見送ってからだ」
康太は肘おきに肘をつき、足を組んでいた
何時もの……光景なのに……
何かが違った
「……伊織を……」
呼ぶしかないですか?
と問い掛ける
「……仕事してる旦那の耳に入れたくねぇ……」
思案する……
昼になり食事が運び込まれて来ると
「一生、隼人を食べさせくれ
聡一郎、須賀に食べさせくれ」
と食事の介護を頼んだ
慎一は康太の横に座っていた
2人は食事をさせるべく隼人と須賀のベットの横に向かった
そして食事を終えると……
康太は病室にはいなかった
横に座っていた慎一も……
姿を消していた
「…………一生!」
「…………聡一郎……取り敢えず待とう」
慌てて榊原に連絡を入れて心配させたくない
一生は康太の電話に連絡を入れた
鳴り響く携帯に出たのは…
慎一だった
『一生ですか?』
「慎一!康太は何処だ!」
『少し待ちなさい!
今、人気のいない場所にいます
弥勒と交信するのに…病室は適してない
病院の中にいるので、伊織に連絡はしないで下さい!』
慎一はそう言うと電話を切った
一生は……
ソファーに座った
「…………弥勒と交信中………だそうだ」
「聞きました」
病室で……
弥勒とのやり取りは出来ないのは解ってる
だけど……一言……言ってくれても……
一生は悔しくて仕方がなかった
暫くすると康太は病室に戻って来た
だが、再び……静に何も言わず座られたら……
何も言う事すら出来なくなった
「………康太…」
耐えきれず一生が康太を呼ぶ
康太は一生の声が聞こえないかの様に……
静に座っていた
「……一生、少し待て…」
康太は一生に声をかけた
一生は何も言わずソファーに座った
携帯を見ると榊原からのメールが来ていた
送ろうと思ったら携帯が震えた
一生は病室の外に出た
『一生、忙しかったですか?』
メールに返信がないから……忙しかったのかと問い掛けた
「隼人に飯を食わせてた」
『そうですか。
康太は?
ウロウロ出歩いてはいませんよね?』
「病室にいる」
『そうですか。
今日は早めに仕事を上がります』
「………旦那…康太の瞳が何も映してねぇ……」
『………え?何故?』
「何かを見てるのかも知れねぇ…
何時もより静かで……
逆に怖い……静かすぎるんだよ」
『これから、そっちに行きます』
「…旦那……今来たら康太が気にする……」
『なら康太に電話を入れます
それで良いですか?』
「…………何もなければ良い
すまねぇ旦那……俺の考え過ぎかも……」
『気にしなくて良いですよ』
榊原はそう言い電話を切った
そして病室に戻ると、康太の電話が震えた
取ったのは慎一だった
「伊織?どうされました?」
『康太は?何故康太は出ないのですか?』
「…………主は今視てます……」
『………え?……』
「ですから電話は出れません
来られても……康太は視てます
近寄れませんよ?」
『………解りました
康太から電話を待ってます』
慎一は電話を切ると胸ポケットにしまった
そして静に康太の横に座った
「慎一、目を瞑れ…」
慎一は目を瞑った
康太が手を翳すと、慎一は果てしない……
須賀の姿が流れ込んで来た
須賀直人の深淵だった
須賀直人の深淵には何もなかった……
まるで慎一の深淵に酷似していた
康太に助けられた想いだけ……
胸に突き刺さっていた
妻への愛と……
やはり康太への信頼……
絶対的な想い……
神に祈る……須賀の想い……
それらを康太は視ていたのだ
弥勒が紡いだ須賀の深淵を……
弥勒の声が聞こえ、人気のない場所へと向かった
そこで渡された須賀の深淵だった
慎一は泣いていた
主を持てば……
変わっていたかも知れない
ならば、貴方を主に……と心に決め追って来た
そんな慎一の深淵には……康太への想いしかなかった
須賀の深淵は、そんな慎一の深淵に酷似していた
「………康太……」
「慎一、須賀を頼めるか?」
「………はい。」
この先……須賀の側にいてやってくれ……
と康太は頼んだ
「携帯貸せ」
康太は慎一に手を差し出した
慎一は康太の手に携帯を乗せた
康太は愛する男へ電話を入れた
『康太!』
心配した声が電話口から聞こえる
「伊織、どうしたよ?」
『君が何も映してないと言うから……』
心配したのです……と榊原は言った
「視てたんだよ」
『慎一に聞きました』
「伊織、心配すんな!
今日は何処にも行かねぇ…」
『………康太、僕の膝の上に乗っていて……』
そしたら安心出来るのに……
だけど無理な話だった
「伊織……」
『冗談ですよ……
君が動かないなら…安心です』
榊原はそう言い電話を切った
康太は榊原と電話を切って困った顔をした
「どうしたよ?康太?」
「伊織の側に行きてぇ……」
突然言い出した台詞に一生は唖然となった
だけど、康太ならこうでなくっちゃ!
静かすぎると……恐怖を覚える
「よし!俺が連れてってやる!」
一生は立ち上がると康太を促した
病院の外に出向きタクシーを捕まえると、飛鳥井の会社へと向かった
「………悪かった一生」
「良いって気にすんな!」
飛鳥井の会社へ到着すると一生は会社へと向かった
iDを翳し中へ入って行く、そして副社長室のドアをノックした
榊原がドアを開けると……
康太が立っていた
榊原は康太を抱きしめた
「……康太!……」
榊原は康太を抱きしめると部屋の中へと引っ張り込んだ
「康太……」
副社長室の椅子の上に康太を抱き締め……
榊原は座った
「伊織……」
「……片付けねばならない書類があるのに……
気になって…手がつけれなかった……」
「仕事しろよ伊織」
康太は笑った
「………その前に君を抱き締めさせて…」
康太は榊原の首に腕を回した
「膝に乗ってて……と言うから乗りに来た」
「………なら仕事します……」
榊原は康太を膝の上に乗せて仕事を始めた
物凄い集中力で仕事を片付けて行く
康太はそれを黙って見ていた
キリの良い所まで仕事を片付けると、佐伯を呼んで瑛太の所まで書類を上げた
佐伯は康太を膝の上に乗せる榊原に苦笑した
よくもまぁ……この状態で仕事が出来るモノだと感心する
だが何も言わない
仕事がスムーズに出来るのであれば、それをとやかく言うつもりはなかった
佐伯は瑛太の所に書類を持って行くべく副社長室を出た
瑛太に榊原が仕上げた書類を提示して印鑑を貰って行く
佐伯は
「社長、副社長は康太さんを膝の上に乗せて仕事をなさってます」
と報告した
判を押していた瑛太が顔を上げた
「………康太、来てるのですか?」
「ええ。副社長の膝の上に良い子して座ってます
その方が仕事が早く上がるみたいなので、何も言いませんが!」
「呼ばれるまで行くのは危険ですよ…」
瑛太は2人のラブラブ光線にあてられない様に……と佐伯に言った
「勿論。呼ばれなきゃ行きません!
始めたらどうするんですか!
副社長は人がいるのを知っても犯る人ですからね
性格の悪さは逸品ですね」
瑛太は苦笑するしかなかった
榊原は康太を膝の上に置いてると安心で、仕事を進めていた
だが良い子して膝の上に座ってる康太じゃなかった
退屈して来ると榊原の膝の上から降りて、向かえ合わせに座り直した
「………康太……仕事になりません……」
「気にするな……」
そう言い康太は榊原の唇を舐めた
ドクンッと榊原の股間が反応する
「………伊織……お尻に硬いのが当たってる……」
「気にしなくて良いです」
「仕事は?」
「悪戯っ子がいますからね……」
榊原はそう言い康太の唇に接吻した
口腔を榊原の舌が搦みつき暴れる
すると股間の強度は更に硬さを増して、康太のお尻を持ち上げた
「……伊織、舐めてやるから……
今はそれで我慢しろ……」
「飲み干して下さいね……」
「任せとけ!」
康太は榊原の上から降りると執務机の下に潜り込んだ
そして榊原の前に膝をつくと……
榊原のズボンのベルトを外した、そしてフォックを外しファスナーを下げた
すると中から榊原の性器が顔を出していた
隆起した黒々とした亀頭の先は濡れていた
康太は先っぽを舐めると口に咥えた
ジュルッ
ピチャッピチャッ
舐める音は淫靡だった
「……ぁ……康太……そんなに……」
吸われたら……呆気なくイッてしまう
陰嚢を揉む手が射精を促し擦り上げる
舌で吸い上げ指は肉棒を擦る
膨張して張り出すエラに康太は甘噛みした
イボイボを舌で逆なでられると榊原は震えた
「…………っ……飲んで……」
榊原は下腹を硬直させ……射精した
康太はそれをすべて飲んで……
更に舌で舐めた
まだ悪戯しようとする康太を机の下から出して
口をゆすぎかせた
そしてミンティアをポンッと口に入れた
榊原は濡れた性器を拭いて下着の中へと入れ、身なりを整えた
「……康太……」
「オレは病院に戻るな」
「…………行かせたくない」
「………伊織……」
駄々っ子みたいに言う榊原を康太は抱き締めた
「良くなかった?」
「………良かったです
君がしてくれるんならね
でも僕は君の中へ入りたかった…」
「………此処で?……」
何時ドアが開けられるか解らない状態で?
「………解ってます……」
「オレは今夜も病院だぜ
退院して来るまでは動かねぇぜ」
「解ってます
僕も仕事が終わったら病院に行きます」
「…………ソファーで寝てるから……
仕事しろよ……
オレはおめぇの足を引っ張りたくねぇんだ」
「僕は君以上に大切なモノなんかない
君を優先に出来ないなら……意味がない」
「………伊織……」
「……僕がどれだけ君を抱きたくて我慢してるか知ってますか?」
「…………伊織……オレだって何時だっておめぇが欲しい」
「ねぇ…今夜は僕に抱かせて……」
耳を舐められ甘噛みしたされれば……
うん!としか出て来ない……
その時、執務机の上の電話がけたたましく鳴った
「……はい。」
『副社長、今机の上の仕事片付けたら帰って良いです』
佐伯からだった
「佐伯!ならサクサク片付けます」
榊原は電話を切ると康太に
「これを片付けるまで待って下さい!」
と念を押した
康太はソファーに寝そべった
「待ってるから、仕事しろ」
榊原はニコッと笑って書類へと意識を切り替えた
康太は何もする事がなくて……
知らないうちに眠りに落ちた
スースー寝息が聞こえる
その寝息を耳に納め、榊原は仕事を片付けていた
仕事を片付けると榊原は佐伯を呼んだ
佐伯と共に瑛太もやって来て、ソファーに寝る康太を見た
「………寝てるんですか?」
瑛太が眠った康太を見て言った
「昨夜は寝てません」
「………病院ではね……眠れませんか…」
「……ええ。義兄さん、康太を連れて来たのは一生です
一生は何処へ行きましたか?」
「とんぼ返りで病院に行きましたよ
車を取って来て車で帰った筈です」
「そうですか。
一生がいるなら大丈夫ですね」
榊原はそう言い康太を抱き上げた
「………え?」
瑛太が呆気にとられる
「義兄さん、僕はもう上がります」
尻尾が着いてたら……振り回してるだろう勢いだった
「……ええ。構いませんよ」
「では、失礼します」
そう言い榊原は康太を抱き上げて副社長室を出て行った
それを見送った瑛太は
「………なんて、現金なんでしょう……」
と零した
「社長、サクサク仕事しやがれ!」
佐伯に言われて瑛太は社長室へと戻って行った
康太を抱き上げた榊原は自宅へと帰るべくエレベーターを待っていた
会社の上が自宅って……
こんな時に便利
やって来たエレベーターに乗り込み鍵を差し込む
そして自宅へと続く階を押して上へ行く
エレベーターを降りると自宅の鍵を開け
スタスタ脇目も触れず寝室へ向かう
寝室の鍵を開けると、康太をベッドに寝かせた
康太のズボンを下着と一緒に下ろすと、プリプリのお尻が出て来た
榊原は康太を俯せにすると、お尻に口吻を落とした
双丘を割って左右に開くと……
そこには紅く艶めく襞が戦慄いていた
ペロッと舐めて唾液を垂らした
榊原の舌から……唾液が滴り落ち康太なのお尻の穴を濡らした
指を突っ込まれ掻き回されると康太は目を醒ました
「……ゃ……伊織……ぁぁ……」
何故……ベッドに寝てるのか不思議だった
上の服はまだ着たままで、下だけ脱がされ
榊原の目に曝されていた
「………我慢出来る筈などないでしょ!」
榊原は意識を戻した康太に言った
クニャッと指を回され……康太の体躯は跳ね上がった
指を入れた奥に康太の良い場所があった
そこを擦られれば……もう引けない熱に犯されて……
半端に辞められたら……狂う
腸壁が煽動する
蠢き搦め取ろうと榊原の指を咀嚼する
ペロッと榊原の舌が穴を舐める
舌を挿し込み
ピチャッ……と舐められれば止まれない
そこに硬くて太くて確かな存在を挿れて欲しいと焦れる
「………伊織……服を脱がせて……」
「………1回イッたら脱がせてあげます……」
榊原はそう言うと解れたお尻の穴にペニスを挿し込んだ
ゆっくりと潜り込む塊に、康太は体躯の力を抜いた
榊原の背を掻き抱く
榊原も服を着ていた
余裕のない繋がり……
息も絶え絶えに…榊原は康太を求めた
「……ぁっ……イイっ……伊織が中にいる……」
康太は指で確かめる様に結合部分を触った
自分のお尻に突き刺さる確かな存在を指で触れた
「……ぁ……今触らないで……」
榊原が少しの刺激で感じて言う
「伊織……もっと来い……
もっと奥に……ぁん……ぁあっ……」
榊原は奥まで康太を貫いた
康太の一番奥に届く様に腰を使った
そして呆気なく康太の奥に精液を飛ばした
康太は榊原のスーツに飛ばない様に……
手で押さえた……
その中に射精した
榊原は康太の中から抜くとスーツを脱いだ
「余裕ですか?」
榊原のスーツを庇う辺り……
康太にはまだ余裕があるのかと……榊原は問うた
「……伊織、オレが余裕の訳ねぇの知ってて言ってる?」
「スーツに飛ばない様に……
配慮が出来てる時点で余裕でしょ?」
康太はため息をついた
「伊織のスーツに飛ばすのは嫌なんだ……」
「本当に君は僕のスーツ姿が好きですね」
榊原は康太の服を脱がせ膝の上に乗せた
「伊織なら何着てても好き
伊織が好き……愛してる」
康太はそう言い榊原の唇を舐めた
「僕も君を愛してますよ
……康太……止まれません摑まってなさい」
榊原はそう言うと康太を貫いた
「…ぁん……いきなりすぎ……んっ……深い…」
「君の好きな場所でしょ?」
「ん……伊織……奥、擦って……」
「良いですよ……好きなだけ擦ってあげます」
擦ってあげます……と言う癖に……
榊原は動かなかった
康太は耐えきれず腰を動かした
「伊織……」
呼ぶのに榊原は康太の尖った乳首に吸い付いた
ぷくっと立ち上がった乳首を舐めると硬くなり
そこを舌で転がした
チュパッと、吸うと康太は仰け反った
「動いて……」
「……君が動いてるでしょ?」
榊原は動く気はなかった
康太は腰を動かし……
快感を求めた
奥を引っ掻く決定的な刺激が欲しい
もどかしい……
足らない……
火の点いた体躯を煽るだけ煽って榊原は余裕だった
康太は体内の榊原を締め付けた
蠢く腸壁が榊原を包み込み……煽動し咀嚼する
「……ぁっ……伊織……イイっ……」
康太は自分の性器を握り締めた
乳首を弄り性器を握る姿は……かなり刺激的だった
榊原は康太の性器に伸びた手を離した
「1人で勝手にイク気?」
「……伊織がいるのに?」
と言うのに……自分を扱く手を休めない
榊原は、康太の手を離して首に巻き付かさせた
「………康太……1人でイカないで……」
「………イクならお前と一緒が良い……」
そう言い康太は榊原の唇を舐めた
榊原は煽られて……がむしゃらに康太を突き上げた
後はもう本能の赴くままに……
求め合い……果てた
康太の中から抜くと…夥しい精液が流れて零れた
榊原は、そこに指を挿し込み精液を掻き出した
「……ゃ…伊織……直ぐは嫌……ぁん……」
涙目で見つめられ榊原は辞めた
康太を抱き締めるとゴロンと転がって
胸の上に康太を抱きしめた
「………ごめんね……」
「………伊織と引っ付いていたい……
なのに……今日の伊織は意地悪だ……」
「意地悪してないでしょ?」
「………動いてって言ったのに……」
動いてくれなかった…恨みがましい瞳を向けられ
榊原は康太にキスをした
キスで誤魔化す気はないが……
「康太の中に少しでも長くいたいんです
繋がっていたい……」
そんな台詞吐かれたら……許すしかない…
「伊織……伊織……」
康太は縋り付いた
「病院行くんですか?」
「ん。行かねぇと……」
「支度しますか?」
え……もう……
慌ただしく体躯を繋いで……
余韻もない……
康太は諦めて榊原から下りた
そしてスタスタと浴室に向かった
榊原はシーツを剥がして、浴室に向かった
本当ならもっと康太を抱いていたい
だが、病院から呼び寄せてしまった
心配が過ぎて……言ってしまった
自己嫌悪を感じつつも、榊原は康太を洗った
何時もの様に中も外も洗うと自分も洗い、シャワーで流すと外に出た
髪を乾かし支度をすると、自分の支度も手早く済ませた
「行きますか?」
「おう!」
康太と共に病院へ向かう
車の中で康太は……
「来るんじゃなかった……」
と小さい声で呟いた
「康太、何か言いましたか?」
「………怠い……」
性欲の処理みたいなセックスは嫌いだった
「……康太?」
明らかに何か怒った感じだった
榊原は病院の駐車場に車を停めると、康太を膝の上に乗せた
「康太……何が気にくわないの?」
「………何でもない」
「……ねぇ言って…全部言って?
隠し事はなしにして……」
「………こんなに慌ただしく来なきゃいけねぇなら…
犯るんじゃなかった……」
「良くなかった?」
「良かったよ……でも……終わって直ぐ…
こんなに慌ただしく行かなきゃなんねぇなら…
寝たくはなかった…性欲の処理みたいなセックスは嫌だ……」
榊原は康太を抱き締めた
「ごめんね……」
榊原の胸の上で甘えるのが好きな康太だった
終わった後の鼓動の早い榊原の胸に顔を埋め
甘えていたかった……
「………君を病院から呼ばなきゃ良かった……」
心配で仕事に身が入らない
病院にいると言えば康太は動かない
解っていても……
離れていたくなかった……
後悔しても遅い
ついつい本音が出た
僕の膝の上に乗っていて……
言わなければ良かった
そしたら康太は……来る事もなかった
「……オレは伊織がして欲しい事ならなんでもする」
膝の上に……
愛する男が望むなら……叶えてあげたい
「………康太……僕も君を離したくなんかない
でもね……行かなきゃならないんでしょ?
………そう想えば……犯らなきゃ良かったんですが…
止まれませんでした…
行かなきゃ……離せません……離したくないんですから……」
踏ん切りを付けて離さねば……離せない
榊原のジレンマだった
それで康太を傷付けてしまっていたら本末転倒なのに……
榊原の想いが……痛い
康太は榊原を抱き締めた
「伊織、少し拗ねただけだ…」
「君は僕の胸に顔を埋めで甘えるのが好きですからね……」
「ん。伊織の匂いに包まれて……幸せを噛み締めていてぇんだ」
「許してね……」
「ずっと抱き締めていてくれたら許す……」
愛する男の胸の内を聞けば許すしかない
総べては康太の為にしているのだから………
「ずっと抱き締めてします」
「ん……なら許す」
康太はそう言い笑って榊原にキスした
「行きますか?奥さん」
「おう!行かねぇとな!」
2人は車から降りた
病室に戻ると隼人は既に起きて退屈を紛らわす為にゲームをやっていた
「隼人、起きてるのかよ?」
康太が声をかけると、隼人は笑った
「もう退院したいのだ……」
暇をもてあまし……
隼人は我が儘言っていた
「良いぞ!神野に言って迎えに来て貰え」
「………晟雅が来たら仕事になるのだ……」
物凄く嫌な顔をした
「なら我慢してろ!
明日には退院して良いぞ
オレは須賀を最終的に検査させてからじゃねぇと出ねぇぞ」
「………なら寝てるのだ……」
隼人はベッドの上に寝っ転がった
康太は須賀の側に行った
「起きてるのかよ?」
「ええ。康太、頼みがあります」
「あんだよ?」
「私は家に帰っても何も出来ません
生活のすべてを介助がなくば生活出来ない」
「それを視野に入れてる
何も心配しなくて良い」
「リハビリが出来る施設に……入れて下さい」
「…………まだおめぇにそんな過酷な事はさせたくねぇ…」
「……康太、お願いします……」
「………久遠医師と相談して……
お前の意向に沿う……それで良いか?」
「……はい。このまま貴方の家の傍へ行っても……
生活のサポートで負担をかけます
私もそれは心苦しい……そして早く貴方の役に立ちたい
それにはリハビリセンターに入るのが一番だと想います」
「逢いに行ける距離しか出さないからな!」
「逢いに来てくれるのですか……?」
「当たり前だろ!
お前をポンッと放り出す様な真似なんて出来るか!」
「康太……私の我が儘です…
許してください……」
「許してるよ!
だから孤立するな!
何時でも繋がっている
それを忘れるな!」
「はい……」
須賀は涙した
他人の自分に……して貰う範疇を超えている
「慎一、来い!」
康太が呼ぶと慎一は康太の横に立った
「緑川慎一です」
須賀に慎一は挨拶した
「慎一はおめぇの面倒を見に行く」
「………え?」
「一生や聡一郎達もフォローして面倒は見るけどな
軸になって世話を焼くのは慎一だ」
「主を放っておけないので、通える範囲でお願いします」
「………康太……それはダメだ……」
世話になれないから……リハビリセンターに入ろうとしたのに……
「須賀、今は何も考えるな
今は体躯を治す事だけ考えてろ」
須賀は涙した
慎一はその涙を拭った
「主は言い出したら聞きません
抵抗するだけ無駄です」
「慎一君……」
「慎一で構いません
では久遠医師をお呼します」
慎一はそう言い病室を出て行った
暫くすると久遠を連れてやって来た
「坊主、リハビリセンターを所望か?」
「通える場所で入れる施設はあるか?」
「リハビリ専門の病院がある
スポーツ選手とかがよく使う施設だ
そこに転院の手続きを取ろう
明日朝には移動出来る様に手続きを取る」
「悪かったな」
「一条隼人も退院して良い
明日、須賀直人を移動させたら出る様に手続きをして良いぞ」
「なら清算に向かわす」
「あぁ。何時でも清算してくれて構わない
明日、朝食後、転院させる」
久遠はそう言うと病院を出て行った
康太は力哉に電話を入れた
「力哉、病院に清算に来い」
『金額は?』
「まだ聞いてねぇ」
『なら聞いて持って行きます
康太、勝率低下してる現状をご存知ですか?
今まで以上に稼いで貰わねばなりません』
「解ってるよ力哉
白馬は正した
パドックに上がる馬は勝てるようになる
オレも真贋の仕事を再開させる」
『なら良いです。
これから行きます』
康太は電話を切った
康太はため息をついた
「どうしました?」
「力哉に釘を刺された」
「……力哉は腕の良い君の秘書ですからね」
「佐伯以上に鬼になる時もあるしな…」
と肩をすくめた
榊原は優しく康太を抱き締めた
力哉が清算を終え康太を呼んだ
そして何やら力哉と康太は話をしていた
力哉と慎一は会社へ帰って行った
翌朝、須賀はリハビリ施設に転院した
隼人は退院して飛鳥井の家に帰って行った
何時もの日常が戻った頃
夏は終わろうとしていた
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