49 / 60

第49話 すれ違い ②

康太は一生達に 「おめぇらどうするよ?」と問い掛けた 「邪魔じゃなければ着いて行きてぇ……」 一生は言った 榊原は笑って 「君達を邪魔にした事は一度もないでしょ!」 と言った 「さぁ、支度をして来なさい 僕も康太と支度をして行きます」 一生達は自分達の部屋に着替えに行った 榊原は康太をボストンバッグごと抱き上げると応接室を後にした 寝室に入ると康太に「これ‥‥どうします?」と問い掛けた 「今、立て替えている飛鳥井の家は隼人がお金を出して立て替えに踏み切ったんだ これは立て替え費用にするしかねぇだろ? 隼人は‥‥頑固だかんな受け取らねぇだろ」 康太の言いぐさに榊原は笑って 「君も頑固ですかはね、親子だから似るのですね」と言い口吻けを落とした 「伊織も頑固だかんな、隼人は似てるんだよ!」 康太はそう言い笑った 「僕達は夫婦ですからね、似るのですよ」 榊原は康太に着替えさせると自分も着替えて寝室を後にした そして玄関で一生達を待った 一生と聡一郎、慎一が隼人を着替えさせてやって来ると玄関を開けた 「忘れ物はありませんか?」 榊原が問い掛けると一生が 「おう!バッチしだ!」と返した まぁ忘れ物をしたって歩いて直ぐなのだ エレベーターで一階に下りて外に出る すると榊原の家は既に見えてて、目と鼻の先だった 榊原の家のドアチャイムを鳴らすと清四郎が顔を出した 「いらっしゃい」 出迎えて貰い応接間に向かう ソファーに座ると、ミルクティーが出された そしてケーキを置かれた 康太はちまちまとケーキを食べミルクティーを飲んだ 清四郎は嬉しそうだった 真矢も嬉しそうだった 皆で過ごす時間が大好きだった 康太は胸ポケットの携帯が震えると、一生に放った 「俺?」 一生が聞くと康太は頷いた 仕方なく電話に出る 「もしもし」 一生の声に……電話の向こうの人間は……押し黙った 『康太は?』 やっとの事でそれを問い掛ける 「康太は体調不良で電話には出れません」 『…………これから伺います』 「康太は飛鳥井の家にはいません」 『え?どちらに? 入院とかしてるのですか?』 「本当は教えたくはないのですが‥‥」 『ならば康太を知る者総てに電話を入れます』 一歩も引かぬ物言いに一生は折れるしかなかった そんな事やられたら堪らない‥‥ 「榊原の実家にいます」 『………清四郎さんに変わって戴けませんか?』 …………一生は仕方なく清四郎に携帯を渡した 「清四郎さん、変わって下さい……と言ってますが どうしますか?」 清四郎は一生から携帯を受け取ると電話に出た 「もしもし、お電話変わりました」 『榊さんですか?戸浪海里です お久し振りです』 「戸浪さん、お久し振りです ご用件を窺います」 『これから伺っても構わないでしょうか?』 「構いませんよ?」 『………申し訳ないんですが……8名程… 大丈夫でしょうか?』 「8名……はい。大丈夫です」 『ではそちらに伺わさせて戴きます』 戸浪はそう言い電話を切った 清四郎は携帯を一生に返した 康太は困った顔を榊原に向けた 「………伊織……迷惑になる帰ろうか……」 「………神野辺りでしょうか?」 「…だろ?………今は弥勒が覇道も星詠みもダメだと見せねぇから解らねぇ……」 康太は極力、力を使わない様にしていた 榊原は父に 「ご迷惑になるので帰ろうと想います!」 と伝えた すると清四郎は怒った顔で息子を見た 「私はどうぞ!と言いました! どうぞ!と言ったからには家に招く所存です 君は黙っていなさい!」 「………父さん……」 「こんな康太が体調の悪い時に無理させたくない 私達も見ていたい……解りませんか?」 「………すみませんでした。 ご迷惑かと想いました……」 「君は飛鳥井家真贋の伴侶 君の重責は誰よりも理解してます 手助けが出来るなら私達は喜んで助けたいのです」 「………父さん……」 「伊達に広い応接間を作った訳ではないですよ 人を増やしても大丈夫な造りなんですよ」 清四郎はせっせと接客の準備をした 妻の真矢はゆったりとお茶をしていた 清四郎は応接間となりのドアを開け放ち、部屋を広くした こう言う時の為に部屋を広く使える様になっていたのだ 隣の部屋の机とソファーを合体させて広げる どことなく飛鳥井のサンルームと応接間を彷彿させる部屋が出来上がっていた 「………父さん、こんな風になってると想いませんでした……」 「康太が造ってくれたのです どれだけ人が増えても迎え入れられる様にね」 清四郎は嬉しそうに言った 暫くするとインターフォンが鳴り響いた 清四郎はカメラを作動すると戸浪の姿があった 『戸浪です。』 「今開けます」 ロックを解除して清四郎は玄関まで向かった 玄関のドアを開けてスリッパを出して皆を待った 戸浪は清四郎に深々と頭を下げた 「本当に急にこんなに大勢で押し掛けて大変申し訳ございません」 『構いませんよ。さぁどうぞ!』 清四郎は快く皆を迎え入れた 応接間のドアを開けたのは笙だった 皆を招き入れると笙は慎一と一生を連れてキッチンへ向かった 康太の前に…… 招き入れられたメンバーが並んだ 康太は全員を見て 「珍しいメンバーだな?」 と笑った その姿は一回り小さく儚くなっていて…… 皆の胸が痛んだ 康太の前に並んだのは 戸浪海里、三木繁雄、安曇勝也、蔵持善之介、神野晟雅、相賀和成 そしてどう言う訳か……堂嶋正義が兵藤貴史を連れて立っていた 清四郎は皆をソファーに……と言った だが皆は康太の前を動こうとはしなかった 「お話があります」 戸浪は康太に声をかけた 「聞くから座れ 清四郎さんが困ってるだろ?」 康太に言われて全員仕方なくソファー座った その前に笙がお茶を出してゆく 慎一と一生が御茶菓子を添えて行った 全員ソファー座ると、相賀和成が口を開いた 「康太、真贋の仕事を再開されたとか?」 「再開したとかじゃねぇ 休んでた訳じゃねぇ……」 「ですが、大々的に動かれてる」 「…………歴代の真贋より墜ちた……と言われたくねぇからな!」 次は相賀に変わって三木が問い掛けた 「何故、電話に出ないのですか? 慎一にかけても……君の居所すら解らない… これって緊急事態じゃないのですか?」 「力哉にかければ繋がった筈だ」 「その力哉が受け付けなかった! どのような事態が起きてるか勘繰っても仕方在りませんよ?」 「何が言いたい!」 今度は三木に変わって蔵持善之介が今度は話し掛ける 「康太、私との会食をドタキャンしましたね」 「…………悪かった……」 「私は楽しみにしてた 君の大学入学祝いは自らの手で……と想っていました」 「………大学は留年だろうから…貰っても悪いだけだ」 「留年でも入学されたから祝いたかったのです!」 「……善之介…虐めるな……」 康太からは体調の悪さを伺えていた 「虐めてません!」 蔵持善之介にかわって安曇が口を開いた 「……康太、君が無理して逝くのは……耐えられないのだよ 君は伴侶とも離れて……真贋として動いてた 君が伊織といれば安心でした! だが君は……伴侶すら寄せ付けず……私は危惧してました」 「………勝也…」 「何故伊織と距離を取る? 伊織は貴方が選ばれた伴侶なのではないか!」 「……そうだ。誰になんと言われようとも榊原伊織はオレの伴侶だ」 「なら何故置いて逝く?」 安曇に変わって今度は戸浪が口を開いた 「何度電話しても君は掴まらない 何をしてるか伊織に聞いても伊織は解らないと苦悩していた 私達は康太の力になれませんでしたか? 私達は……貴方に無償の愛を貰うばかりで…… 何一つ返せてません…… 須賀は私の友でもあると言いませんでしたか? なら何故……君一人で背負うのですか?」 「若旦那……今回は少し番狂わせがあっただけだ 軌道修正はした……もう心配させる様な事態にはならねぇ…」 「君一人で背負わなくて良いです!」 「若旦那……」 神野晟雅が立ち上がると康太に深々と頭を下げた 「俺が皆さんを集めました! 真贋は不本意でしょうが、俺等は黙っていられなかった! 康太……俺は貴方がいるから走り続けられる 貴方をなくせば……俺等は逝く道をなくす 今回厭と言う程思い知らされました 俺等が出来る事なら、手を貸せる 貴方一人が背負うのは辞めて下さい!」 「神野……んとに、てめぇは殴りたい程に頑固者だな…」 「君に似たのですよ 此処にいるのは全員、君と繋がる人間です」 「晟雅」 「はい!」 「お前……何故‥‥堂嶋正義を連れて来た!」 康太は怒っていた 「………彼は勝也さんの所におられました 勝也さんが行くと言うと着いて来られたのです」 神野の説明を聞き、康太は堂嶋正義に瞳を向けた 「正義……お前‥‥ぜってぇにオレと関わるなと謂ったじゃねぇか!」 「俺は何時だってお前の傍に逝きたかった!」 「オレと関わりのない政治家になれって謂ったじゃねぇか!」 「もうお前の謂う事は聞くのは止めた! 俺はチャンスさえあればお前へと還りたかった!」 堂嶋正義はそう言い笑った 勝也は意外な顔をして堂嶋を見た 彼は忠実な安曇勝也の懐刀だったが、笑った顔は皆無だった 孤高の戦士 堂嶋正義 彼は常に一人で動き、廻りに人を寄せ付けなかった その堂嶋が兵藤を預かっただけでも驚きなら…… 笑う姿など……驚異に近かった 「正義‥‥オレはお前の政治生命に傷を着けたくねぇんだよ!」 「もう遅い!」 一歩も引かぬ姿に康太はグッと詰まった 兵藤が堂島と知りないなのかよ?って瞳を康太に向けていた 康太は話題を変えた でないと聞く耳を持たないからだ 「……正義、貴史を預かってくれて本当にありがとう」 康太は堂嶋に頭を下げた 「よせ!坊主!」 堂嶋はそんな康太を押しとどめた 「坊主、横にいるのがお前が片想いの果てに掴んだ伴侶か?」 堂嶋は優しい笑顔で康太を見ていた 「あぁ!榊原伊織だ! オレの命よりも大切なオレの伴侶だ 伊織、堂嶋正義だ。」 榊原は堂嶋に「榊原伊織です」と挨拶した その顔を見れば甘いだけの男ではないと窺い知れる 飛鳥井建設の副社長、社長同様……血も涙もない辣腕の持ち主 噂に高き姿を見て、堂嶋は榊原に手を差し出した 「堂嶋正義だ!以後お見知りおきを」 「榊原伊織です。この瞳に貴方の姿を納めました」 真摯な瞳が堂嶋を射抜く それを受け止め堂嶋は榊原と固く握手した 「坊主、突っ走るおめぇの姿は出逢った頃と変わらねぇな でもな坊主、伴侶を無視して突っ走る必要なんてねぇと俺は想うぞ」 キツい一撃だった 「……正義……解ってる……」 「解ってるなら、その手を離すな」 「離したらオレは死ぬ……」 「んとに、暴走しまくりの妻は大変だな おちおち寝ちゃあいられねぇな!」 榊原を見て堂嶋は言葉にする 榊原は苦笑した 「康太ですからね……仕方ありません…」 堂嶋は大爆笑した 「坊主!また食事をしようぜ! 幸哉が逢いたがっていた めったと誰にも逢おうとしねぇのにな 坊主には逢いたいと言ってた 今度連れて出してやってくれ」 「なら今度誘う! USJに行きてぇからよぉ!」 堂嶋は頷いて 「飛鳥井康太! 我等は今日、お前の大切な掌中の宝をサポートする為に来た!」 「須賀直人の事か?」 「そうだ!お前一人が背負う事はねぇ! お前一人が負担を背負う事はねぇ!」 「正義、須賀は治る見込みがねぇ… 何時何時までに治ると言う確約もねぇ 皆の手助けを受けても…… それが須賀のプレッシャーになるかも知れねぇ… 須賀はオレの下のマンションに入るのを拒んだ オレの世話にならねぇ様に……リハビリ施設に入った 須賀はオレに返す為に必死に頑張ってる…… そんな須賀に皆がサポートしてます……と言う方が余計な負担をかけそうでな……」 治る見込み…… 何時までに治る保障がないから…… 幾ら要るのかも計り知れない 「それでも!だ。坊主! 我等はお前を手助けする為だけに忙しい時間を削って集まっている!それを忘れるな!」 「………正義……」 堂嶋は立ち上がると康太を持ち上げた 「こんなに軽くなられて……」 「……気にするな……」 「抱いたなら肋骨が突き刺さるであろう、伴侶殿」 「ええ。確かに突き刺さりました」 榊原が堂嶋の言葉に返すから…… 安曇が堂嶋から康太を奪って抱き上げた 「………軽い……」 安曇は呟き……泣いた 「……父は……康太の事を想わぬ日はありません」 泣かれると弱い…… 「………勝也……大丈夫だ」 善之介も康太を渡して貰い……泣いた 「……これじゃぁ、食事にも誘えないではないですか! 食べれないでしょ?今は……」 「………そのうち本調子になる……」 本当に……康太の弱い人間ばかり集めて…… 康太は困った 三木が康太を貰い受け 「貴方……私が心配しなかったと想ってます?」 「…繁雄……心配させたとは想ってる!」 「なら時間を作って下さい! そして食べれる体躯になって下さい!」 「……食べれる様になるから……」 三木は戸浪に康太を渡した 「こんなに軽くなられて…… 私は病院で君に返す為に生きてますと、言いましたよね?」 「若旦那……心配させて悪かった……」 「君は解ってません! なので私達は強引に出る事にしたのです!」 「………若旦那……」 「君が何を言おうが、須賀直人のサポートはします! 真贋の仕事がしたいなら、正式に依頼します 私の会社に来て下さい!」 康太はガックシ肩を落とした 戸浪は康太を兵藤に渡した 康太の軽さに兵藤は息を飲んだ 「………康太…てめぇ…」 兵藤は唸った 「貴史、おめぇは修行中の身だ! 黙ってろ!」 兵藤の膝から降りると康太は榊原に抱き着いた 清四郎は黙って、成り行きを見ていたい 「康太、私も微力ながら名を連ねさせて貰います 須賀は私にとっても友です 友を救わねば男が廃ります!」 「………清四郎さん……」 「君の廻りは頑固者ばかり 抵抗する方が無駄だと気付きなさい」 清四郎が言うと三木が 「康太、宮瀬那智と佐々木蔵之介をご存知か?」 「……厭と言う程にな知ってる」 「彼等も此処に来たいと申していた 流石と10人はご迷惑と断りました 彼等の想いも組んで下さいね」 三木が言うと神野も   「小百合が家を担保にすると言って聞きません 康太、後で説得お願いします 後、映画監督の五大祐吾、彼も何処からとなく聞き付けて私財を処分するとか言ってました 康太、君、五大祐吾とお知り合いなんですね」 「………五大祐吾は嫁に……と言ってるイヤだ……」 康太は榊原に抱き着いた 「小百合さんは説得しますが、五大さんは神野、丁寧にお断りして下さいね」 榊原は背筋も凍る瞳で神野を見た 神野は「……お断りさせて戴きます」と言うしかなかった 慎一が電話で席を外していて戻って来ると 「東都日報の東城さんと今枝さんが時間を作ってくれと五月蠅いのですか?」 と言う始末だった 榊原が「明日の夕方でしたら時間を作りますと言って下さい」と答えた 慎一は返答をすべく部屋を出て行った 「あんだよ……今日は……」 康太は泣きを入れた 榊原は康太の背中を撫でて 「皆心配なんですよ」 と、答えた 皆心配して、こうして時間のない中集まっては来てくれてる 本当に有難い事だった 本当に感謝しても足らなかった 康太は立ち上がると皆に深々と頭を下げた 「今日は忙しい中オレの為に集まって下さり本当にありがとう御座います」 と丁寧に御礼を口にした 「須賀が一番望むべくカタチになってゆけばと想います 須賀が独り立ちするのはまだかかる 皆が支えて下されば……須賀は一人一人の想いに応えようと頑張るでしょう 須賀を支えて下さい 須賀を皆で守って下さい」 相賀が立ち上がり康太を抱きしめた 「皆、須賀を支えたいと思ってるよ 皆、飛鳥井康太を支えたいと願ってる  君と共にいたいから…願ってるんだよ」 「相賀……本当に悪かった……」 「須賀の治療費は皆が分担します 長期戦になるなら一度にそんなには出来ないが 全部君が背負わなくても良い その為に私達がいるんだよ?」 康太は堪えきれずに泣いた…… 人前で……泣く事のない康太が肩を震わせて… 「ありがとう……」と泣いていた 「須賀の世話をしているのは誰なの?」 康太が多忙なら誰かを動かす それが解ってる言葉だった 「慎一が須賀を見てる」 「ならば慎一に須賀の場所を教えて戴きます そして、毎月の支払いを10等分にする」 「……え?10等分?あんでだよ?」 「此処にいる貴史を退かした7人と宮瀬那智と佐々木蔵之介、そして小百合さんです」 「………オレは?」 「入ってません! 君は払いすぎです」 「………え?そんなん……」 ダメだと言おうとするのを堂嶋が遮った 「坊主!自分の体調の管理出来ねぇ奴は文句言うな!と言う事だ! その肋骨が浮き出た体躯を艶々にして元気になっから文句は謂え!」 康太を抱き上げ堂嶋は言う 「お前の幸哉みたいにか?」 「それ以上に、だ! こんなに軽くちゃ強風に飛ばされちまうぜ! 踏ん張れる様にならねぇとな! 坊主は今は何も考えるな! 体躯を本調子にする事だけ考えてろ」 「お前に逢うのは貴史を返して貰う日だと想ってた」 「俺もそのつもりだった だがな……お前が苦しんでるなんて聞くとな…… アレも泣く……俺も気になって手助けをしき行きたくなる」 「悪かった。 少し休んで体調を整える 伊織がいればオレは生きて逝ける…」 「惚気が出れば大丈夫だな!」 堂嶋は康太を榊原に返した 清四郎は皆に食事でもしませんか? と問い掛けた 迷惑だから帰ろうとする全員を押し止め清四郎は寿司の出前とデリバリーを笙に注文させた 宴会の好きな飛鳥井の血がそうさせるのか…… 見事な早業だった 皆で酒を酌み交わす 盛り上がり更に絆は深くなる そんな宴会をよそに兵藤は康太の横に座った そして康太を抱き締めた 愛しそうに……大切に大切に…腕の中に収めた 堂嶋はそれを瞳の隅で捉え……胸を押さえた 兵藤貴史の愛する者は…… 「おめぇは無茶ばかりしやがる……」 「無理してもな逝かねぇと明日に続かねぇ…」 「少しは立ち止まって周りを見やがれ」 「一瞬遅れたら命取りなる…立ち止まる暇なんかねぇ」 「んとに……傍にいられねぇのが…… こんなに歯痒いとは想わなかった……」 「貴史、おめぇは修行中の身だろ? オレの事なんか気にせず精進しろ」 「それは無理だわ おめぇが怒るから傍に来なかった 褒めて貰いたい位だぜ」 「………よしよし!」 康太は兵藤の頭を撫でた 兵藤は胸ポケットから封筒を出すと康太に渡した 「あんだよ?これは?」 「車を売った!その金だ」 「あんでオレに渡すんだよ」 「これからもっと稼げる男になる そしたらお前を助けてやれる 少し待っててくれ! そしたら何でも買ってやる」 「…………お前はオレのパトロンかよ?」 三木と言い兵藤と言い……何なんだよ も康太はボヤいた 「お前には返せない程の無償の愛を貰った そんなおめぇの望む事なら何でも叶えてやれる力を身につけたい! 今回、本当にそう思った」 「……貴史、これは受け取れねぇ……」 「俺は出したのは戻さねぇ主義なんだ」 兵藤は康太の唇に軽く口吻を落とすと離れた 康太は困った顔して榊原を見た 「……貰っときなさい 返しても受け取りませんよ」 康太は胸ポケットに封筒をしまった 夜更けまで飲み明かし…… 堂嶋正義は夜明け前に兵藤を連れて迎えに来た車に乗って帰って行った 安曇も三木も善之介も迎えに来た車に乗り込み帰って行った 戸浪は康太と雑魚寝で寝た 翌朝……被害にあうとも知らず…眠りについた ぎょぇぇぇ! う! い″だい″~! と言う声が部屋に響き渡っていた 一生は被害を想って心の中で拝んでおいた

ともだちにシェアしよう!