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第52話 愛が生まれ日 準備

翌日から康太は精力的に動き出した そんな夜、隼人を護る為に仕えさせた秋月巽が隼人と伴ってやって来た 秋月は康太の顔を見ると深々と頭を上げた 「康太様お久し振りで御座います」 「秋月、久し振りだな」 「康太様は近いうちに大阪に出向く事がおありですか?」 「あんでだよ?」 「翁が掴みました それで私に力になれと申して来ました」 「最近、切嗣に逢ってるのかよ?」 「最近は隼人さんが忙しく中々お逢い出来ませんが 毎日定期的にご連絡は入れております その時に飛鳥井康太が大阪に行く事になるなら力になれと仰られました 大阪はまだ周防切嗣の名も通る所もある…と。」 「流石だな! 世捨て人となったが情報量はまだまだ衰えてはおらぬか」 「貴方が心配なんですよ 須賀直人の一件の時翁は悔しそうにしておいででした 我が動ければな……と仰られてました」 「オレは切嗣が幸せに余生を送ればそれだけで良い……」 「康太様……」 「秋月、丁度良かったお前に伝える事がある」 「何で御座いますか?」 「涼子が妊娠した…」 「………え!!譲様が……」 「今の名は飛鳥井涼子 夫は飛鳥井蓮…だ。」 「夫を得られたのですか…… そうでしたか…… 何故……今……私にそれを?」 周防譲は死んだ……と言い張っていたのに…… 「逢いに行け 切嗣も連れて逢いに行け 親子の縁は切れんぞ またオレは切るつもりはねぇかんな おめぇは親代わりに育てたからな親も同然だろ? 気になるなら見に行け 慎一に連絡をすれば逢える手筈はつけてくれる」 「………康太様……」 「お前は本当に隼人を守ってくれている オレに変わって隼人を守ってくれている 本当にありがとう礼を言う」 「お辞め下さい……康太様 私は貴方に変わって御守りする所存 この命に代えても……御守りすると決めております 康太様、駒が欲しい時は何時でもお声を掛けて下さい」 「ありがとう! その時は頼む」 「降り掛かる火の粉は私も御祓い致します!」 秋月はそれだけ伝えると帰って行った 榊原の誕生日は明後日と近付いていた 11月11日 この日を迎える為に、飛鳥井の家族は慌ただしく動き回っていた 11日、当日の朝、瑛太は家族を連れて、一足先に慌ただしく家を出て行った 家族は榊原や勘の良い康太に何一つ勘付かせる事なくイベントを進めていた 榊原の誕生日を一週間と近付くと、一生は瑛太に頼まれ弥勒の道場を訪ねた 弥勒は一生を出迎えて笑っていた 「わざわざ訪ねてきた御用を受け賜ろうか」 「弥勒、協力をして戴きたいのですが……」 そう言い一生は封筒を差し出した 「俺と瑛太さんの動かせる精一杯です 物凄く少ないですが……お願いします」 一生が差し出すと弥勒は 「康太の事なんだろ?お願いは? なら金は受け取らぬ」 「………弥勒……」 「我は金の金額で動きはせぬ たとえ少しでも誠心誠意我が必要かどうかで我は動く そして康太の事なら我はお金は受け取りたくはないのだ…」 そう言い封筒を一生の胸ポケットに押し込めた 一生は弥勒に心込めて言葉にした 「康太と伊織の挙式を当日まで内緒で進めたいのです サプライズです! 康太は勘が良いから……気付くだろう… 俺達や飛鳥井、榊原の家族は本人に内緒にして当日驚かせたいと思ってます 協力して貰えませんか?」 一生が言うと弥勒は本当に嬉しそうに笑った 「我も参列して良いか? 紫雲も参列したいと言うだろう……」 「良いですよ参列して下さい ご夫妻でおみえですか?」 「あぁ…妻も康太の花嫁衣装は見たかろう… お邪魔にならぬ様にでよい 我等も見て構わぬか?」 「良いですよ。と俺は言ってます 瑛太さんも多分弥勒に頼めば参列したいと言うだろうと言ってました 参列して康太の幸せを祝ってやって下さい」 「………ありがとう……」 弥勒は目頭を抑えた 「腕によりを掛けて康太に気づかせはせぬ!」 弥勒に保障され一生は帰って行った 準備万端整えて 後は当日、康太と榊原を連れて行けば良いだけとなった 榊原は会社に行く支度をしていた 康太はPCを見ながら何やらやっていた 一生は榊原に 「旦那、午前中ちょっとだけ時間をくれねぇか?」 と問い掛けた 「午前中ですか? 何かあるのですか?」 「瑛太さんには言ってある」 「解りました。 康太も?」 「あぁ、一緒で構わない」 榊原はニコッと笑い 「なら良いです。」 と答えた 「旦那、車は置いて行ってくれ」 「解りました 康太、行きますよ」 榊原は部屋に鍵を掛けると康太を呼んだ 康太は榊原の横に行くと抱き着いた 「一生が用があると謂うので、行きますよ」 康太は一生を視た だが何も感じ取る事が出来ず、何だか解らないが逝く事にした 電車とバスを乗り継ぎ、向かう 榊原と康太は一生の後ろを何も言わず着いて来ていた 「たまには電車も良いよな」 電車に揺られ康太が言う 「たまには良いですね 自分で運転しなくても動くと言うのが良いですね」 榊原も呑気に返して笑っていた 一生は最後まで気が抜けなかった なんたって康太だから…… 「伊織、このまま終点まで乗って行きたい」 やはり爆弾発言して笑ってるからタチが悪い 流石とそれは榊原は止めた 「……康太、終点は止めときましょう 帰るのが大変だと想いますよ?」 「終点、横浜じゃねぇのかよ?」 「…………違いますよ 大宮とかあっちの方だと想いますよ」 「………まぢかよ……なら止めとく…」 康太を納得させて電車を降りた そこからは徒歩で向かった 真っ白な建物が目に眩しかった 一生はその建物の中へ二人を招き入れた 榊原の姿を見付けると慎一は寄って来た 「伊織、此方へ」 「え?康太とは別なのですか?」 「着がえる間だけです 我慢出来ますよね?」 「…………着がえる間だけなら……」 「なら来て下さい!」 慎一は有無を言わせず榊原を連れて行った 一生は康太を控え室に連れて行った 控え室には式場のスタッフが康太を待ち構えていた 康太を見付けるやいなや腕を掴んで支度に取り掛かる まずはメイク 康太の髪を上げて基礎化粧品を塗りたくる 「一生ぃ~あんなんだよ!これは!」 叫ぶ康太を「大人しくなさい」とスタッフは黙らせた 「康太、少しだけ我慢しろ そしたら旦那は世界一喜ぶと想うぞ」 康太は訳が解らなかった 康太の顔にメイクが施されてゆく 流石、プロの仕事 康太はどこから見ても、清楚な女性へと変貌を遂げてゆく メイクが終わると、今度は着付け 康太の服を脱がせ 「うわぁ~一生ぃ~」 と康太が叫んでも、なんのその! ドレスを着せてゆく 純白の下着を付けてドレスを着せる 胸がない分……コルセットで締め上げブラジャーにシリコンパッドを入れる 康太のトランクスを剥ぎ取ると…… 康太は股間を隠した…… スタッフは手際良く純白の下着をはかせ花嫁を作ってゆく 康太はショックだった まさか……女性に……見られるなんて…… それを見て良いのは榊原だけだった 「一生ぃ……オレもうお嫁に行けねぇ……」 康太の台詞に苦笑する 「…………大丈夫だ! お前は立派な花嫁になれる」 お嫁に行けねぇ……と言う台詞あたり康太らしい 康太に純白のドレスを着せると ロングの腰まであるストレートの黒髪のウィッグを付けた そして純白のレースを被せ顔を隠した 「出来上がりました! お式まで少しお待ちを!」 スタッフは花嫁を椅子に座らせ出て行った スタッフが出て行くと 「………一生……」 と名を呼んだ 「何だ?康太」 「オレ、どこから見ても花嫁なんだけど?」 鏡に映る姿は…… どこから見ても花嫁だった そこに聡一郎がやって来て花嫁の出来上がりを確認に来た 「凄い!流石はプロですね」 一生と慎一は瑛太を伴って、この式場に来た ここは白亜のチャペルがある結婚式場 瑛太は結婚式場のスタッフに男同士ですが結婚式を挙げさせたいのですが…… と相談した所、快く引き受けてくれたから総てを話し 段取りを付けて貰ったのだ スタッフは、控え室に来るのが男だと知っていた それでもプロの仕事で『花嫁』を作ってゆく スタッフは胸をなで下ろしていた 男にしか見えない風貌だったら…… ウェディングドレスを着せる前に逃げ出したくなるから…… こんなに普通の女の子より可愛いなら許すわ! 腕によりをかけなくっちゃ! と頑張ったスタッフの成果だった 「今頃伊織も支度が整っていると想いますよ?」 聡一郎は楽しそうに言った 慎一に連れられた榊原は部屋に入るなり女性スタッフに取り押さえられ 服を脱がされ………吐きそうな顔をした 慎一は危ないと… 「伊織、耐えて下さい 康太と挙式を挙げたいのなら耐えて下さい」 と励ました 榊原は嬉しそうな顔を慎一に向けた 「康太と挙式を挙げれるのですか?」 信じ切れずに慎一に問いかける 「……貴方の着る服です」 慎一はハンガーにかかる服を指さした 「堪えます! 僕は何があっても堪えて見せます!」 榊原はそう言い大人しく着せ替えられた 康太が夢で見た、純白の燕尾服を着た榊原の出来上がりだった 着せ替えが終わると榊原は康太はどの部屋ですか? と問い掛けた 「挙式前に花嫁には逢えません」 この式場は控え室が花嫁と花婿とは違う階にあった 挙式前に花嫁には逢わせない為だった 「………逢えないのですか…」 榊原はがっくし肩を落とした そこに一生がやって来て 「おっ!バッチシ出来上がってるな」と胸を撫で下ろした 榊原は一生に 「一生、僕達は全く知らなかったのですが……」と愚痴る 一生は笑って 「サプライズだからな! 瑛兄さんからのプレゼントだ!」と伝えた 一生の言葉に榊原は驚愕の瞳を向けた 「………義兄さんが?」 「あぁ。瑛兄さんが旦那にプレゼントするサプライズだった だから二人には気付かせないで進めて来た」 「………勘の良い康太に知らせずに?」 「………それが一番苦労した」 「一生……ずっと願っていました……」 「瑛兄さんは知っていた 伊織の悲願をそろそろ叶えてやらねば頑張って飛鳥井の家の為に生きてくれてる伊織が可哀想ですからね… って言ってた」 榊原は泣きそうになるのを堪えた 「旦那、おめでとう」 なのに一生は……凄く嬉しそうに言うから…… 「………一生……」 と涙が零れた 「泣くな…旦那…」 「僕は幸せですね 理解してくれる仲間がいて、兄弟がいて親がいる…」  「旦那が頑張って来たからだ! 投げ出さずに来たから迎えられる日だ」 「………君は本当に僕を泣かすのが上手い……」 一生が榊原の涙を拭う そこに清四郎と真矢と笙が顔を見せた 清四郎は「よく似合ってます」と感嘆した 真矢も「おめでとう伊織」と涙を拭いながら言葉にした 笙も「伊織、本当に良かったな。」と声を掛けた 「父さん……母さん……兄さん……」 後に続く言葉が……嗚咽で消えた 「泣くな旦那……」 一生が榊原を抱き締めた 清四郎が榊原の顔を綺麗に拭いてやった 「花婿が泣き腫らした目なんてしてたらダメでしょ?」 「………出て来るのは……止められません……」 真矢も榊原の涙を拭い こんな泣き虫な子だったのかしら……と思った 気が付けば……親と距離を取っていた 口を開けば辛辣な言葉を投げかけて来る 何時しか真矢は……榊原に近寄らなくなった この子は……どんな風に育ったのかしら…… 泣きたい時に……泣けもせず……どんな風に…… 真矢は顔を覆い……泣き出した 「母さん……泣かないで下さい」 清四郎が妻を抱き寄せた 「ごめんなさいね…色々想ったら泣けて来て……」 榊原は真矢に頭を下げた 「母さん……僕は良い子ではなかったですから… 親孝行もしてませんでした…」 真矢は榊原の頬に手を当て 「伊織…貴方は良い子よ 私達は親孝行されてるわよ」と謂い涙を拭った 「母さん…僕は貴方達と距離を取ってました… まさか僕も……貴方達とこんな風に向き合えるとは想いもしませんでした 今……僕は……こんなにも幸せです…… 父さんや母さん……兄さんに祝ってもらい 飛鳥井の家族に祝って貰い…… 式まで挙げれるのですから……」 清四郎と真矢は榊原を抱き締めた 「康太を幸せにしてあげて下さい そして君も幸せにしてもらいなさい」 清四郎は息子の頬に口吻を落とした 「誰よりも幸せになりなさい 私達は何時までも側にいますからね」 真矢も榊原の頬に口吻を落とした 一生は、涙を堪えて……控え室を後にした そして、康太の控え室に向かう ドアを開けると飛鳥井の家族がいた 源右衛門は「美しいぞ康太!」と豪快に笑っていた 清隆は「お嫁に出したくないです……」と本音をポロリ 瑛太も「私も……お嫁には出したくなかったです」と本音を吐露する 玲香は「往生際が悪すぎる…」と漏らした 康太はウェディングドレスの裾を捲り上げ椅子に座っていた 「瑛兄、嫁に出したくねぇなら、あんでこんなサプライズすんだよ!」 と拗ねていた 「伊織を想えば……私は君を嫁に出すしかないじゃないですか 堪えて君を支えてくれる伊織を想えば…… 応えてやりたいと想う……」 瑛太は苦しい胸の内を明かした   康太を支えて堪えて……我慢する 全身全霊かけて康太を守ろうとする榊原を想えば…… 榊原の悲願を叶えてやるしか…… 榊原に応えられなかった 「………まさか……瑛兄がオレにこれを着せるとはな…」 康太はボヤいた 「君は誰よりも榊原伊織の妻ですよ」 最大の賛辞を貰い、康太は笑った 「花嫁衣装は着ても、オレは飛鳥井にいるけどな…」 康太が言うと瑛太は 「ええ。君が飛鳥井を出るなら兄も共に行きます」 さらっと言った 兄付きの花嫁なんて…… 誰も欲しがらないやん……と康太は想った 「康太!父も着いて行きます!」 …………余計貰って貰えないやんか! 玲香は「………嫁に行くなら母も共にいこうぞ!」と泣きまくりで…… 玲香の貰い涙を瑛太も受け……清隆も泣いていた 「………だから、オレは飛鳥井を出ねぇってばよぉ!」 康太は叫んだ だけど………… 聞いちゃいなかった

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