53 / 60
第53話 愛が生まれ日 挙式
「お時間です!」
式場のスタッフが控室まで迎えに来る
互いの両家の顔見せは省いた
知らぬ中でないから顔見せは省き挙式を挙げる
その後お色直しを1回
披露宴でする
どのカップルも挙げる挙式の形態を取ってやりたかった瑛太の想いだった
榊原はバージンロードを歩き神父の前で花嫁を待つ
祭壇には神父が立ち式の進行を見守っていた
チャペルの鐘が鳴り響く
祝福した鐘の音が響き渡る
この式場に決めたのは、このチャペルがあったから
瑛太は祝福の鐘を鳴らしてやりかったのだ
瑛太は、神父の前に立つ榊原に
「挙式の後は披露宴です
ウェディングドレスの康太を掴まえるのはNGですから」
と釘を刺した
榊原はがっくし肩を落とした
「その変わり……」
瑛太は榊原に耳を貸せと指で合図した
榊原の耳にヒソヒソ ゴニョゴニョと耳打ちする
榊原は笑顔で瑛太に礼を言った
何処までも榊原を熟知した瑛太なればこそ、導き出せた答えだった
榊原は笑顔で花嫁を待っていた
康太は………父清孝と瑛太にエスコートされて扉の前にいた
「あんで、二人なんだよ!」
康太が文句を言う
瑛太が「譲りたくないのです」と言った
清隆も「私も譲りたくないのです」と言った
ならば、花嫁の左右に並びエスコートする
式場側の苦肉の策だった……
ギューギュー絞められて……康太は苦しかった
ブラジャーが痒かった
パンティを脱ぎたかった……
これを言うと榊原が跳びあがり……喜ぶけど……
それに耐えるのは……
「やっぱし愛だな」
と康太は呟いた
榊原伊織の為にだけ着る
純白のウェディングドレスだった
でなきゃ誰が着る
着せた側から脱ぐだろう
しかし……何故……気付かなかったのか……
康太は不思議だった
全く……家族や一生達からは、気配が窺えなかった
こんな事は珍しい……
こんな当日連れて来られるまで、気付かないなんて…
でも良いか……
榊原が喜ぶなら
誰よりも榊原伊織の妻でありたいのは康太だった
榊原伊織のモノだけでいたい……
そう願って止まないのは康太だった
愛している……
榊原伊織だけを
青龍だけを……
カタチだけでも認められ妻になれるのを
誰よりも欲していたのは……
康太だった
伊織……
王子みたいにカッコイイんだろうな
あの日みた初夢みたいに……
カッコイイんだろうな
榊原へと想いが行く
愛して止まない夫の姿をこの瞳に焼き付ける
一生に一度
愛する人と挙げる
その願いなら……
康太にもあった
ドアが開かれ
花嫁がバージンロードを静かに歩いてゆく
ヴェールを被った花嫁が花婿に向かって
歩いてゆく
榊原はバージンロードの向こうを歩いてくる花嫁に釘付けだった
清隆は「…………嫁に出したくないです……」と泣いていた
瑛太も「……何時でも帰って来なさい」と言っていた
康太は挙式の後も飛鳥井にいるのに…
泣きながら……帰って来なさいと言っていた
「幸せになりなさい康太」
清隆は子の幸せを願った
「誰よりも幸せにして貰いなさい康太」
瑛太は愛して止まない弟の幸せを願った
バージンロードを歩いて花婿の傍に行く
花婿は待っていた
優しい笑顔で……
幸せを隠せない笑顔で花嫁を待っていた
清隆と瑛太は花婿に康太を渡した
「幸せにしてやって下さい」
清隆が涙を流しながら言う
榊原は「はい!幸せにします」と約束した
「誰よりも愛してやって下さい」
瑛太が榊原に康太を託す
「はい!誰よりも愛します」
榊原は絶対の言葉を瑛太に返した
清隆と瑛太は参列者の席に戻った
参列者の席にはこの日の為にだけに集まった人が来てくれていた
康太は弥勒を見つけると……
納得した
何も気付かずに……来るのは誰かの力がなくば有り得なかったから……
参列者の席には安曇勝也、三木繁雄、戸浪海里、蔵持善之介、相賀和成、神野晟雅と小鳥遊智、弥勒夫妻、紫雲夫妻もいた
そして………車椅子に座った須賀直人がいた
静まり返った式場に神父の声が響く
「榊原伊織、貴方は飛鳥井康太を生涯の伴侶として愛し抜くと事を誓いますか?」
「誓います!」
「飛鳥井康太、貴方は榊原伊織を生涯の伴侶として愛し抜く事を誓いますか?」
「はい!」
二人の愛が揺るぎないと確証した返事だった
神父はそれを見届け微笑んだ
「指輪の交換をして下さい」
神父は二人の前に銀色に輝く指輪を差し出した
光り輝く指輪の小さい方を取ると
榊原は康太の薬指に、指輪をはめた
康太は榊原の薬指に、指輪をはめた
「では、誓いの口吻を」
榊原は康太のヴェールを上げた
そして、その唇にそっと唇を合わせ
そして離れた
康太は榊原に見とれて見上げていた
その瞳は……キラキラ輝いて榊原だけを映し出していた
榊原と康太は教会の発行する結婚証明書にサインした
それで結婚式は無事終わりとなった
新郎新婦が式場を出るとライスシャーが降り注いだ
その中を康太と榊原は、皆に祝福され歩いた
康太は榊原を見上げ、涙した
幸せすぎるから……
榊原は花嫁の肩を引き寄せた
康太はブーケを須賀に渡した
「何時か乗り越えられたら……
幸せな家庭を築け……」
そう言い康太は須賀にブーケを贈った
須賀は笑顔で
「ええ。何時か君達の様に祝福され式を挙げたいです」
そう言った
その瞳は前を向いていた
相賀が「綺麗ですよ」と賛辞を述べた
戸浪が「お幸せに。」と祝辞を述べた
三木が「嫁に出したくない」と親の心境だった
善之介は「康太の花嫁姿を見れて嬉しいです」と喜びを述べた
神野が「羨ましい程幸せでいてください」と言った
同性の恋人を持っていて……
此処まで出来るカップルは少ない
憧れだった
安曇が「嫁には出したくない父親の心境です…」とやはり零した
弥勒は眩しそうに康太を見ていた
「おめぇが一枚噛んでたら詠めねぇわ」
康太は笑った
弥勒夫妻と紫雲夫妻は何も言わず
康太の晴れ姿を目に焼き付けていた
康太は笑顔で
「ありがとう」
と伝えた
新郎新婦は披露宴のお色直しの為
スタッフに連れられ別室へと向かった
今度はピンクのウェディングドレスを着せられた
榊原は黒の燕尾服を着せられた
まさか……披露宴まであるとは想わなかった榊原は焦った
本当の男女の挙げる挙式と変わらなかったから……
瑛太はご祝儀は受け取らなかった
時間がなかったから引き出物は用意出来なかったから
ご祝儀は不要だと言って笑っていた
とても幸せそうな笑顔だった
披露宴では花嫁はピンクのウェディングドレスを着て
新郎は漆黒の燕尾服に身を包んでいた
瑛太が選んだ衣装だった
この日の為だけに瑛太は購入した
貸衣装なんかで式を挙げたくなかった
披露宴会場のドアが開かれると
花嫁と花婿が入場してきた
淡いピンクのウェディングドレスに身を包む康太は美しかった
漆黒の燕尾服に身を包む榊原は、やはり王子みたいだった
雛壇に座らされ、披露宴が始まる
宴会好きの飛鳥井は飲めや歌えの大騒ぎだった
事前に両親に向けてスピーチは用意してなかった
ぶっつけ本番で榊原はマイクを渡された
「………え?本気ですか?」と聞き直す程に驚いた
式の進行は緑川一生
一生は「想った事を言えばいい」
と榊原に言った
マイクを持ち榊原は想いを伝える
「今日は本当に素敵なサプライズをありがとうございました
本来なら僕達は男同士……挙式など夢のまた夢の話でした
でも何時か……康太にウェディングドレスを着せたかった
カタチある証を遺したかったのです…
その望みも叶いました……
瑛兄さん……本当にありがとうございました
ご出席いただいた皆様
本当にありがとうございました
僕達は……本当に幸せ者です
父さん…母さん…僕は妻を得ました
本来なら許されない……関係の僕達を許してくれ……
見守って下さり本当にありがとうございます」
後はもう言葉にならなかった
榊原はマイクを康太に渡した
「瑛兄、ありがとう
伊織が一番喜ぶ誕生日プレゼントだった
父ちゃん母ちゃん……本当にありがとう
オレをこの世に生み出してくれてありがとう
オレは幸せだ
こんなに皆に祝福されて……
式に出席してくれた皆様にも心よりお礼を申し上げます
本当にありがとうございました」
康太も涙を流し……深々と頭を下げた
榊原は康太を抱き締めた
そして肩を震わせて……泣いた
こんな幸せ……
皆が……祝って支えてくれたから迎えられた日だった
清四郎は立ち上がると榊原と康太を抱き締めた
真矢も立ち上がり二人を抱き締めた
そして席に戻ると飛鳥井の家族が二人を抱き締めた
戸浪や相賀、善之介、安曇、神野と小鳥遊も
次々に康太と榊原を抱き締めた
康太は車椅子の須賀の側に行くと
須賀を抱き締めた
榊原も須賀を抱き締めた
「無理させたな」
康太が須賀に言う
「いいえ。こんな素敵な挙式に参列出来て
本当に生きてて良かった……
でなきゃ口惜しくて……未練ばかり残りました
康太、誰よりも幸せになって下さい」
「須賀も幸せになれ
誰よりも幸せになれ
それがお前をこの世に引き留めた……
俺の願いだ……」
「………康太……」
須賀は泣いていた
熱い滴が頬を濡らす
「キャンドルサービスの準備を」
とスタッフに呼ばれリボンが施されたキャンドルを二人で持った
皆のテーブルを回りキャンドルの炎を灯してゆく
テーブルを回る二人は誰よりも幸せそうで
輝いていた
両家の両親に花束を贈呈して滞りなく式は終わった
記念写真を撮って、その結婚式の総ての行程が終わった
お昼を挟んで行われた挙式は4時間ちょっとだった
午前10時に挙式を挙げ
午後12時から披露宴を行い
4時間ちょっとの結婚式は終わった
新郎新婦が来客のお見送りに正面玄関に向かい見送る
皆に祝福の言葉を贈られ、お礼を告げて来客を見送った
弥勒は康太を抱き締めた……
紫雲も康太を抱き締め泣いていた
須賀を連れて来たのは相賀だった
戸浪と三木には次逢う約束をして見送った
来客を見送って控え室に行くと
康太は更にメイクを整えられた
やっとこさ脱げると思ってた康太は
「あんだよ?脱げねぇのかよ?」
と文句を言った
瑛太が控え室に現れ
「康太、新婚旅行は大阪です
行きたかったんでしょ?」
と言った
「ありがとう瑛兄
今日は本当に嬉しかった」
「綺麗ですよ……康太」
「……まだ脱いだらダメなのかよ?」
「そのままの格好でホテルニューグランドまでお送り致します
予約は取ってあります。
副社長にはこの格好で行くのも伝えてあります」
「………瑛兄……」
「脱いだら伊織が悲しみますよ」
ウェディングベールの変わりに髪に花をあしらい可愛い髪型へと変えてゆく
「御用意出来ました」
スタッフが言うと瑛太は肘を差し出した
康太は瑛太の肘を軽く掴んだ
ドレスの裾を上げて貰い歩きやすくなっていた
康太は瑛太にエスコートされ榊原の元へと向かった
榊原は玄関ホールで康太を待っていた
瑛太にエスコートされて来る妻に目を奪われた
瑛太は笑顔で康太を渡した
「私がホテルまで送って行きます
翌朝ウェディングドレスを片付ける箱を持ってホテルに迎えに来ます
着替えはどうしますか?」
「慎一に持って来る様に頼んで下さい」
と言い寝室の鍵を瑛太に渡した
「慎一に後で渡しておきます
では明日の朝まで、ゆっくり過ごしなさい」
そう言い瑛太はゆっくり歩き出した
駐車場まで向かい瑛太の車の後部座席へと康太を乗せる
榊原はその横に乗り込んだ
それを見届けて瑛太は運転席に乗り込み車を走らせた
「義兄さん…本当にありがとうございました」
榊原は瑛太にお礼を言った
「伊織、新婚旅行に兄も行って構いませんか?」
「ええ。義兄さんだけでなく皆さんご一緒でも構いませんよ?」
「伊織、私は康太の伴侶が君で良かったと想います
普通、花嫁について行こうとする家族は敬遠されるのですが……伊織は康太の総てを受け止めて守ってくれる
本当に君には感謝しても足らないです
飛鳥井の家から康太を出せない……
そんな条件なのに康太や家族に尽くしてくれます
そんな頑張ってる伊織に兄からの細やかなプレゼントです。」
「………義兄さん……」
「式場では我慢させました
もう我慢しなくて良いです」
瑛太は笑ってそう言った
瑛太の車はホテルニューグランドまで向かい
車寄せに車を停めると、副社長が出迎えてくれていた
慎一が連絡を取ってくれていたのだ
車から降りる花嫁を見て副社長は
「とてもお美しいです」
も賛辞を述べた
「こちらへ」
副社長自ら二人を案内して歩く
ホテルに居合わせた人達は急に現れた新郎新婦に目を輝かせた
美男美女のカップルに……
どことなく「お幸せに!」と声がかかった
康太はニコッと微笑み頭を下げた
瑛太はフロントで手続きをすると帰って行った
「康太様、こちらのお部屋に御座います」
副社長がカードキーでドアを開けた
「当ホテルから細やかな御祝いが御座います
ディナーのお時間は午後8時で構いませんか?」
「ええ。構いません
ありがとう御座います」
「お似合いです!お二方は。
お幸せになって下さい」
「ありがとう御座います」
「では、ごゆっくり」
副社長は頭を下げると、部屋を出て行った
部屋に二人きりになると榊原は康太を抱き寄せた
ともだちにシェアしよう!