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第55話 愛が始まる日①

榊原は気を失って寝ている康太を抱き上げるもバスルームへと向かった 大きなジャグジーにお湯をためて たまる間に康太の体躯を洗う 中を掻き出し洗っていると康太は目を醒ました 「伊織…」 「気が付きましたか?」 「……ん…ごめん…」 「何で謝るんですか?」 「伊織の誕生日なのに…… 最後まで付き合い切れずに気絶した…」 「気にしなくて良いですよ? 僕は君がいてくれるだけで良いんです 君を抱いて、君と繋がり 同じ時間を刻む 君の体内にも僕を刻む それを感じていたいだけです」 「伊織……愛してる」 「僕も愛してます。奥さん」 榊原はそう言い康太を抱きしめた 康太の体躯の中も外も綺麗に洗うと 康太が榊原の体躯を洗ってくれた ゴシゴシ力任せに洗うのは痛いけど…… 康太の愛だった この子は……きっと今まで自分の体躯も力任せにゴシゴシしていたのだろう と苦笑する 「伊織、腹減った…」 康太は榊原を洗うと空腹を訴えた 「ディナーの時間です。 も少し待ってなさい」 「オレ…ドレスしか着るもんねぇじゃんか…」 「着替えは明日の朝しか来ません バスローブで構わないでしょ?」 「………何か恥ずかしい…」 バスルームから出て髪を乾かしバスローブを着せられた 康太にはデカくて…肩がずり下がって来る 「君はベッドにいなさい 僕が出ますから……」 こんな艶めいた康太を誰にも見せたくなかった 副社長の約束した8時ピッタリにディナーは運ばれた 副社長からのカードが添えられていた 給仕は手早く支度をして、部屋を出て行った 榊原はベッドルームまで康太を呼びに行き ディナーの席に着いた 榊原はカードを康太に渡した カードを開くと 『ご結婚おめでとうございます お二人のお姿を拝見させて戴けて喜びも一塩でした 末永くお幸せに…それだけをお祈りしております』 と書かれていた 「大切にしまっておきますね」 榊原が言うと康太は頷いた 二人で寛ぎの一時を過ごす 美味しいディナーを食べて、夢も見ないで眠りについた 榊原と康太の愛が…… 新たに始まる 朝早く榊原の携帯が鳴り響いた 「はい。」 榊原が電話に出ると 『これからホテルへ向かいます 初夜はどうでした?』 瑛太からだった 「義兄さん、とても素敵な初夜でした」 『それは良かったです ではこれから向かいます』 瑛太はそう言い電話を切った 康太はベッドの上で全裸で胡座をかいていた 「瑛兄?」 「そうです。 着替えがないと困りますからね」 「ドレスも片付けねぇとシワになる」 「クリーニングに出して取っておきましょう」 「だな。」 暫くするとドアがノックされた 榊原がドアを開けると瑛太が立っていた その後ろには一生と聡一郎、隼人、慎一に清四郎までいた 車に乗れないのでは?? と想ってると笙もいた 榊原は全員を部屋に招き入れ、慎一から着替えを渡してもらった 「康太は?」 瑛太が言うと全裸で康太は顔を出した 「瑛兄、ドレスを片づけてくれ」 全身に榊原の愛撫の散らばる体躯を惜しみもなく晒し 康太は瑛太に言った 瑛太は苦笑して一生にドレスの箱を渡した 榊原は康太の着替えを袋の中から出して 康太に着せてゆく 下着まで履かせてもらってるのかよ…… と一生は目眩を覚えた 榊原は康太にトランクスを履かせ総て着替えをやっていた 「甘やかし過ぎじゃねぇ?旦那……」 「お気にならずに! 康太の事は僕が全部やらないと気が済みません 康太は何も出来なくて良いのです」 何も康太にさせない 総て榊原がやる 康太は何も出来ない…… 榊原がいなきゃ…… 何も出来なくなる…… それを狙ってるのは一目瞭然だった 康太は眠そうに榊原に服を着せて貰っていた 康太を着替えさせるとドライヤーで寝癖を直し整える そして榊原もバフローブを脱ぎ捨てると 皆の目の前で着替えを始めた 榊原の体躯にも…… 康太が吸った跡がある どんだけ激しい初夜だったのか……伺える 背中の爪跡……が生々しかった 榊原は着替えを整えるとクローゼットのドアを開け チェックした そして伴侶の腕時計を着けると 「お待たせしました!」 とスッキリ爽やかな顔して笑った 康太はどんより疲れた顔をして 榊原はスッキリ爽やかな顔だった 瑛太は苦笑した 榊原は清四郎を見ると 「どうなさったのですか?父さん」 と問い掛けた 清四郎は嬉しそうな顔で 「挙式の後、飛鳥井の家で祝賀パーティーを開いたのですよ! 式に参列して下さった方全員とお食事したのです」 全員とお食事??? 嘘……康太は思わず 「………弥勒や龍騎も?」 と問い掛けた 「ええ。彼等もお誘いしましたら喜んで!と参加されました」 「須賀は?」 「彼も来てました お酒はダメですからね美味しい料理でもてなしました もうじき退院出来るみたいですよ」 清四郎の言葉に康太は 「………え?嘘……」 と呟いた 「松葉杖は手放せないでしょう 多分…生涯…手放せないだろうと言ってました でも手は使えてました 車椅子でなくても松葉杖があれば歩いて飛鳥井の家まで来てました」 「そうか。」 康太は嬉しそうに笑った 「新婚旅行に行くんですよね?」 「おう!週末を利用してな行くつもりだぜ」 「ご一緒しても良いですか?」 「良いぜ! 夜、伊織との時間を邪魔しねぇならな! お預けは……避けてぇんだよ 溜まったツケを一気に徴収されっからよぉ~ 昨日も気絶しちまった…… まぁ伊織の場合……気絶してもガシガシ犯すけどな……」 何ともまぁ生々しい言葉に…… 清四郎は言葉を失った 「清四郎さんと笙は、この後ご予定は?」 「今は長いオフです 次の仕事が長いので今は休養中です」 と清四郎は答えた 笙も 「真野が入ってから僕は休みもなく一ヶ月半働き続けました! 長期休暇をもぎ取って来ました!」 高笑いした それ程に扱き使われ、ハードな仕事三昧の日々だった 「清四郎さん、オレと瑛兄の車に乗れ!」 と康太は言い清四郎の手を掴んだ 「その前に何か食わせろ…」 清四郎は笑って 「では下のレストランで朝食を取りましょう その後、ご一緒します」 清四郎の言葉を合図に康太達は部屋を後にした 瑛太が 「精算は終わってます。 キーを返したらレストランに行きましょう」 と言うと、一生は瑛太に 「レストランへ先に行ってて下さい 俺と慎一はドレスとタキシードを車に先に積みに行きます」 そう言い手を差し出した 瑛太は一生の手の上に車のキーを乗せた 慎一は榊原の寝室の鍵を、榊原に返した 康太は瑛太や清四郎達とレストランへ向かい 一生と慎一は車に荷物を運びに行った レストランで軽い軽食を取った 康太は「沢庵食いてぇな…」と呟いた 「なら飛鳥井に帰って食べますか?」 「食いてぇけどな昼まで我慢する」 「僕は仕事に行きますよ?」 「おう!構わねぇ! そろそろ真贋の仕事も調整つけてくれ!」 「解りました。近いうちに入れます それも新婚旅行から帰らねば無理でしょ?」 「……だな。」 「何処かに行く時は電話を下さい」 「オレが出来ねぇなら一生がするだろ?」 「怠いんでしょ? 愛し合った翌朝位大人しくしてなさい」 「………毎日オレは大人しくしてぇとダメじゃねぇかよ!」 康太は文句を言った 榊原は笑っていた それを聞いた一生は……濃すぎると胸やけを覚えた 康太は不敵に笑っていた 果てを見て、不敵に嗤う テーブルを爪先でコンコンッと叩き……嗤っていた 「慎一、伊織のプレゼントは?」 「寝室に入れておきました」 「なら今夜にも渡せるな」 そして何でもない顔して笑う 食事を終えると康太は榊原と清四郎と瑛太の車に乗り込んだ 榊原は康太を膝の上に抱き締めていた 一生達は笙の車に乗り込んだ 康太は車の中で 「清四郎さん、時が来た」 と告げた 「そうですか。 では康太のお好きなように」 「焦れってぇかんな 今日、これから動く」 「新居は用意せねばなりませんか?」 「出来た女だ! 弁えてしゃしゃり出る女じゃねぇ 真矢を立てて尽くしてくれると想う」 「……妻は……気が強いですが?」 大丈夫なのですか……不安を口にした 「家族を欲しがっていたのは誰よりもアイツだ 夫の家族なれば尽くして弁える 榊原の家に入れて、やっていける人間だとオレは踏んでる どうか貰ってやって下さい」 康太は清四郎に頭を下げた 清四郎は慌てて止めさせた 「止めて下さい! 君が選んだ人間なれば妻も認めます 家族を知らぬのなら……家族になれば良いのです」 「飛鳥井のオレらが住んでるタワーマンションに佐伯を住まわせる……」 「善之介さん所の?」 「そうだ。余生は娘の側で終えたい…… それしか遺ってねぇからな……」 「なれば娘を見守って生きて行けば良いです 私達は仕事がある 不規則な生活ですからね……」 「ありがとう清四郎さん」 清四郎は康太の頭を撫でた 「私達は伊織が幸せで、笙も幸せなら…… それで良いのです! それを側で見守って、好きな仕事を生涯続けられればそれで満足です」 清四郎の言葉は重かった 子供の為なら…… 親の愛だった 車は飛鳥井のマンションの駐車場へと向かう 地下へと滑り込み、瑛太の駐車スペースに車を停めた 車から降りると一生が飛んで来て康太を抱きしめた 慎一も康太の側に行き、聡一郎や隼人も康太を取り囲んだ 皆でエレベーターに乗り込み 榊原と瑛太は会社の階で降りた 康太と清四郎達は自宅の階まで上がって行った 応接室へと向かいソファーに座る 康太は一生を呼び寄せると耳元で囁いた ゴニョゴニョ一生にしか聞こえない様に言う 一生は立ち上がると応接室を出て行った 康太は慎一も呼んだ そして何やら頼むと慎一も応接室を出て行った 聡一郎は気にせずPCを駆使していた 隼人は疲れたと部屋に寝に行った 真野に扱き使われたのが、ここにもいた 清四郎は康太を膝の上に抱え 「何か欲しいのはありますか?」 と聞いていた 「清四郎さん、頼みがある」 「何ですか?」 「慎一が今持って来るのを見てくれ」 「良いですよ 何を見せてくれるんですか?」 「清四郎さんと出逢って2年だ そろそろオレもカタチにしてぇんだ オレの2年を見てくれ…清四郎さん」 慎一が康太のリビングから分厚いアルバムを持って来た 三冊にもなるアルバムを慎一は清四郎の前に置いた 「清四郎さんはそれを見ててくれ オレはちょっくら行ってくる」 と言い康太は笙の手を掴んだ 「……え?僕ですか??」 笙が慌てるのもなんのその 笙の手を掴みズンズン歩いてゆく 慎一はエレベーターのドアを開けて待っていた   康太は笙を掴んだまま乗り込んだ エレベーターはすぐ下で止まった 康太は副社長室のドアをノックした 「康太!」 榊原は嬉しそうに康太を出迎えると、兄の腕を掴み 副社長室の机の下に兄を押し込んだ 「動かないで下さいね!  でないと総て無駄になります!」 と釘を刺す! 笙は大人しく副社長室の机の下で丸くなった 榊原は電話を取ると 「用があります! 直ぐに副社長室に来て下さい」 と、連絡を入れて電話を切った 暫くすると副社長室のドアがノックされた 榊原は「どうぞ!」と言い部屋の中に案内した 「突っ立てるんじゃねぇよ! 座れ」 部屋の中に康太がいて、佐伯は……驚愕の瞳を康太に向けた 「………ご用ですか?」 「話があんだよ」 「………私にはありません」 「てめぇ、主の言う事も聞けなくなったのかよ?」 慎一は佐伯を康太の前に座らせた 康太は足を組んで佐伯を見ていた 「腹の子は誰の種よ?」 康太の言葉に笙は慌てて声が出そうになった 佐伯とは別れ話を切り出されたばかりだったから… 夏が過ぎると…… 佐伯は笙を避けた 笙は何故なの?と問い掛けた 真剣に愛していると言葉にした 傷付き泣いている佐伯を護りたいと想った 佐伯に手を差し出すと、佐伯は笙の手を取った そして迎えた朝は……揺るぎない愛があった 白馬だけじゃなく帰って来てからも 関係は続いていた 笙は佐伯と結婚も視野に入れて考え始めていた 榊原と瑛太の秘書をしているだけあって、佐伯は弁えた女だった 空気と気配を読み自分の立ち位置を自然に取れる 笙が今まで知り合った事のない女性だった 笙は夢中になった 夢中になり佐伯を抱いた 佐伯の少年の様な体付きも…… 強気な裏に隠れた儚い顔も…… 全部!愛していた なのに……突然……別れ話をされた 笙は聞くつもりはなかった 長期休暇を取ったのは佐伯を時間をかけて説得するつもりだった 別れ話を切り出しなのに……妊娠?? 佐伯の想いが痛かった どんな想いで……その言葉を言ったの? 笙は目頭を押さえた 「………言いたくありません!」 「明日菜!相手がいて妊娠したんだろ? ならば相手に教えてやるべきじゃねぇのかよ?」 「教えなくて良い! この子は私の子だ……それで良い……」 「それは身勝手な言い分だな その子は産まれた時から父親を知らねぇのかよ?」 「……言える筈などない!」 「あんでだよ?」 「………私は愛された記憶だけあれば生きてゆける…」 佐伯の台詞に榊原はため息を着いた 「その台詞は康太です……」 「………伊織、オレはおめぇを離したくねぇからな… 離れるなら息の根を止めるぜ! 愛された記憶だけじゃもう生きられねぇよ お前に愛されて抱かれるオレでいてぇんだよ」 榊原は康太を抱き締めた 榊原は佐伯に訴えた 「兄は不誠実な人間でしたか? 君を弄び捨てる様な不誠実な人間でしたか?」 榊原に言われ……佐伯は泣きそうな顔になった 「………違う……」 「兄は遊びで女とは寝ませんよ? 兄が君と寝たなら、それは本気だったのです  兄は君を弄び捨てる様な奴ではない筈だ!」 「……笙は遊びなんかじゃない……」 「なら君は遊びでしたか? 違うでしょ?遊びなんかじゃないでしょ? 本気だから独りで子供を産もうと想ってるんでしょ? 違いますか?」 「………伊織……私の事は捨てておいてくれ……」 「厭です! 僕は兄を…榊原笙を最低の男にしたくない!」 「………言えば迷惑がかかる…… 彼は……一般の男性ではない…」 「だから? それを言えば飛鳥井康太も一般の男性ではない 君と僕の何が違いますか?」 佐伯は言葉をなくした 「佐伯、兄に逢いなさい」 佐伯は泣き出した 「………嫌だ……逢えば……何も言えなくなる……」 だから一方的に別れを告げたのに…… 「兄さん!出て来て良いですよ!」 「……え?嘘……嫌だ……」 佐伯は慌てて逃げようとした それを慎一は押さえた 「動かないで下さい お腹の子が興奮すると脅えるんです 胎教に良くない……」 と父親なればの言葉を吐いた そんな事言われたら……立ち上がって走って逃げてく事も出来ない…… 佐伯は顔を覆って泣き出した 気丈な仮面がボロボロ削げ落ち…… これが佐伯の素なのだろう…… 康太はこんなにも儚い佐伯を知っていて…… 生かしていたのだ 「………明日菜……」 笙が佐伯の名を呼ぶ 佐伯は涙で濡れた顔を上げた 「結婚しよう!  君が何を言っても結婚する! お腹の中には僕の子がいるんでしょ? ならば結婚するしかないです! 幸せな家庭を築きましょう!」 流石は榊原の兄だった ゴリ押しで貫き通す辺りが……ソックリだった 「康太、明日にも結婚式を挙げます! そしたら君達と一緒に新婚旅行に行きます!」 榊原は「明日……」と唖然となった 「さてと、ご両親にご挨拶に行かないとな!」 笙は離さなくても良い算段をする 康太はそんな笙を見て 「呼んでおいてやった 一生が連れて来るんじゃねぇか? 清四郎さんが真矢さんを仕事場まで連れに行ってるかんな 飛鳥井の家で待ってろよ!」と謂った とんとん拍子に話が進んでゆく 佐伯は慌てた 「待て!私の話を聞け!」 康太は佐伯が叫ぶと鼻で笑った 「お前の言い分を聞いてたら埒があかねぇかんな オレはおめぇの腹の子を笙に還さねばならねぇんだよ その腹の子は笙の失った双子を一つに閉じこめた魂だ 笙が本気で愛して結ばれた瞬間、ネックレスに閉じこめた魂は腹に宿る…… そうしたのはオレだ! オレは笙にその子を返せねばならぬ義務がある!」 康太は言い捨てた 佐伯と結ばれた晩 ネックレスは切れた 笙は嬉しかった あの子達が佐伯の腹に宿り還って来る その相手が佐伯で良かった 心底……佐伯に惚れていた 「………康太……」 「諦めろ! オレの伊織はオレを死んでも離さねぇぜ 笙はその兄だ…一筋縄で終わると想うな!」 康太が言うと笙は 「会社の帰りに待ち伏せて監禁しようかと想ってました! 僕は別れる気はない! 説得せねばと想ってたんです 別れるなら……君を殺して……お腹の子と一緒に死ぬしかないと想ってました 後は康太が昇華してくれるだろうと、僕は死ぬつもりでした!」 流石!榊原の兄 恐ろしい台詞を爽やかに吐き嗤った 「諦めろ明日菜…… 伊織の兄だぞ……」 「………康太……私の……選択ミスか? こんな恐ろしい男は初めてだ……」 「愛してたから股を開いたんだろ? おめぇは処女に近い……頑なな女だからな… 無理矢理なら舌をかんで死ぬだろ?」 「愛している!」 佐伯は叫んだ でなきゃ体躯をペロペロ舐められた時点で…… 嫌いな相手なら殴り倒してる それを耐えて……あんな所や……こんな所を舐められ…… 凶悪な……笙のを突っ込まれた 愛してなきゃ無理だった…… 「佐伯…耐えろ…… 伊織は……気を失っても犯り続けるかんな その兄だからな……太いし硬いし…しつこいし 大変かもな……愛され続けるのは結構大変だぜ」 康太はそう言い笑った 「さてと、オレの用意したステージは総て整った 笙、オレの用意したステージを無駄にするな」 「康太、ありがとう! 決して無駄にはしません!」 笙は佐伯を掴むと嗤った 佐伯は身を竦めた 何で……社長や副社長同様の男なんか選んだ?? 榊原笙は違う人種に想えたのに…… 「……詐欺に近い……」 佐伯は呟いた 康太は大爆笑した 榊原は立ち上がると 「見届けます。 そしたら奥さんを膝の上に乗せて仕事します」 と康太を抱き上げた スキップしそな勢いの榊原の後を、スキップしそな勢いで笙は佐伯を掴んで付いて行った 慎一は誰よりも先を歩き、エレベーターのボタンを押した エレベーターが来ると中に乗り込み鍵穴にキーを差し込んだ 最上階の住宅に行くには、この鍵がないと上がれなかった 最上階につくと一生が待ち構えていた 「総てはお前の想いのまま整った」 「一生、悪かったな」 「構わない。さぁ、どうぞ!」 一生は、笙達を迎え入れた 応接室のドアを一生が開ける 慎一はお茶の準備にキッチンに向かった 聡一郎もキッチンに向かって手伝いをする 「聡一郎、無理しなくていい」 康太に何やら依頼され聡一郎は忙しそうだった 「気分転換ですよ お昼、頼んどく?」 「康太が腹を空かせてます さっき、お腹が鳴ってました」 「………ホテルで沢庵食いたい……言ってましたからね……」 「聡一郎、頼めますか?」 「適当に頼んどく!」 聡一郎が言うと慎一は応接室にお茶を持って行った 応接室には佐伯良人が一生に連れられソファーに座っていた 榊原の両親、清四朗と真矢もいた 笙は両親に深々と頭を下げると 「僕は佐伯明日菜さんと結婚します!」 と宣言した 清四朗は事前に康太に聞いていたから…… 「遅い……!」 と零した 「伊織は康太を交際と同時に押し倒し犯り続け交際3日で飛鳥井の家族にご挨拶に行ったと謂うのに‥‥ 笙、お前は何時になったら紹介してくれるのか、待ちくたびれました」 交際と同時に押し倒し‥‥犯り続け…… 交際3日で‥‥‥ごり押しの御挨拶 それは出来ない芸当だった それを聞けば弟がいかに切羽詰まって焦っていたか解る   「すみません父さん…… 伊織の様な訳には行きません」 「君と伊織は比べてません 君は君なりにです ですが遅すぎます!」 笙は母に「佐伯明日菜さんです」と紹介した 佐伯はとても美しかった こんな美人の才媛……笙で良いの?と不安になる 「笙の母の榊原真矢です よろしく」 真矢は明日菜に挨拶した 「佐伯明日菜です 宜しくお願いします……」 その瞳は不安で揺れていた こんなに美人なのに…… 自信のない瞳は……康太を見ていた 「んな顔するな! お前の婚礼に駆け付けた父を心配なさせんじゃねぇ!」 康太は立ち上がると明日菜の頭を撫でた 「腹には笙の子がいる! 佐伯、寿退職おめでとう!」 「誰が?」 佐伯は問い掛けた 康太はニコッと笑って 「おめぇが!」 と、明日菜に告げた 「寝言は寝て言ってろ!」 「………おい……」 康太は不安になって榊原を見た 榊原は康太を引き寄せ抱き締め、その頬にチュッと口吻 「康太、佐伯が結婚して子さえ産めば問題はないでしょ?」 「……伊織……」 「寿退職は無理でしょ? 佐伯明日菜は君の秘書で居続ける 飛鳥井に託児所があるので困らないでしょ? 暇さえ出来れば父さんと母さんも孫の面倒は見るでしょうし、ね。 君は何も考えなくて良いです 僕が全部やってあげますから……」 康太は言葉をなくした 何という言い分…… それを受けて笙も 「仕事を続けたいなら、すれば良いです 君は飛鳥井康太の秘書なんですから! もうじき、康太の子も帰って来ます そしたら僕の子を混ぜて入れておいても面倒は見てくれますから心配しなくて大丈夫です!」 笙の榊原ばりの言い分に……真矢は目眩を覚えた この兄弟……似てないと想ってた 似てない?……似過ぎだった こんなに似なくても良いのに…… 「奥さん、僕は両親と同居です! 忙しい母に変わって家事は大変です 僕も伊織を見習って掃除は手伝います!」 話がとんとん拍子に進む 笙は佐伯を見ると深々と頭を下げた 「明日菜のお父様ですね 榊原笙です。 お父さん!娘さんを僕に下さい!」 笙は真摯に佐伯を見て頭を下げた 「娘を幸せにしてやって下さい……」 「必ず幸せにします!! 結婚の記者会見は康太がして下さいね! 明日菜を見せるのは嫌です!勿体ない!」 「笙、結婚の記者会見はお前と神野がしろ オレはカタをつけねぇといけねぇ用がある!」 「では神野に頑張って貰います!」 「真野が段取りしてくれてる オレは当分テレビには出ねぇ! 次に出るのは須賀直人の復帰会見と決めている」 その前に出る気はない また兄の結婚会見に……しゃしゃり出る様な真似などしたくはなかった 「佐伯…」 康太は佐伯良人を呼んだ 「何でございますか?康太様」 「善之介がこのマンションに家を買った お前が勇退した後に過ごす家を買った お前はそれを貰い受け、そこで過ごせ 孫の顔を見て、娘を見守り余生を過ごせ」 「………康太様……」 佐伯は顔を伏せて泣いた こんなにも優しい人達に見守られ 自分は生きてきた 主が飛鳥井康太と出逢った出逢いは大きい お仕えした当時の善之介ならば…… 使用人など興味もなかったろう だが今は違う 善之助は仕えさせてしまった佐伯の事を誰よりも不憫に想っていた 「…………康太様……」 「妻の分もな明日菜を見守ってやれ」 「………佐伯は……本当に幸せで御座います」 「もっと幸せになれ! もっと幸せになって黄泉に渡った時に妻に伝えてやれ! 明日菜は世界一幸せでした!と妻に伝えてやれ」 佐伯は「はい……はい……」と返事をして泣いた 「取り敢えず土曜日に、式を挙げる 聡一郎が式場を抑えてくれてるだろ? そしたら新婚旅行に出掛けようぜ!」 「康太……」 笙は感激して康太の名を呼んだ 「真矢さん、明日菜は弁えた女です 空気も詠めるし配慮も出来る 何処に出しても恥ずかしくない様にオレが育てた女だ!同居して戴けませんか?」 「ええ。構いません 康太が太鼓判を押してくれるなら大丈夫ですね 私達は不規則な仕事です ですから合わせようとはしなくて良いです」 真矢は清四朗から事前に話は聞いていた 佐伯明日菜の印象は悪くはなかった 弁えて立っていながら総てを把握してる 見極める目は一流の秘書だと想った 流石瑛太の秘書だと感心してたら 「私は飛鳥井康太に仕える秘書なのです」 と夏の白馬で明日菜は胸を張って清四朗夫妻にそう言った 側にいても雰囲気を崩す事なく存在する その配慮に……真矢は一目置いていた 佐伯が嫁なら……そう思った   こんなに出来た女なら、嫁としても大丈夫だろう 前の女は……逢うのも嫌だった 下品で胸しかない……あからさまな女に真矢は逢うのを拒絶した そんな時、何時も佐伯の様な女性なら……と思った 康太の為に在る存在 康太の為なら、その命惜しみもなく擲って本懐を遂げる その強さが佐伯には見られた 流石、蔵持善之助にお仕えする執事の娘だと…… 真矢を唸らせた その佐伯ならば真矢は大歓迎だった 「明日菜!私が今日から貴方の母親です」 真矢は菩薩の様に優しく微笑み、そう言った 「真矢さん……」 「お義母さん!そう呼んでね!」 真矢は明日菜を受け入れていた 清四朗は「なら僕はお義父さんです!」と言い寂しそうに…… 「本当なら康太にも義父さんと言って欲しいのです……」 と呟いた 真矢も「私もお義母さんと呼ばれたいわ」と呟いた 康太は困った顔して榊原を見た…… 「康太は無理せず好きに呼べば良いんです。」 と康太の唇にキスを落とした 「話は付きましたね! 佐伯、僕の父と母を宜しくお願いします」 「……伊織……」 「無駄な抵抗はお腹の子に良くないです! 康太、僕達の子に逢いたいです…… そろそろ還しませんか 君と僕の子です!側で育てたいのです」 「ん。伊織、考えとく」 「奥さん、愛してますよ」 「オレも愛してる…」 ラブラブな雰囲気を醸し出す…… 皆は平気な顔をしていた 明日菜は居心地悪かった 「………私は仕事に戻る……」 「明日菜、それは無理だわ」 康太はそう言い榊原の首に腕を回した 続きを榊原が言う 「明日菜、君のマンションを引き払って 榊原の家の兄の部屋に運び込まねばなりません 康太はこの日を見ていて兄さんの部屋は大きめに取ってあるのです! 子は2人!2人分の子供部屋も作ってありますよ 兄さんは自分の部屋が、あんなに広いのに不思議には想いませんでしたか?」 「………想った……」 「図面を引かせたの康太です 父さんや母さんには事前に説明してあったみたいです その日がやっと来たのです! 明日菜はお腹に気を付け部屋を片付けて来ねばなりません 仕事は榮倉がいます! 佐伯の後を引き継がせる為に用意した人材です ですから多少は融通が着くと想いますよ?」 「………副社長…私は康太に還す為に仕事をする…… あの日…康太が現れねば……私は死んでいた レイプされそうになり売り飛ばされそうになった その時初めて……私はガキだと思い知らされた 犯されていたら……命を絶っていた… また変な薬漬けにされていたら……生きるのを辞めていた それを救ってくれたのは康太だ 私は飛鳥井康太に還す為に生きている……」 「康太は誰よりも君の幸せを願ってますよ 康太はこの世に引き留めた者の幸せを願って止まない 幸せにしてやる義務があると……康太は背負う 明日菜、君は誰よりも幸せになれば康太に還せれてます 引越の準備をして榊原に行きなさい! 君がすべき事はお腹の子に為に家庭を築く!」 明日菜は泣いた 笙は明日菜を抱き締めた 「兄さん、明日菜を連れて行って榊原に越して来なさい」 笙は立ち上がると康太に深々と頭を下げた 「康太、本当にありがとう御座いました」 「笙」 「はい!」 「オレは食えねぇもんは受付ねぇんだ さっさと行け! 誰よりも幸せにしてやってくれ! そして誰よりも幸せになれ!」 「幸せになります!して貰います! では、僕は引越の準備がありますので!」 笙は明日菜を引き摺って部屋を出て行った 康太は笑ってそれを見送った   「佐伯、明日菜も婿を取ったな」 「はい。康太様のお陰です」 「あと1ヶ月、悔いのない執事人生を送れ!」 佐伯はハンカチを目に押し当て頷いた 「佐伯、蔵持の家まで送ってゆく 善之助にありがとうと伝えてくれ!」 「はい。お伝え致します!」 康太に何度も頭を下げると佐伯を促し、一生が佐伯を送って行った 部屋には康太達と清四朗夫妻だけになった 「清四朗さんアルバム見た?」 「ええ。見させて戴きました 何時……撮られたのですか? 私は解りませんでした……」 「それを本にして出版する 東都日報の東城が乗り気でな、事務所の許可だけ得たら、出しても良いと言ってくれている」 「…………本当に?」 清四朗は、ちゃんとした本を出していなかった 何時かは、榊 清四朗 此処に在り!と言う本を出したかった 清四朗の悲願でもあった 「この写真……使っても良いのですか?」 「おう!オレが撮り溜めた写真を伊織がプリントアウトしてくれて、保存してくれていたんだ 清四朗さんはまだ本を出していない その日の為にオレは撮り溜めておいた写真だ 元の写真は伊織がロムに保存してくれている もうじき家族でCMも撮るしな、出すなら頃合いだと想う」 「……社長に……電話を入れます……」 清四朗は泣きながら言った 社長に電話を入れると快く了承してくれた 今度正式に契約の場を設けるから、そこで詳細は話し合おうと申し出があった 清四朗は電話を切ると、その旨を告げた 「康太、正式に契約の場を設けると言ってました」 「………契約……? オレは契約は関係ねぇだろ?」 「そう言う訳にはいかないでしょ?」 「その写真は総て清四朗さんの為に撮ったんだ オレは契約の席とか……必要ない そう社長に電話しとけよ」 清四朗は社長に電話を入れた すると清四朗の事務所の社長はそう言う訳にはいかないんです!と聞き入れなかった 写真も見たいから、今から清四朗の所まで行くと言い出した 『今、何処においでですか?』 と尋ねられ 「息子の家にいます」 と、想わず答えた すると社長は『今から行きます』と言い電話は切れた 清四朗は康太に 「社長がこの家におみえになるみたいです……」 と告げた 「え!佳久が来るのか?」 康太は立ち上がった 「………伊織、オレは部屋に帰る!」 逃げようとする康太を捕まえて、榊原は膝の上に乗せた 「君が撮った写真でしょ?」 「………だけど……」 「大丈夫です。僕がいます」 康太と榊原の会話が見えて来なくて…… 清四朗は「………あの?社長とお知り合いですか?」と尋ねた 「父さん……お知り合いなんですよ ですから息子の家に……と言っただけで飛鳥井に来れるのですよ」 清四朗は、あ!と想った そう言えば……住所を教えてない…… 「伊織も知っておいでか?」 「…………ええ。康太と甲斐佳久は古いですからね」 「知りませんでした……で、何故康太は逃げるのです? 社長は康太に迫ってるんですか?」 「違いますよ父さん……そう言うのとは違います 甲斐佳久さんは康太を師匠と慕っているのです」 「初耳です……康太が社長と知り合いだった…… それも驚きです」 「元は弥勒厳正のご学友らしいです」 弥勒厳正の……なる程 それで納得した 「康太が次期社長を叩き直したらしくてね 康太の携帯に何時も電話が入ってます 何方なんですか…とお聞きしたら父さんの事務所の社長だと教えて貰いました」 と榊原は説明した   「父さん、事務所は違うのにCMの許可が出た 父さんも母さんも、兄さんも、それぞれ事務所は違うでしょ? まぁ母さんと兄さんは康太なら融通が効くでしょう でも父さんの事務所はkai芸能事務所ですよね? 何故すんなりCMの許可が下りたか……不思議でなかったですか?」 そう言われれば…… 芸能事務所の垣根をがある限り……共演は難しい それがすんなり通ったのは……考えてみれば不思議な話だった こうして言われれば総てが納得出来た 「……なら、何故康太は…」 言おうとすると榊原の電話がけたたましく鳴り響いた 『飛鳥井のマンションに来ました! 誰かお迎えに来て戴けませんか?』 社長の声だった 清四朗は愕然とした 相賀和成でさえ飛鳥井の新居は知らなかった それを知っていて適格に来る辺り…… やはり旧知の仲だと伺い知れた 「慎一、佳久は知ってるだろ? 連れて来てくれ」 「解りました。甲斐さんをお連れします」 慎一は応接室を後にした 「康太と社長はどんな仲なんですか?」 どんな仲……勘繰りたくもなる 榊原が「師匠と慕っていると言いませでしたか?」と答えた 清四朗は社長を思い浮かべた 相賀位の年で貫禄のある男だった 清四朗は社長よりは、少し若い 事務所の立ち上げ当時から清四朗が在籍した事務所だった 今は押しも押されぬ芸能事務所になってかなりのタレントを抱えてる中堅と言われる芸能事務所だった バタバタと足音が聞こえて来た 応接室のドアを開けるとそこには甲斐佳久が立っていた 「康太!」 甲斐は康太を近付くと抱き上げて高く持ち上げた まるで……子供をあやす様なそれに清四朗は唖然とした 「佳久…下ろせ…」 「康太、久方ぶりだからお前の顔を見せろ! それでなくとも無理を聞いてやったではないか!」 「………だから嫌なんだよ……」 康太はボヤいた 榊原は笑っていた 清四朗は榊原に 「何時も何ですか?」 と問い掛けた 「何時もですよ……甲斐さんは康太と同い年の子を亡くされてます…… 写真を拝見したら……康太と似ている子でした」 榊原の言葉に……清四朗は言葉もなかった 「康太、挙式を挙げられたとか……」 「おう!昨日な伊織と式を挙げた」 「事前に教えてくれれば……祝いを渡せたのに……」 甲斐は残念そうに……話した 「佳久……オレ達は知らなかった 瑛兄のサプライズだったんだよ 解っていたらお前にも教えていた」 「そうなんですか。 では飛鳥井に来た要件に移ります!」 甲斐は康太を膝の上に抱えて話を始めた 「写真を拝見出来ますか?」 甲斐がそう言うと清四朗が、甲斐の前にアルバムを置いた 甲斐は社長の目で写真を見ていた 「………素晴らしい! 榊 清四朗を知っている人間なればこそ撮れた1枚ですね 出版しても宜しいのですか?」 「おう!東都日報の東城が乗り気で待ってる 榊 清四朗が満を持して出す本だからな 異存がないなら東都日報で出してやってくれ」 「異存など御座いません! 康太の名を出しても宜しいのですか?」 「構わねぇ…… でも無関係の奴が自分も撮って下さい……って言うのはお断りしてくれ」 「当たり前じゃないですか! 君は飛鳥井家の真贋 それ以外にはなれないのです! 下手に使おうものなら……厳正の倅が出て来るであろうて!」 甲斐はそう言い豪快に笑った 「康太、君に渡すモノがたまって来てるのです お時間を作って下さい 大学祝いもまだ渡してない 小学校の頃から進級の祝は欠かしてないじゃないですか!」 逢えば忙しさに任せて…… 放ったらかしだったから……グチグチ言うだろうと想っていた 「……佳久、悪かった…」 「私は清四朗が白馬に行くと言えば、君と休みを合わせて出してます!」 「佳久……今度時間を作る……」 「待ってます!」 甲斐は康太の頭を撫でた 清四朗の瞳に気が付き甲斐は笑った 「私は倅を亡くしました…… 康太と同い年の子です 長男とは一回り違う……年の離れた子を妻は産みました 高齢と言う事もあり難産でしたが…… 元気な……子供でした…… 中学の時……部活帰りに…事故で死にました 私も妻も……耐えきれませんでした 実際……妻は体調を崩し……倅を亡くした翌年に亡くなりました 私は死のうとしたんです…… それを止めたのが弥勒厳正……友でした 暫く……厳正の処で暮らしてました 源右衛門に連れられ……康太に逢ったのは…… その時です 私は康太に救われた…… 康太は私を抱き締め……死ぬな……と言ってくれたのです 私は康太に縋り付き泣きました 息子を亡くしてから……泣けなかったのです 妻を亡くして……泣けなかったのです 以来…康太の成長だけが、私の楽しみです 息子と重ねては見ていません 私は康太の行く末が見たいのです 手を掛けなかった……長男を叩き直してくれたのは康太です 康太には還しきれない想いがある……」 甲斐の話を清四朗は黙って聞いていた 真矢は知っていたのか……平気な顔をしていた 「真矢さん、今日もお美しい! 今度康太とまた食事に行きましょうか?」 「ええ。甲斐さん  またご一緒出来たら嬉しいです」 と真矢はニコッと笑った 知らなかったのは清四朗だけだったみたいだ 清四朗は拗ねた顔をした 「…あなた……そんな拗ねた顔しないの……」 「私だけ蚊帳の外でした……」 真矢は夫を撫でた 康太は甲斐の膝から下りると、清四朗を抱き締めた 「清四朗さん知らせなかった訳ではない…」 康太が言うと榊原も 「康太は敢えて言わなかった訳ではないです 康太は……死にかかったり……殺されかかったり… この一年、本当に色々ありました……」 と康太の現実を直面した言葉を述べた 「伊織……康太……」 「真矢さんとは甲斐の事務所にCMの依頼に行った時、連れられたレストランで逢ったんだ 偶然だ……伊織がいなかったからな真矢さんは心配して声を掛けてくれたんだ。それだけだ」 康太が言うと真矢も 「そう。撮影の打ち上げに行ったら康太がいたので驚きました! 打ち上げそっちのけで、康太のお席に座ってしまいましたけどね」 と笑ってそう言った 「………社長、康太は飛鳥井家の真贋 それでなくとも狙われてます……」 「大丈夫だ!清四朗 甲斐佳久、命を懸けても御守りいたす!  次期社長も康太に叩き直されて使える男になったし、私はそろそろ引退だ!」 甲斐は笑った 「社長……」 甲斐は立ち上がると 「出版契約の席には是非着いて下さい お願いします」 と深々と頭を下げた 「解った。 東城が席を用意するだろ? そしたらその席に着く」 「ではお願いします 康太、今度は必ずお祝いを渡したい お時間を作って下さい」 「解った。 大阪に新婚旅行に行くんだよ その後に時間を作る」 「約束ですよ!」 「おう!必ず美味いもんを食わしてくれ!」 「探しておきます! では今日はこれで失礼します」 甲斐はそう言い帰って行った 慎一が下まで送ってゆく 甲斐が帰ると康太は、榊原の膝の上で丸くなった 「今日もハードだった」 「僕は会社に顔を出して来ます 君は何をしていますか?」 「飯食う!腹減ったかんな その後は何処かへ行くなら連絡する」 「解りました。 必ず連絡して下さいね!」 榊原はそう言うと康太に濃厚な接吻をして 会社へと下りて行った 甲斐を送って帰って来た慎一に腹が減ったと訴えると、出前取りますか?と慎一は聞いた 「清四朗さん何か食いますか?」 「はい。私が奢ります!」 「………清四朗さん慎一が払うので構いません」 「え?慎一が?」 「オレのカードを渡してあります 慎一はそれで支払いをします ですから構いません」 康太がそう言うと真矢が 「なら、私が奢ります」 と申し出た 「真矢さん……」 「康太、気にしなくて良いのです」 真矢はそう言うと慎一にデリバリを頼ませた デリバリが来ると真矢が支払いをした ガツガツ一心不乱に食べてると一生が帰って来た 慎一は一生の前にサンドイッチを出した 「一生、悪かったな」 「良いって事よ この後おめぇはどうするのよ?」 「オレか?オレは蓮の所に行く」 「俺らも一緒で良いのかよ?」 「……お前らは待っててくれ」 食事が終わると慎一に玉露を出して貰い ゆったりと、それを飲む 何時もの光景だった 「株価の操作をしねぇとな!」 確実に相手を追い詰めていた 息の根を止めるまで追い込んで……トドメを刺してやる 康太の胸ポケットの携帯が震えると、康太は電話に出た 「………追い込め! 情け容赦は要らねぇ!」 康太は嗤っていた 唇の端を吊り上げ皮肉に嗤う… 飛鳥井康太を敵に回せば…… 破滅の一途を辿るしかない それを知らしめてやる 康太の髪は風もないのに靡いていた 「オレを敵に回せばどうなるか思い知ると良い…」 潰すのなど容易い 簡単には潰さない ジワジワ真綿で締め上げる様に息の根を止めてやる 源右衛門には寒山の真意を探りに行かせた 荷担しているなら容赦はしない   例え源右衛門の旧友だとて知るか! 康太は、食事が終わると立ち上がった 「今日は源右衛門は出掛けてます そろそろ帰って来る頃ですので、お暇でしたら源右衛門と逢ってやって下さい」 康太はそう言うと応接室を出て行った 康太が出掛ける直前に源右衛門は帰って来た 康太はそれを見届けて、出て行った 慎一は「一緒に行きますか?」と尋ねた 「良い。オレの車で行く 伊織にはメールで知らせる捨てておけ」 康太は上がって来たエレベーターに乗り込んだ そして地下駐車場まで向かい車に乗り込んだ エンジンをかけて車を走らせると一生が追い掛けて来た 康太は車を停めた 「あんだよ?一生」 「俺は行く!」 そう言い助手席に乗り込んだ 車に乗るなり携帯を出してメールを打つ すると榊原から電話がかかって来た ………心配性は健在か…… 一生はため息をついて電話に出た 『一生?電話に出れると言う事は康太が運転してますか?』 「おう!そうだ」 『……蓮の所へ?』 「あぁ」 『一生、康太を頼みます 僕は新婚旅行に行きますから 仕事を片付けねばならないのです』 「了解。」 一生は電話を切った 康太は何も喋らなかった 飛鳥井蓮のマンションに着くと、康太はスタスタ歩いて行った エレベーターに乗り込み最上階までゆく エレベーターの扉が開くと涼子が康太を見つけた 「康太!逢いたかった!」 涼子はそう言い康太に抱き着いた 仕事部屋から出て来た蓮は、妻を押しのけ康太に抱き着いた 「どうよ?新婚生活は?」 「…………康太……済まない…… 涼子に手を出した……」 「遊びじゃねぇんだろ?」 「違う!涼子は最期の相手だ もう俺は…涼子以外の人間は要らない…」 「なら幸せにしてやれ! オレはそれしか望んでねぇ! そしてお前も幸せになれ! 苦しんだ分だけ幸せになれ…」 蓮は康太を抱き締め泣いた 「…康太が何故涼子を寄越したか……解る 涼子は息を潜めて生活するのが上手い… それだけ過酷な……過去を送って来たのが解る 俺の邪魔にならぬ様に気配を消し……傍で俺を護ってくれる… 俺はそんな涼子を護りたいと想った お腹の子も……俺は護らねばならぬ存在を得た… ありがとう康太…俺に涼子を渡してくれて…」 「蓮と生活するのは至難の業 涼子は男して育てられた 裏社会を担う為に育てられた 涼子は女として生きて来なかったからな…真矢さんが基本は叩き込んでくれた お前の伴侶なら、これ位の妻じゃねぇとな!」 康太はそう言い笑った 「康太、株価の動きだろ? 用意周到暴落の一途を辿ってる  お前が週末に大阪に行く頃には… 青息吐息となっている」 「悪かったな急な仕事で」 「構わない! お前の仕事なら、何を差し置いてもやる」 蓮は康太を抱き締めた 「康太、愛してる」 「言う相手違うだろ?」 「お前が一番だ  涼子はお前が一番なら許してくれる 」 「蓮、またな 涼子、近いうちに秋月が連絡してくる そしたら秋月や切嗣に逢わせてやる」 「え……私は逢っても……良いのか?」 「逢っても良い 子供が出来たと報告してやれ 逢いたかったら何時でも会いに行け!」 「康太……ありがとう」 「ならまたな!」 康太は片手をあげて部屋を出て行った そして階下に下りて車に乗り込んだ 一生は何も言わずに側にいた 車に乗り込むと一生は口を開いた 「涼子、めちゃくそ美人になったな…」 驚きだった 「涼子の母親は美人で有名なモデルだった 周防が一目惚れして愛人にした女の子供だ 美人じゃねぇ訳ねぇじゃんか でも蓮はどんな美人でもダメだ…… 存在が……気に入らねぇだねで離婚と別れを繰り返す 涼子は存在を消して生きて来た そんな涼子ならば、蓮の妻には持って来いだった あの2人は出逢った瞬間、互いを愛す 定めだな……オレは蓮に定めが残っていて…… 神に感謝したい程だった…… 蓮を孤独にさせずにいてくれてありがとう…… そんな想いだった……」 「良かったな」 一生は康太の肩を叩いた 車が飛鳥井のマンションの地下駐車場に戻って来ると 榊原が駐車場まで出ていた 「康太……君の運転は雑いから…不安でした…」 「あんだよ!それは!」 康太は怒って車から下りた 蔵持善之介からプレゼントされた車だった この車は康太しか運転は出来なかった 「康太……怒らないで…」 「オレはまだ動かねぇとならねぇだよ!」 康太が言うと慎一が下りて来た 康太は榊原を見上げ踵を上げた 「伊織、ちょっくら行って来るな」 榊原は康太の唇にキスを落とすと強く抱き締めた 「気を付けてね」 「今度は慎一の車に乗る! 心配すんな」 「僕も仕事に戻ります」 「伊織、愛してるかんな!」 「僕も愛してますよ」 康太が一生と共に後部座席に乗り込むと   慎一は運転席に乗り込みエンジンをかけた そして静に、車を走らせた 康太は榊原に手をふっていた 「康太、何処へ向かえば良いですか?」 「寒山義継の所へ…」 「………源右衛門が向かったのでは?」 「門前払いしたんだよ」 「………え?門前払い? 旧知の友を門前払いしたのですか?」 慎一は信じられなかった 「源右衛門では役不足らしいからな オレが自ら行ってやる!」 皮肉に唇の端を吊り上げて嗤う その瞳は果てを捉えていた 慎一は寒山義継の所まで車を走らせた 寒山義継の家の前に到着すると車を停めた   「この家です!」 寒山の家は洒落た造りの家だった 康太は車から下りると寒山の家のドアベルを押した 『………何方ですか?』 嗄れた老人の声だった 「飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太!」 康太名を告げた 『………』 息を飲む音がスピーカー越しに伝わった 『………お帰り下さい…… お逢いする必要などない…』 「帰ってやっても良いが、後で吠え面かくなよ オレは倍返しで返す! 飛鳥井家 真贋を敵に回せば……破滅だと知らしめる為にな容赦はしねぇ! それだけは伝えとかねぇとな!」 康太はそれだけ言うと車に乗り込んだ 「慎一、車を出せ」 「はい。」 慎一は車を走らせた 窓から覗く人間を後目にして康太は去って行った 「慎一、帰って良いぞ」 「はい。康太はこの後どうなさいますか?」 「オレは伊織の膝の上で邪魔しとかねぇと心配性は健在だかんな!」 康太はそう言い笑った 慎一はマンションまで車を走らせた マンションの地下駐車場に車を停めると、何時もの様に康太が下りるのを待った 康太と一生が車を下りる   慎一は「………一生…いたのか?」と想わず聞く程 今日の一生は静かだった 「いたよ!」 一生は拗ねて慎一に言った 「君が静かなんで気付かなかった……」 エレベーターに乗り込み康太は榊原いる階で下りた 慎一と一生は飛鳥井の自宅まで上がって行った 康太は榊原の部屋のドアを叩いた 誰かな?と榊原がドアを開けると康太が立っていた 「どうしました?康太」 「伊織の仕事の邪魔に来たんだよ」 康太は笑った 榊原は康太を抱き締め、部屋の中へ招き入れた 榊原の部屋の中には……力哉がいた 「力哉…どうしたよ?」 「榮倉が副社長が仕事しねぇ!とボヤくのでヘルプに来ました!」 「悪かったな。」 「構いません! 康太の新婚旅行の為です!」 「無理しなくて良いぞ? 最近、一生とはどうよ?」 「愛されてますよ 夏に康太がお灸をすてえからは精力的に来ます 僕の仕事が疎かになりそうで困る程です」 「愛されてるなら良い」 康太は力哉の頭を撫でた 「康太、真贋の仕事は総て伊織が管理する様に渡しておきました 僕は馬と康太のスケジュールを合わせて行きます 伊織が真贋の仕事の日は事前にPCに予定を入れて下さるので、その日を外して予定を入れて行くつもりです」 「おう!任せる オレは言われた通りに動くかんな」 康太を膝に座らせ榊原は仕事をして行く 何もする事のない康太は……眠くなる 「伊織…眠い…」 「ソファーで寝てて下さい 勝手に動き回らないで…」 榊原に言われて康太はソファーで丸くなった 康太が眠りに落ちて暫くすると一生がメールで 『康太はそこにいるか?』 と尋ねて来た 榊原は「いますよ」と返すと 『源右衛門が話があると言う 部屋に戻る様に言ってくれ』 と返ってきた 榊原は仕方なく康太を起こした 「康太……康太……」 榊原の声に…… 「……まだ犯るの?」と問い掛けられ…… 榊原は頭が真っ白になった どんな夢見てたんですか?……… 「犯りません……どんな夢見てたんですか?君」 「伊織がオレを離さねぇの…… もう疲れたと言ってるのに…乳首に吸い付いてた」 夢の中の自分に妬きそうになった なんて美味しい事してるんですか!僕!! 「今夜正夢にしてあげます!」 榊原は微笑んだ 眠気が一気に醒めた…… 伊織……顔が怖いってば…… 「源右衛門が話があるというので部屋に戻って下さい」 「おう!なら帰るな」 康太は立ち上がると部屋を出て行こうとした その腕を掴み榊原は康太を引き寄せた そして有無を言わせぬ接吻で唇をこじ開け舌を挿し込んだ 「……んっ……ん……んんんっ……」 康太の喘ぎが洩れる 榊原は康太の口腔を満足するまで犯すと、康太を離した 「………伊織……」 康太はげっそりして 榊原は艶々していた 「何ですか!」 康太は文句を言う言葉を失った…… 「………行ってくるわ オレはそのまま家にいる」 「ええ。僕が帰るまで大人しくしていなさい」 榊原はドアを開けると康太を見送った そして未練を断ち切るように仕事に邁進した 頭の中は康太との新婚旅行 その前に今夜の康太! やっぱし乳首に吸い付いて貪らねば…… 夢の中の自分に負ける! 榊原は燃えていた 康太…… 待ってなさい 今夜は乳首だけでイカせてみせます!キラン そんな榊原の思惑も知らずに康太は飛鳥井の家へと帰った

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