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第8話 衝撃
だが、少しの沈黙のあと伊央利が放ったのは――
「そうでもないよ」
どこか投げやりな、
「俺はあいつがいなければ良かったのにって思う」
冷たい言葉。
その言葉を聞いた瞬間、座っているのに足元がぐらりと揺らいだ気がした。
アイツガイナケレバヨカッタ。
俺がいない方が良かった……伊央利は。
店内の騒がしさはいまだ俺の耳から消えたままで、伊央利が口にした言葉だけがリフレインする。
俺はそのまま静かに、すぐ後ろにいる伊央利とさやかに決して気づかれないように席を立ち、ファストフード店を出て行った。
双子として生まれたから、ずっと一番近くにいる存在と思ってた。
まさかそんなに嫌われているとは想像すらしてなくて。
ファストフード店から逃げだすようにして家へと帰って来た俺は自室のベッドにもぐり込んだ。
しばらくすると玄関の鍵が開く音が聞こえ、
「ただいま。大和? 帰ってるのか?」
いつもと変わらぬ伊央利の声がした。
俺がシーツに包まったまま返事をしないでいると、階段を上る足音が聞こえて来て部屋の扉をノックされる。
尚も返事をしないでいると、扉が開き、伊央利が部屋へ入って来た。
「大和? いるのなら返事くらいしろよ。……どうしたんだ? 気分でも悪いのか?」
心配そうな伊央利の声。でもあの言葉を聞いてしまった今、その心配も嘘なんだと虚しくなる。
「なんでもない……」
ギュッとシーツを握りしめ、せめて涙声を聞かれないよう努力した。
しばらくベッドの傍で伊央利が立ち尽くしている気配がしていたが、やがて、シーツの上から俺の頭を優しく撫で、部屋を出て行く。
扉が閉まる瞬間、
「晩飯、作っておくから。腹減ったら食えよ」
そう言い残して。
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