2 / 20

第2話

 高崎が雨の中、待ちぼうけていた相手・アキはこのBARの雇われ店長だ。二十二歳の若者らしく脱色を重ねた明るい金髪に、だらしのない服装。中性的にも見えるやんちゃな顔立ちは、彼を年齢よりも幼く見せた。未成年と間違われることも多く、酒類の買い出しが面倒だとぼやいている姿も何度か見たこともある。  それ以外は何も知らない。  高崎が命じられたのは、アキの身辺警護――近頃、高崎が収めるシマに不穏な動きが見えているため、上からの注意喚起があったのだ――と、たまにはアキの店で飲んでやってくれということだ。  彼の後を追い店に入ると、そこはアキの軽く見える容姿とは裏腹に、落ち着いた大人の空間が広がっていた。薄暗い照明の中で、ほんのりと柔らかいオレンジ色の明かりがバーカウンターを照らす。高崎はジャケットを脱いでアキに預け、定位置となっている一番端の席に座った。 「すぐに着替えてきますんで、ちょっと待っててください。あ、先に何か飲みます?」  アキはそう言ったが、身体はカウンターの奥のスタッフルームへ向かおうとしている。雨で張りついた衣服が気持ち悪いのだろう。高崎はあらかじめジャケットから抜いておいた煙草を手に取り、ライターで火を点けながら言った。 「そのままじゃ風邪をひく。早く着替えてこい」 「へー俺のこと心配してくれるんですか?」 「お前に移されたくはないからな」 「俺の扱いひどくないっすか?」  肩を落としてバックヤードへ去っていくアキを、高崎は半ば呆れた目で見ていた。  怖いもの知らずの彼は、高崎に軽口を叩ける数少ない人物のひとりだ。肝が据わっているというよりも、彼本来の性格なのだろう。その明るい人柄は、確かに客商売に向いていると思った。もっともアキ自身も裏の世界に身を置く人間なのだが。  高崎としては、まだ戻れるうちにカタギになってほしい、と心の片隅で思っていた。と同時に、それが難しいことも十分すぎるほどに理解していた。

ともだちにシェアしよう!