5 / 20
第5話
「飲んでないですよ……昨日の酒が抜けてないだけで」
「何時まで飲んでたんだ?」
「朝の五時か六時くらいまで……それでそのまま寝て、起きたら店開ける三十分前でした」
「飲み過ぎだ、馬鹿」
「すみません」
「てめぇの限界くらいそろそろ理解しろ。いつまでもガキのままでいられると思うなよ」
「ほんとすみません。でも俺、そんなに飲んだつもりは……」
「ったく弱いくせに飲み屋やりやがって。この分だと毎日飲んでるんだろ?」
「返す言葉もないっす……」
「しょうがないな」
「次からは気をつけますんで……あ、火どうぞ」
「ああ、悪いな」
高崎がケースから新しい煙草を取り出すのを見て、アキは自分のライターを差し出し、火をつけた。細やかな気配りができるところも、高崎が彼を好む理由のひとつだ。
「そうだ。俺も一杯いいですか?」
「奢らんぞ」
「自分の給料から引きますんで」
「飲み過ぎるなよ」
「わかってますって」
そう言うと、アキは自分用に手早くディーゼルを作った。ビールとコーラを同量混ぜたこのカクテルを高崎はあまり好まないが、アキは好物らしい。アルコール度数を考慮して選んだのかもしれないが。
「真人さん、乾杯しませんか?」
「何にだ?」
「俺たちの幸せな未来のために」
「くだらん。勝手にやってろ」
「……はいはい、じゃあ勝手にやらせていただきますよ。カンパーイ!」
「おい……!」
高崎は思わず制止の声を上げたが、アキの行動を止めるにはいたらなかった。
アキはカウンターから上半身を乗り出し、コースターの上に乗ったままのジン・トニック入りのグラスに、自分のディーゼルが入ったグラスを押し当てたのだ。ガチャンという落ち着いた店内には不似合いな音が耳に届く。アキが勢いよくグラスを当てたせいで、なみなみと注がれたディーゼルが溢れ、カウンターを汚した。
ともだちにシェアしよう!