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第5話

「飲んでないですよ……昨日の酒が抜けてないだけで」 「何時まで飲んでたんだ?」 「朝の五時か六時くらいまで……それでそのまま寝て、起きたら店開ける三十分前でした」 「飲み過ぎだ、馬鹿」 「すみません」 「てめぇの限界くらいそろそろ理解しろ。いつまでもガキのままでいられると思うなよ」 「ほんとすみません。でも俺、そんなに飲んだつもりは……」 「ったく弱いくせに飲み屋やりやがって。この分だと毎日飲んでるんだろ?」 「返す言葉もないっす……」 「しょうがないな」 「次からは気をつけますんで……あ、火どうぞ」 「ああ、悪いな」  高崎がケースから新しい煙草を取り出すのを見て、アキは自分のライターを差し出し、火をつけた。細やかな気配りができるところも、高崎が彼を好む理由のひとつだ。 「そうだ。俺も一杯いいですか?」 「奢らんぞ」 「自分の給料から引きますんで」 「飲み過ぎるなよ」 「わかってますって」  そう言うと、アキは自分用に手早くディーゼルを作った。ビールとコーラを同量混ぜたこのカクテルを高崎はあまり好まないが、アキは好物らしい。アルコール度数を考慮して選んだのかもしれないが。 「真人さん、乾杯しませんか?」 「何にだ?」 「俺たちの幸せな未来のために」 「くだらん。勝手にやってろ」 「……はいはい、じゃあ勝手にやらせていただきますよ。カンパーイ!」 「おい……!」  高崎は思わず制止の声を上げたが、アキの行動を止めるにはいたらなかった。  アキはカウンターから上半身を乗り出し、コースターの上に乗ったままのジン・トニック入りのグラスに、自分のディーゼルが入ったグラスを押し当てたのだ。ガチャンという落ち着いた店内には不似合いな音が耳に届く。アキが勢いよくグラスを当てたせいで、なみなみと注がれたディーゼルが溢れ、カウンターを汚した。

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