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第8話

「俺は何度も忠告したよな?」 「……うぅ……すみ、ま……」 「まともに口も利けねぇのかよ」  あの後、高崎に誘いを断られたアキは、ヤケ酒とばかりにビールを煽りまくった。何度か止めようとしたものの「給料から天引きするから」と喚き立て、ついに高崎にも手が負えなくなったのだ。  ただでさえ酒に弱いアキは、昨日の酔いも残っていたせいかすぐに潰れ、カウンターに突っ伏した。客よりも先に酔って潰れるなどバーテンダー失格だと思う。幸い今日は高崎の他に客はいないから、まだ良かったのかもしれないが。 「……まこと、さん…」  赤く染まったとろりとした眼差しでアキが見上げてくる。こんな顔をされたら無碍にすることもできない。高崎はやれやれと深くため息をつき、アキの近くへ顔を寄せた。 「どうした?」 「……奥、連れてって……そこに、横になれる……とこある、から……」  そう発する間にもアキの呂律はさらに怪しくなり、目蓋が重いのか、しきりに目を瞬かせた。だがその抵抗は意味をなさず、アキはすやすやと眠りに就いた。 「本当にただのガキじゃねぇか、テメェ」  この青年の呆れた痴態に、またひとつ新たな項目が刻まれた。ここまでくると、しばらく店を休ませるようにと神谷へ頼んでみようか、という考えすら浮かんだ。こう何度も潰れられては商売にならないし、何よりもアキの身が危険だ。  自分の性癖は分かっていても、自分がどれほど男を欲情させる器だと、アキ自身気づいていないらしい。そうでもなければ、ここまで高崎の前で無防備な姿は見せないだろう。火照った身体。上気する汗の匂い。わずかに開いた口から垣間見える白い歯と赤い舌。これだけでも充分である。高崎の喉が鳴った。 「裏へ行けばいいんだな? 少し動かすぞ。吐くなよ」  突っ伏している肩を軽く揺すり、同意を求めると、アキは重い目蓋を持ち上げ、口の端を上げて笑った。 「いくらなんでも……真人さんの前で、リバースなんてしませんよ」 「その言葉忘れるなよ」  アキが軽く頷くと高崎は彼の肩を抱き、上体を起こした。ふらふらと覚束ない足取りなので、そのまま肩を貸し、奥のスタッフルームに向かう。よほど辛いのか、アキは高崎に身体をもたせかけたまま短い通路を移動した。

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