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第9話
カウンターから出てすぐ先にある『STAFF ONLY』と書かれた黒い扉を開けると、そこはスタッフルームになっていた。正面に備え付けられたロッカー、壁際にソファーと小さな簡易テーブルが設えてある。それ以外は店同様黒で統一されたシンプルで落ち着いた空間だった。
高崎はアキをソファーに仰向けで寝かせると、一度カウンターに戻り、氷の入った冷えた水を用意した。
「飲めるか?」
「ん……っ、口で……」
「は?」
「飲ませて……まこと、さん……っ」
高崎の頬に手を伸ばし、アキは誘うような口調で言った。酔いが回った身体は火照り、指先が肌に触れる度に、まどろむような心地になる。悪い感覚ではなかったが、ここで流されてしまったら、これまで築いてきたアキとの距離間ばかりではなく、神谷からの信頼も失ってしまうだろう。それだけは譲れなかった。
「あの人のオンナに手は出せない」
頬を撫でるアキの手に水入りのグラスを持たせ、高崎は目を伏せた。
「それって、俺が神谷さんの愛人じゃなかったら、してくれたってこと?」
汗で張りついた前髪をかき上げ、アキは挑戦的な眼差しで高崎を見た。誘いをかけるその視線に高崎の心が揺れたのも、また事実だった。
その反応に気を良くしたアキはグラスを簡易テーブルに置き、高崎に向かって口を開いた。
「てかさ、真人さん俺のこと好きだよね?」
「……」
「俺も真人さんのこと好きだよ」
口の端を吊り上げ、ちらりと舌を舐めたアキは、そのまま高崎に向かって再度腕を伸ばした。今度はそのまま好きなようにさせた。高崎が嫌がらないとわかると、アキはますますその気になり、大胆にも衣服をくつろぎ始めた。
細い指を器用に使って、まずは黒い蝶ネクタイをするすると解いていく。腰の細さを強調していたベストの前ボタンを全て外すと、ひときわ淫猥な雰囲気が漂った。穢してはならないものに手を出す感覚。その身体は、高崎の目を捉えて離さなかった。
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