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第10話
「もっと近くに来て……」
アキの指はシャツのボタンにかかる。視線を上げ、高崎に標準を合わせると、見せつけるようにひとつひとつ外していった。
最初に綺麗な鎖骨が見えた。普段はシャツで覆われていて見えないその個所は、高崎好みの骨の浮いた、痕を残しやすい形をしていた。奥底から情欲の炎が燻っていく。咬みつきたいと本能が叫んだ。
「まことさん……ん、ぅ……」
妖艶なストリップを続けるアキの姿に、高崎の理性のタガは決壊寸前だった。熱にうなされ妖しくよがる身体、欲に濡れる声、吐息、アルコールの匂い。それら全てが五感を刺激し、高崎の欲望を煽った。無意識のうちに身体が動き、肌蹴た白い肌にそろりと手を伸ばす。
だが、指先が触れるその瞬間、アキから発せられた一言で、冷水を浴びせられたように身体が強張った。
「ねえ、一回でいいから俺のこと抱いてよ」
アキからのアプローチはこれまでに何度もあったが、直接的な誘いはこれが初めてだった。と同時に、自分は今何をしようとしていたのかと気づかされ、ひどく自己嫌悪に陥った。
あと数センチほどの距離にも関わらず、突然動きを止めた高崎を見てアキは首をかしげた。
「……真人さん?」
「興が醒めた」
「え?」
「早く服を着ろ」
困惑するアキをよそに、高崎はすっくと立ちあがり、出口に向かって歩を進めた。
「え、待って、俺なんかした?」
「興が醒めたと言ってるだろう。お前のせいじゃない」
「え、で、でも俺……」
「あの人を裏切るつもりか?」
「……っ」
「わかったなら、今すぐに服を着ろ。二度も言わせるな」
振り向きざまに最後通告を突きつけたつもりだったが、高崎の目に入ったのは寂しい笑みを浮かべるアキの姿だった。
「……キスもだめなの?」
その問いには何も返さず、高崎は店を後にした。
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