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第14話
「……真人さん……」
高崎の想いが通じたのだろう。アキは苦しみながらも笑みを浮かべて、震える口を開いた。
「お願い……キス……して」
そうねだるアキの目元は潤んでいた。彼の涙なのか、雨なのかは判別することは難しい。だがそれは、店で見せたような軽い誘いとはわけが違う。本当にこれが最期なのだと、そう自分自身にも言い聞かせているような、儚くも力強い願いだった。
その声を聴いた瞬間、高崎は生まれて初めて胸がつかえるような息苦しさを覚えた。身体の奥からこみ上げてくる熱情。もう失ってしまうのかもしれないという恐怖。手放したくない。あらゆる感情が高崎に襲いかかる。そして、これが人を愛するということだ、と漠然と感じた。
「……やっぱり……ダメ?」
反応を返さない高崎にアキは苦笑いを浮かべた。そうじゃない、とはっきり口に出せたらどれほど楽なのだろう。ようやく見つけた答え。アキを愛している。愛してしまった。感情を表に出さない高崎だが、どうしても堪えきれない嗚咽が溢れる。
「…………っ」
「ま……こと、さん?」
アキの隣に膝をつき、手で顔を覆った。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。瀕死のアキがすぐそばにいるのにも関わらず、高崎は自分の中からこみ上げる愛情を抑えるのに必死だった。
だが、少しだけ冷静になった脳裏に浮かんだのは、やはり神谷の姿だった。恩人である神谷のオンナを愛してしまった。これ以上神谷を裏切ることはできない。高崎はわざとアキから視線を外して、突き放すように言った。
「……すまない」
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