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第19話

 アキの死から一年。季節は移ろい、今はまた梅雨の時期になっていた。  連日降り続ける雨の影響で、持病の偏頭痛もその存在を誇示するように、一定のリズムで痛みを刻み続ける。医師に処方された薬を飲み、高崎は目的地まで車を走らせていた。  せわしなくワイパーが左右へ動く。鬱々とした雰囲気は、車内の空気をも重く包み込んでいた。ハンドルを握る高崎は、先ほど神谷から聞いた話を反芻した。それは高崎にとっては出世に繋がる大事な話だったが、それに伴う大きな負担も持ち合わせていた。  一年前、アキの襲撃を皮切りに、神谷の周りでは大小さまざまな争いが起きた。それらを治めたのは、神谷や高崎がエダとして繋がっている組織の幹部だった。高崎の手腕を買っていたその幹部は、高崎に傘下に入るように打診した。だがそれは高崎にとってあまり歓迎すべき話ではなかった。その組織は同業者の間でも嫌悪される非人道的な手段で、金を稼いでいたのである。 『お前の好きにすればいい』  神谷はそう言った。だがこの話を蹴るということは、今度こそ神谷の顔に泥を塗ることになってしまう。アキの一件で、神谷は高崎を表立って処罰はしなかった。しかし以前と比べると深い溝が空いてしまったのも、また事実である。 『謹んで、お引き受け致します』  一年前のあの頃には戻れない。けじめをつける時が来たのだ。高崎は視界の悪い道を走りながら、アキとの最期の時間を思い出していた。  車をしばらく走らせているうちに、ようやく目的地へ到着した。一年前と同じ場所に車を停め、高崎はシートへ背中を預ける。 「……」  深く息をつき、懐から煙草を一本取り出して、ライターで火を点ける。少し窓を開け、高崎はそのまま紫煙を吹かせた。  目蓋を閉じると、今でもあの光景が脳裏に焼けつく。それらを振り払って一歩外へ踏み出すまでに、二本の煙草を灰にしていた。 「行くか……」  三本目に火を灯し、ようやく腹が据わったところで、高崎は雨空の下に降り立った。

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