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「ごめんな。智治。僕が不甲斐ないばかりに、こんな生活を強いてしまって」  隣で団子を頬張る智治に、光伸は申し訳ない気持ちで告げた。 「ううん。お兄ちゃんのおかげで、僕は此処にいられるから」  そう言って笑みを浮かべて、隣に座る光伸を見上げてくる。 「でも此処(ここ)は暗いだろう。暗いところがお前は苦手じゃないか」  小さい頃から智治は暗いところが苦手で、怒られて押入れに入れられただけで泣き叫んでいた。  此処で生活すると決まり、使用人に連れられて来られた際にも智治は泣き叫び、取り乱していた。そんな姿を光伸はただ奥歯を噛み締めて、見ていることしかできずにいた。 「もう慣れたよ。此処には何年もいるから……それにお兄ちゃんが、何度も来てくれるから嬉しい」  そう言って、智治は皿に乗せられた団子に手を伸ばす。それを慈しむようにゆっくりと口に運んでいく。 「毎日来るからね。心配することはないよ」  そう言って、智治の頭を撫でる。まだ濡れた髪が指に絡みつく。 「うん。ありがとう」  智治の瞳が光伸を捉える。邪気のない綺麗な目だった。  光伸は哀れみに胸を痛ませる。いつまでも此処にいさせたくはない。一刻も早く家を継ぎ、智治に普通の生活をさせてやりたかった。そのためには如何なる犠牲も厭わない覚悟であった。 「それを食べたら、もう寝るんだよ」  とっくに夜半は過ぎている。名残惜しいが、あまり長居はできない。  智治は素直に頷くと、「ごちそうさまでした」と手を合わせる。水で口をゆすいでから、簡素な布団に横たわる。その隣に光伸も身を横たえると、すぐ間近にある智治の顔が面はゆそうな笑みを浮べた。

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